灰被りの英雄譚   作:パスタまご

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遅くなってすみません!
冬休みが終わったので、更新が遅くなります!

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初戦

 晴れてフォーサイトの一員となったストレイドであったが、今のところ大した依頼が入っていないのが現状であった。

 元々、ジルクニフのお陰で騎士達が良く仕事をしてくれる国家だ。モンスター退治系の依頼は、そんなに多くは入ってこないらしい。というのも、ゴブリンやオーガのようなモンスター程度では、帝国軍隊の敵にはなり得ないからである。

 そして三日経っても依頼が来ないという事で、彼ら五人は自分達で稼ぎに行く手段に出た。これは、王国の冒険者が良くやる手法で、適当な付近の道の周囲にいるモンスターを狩るのである。大切なのは『間引く』ことで、狩りつくす訳ではない。

 とはいえ、難度の低いモンスターを狩ってもはした金程度にしかならない。何故なら、そういったものはそもそも帝国軍が元から問題ない程度にまで減らしているし、少し腕に自信のある村人が倒せるレベルのものだからだ。

 じゃあいったい何を倒すかといえば、並の騎士で倒せないような大物だったり、希少価値の高い新種や亜種の討伐だ。

 というのは全て、たった今ストレイドに対してヘッケランが行った説明だ。

 

「だから油断はしないでくれ。いくらあんたが強いとしてもだ」

 

「リーダーの君が言うのだ。そうしよう」

 

 勝手が分からない騎士は、リーダーに従う事にした。元々1番上に従うのが早いと考えていた彼は、そもそも反論する気もさらさらなかった。が、それと同時に自分が負ける筈がないという自信も少なからず持っていた。

 ヘッケランやアルシェ等の言動、そして皇帝から聞いた情報からこの世界の平均レベルを知った彼は、よっぽどのイレギュラーが出ない限りは死ぬ事はないだろうと踏んでいた。そして、そのイレギュラーというのが、この世界での神話級の天使やアンデッド。それに加えてプレイヤーと思われる存在だ。

 

(まぁ、そのイレギュラーってのに自分が当てはまるんだからなぁ)

 

 ユグドラシルにおいて、彼は中の上から上の下あたりの強さであった。最高装備は最上位の神器級で固めてはいるが、異業種の宿命でその種族特性上どうしようもない弱点がいくつもあったのだ。思い入れがあるがために手放せなかったそれは、ガチ勢との戦闘においてかなり響くものがあった。

 ギルド内でもそのビルディングはモモンガに近いものがあり、ロールプレイ等をするためとはいえ、モモンガ以上にその役割にあったキャラメイクをするプレイヤーはかなり少ないもので、所謂ビジュアル系のステータスになっているのは隠す事ができなかった。

 それでも彼はそのキャラを作り込み、そしてその分必死でプレイヤースキルを磨いて強くなっていったのだ。ナザリックの諸葛孔明ことぷにっと萌えによれば、モモンガが状況対応力に秀でているという評価に対し、ストレイドはそのメンタルと諦めの悪さ、そして何より窮地に追い込まれた時の戦力において右に出る者がいないとまで言っていた。

 最後の評価はモモンガだけが聞いた事柄ではあったが、それでもギルド内でたっち・みーや武人建御雷等に何度もボコボコにされて鍛えられてきた彼は、自身の腕に自信があったのだ。

 だからこそ、『イレギュラー』である者に負ける事は考えていなかったし、この世界で言えば自分が十分理不尽な程のイレギュラーであることは自覚していたし、そうでないと考えてすらいなかった。

 

 数十分の間歩き続け、街道を抜けた途端に行商人すら一人も見えなくなった。それでも進軍する彼らに、地形を知らないストレイドは付いていくしかなかった。何一つ面白みもない道を進んで行くと、突然目の前に赤茶色の地面が出現した。目を凝らしてみれば、そこは見事に広大な平野になっており、奥の方には濃い霧が存在していた。

 ストレイドは気になって、周囲をスキルの一つで索敵すると微かなアンデッド反応があった。それは目の前の霧から発生しており、あの地がアンデッドの温床である事を裏付けていた。

 

「あの特徴的な赤茶色の地がカッツェ平野。毎年、決まったように帝国と王国がここで戦争するのさ」

 

 ヘッケランは霧を見つめながら説明を始めた。周りを見渡せば、アルシェ達三人は既に周囲の警戒と探索を行っていた。

 

「あの地で戦争が行われ、死人がアホみたいに出るからかどうかは知らないが、あそこからはアンデッドが昔からわんさか出てくる。その中には強力な奴も結構いて、街に被害が出るとまずいから、度々軍がワーカーと協力して討伐に行くのさ」

 

「じゃあ、なんでここに?」

 

「そりゃあ、討伐隊が出ていない時だってスケリトル・ドラゴンのような奴は出現するからさ。そういった奴らを討伐して、残骸でも持って帰れば軍から褒章がもらえる。それに、カッツェ平野は戦争時にだけ不気味な程晴れるといっても、探索が十分にされてない地域だ。未探索の場所を地図に印せば、それに対しても報酬が出る」

