東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第8話~前が見えない~

 

 

「ほい、日本酒24本。麦焼酎12本。あと葡萄酒……まぁ、洋酒だね。これを4本。これで全部だよ」

 

「はいよ。確かに受け取った。お金はちょっと待ってくれ。今持ってくるから」

 

 ということで、ただ今人里の酒屋に納品中です。どっかの腋貧乏巫女が溜まりに溜まったツケを見事に踏み倒してくれたおかげで、所持金が全くないのです。

 まぁ元々所持金なんて、ほとんどなかったけどさ……

 

「ほら、代金だよ。それにしても黒も小さくなったねえ」

 

「いや、俺は変わってないけど……店主こそ随分と歳食ったな。おい」

 

「そりゃあ、そうだわ。俺は人間だからな」

 

 俺だって人間ですよ? たぶん、きっと……ギリギリ。

 

「んで、店主は跡取りとかは決めてんの?」

 

「一応、息子がやってくれるそうだが……どうなるかねえ」

 

 息子……か。

 

「まぁ、この店とは長い付き合いだし、これからもよろしく頼むよ」

 

「ああ、こっちこそ息子共々、よろしく頼むわ」

 

 百年を越えた付き合い。時の流れは速いねぇ。たまにはゆっくりしろってんだよ。

 

 そんな感じで店主とのんびり雑談してから別れることに。

 んじゃあね、また会いましょ。どうかそれまでお元気で。

 

 ん~と、今日は……そっか稗田家に行かないとじゃん。しまったなあ、何も持ってきてないや。流石に団子くらい持っていかないとだ。

 

 団子屋を探して人里をブラブラと歩く。

 季節は秋も中頃。収穫祭も近いのか人里皆はどこか楽しそう。そんな印象だった。

 

 うん、良いことだ。

 

 そんな感じで歩いて、ようやっと団子屋を見つけた。そして、その団子屋の前には先客が一人。

 

 銀髪に黒いリボンを付け、その少女の側には大きな白いのがフヨフヨと何かが浮いているけれど、はてさてアレはなんだろうか。

 

「すみません。御手洗団子を50本いただけますか?」

 

 う~ん、あの白いやつ見たことあるな。何だったかな?

 

 って、え? 50本ですか? そりゃあ流石に食べ過ぎじゃあないかい?

 

「えっ……え? 50本ですか? えと、今すぐ用意はできないので少々お時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」

 

 ま、まぁそりゃそうだわな。いきなり50本なんて言われても用意できていないだろう。こりゃあ、団子屋さんも大変だ。

 

 ん、ああそっか。思い出したわ。

 確かあの半人半霊の堅物男があんな感じの白いのと一緒にいたと思うぞ。ん~、じゃあこの娘も半人半霊……なのかね?

 

 あの堅物男は今も元気でいるだろうか? まぁ、あの亡霊姫の方は元気だろうけどさ。

 

「はい、お願いします」

 

 少女は注文を終えると、店の前に用意してある椅子にちょこんと座った。

 

 さてさて、どうすっかな。

 俺も団子が欲しいけど、こりゃあちょいと待たないとだよね。

 

 とは言え、一応、聞いてみるとしよう。

 

「あの、俺も団子が欲しいのだけど、やっぱり待たないと?」

 

「すみませんが、今すぐには用意できません……」

 

 ですよね。

 

「了解、んじゃあ。俺も待つとするよ。御手洗団子10本お願い」

 

「はい。わかりました」

 

 忙しいだろうけど、稼げると思って頑張ってくださいな。

 

「すみません……私のせいで」

 

 座っていた少女が謝ってきた。

 

「ん? 別にいいよ。急いでいるわけじゃないし。それにしても……沢山食べるんだね」

 

 うん、まぁ良いことだと思いますよ? まぁ、あれだ、育ち盛りだもんね。

 

「え? あっ、違いますよ! 私が食べるわけじゃなく、幽々子様が食べるだけで……」

 

 んん? 幽々子?

