20××/7/18
新練馬自衛隊VR部隊基地:訓練棟
俺は親から受けとった新品のスーツに身を包み、真新しいドアをあけて外へと出る。
ゲーム以外はほとんど素人な俺につけられた補佐に誘導され、これまた真新しい廊下を進んで行く。責任を負うものとしての重圧が、一歩進むごとにほんの少しずつ大きくなる。
「緊張してますか?」
心配したのか補佐が声をかけて来る。
「さすがに緊張するよ。」
「大丈夫ですよ。基本は指揮をとる隊長と一兵卒しかいませんしそこまで堅苦しくする必要はありません。私もあなたよりは年上ですけどゲームでは後輩ですし。それに、私はあなたの補佐ですから、ちゃんとフォローしますよ。ゲームではフォローされる側ですけどね。」
ジョークを交えて話しかけて来る補佐は、俺の緊張を解そうとしてくれているのだろう。おかげで緊張も少し解れた。
「ありがとう。おかげで緊張も和らいだよ。」
「それはよかった。この扉を開ければダイブルームです。すでに挨拶の準備はできています。」
上下関係は隊長と隊員や役職の関係以外ないと言われても、俺はその教官役だ。
胸を押さえ深呼吸をした後、補佐が扉を開けようとするのを止めて、俺自身の手で大きな扉を開ける。
中に入ると同時に整列していた隊員達は姿勢を直してこちらに敬礼を行う。一週間練習した敬礼を隊員に返し、列の外を回って既に待っていた自衛官へ敬礼した後その横に立つ。
続けて、この場所の責任者であり、俺を含む全体のリーダー、基地司令がダイブルームに入る。俺と同じように敬礼を行った後、俺達の前に来たところでお互いに敬礼をする。
「気をつけ!」
補佐の声に合わせて隊員は姿勢を正す。
そして部隊長の挨拶が行われ、次に教官の挨拶へと移る。
その挨拶のトップバッターが俺だ。
まずは横に並ぶ他の教官、次に基地司令、最後にマイクの前で隊員に向かって礼をし、マイクのスイッチを入れる。
「この度、VR戦教官兼新練馬VR部隊基地副司令となった木葉です。主にVR内での教導をさせていただきます。これからよろしくお願いします。」
今度は逆の順番で礼をしていきもとの場所に戻る。その後も挨拶が続き、最後は基地司令の解散の合図で式は終了した。
「はぁ、何か疲れた。」
「普通の方はそうなりますよ、副司令。」
机に突っ伏してため息をつく。
たった1時間の集会だったが、緊張だけですでに一週間分の疲労が貯まった気がする。
「なんで副司令になってしまったんだ……。」
二人の防衛省の役人が来たあの日俺は教官役を引き受け、それから準備機関として2週間の時間をもらい、最初の一週間で引っ越しを終わらせ、後の一週間は俺をサポートしてくれる事になった高見田補佐に手伝ってもらいながら、今日の式に向けての練習を重ねていた。
その練習の途中、全国家に「WW in the VR」が国連より配布されその全貌が明らかになった。この基地でもその内容を知るため、俺が教官用VRヘッドギアを使い国内オンライン訓練モードでダイブしいくつかの訓練を実践している中、この「WW in the VR」に用意されているゲームルールが一般的なFPS、VRSのルールとほとんど同じということが判明し基地司令にそれを報告すると、基地内で一番ルールと戦術を知っているということで、急遽実質的な参謀役として基地副司令にされてしまうという出来事があった。
責任がさらに重くなり、心が折れそうにもなったが高見田補佐や他の教官のおかげで何とか今この場に居る。
「高見田補佐、今隊員は何をしている時間かな?」
「この時間は……今度のパレードにむけての行進ですね、その後は基礎訓練です。」
「ありがとう。じゃあダイブする時間はありそうだな。」
VR戦教官とは言ったものの、まだ肝心のハードが最低限必要な1小隊分に満たない状況で、当初の予定では俺が着任する頃には揃っているはずだったのが遅れに遅れ、最速でも2ヶ月後と言われている。その間は当然VR訓練ができないため、俺は今のところ暇なのだ。
そして本来VR訓練を行う時間は俺が「WW in the VR」にダイブして、仕様の調査をすることになっている。
「高見田補佐、VR戦司令室に行って待っててくれ。俺はダイブルームの教官用ギアからVR世界にダイブする。」
「分かりました。すぐに用意します。」
高見田補佐が部屋を出ていく。
出たことを確認した俺はスーツを脱いで支給された黒染めのダイブスーツを着てダイブルームに向かう。
ダイブスーツは長時間ダイブを行う可能性の高いVR部隊のために特注で作られた専用スーツ。俺のものは正式版に搭載予定の機能のデータを集めるための先行配備品だ。
扉を開けて入ったダイブルームは一部の椅子にVRヘッドギアが備え付けられているだけでほとんど空っぽの状態だ。何人か作業員が入って椅子の取付をしているが元が広すぎてがらんとしている。俺はその先の教官室と書かれたドアをあけ、中にある教官専用のVRヘッドギアを装着する。そしてギア側面の電源ボタンを押し、電源を入れる。
『電源オン確認。副司令、こちらの準備は完了しています。』
「よし、訓練モードに設定してくれ。」
訓練モードというのは基地の中限定でのオンラインモード、所謂アドホックモードだ。
『訓練モード、設定しました。通信、訓練モードでオンライン、フィールドはどうしますか?』
「じゃあ今日はステージ名『Old City』、環境はノーマル。リアルタイムモードで天候変化あり、BOTは11で頼む。」
今は条件をつけて設定できるが、本来の用途で使う場合はルールと時間、天候以外すべてランダムに設定される。
訓練モードと演習モードのみだがマップも世界各地の大都市やジャングルなどの局地戦まで選べ、訓練モードのみVR訓練室が追加で選べるようになっている。今回はゲームルールの細かい確認のため、通常フィールドで設定してもらう。
今日はBOTとの戦闘を通じた戦闘時の仕様確認を行う予定になっているため、建物などの遮蔽物やその他のオブジェクトもある都市マップを使う。
『フィールド、環境設定、BOT設定完了。準備できました。』
「よし、ここから先はまた随時指示を出す。あと、ダイブ中の記録をしておいてくれ。」
『了解しました、副司令。』
「では行ってくる。オーダー、フルダイブモード。」
俺の言葉の直後、視界は一面の白に埋まった。
一般人が教官兼副司令の理由
今まで通りで出来るという見通しであったが、FDVR戦争条約締結時に開示された仕様に通常の訓練と同じでは対応できないと判断され、たまたま開いていた臨時国会でVRゲーマーを招聘する法律がかなり短い期間で採択されたため。徴兵だとの意見もあったが、条文に「参加、不参加は自由(意訳)」とあり、あくまでも自由意思で決められる。副司令の方は新市ヶ谷基地のみで、条文の中の「招聘者に関して、ある程度の立場の配慮を行うこと」の部分の解釈を利用しただけ。
※ 全文はまだ考えているところがあるのでしばらく出せません。