 

 納得した様子でストレイドは頷いた。自分が痛感している通り情報というのは重要な価値があり、戦争で使う土地であれば尚更だろう。地図を提出して金がもらえるのは当然ともいえる。

 スケリトル・ドラゴンが上位アンデッドの扱いをされているのには中々驚いたが、よく考えればあれには第六位階魔法までの完全耐性が備わっていて、ユグドラシルでも初見殺しとして有名なモンスターであったし、過去に出たとされる伝説級アンデッド『デスナイト』は、モモンガが度々使っていたため良く知っていた。30レベル程の中レベルと言えないまでもないアンデッドだが、あれはあれでどんな攻撃も一撃防ぐという能力があるため確かに有用だ。

 レベルだけが強さではないという事を改めて実感したストレイドは、いくら相手がレベルの低い雑魚だとしても、油断だけはしないようにと気を引き締めた。

 

「それじゃあなるべく大物を仕留めないとな」

 

「そうそう大物が引っ掛かるなんて事もないんだがな……まぁ、成果がなかったら帰り道に適当なモンスターでも狩ればいいさ」

 

 そんな一見他愛のない会話をしていると、ストレイドの探知スキルに引っ掛かる反応が多数。同時にイミーナが肉眼でアンデッドを見つけたようで、注意を呼びかける。

 カッツェ平野から生者を求めてやってきたアンデッドは、その総数百を軽く上回る。しかし数こそ多かれどその実態は、大多数がただのゾンビであり、ただの戦争の犠牲者である。それでも油断してはいけないのは、アンデッドの特徴にある。

 アンデッドは、その集団があると『自然に』より強大なアンデッドがその中から生まれるのだ。だからこそ、死者は丁重に弔われ、さっさと火葬したりして死体が残らないようにする。だが戦争での死者となれば話は別で、戦場で死んだ者を丁寧に埋葬したりする時間はない。そうして戦場に置き去りになった死体が、新たなアンデッドになる。

 戦争は本当にいい事はないのだ。

 ロバーデイクは、これから改めて死ぬ事となる戦死者に簡易的な祈りを捧げ、そしてこの戦闘で自分達に幸があるよう願う。

 

「それじゃ始めるとしようか……ストレイドは前衛職だったね?」

 

「ああ、それが1番の力を発揮できるだろうな。だが、前衛が足りているのなら中距離までは今の装備でも大丈夫だろう」

 

 そう言うとストレイドは、何もない所から唐突に弓を出現させた。突然の事に驚いたのは、なにもアルシェやイミーナ達だけではない。当の本人こそがもっとも驚いていたのだ。彼はアイテムを呼び出そうとはしたが、だからといってこんな虚空から突然出そうなんて事は思ってもいなかった。

 そして彼は思い出す。このキャラは、種族設定としてアイテムボックスとは別の空間を持っているという設定を。その設定とそれを再現したパッシブスキルの存在により、アイテムボックスとは別の隔離された補助空間が存在し、それを用いた武器のクイックチェンジが可能なのだ。

 

「それは魔法か?」

 

「……まぁ、そんなところだ」

 

 スキルというものが希少な以上、どこで自分が異形種だとバレるか分からない彼は、ヒヤヒヤしながら彼らが知らない魔法だと答え、そして逃げるように目の前まで迫ってくるアンデッドに対して矢を撃ちこむ。

 現実世界で射った事など一度もないのにも関わらず、身体が自然と何かに反応するように動き、見事なまでの素早い動きでゾンビを射抜く。貫通はしなかったものの、その代わりに頭が爆散する程の威力であったそれは、もしも誤射したらという想像をストレイドにさせる。

 それを見たイミーナは、自分の立場が危うくなるのを見越して息を呑んだが、ヘッケランは彼を後衛に置く気は更々なかった。

 

「いや、前衛が増えるのはありがたいから、ぜひストレイドも前に出てもらいたい。それでいいかな?」

 

「異論はない。それでは、稼ぐとしようか」

 

 もう一度武装を変更しようとストレイドが念じると、それはやはり上手くいった。弓をしまい、取り出したのは銀鷲がモチーフの紋章が描かれたカイトシールド。移動を阻害しない程度の大きさで、かつ攻撃を防ぐのにピッタリな位の大きさの金属盾は、騎士の鎧姿に良く似合っていた。

 そして抜刀したのは腰から抜いた片手直剣。なんの変哲もないように見えるそれは、見た目こそ大量生産品で、名前もロングソードというただの直剣であったが、その道に精通する者が見れば、しっかりと鍛えられた業物だと分かるだろう。事実、それは聖遺物級の装備であり、モモンガやストレイドからすれば産廃とも言える微妙な性能のものだったが、この世界においては伝説に出てくるレベルのアイテムである。

 盾と剣を構えた彼は、さながら何処か知らない異国の騎士団の一員に見える。

 

「行くぞ」

 

 地を勢いよく蹴りつけ、風のような速さでストレイドは前方のアンデッド集団の目の前に躍り出る。その速さは、ヘッケランが全力で追いかけても尚間が埋まらない程で、ゾンビ達は反応できていない程だ。