 

「幽々子様って西行寺幽々子のこと? 白玉楼の?」

 

「はい、そうです。えと、幽々子様とはどんな関係でしょうか?」

 

 ん~……どんな関係ねぇ。

 

「友人……かな」

 

 ここ数百年会ってないけれど。

 

「そうでしたか! 私は魂魄妖夢と言います。今は、白玉楼で庭師などをやっています」

 

 ああ、魂魄家の娘だったんだね。それでその白いのが付いてるのか。

 

「俺は黒って言うんだ。今は、お酒を作ったり、カフェ……まぁ、茶飲み屋みたいなことをしてるよ。ああ、そうだ。妖忌は元気にしてる?」

 

「えと、お師匠……じゃなくて、祖父はもう隠居しました。今どこにいるかわかりませんが」

 

 ありゃ、そっか。もういないのか……う~ん、そりゃあちょっと淋しいね。

 

「そっか、幽々子は……まぁ、元気だよね?」

 

「はい、幽々子様は変わらず元気ですよ。でも、白玉楼に訪れる人がいないので、淋しそうにしています。紫様や騒霊がたまに来られますが」

 

 元気のない幽々子とか想像つかんしな。生前は元気なかったけど、あれは別。

 

 そんな感じで、団子が来るまで妖夢ちゃんと雑談。

 そして、いつの間にかこれから俺が幽々子と会うことになってしまっていた。

 

 阿求ちゃんのことは後になって思い出した。ごめん。

 まぁ、あれだよ、歳取ると忘れっぽくなるんだよ。

 

 な~んてね。

 

 

 

 

 

 

 俺の分も合わせて計60本の団子を持ち、妖夢ちゃんと一緒に白玉楼へ。ホント何年ぶりの再会だろうか?

 

「お帰り妖夢。っと、黒じゃない。また、珍しいのが訪ねてきたわね」

 

 雲の上にある白玉楼へようやっと到着。

 もぅマヂ無理……飛べなぃ。

 

 着いた先には、以前と全く変わらぬ姿の幽々子がいた。

 

「や、久しぶり。淋しそうにしてるって、妖夢ちゃんが言ってたから会いに来たよ」

 

 やべぇ、喋るのも辛い。自分の体力のなさに泣きそうになる。紅葉した桜の木が綺麗なのだが、まともに見ることができない。

 

「ホント、久しぶりね。でもいいの? 冥界に来ると映姫様に怒られるわよ?」

 

 ああ、忘れてたわ。

 やだなぁ、映姫の説教って妙に心へくるんだよね。俺の豆腐メンタルがボロボロにされる。

 

「まぁ、いいよ。ちょっと我慢してれば終わるし」

 

 忘れてたとは流石に言えない。

 

「そう、それなら良いわ。妖夢、お茶の用意をお願いね」

 

「わかりました」

 

 そうして、お茶会が始まった。

 漸く呼吸も落ち着き、紅葉を見ることができるように。赤、黄色とりどりの桜の木は綺麗だった。

 

 

 ただ、1本の木を除いて。

 

 

 そんな見事な桜があるものだから、会話は弾む。

 弾んで転がり飛んで着地した先には、俺と妖夢ちゃんとの決闘が待っていた。

 

 

 ……どうしてこうなったよ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 幽々子様と黒さんの会話には、昔のことを中心に花が咲いた。私はほとんど、会話に参加できませんでしたが……

 あと、いつものことだけど幽々子様食べ過ぎです。流石にちょっと恥ずかしい。

 

 幽々子様の話や、紫様、お師匠様の話。そして話題はいつの間にか私のことへと移っていきました。

 

「全く、妖夢にも困ったものだわ。いつまでたっても半人前で」

 

 山盛りのお団子はすでに大量の串へと変わっています。お団子は、幽々子様がほとんど食べてしまい、黒さんは1本だけ。

 私は……3本いただきました。

 

 美味しかったです!

 

「半人前ねぇ……妖夢ちゃんの実力は知らんけど、まだ若いんだし焦らなくてもいいんじゃない?」

 

 黒さんはそう言いましたが、毎日修行をしても、本当に強くなっているのかわからない。

 先は……長いです。

 

「そうだ、黒。妖夢と手合わせしてみない? 貴方ならいくら妖夢が本気を出しても死ぬことはないでしょう?」

 

 幽々子様はそう言いました。

 え? 私と黒さんでですか?