 その速度を利用し、1番近くのゾンビに対し突きを喰らわせる。圧倒的レベル差の彼によって繰り出されたそれは、その体を貫通するどころか上半身を吹き飛ばす程の火力である。通常突きをすれば死に体に剣を止められるため、集団戦ではよろしくない。それを火力だけでごり押した珍しい例だ。

 フリーになった剣を持ち、木枯らしのように素早く回転しながら敵集団を蹴散らす。ヘッケランも負けじと駆け出すが、ストレイドの移動して殲滅という一連の動作の繰り返しについていけてはいなかった。というより彼が速過ぎた。

 イミーナの矢よりも速く敵に突っ込み、アルシェの魔法よりも強力な攻撃を連続で行う。そしてたまに攻撃を喰らいそうになれば、的確に盾で守るためにロバーデイクの回復魔法も必要がない。

 

「凄い……まるで伝説から出てきたみたいだ」

 

「まったく同意見ですね。彼はどうやってあそこまで強くなったのか」

 

 そう言いながらも彼らは、自分達を襲ってくるアンデッドを倒し続け、ストレイドの撃ち漏らしを狩る事だけに専念していた。そして全員が思った事と言えば、「いつもより楽だ」というものだった。

 

 一方、ストレイドはと言えば、彼は彼で思い出に浸っていた。ユグドラシル時代、下手に死なないようにレベリングはかなり低レベルのモンスターを大量に狩りまくっていたことを思い出したのだ。発案はいつものぷにっと萌えさんで、そこに来る異形種狩りなどたかが知れているという話だった。

 流石にゾンビ狩りなんて事はしていなかったが、この位楽に狩れるものばかりを倒して経験値を得ていた記憶があるために、中々懐かしい思いに浸れたのだった。

 そうして幾つものゾンビを切り刻んでいると、とある異変に気付く。

 

(これは、ただのゾンビじゃあないぞ)

 

 レベル的には7レベルやその周辺相当のゾンビ。この世界ではそこいらの冒険者でも簡単に倒せるのだが、奴らにも幾つか種類がある。それは、ガストだとかグールだとか言われるものだが、そういったのは大抵自然に出現するものだ。が、それとは別に条件付きで召喚されるモンスターもいる。

 それがストレイドが気が付いた他と違うゾンビの存在。

 

従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)か!てことは、こいつらの親玉は死の騎士(デス・ナイト)だな?」

 

 スクワイア・ゾンビは、デス・ナイトが生者を殺す事によって生まれる存在。それは通常のゾンビと違いレベルが高く、大体15~20レベル程と倍増する。勿論、それはストレイドにとっては全くと言っていいほどに怖くない存在ではあったが、この世界の住人にとっては恐怖でしかない。これを倒せるのは軍の精兵とか、上位の冒険者ぐらいなのだ。そもそも、レベル的に言えばデス・ナイトは王国戦士長と同等クラスなのだから、それが生み出すゾンビが弱くない筈がない。

 そしてストレイドが考えたのは、フォーサイトの彼らの技量。冒険者ならミスリル級になれるという彼らは、決して弱くはなかったが、デス・ナイトに勝てるかと言われれば話は別だ。今はスクワイア・ゾンビだけをストレイドが狙って倒しているが、この数が尋常ではない事はストレイドでも分かっていた。

 というのも、デス・ナイトがスクワイア・ゾンビを生成できる量は決まっていて、一体につき最大15体だ。それなのに、既にストレイドが倒した数は当然の如く60を超えていた。それだけで、デス・ナイトが4体以上いる事が確実になっている。

 デス・ナイトという名前で驚いたのはフォーサイトのメンバー達で、とりわけアルシェは驚いた。何故なら、戦争の抑止力にもなる大魔術師フールーダでさえ、倒すのに手間取り、服従させるのが不可能というほどの伝説級に値するモンスターである。

 

 更に10体ばかりのスクワイア・ゾンビをストレイドが、丁寧な剣捌きで斬り倒すと、明らかに今までとは異なる足音が周囲を掻き鳴らした。

 重量感のある大きな足音。着ているだろう鎧が発する金属音。どれもこれもが今までのものと比べ、明らかに異質。アルシェ達は息を呑み、その空気に耐えている。対してストレイドは、やっと出てきたかという気持ちでいっぱいだった。

 

「来たか」

 

 そこに来たのは全部で5体の黒い巨体。重厚な黒い鎧を着て、右手に大きな波型の刃を持ったフランベルジュを装備し、左手にはその身に見合った巨大なタワーシールドを装備している。

 それらは全て、フォーサイトではなくストレイドに向けて敵意を放っていた。それは、アンデッドとはいえ、この世に存在する者に備わっている野生の勘か。それとも単に彼らと最も近かったからか。どちらにせよ、ストレイドにとっては好都合であった。

 

「さて、どれだけユグドラシルと同じなのか試させてもらおうか」




次から少しずつストレイドのステータスなどを公開ですね
今のところフロム要素が少なすぎて……

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