 

「……馬鹿言うな。俺と妖夢ちゃんじゃ話にならんよ。時間の無駄だろ」

 

 話にならない、時間の無駄……

 

 そんな黒さんのこの台詞が頭きた私は――

 

「私からもお願いします。一度手合わせお願いします」

 

 確かに私は半人前だ。

 でも、私だって毎日努力してきた。

 先の見えない道を歩んできた。それだけのことは、してきたつもりでした。

 

「ほら、妖夢もそう言ってるし、黒ならすぐに終わるでしょ?」

 

 どこか楽しそうにしながら言葉を落とす幽々子様。

 

「幽々子……お前、わかって言ってるだろ? そりゃすぐ終わるけどさ……」

 

 黒さんの実力はわかりませんが、強者であることは間違えなさそうです。

 

 そんな人と闘ってみたい。

 そうすればきっと何かが見えてくる気がする。

 

「お願いできませんか?」

 

「……わかったよ。んじゃあ、やろうか」

 

 面倒臭そうに黒さんは言いました。

 いくら私が半人前だろうと、此処は下がっちゃいけない場面。全力でいかなきゃいけないときなんだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、始めましょ。ルールはお互いの実力差が分かるまで、ってことにしましょうか。もちろん全力でやらないとダメよ? 妖夢は楼観剣を使うとして、黒は……あ、そう言えば短刀を持っていたわよね? それを使いなさい。あ、もちろん刀だけじゃなく、霊弾もどんどん撃っていいわよ」

 

「……了解」

 

「わかりました」

 

 庭にてお互いに向き合う私と黒さん。

 

「さて……と。始めよっか」

 

 そんなどこまでも余裕そうな表情で黒さんが言葉を落した。

 あまり……舐めないでください!

 

 片膝を立て、腰を浮かす。

 先手必勝。自分にできる最大限の速さで居合抜き。

 

 そして――楼観剣を黒さんの鼻先一寸で止める。

 

 そんな私のこの行動に黒さんは、一歩も動きませんでした。

 

 

「なんで……どうして動かなかったのですか?」

 

「まぁ、動く意味がないからかな」

 

 私が止めるとわかっていたようですね……

 修行が足りない。

 

 飛び上がってから霊力を込めた霊弾を。しかし、黒さんは飛ばず地面にいる状態で私の弾を避け、どうやってかはわかりませんが次々と霊弾を打ち消していきました。

 

 ……飛ぶ必要すらないということですか。

 

 そんな黒さんは私の弾を避けながら、反撃してきます。

 その量は私の10分の1以下。

 

 そうだと言うのに、その霊弾は1発1発が私の隙をついてきました。

 

 そして避けきれず一発の霊弾が顔の前に……

 

「しまっ……!」

 

 ガードも間に合わず直撃。

 しかし、パンっと軽い音がしただけで衝撃は全くないのです。

 

 

 どこまで……どこまで私を馬鹿にすればっ!!

 

 

 自分の不甲斐なさに、実力のなさに涙が止まらない。

 

 くそっ、涙、邪魔! 前が見えない!!

 

 

 その後もできる限りの霊弾を放ちましたが、黒さんには避けられ続けました。最初は短刀も使っていましたが、それも使わなくなり、霊弾すら出さなくなるように。

 

 ああ、これが……これが実力の差ですか。

 毎日あれだけ修行した成果が、この程度の物なのですか……

 

 

 地面に降り、再び黒さんと向き合ってから言葉を一つ。

 

「黒さんの実力はわかりました……これで最後にします」

 

 自分の実力はよくわかった。けれども――

 

 負けたくない。

 諦めたくない。

 私の中のちっぽけな誇りが火をつけた。

 

 ただ、突っ込んだけでは捌かれるだけ。

 落ち着け、冷静になれ。

 

 まず突きを黒さんの喉に、そして後ろへ下がり最速で楼観剣を叩きつけるんだ。

 頭の中で想像すればいい。

 ただただ勝利する自分を。

 

 後は、考えるな。

 

 体を動かせ!

 

 足に力を入れ、一気に距離を詰める。

 まずは喉へ一突き。

 

 サクッという音がした。

 

 そして後ろへ下がり、最速で楼観剣を振り抜……あれ? サクっ?

 

 

 黒さんが倒れた。

 

 

 えっ……えっ?

 

 何が起きたのかはわかりませんでしたが、幽々子様がお腹を抱えて笑っていることだけは、よくわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「そうだ、黒。妖夢と手合わせしてみない? 貴方ならいくら妖夢が本気を出しても死ぬことはないでしょう?」

 

 幽々子が言った。

 いや……無茶言わないでくださいよ。

 

 死ぬぞ?

 俺が。

 

 不老不死だって死ぬんです。そのあと生き返るけどさ……

 

「……馬鹿言うな。俺と妖夢ちゃんじゃ話にならんよ。時間の無駄だろ」

 

 俺なんかと闘うくらいなら、素振りでもしてた方がマシだって。

 

「私からもお願いします。一度手合わせお願いします」

 

 え? 何? 妖夢ちゃん本気?

 いじめカッコ悪い……

 

「ほら、妖夢もそう言ってるし、黒ならすぐに終わるでしょ?」

 

 おい、こら。お前は何笑いながら言ってるんだよ。

 

「幽々子……お前、わかって言ってるだろ? そりゃすぐ終わるけどさ……」

 

 そりゃすぐ終わるさ。

 だって俺、弱いもん。

 

 妖夢ちゃんの実力は知らんけど、俺より強いことは確かだ。

 闘いたくない。

 未来が真っ黒だ……何も見えやしない。

 

「お願いできませんか?」

 

 妖夢ちゃんが言った。

 そんな風に言われたら、断ることもできやしない……

 

「……わかったよ。んじゃあ、やろうか」

 

 はいはい、これは終わったね。

 もうどう仕様もないね。

 

 

 

「それじゃあ、始めましょ。ルールはお互いの実力差が分かるまで、ってことにしましょう。もちろん全力でやらないとダメよ? 妖夢は楼観剣を使うとして、黒は……あ、そう言えば短刀を持っていたわよね? それを使いなさい。あ、もちろん刀だけじゃなく、霊弾もどんどん撃っていいわよ」

 

 あ、俺はこのナイフなのね。この切れないナイフでどう戦えと?

 ま、まぁ他の武器を使ったところで一緒か……

 

「……了解」

 

「わかりました」

 

 庭にて俺と妖夢ちゃん、お互いに向き合った。

 ふっ、一瞬で終わらせてあげるよ。

 

「さて……と。始めよっか」

 

 俺がそう言うと妖夢ちゃんの姿勢が低くなった。

 そして、気がつくと目の前に楼観剣と呼ばれる刀が。

 

 あかん……何が起きたか全くわからない。一歩も動けない。反応すらできなかった。

 いや、霊力で強化してない俺の実力なんて、こんなもんなんだって。

 

「なんで……どうして動かなかったのですか?」

 

 妖夢ちゃんが言った。

 

「……動く意味がないからさ」

 

 とカッコつけて言ってみたものの、ヤバいです。

 ちびりそう……

 ちらっと幽々子を見ると、盛大に笑っていた。あの……もう、やめませんか?

 

 そして、飛び上がった妖夢ちゃんは霊弾まで放ってくるように。

 

 え? 俺は飛ばないのかって?

 

 ……飛べないんです。白玉楼に来るので、もう限界なんです。足とかプルップルだよ?

 

 なけなしの霊力で身体強化。

 けれども、妖夢ちゃんの撃ってくる弾を全部避けることはできなかった。

 避け損ねた珠は、ずるいけれど能力で打ち消すことに。できるだけバレないようだけど。

 俺だってカッコつけたいんです!

 

 そして、反撃のために俺も霊弾を撃つ。

 と、言っても霊力なんてほとんど残っていないから、中身がスカスカのやつを。あれだ、高速で飛ぶシャボン玉だと思ってくれればいい。

 

 その高速シャボン玉が運良く妖夢ちゃんに当たった。

 まぁ、当たった瞬間はじけて消えたけど……もちろんダメージは0です。

 

 その後、妖夢ちゃんの弾幕はさらに密度が高まった。

 ムリムリ! ムリだって!!

 

 死ぬ。俺死んじゃう。

 

 

 この非常な現実に、いじめにしか見えない闘いに涙が止まらない。

 

 

 くっそ、涙、邪魔! 前が見えない!!

 

 

 最初はナイフも使って防いでいたけれど、握力がなくなった。

 力が入らない。

 もう……限界です。霊弾を撃つ霊力もなくなり、能力を使いまくってなんとか耐える。

 ……これが実力の差ってやつだろう。まぁ、わかってたけどさ。

 

 妖夢ちゃんが地面に降りてきた。

 終わりか! 終わりなのか!?

 

「黒さんの実力はわかりました……これで、これで最後にします」

 

 はい、ダメでしたー

 

 死にたくない。

 痛いの嫌い。

 俺の中のちっぽけなプライドは跡形もなく消え失せた。

 

 

 

 上を見ると今日も良い天気だった。

 

 そして、目の前が真っ暗に。最後に見えたのは、苦しそうに笑っている幽々子の姿だった。

 

 厄日だ……

 

 

 






いつもより長くなってしまいました
う~ん、もっと短くできただろうに……

次回は白玉楼からスタートになりそうですね
書いていて、ちょっとだけ主人公が可哀想に思いました
まぁ、思っただけですが


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