もう4月となり、いつもなら雪なんてとっくに溶けているはずの時期。ここ幻想郷では、いまだに雪が降っていた。
これじゃ秋の終わりから、春に向けて力を蓄えていた桜たちも救われない。
異変……なのかな? ん~、決め付けるにはまだ早いか。春告精が訪れるのはもう少し先だろうけれど、ここまで冬が長いのは初めてだ。
寒いのは嫌いなんだよね。
冬の時期は人里の人間も篭ってしまうため、迷い人に来るお客さんも少ない。開店休業状態。
つまり、いつも通り。
……暇だ。人が来ないから、すごく暇だ。
う~ん、どうしようか。紅魔館はこの前行ったし、白玉楼もそのうち行くしなぁ。
よしっ、決めた。
霊夢の所にでも行くとしよう。
いつもより厚着をし、数本のお酒を持って家を出る。
これだけ持っていけば邪険に扱われることもない……はず。
あ、おつまみも持っていけば良かったなか。まぁ、また戻って来ればいいか。
「んっと」
博麗神社の鳥居に転移。空は晴れているはずなのに、ハラハラと雪が舞っている。冬って、曇っていた方が暖かいよね。
晴れの日は寒いです。
てか、此処雪かきしてないじゃん。まぁ、鳥居があるのは神社の裏側だし問題ないのかな。
人、来ないもんね。博麗神社自体に人が来ないだけな気もするけど……
膝くらいまである雪を押しのけ進む。
むぅ、歩きづらい。
飛べば良かったことには後で気づいた。
そんな博麗神社の母屋の方からは楽しげな声が聞こえてきた。ありゃ、誰か来てるのかな?
「おしっ霊夢。かまくら作ろうぜ。かまくら」
「私は嫌よ。寒いもの。ほら戸を閉めなさい。風が入ってくるでしょ」
どうやら魔理沙ちゃんが来ているらしい。
元気そうで何よりだ。
「おっす。こんにちは、霊夢。魔理沙ちゃん」
「また喧しいのが増えたわね……」
失礼な。仕様がないでしょ、暇だったんだもん。
「こんにちは、だぜ」
おう、こんにちは。
「ちょうど良い所に来たな。かまくら作ろうぜ黒」
かまくら、ねぇ……
それはまさに雪遊び。
「任せろ、滅茶苦茶でかいの作るぞ」
雪遊び大好きです。
「……勝手にやってちょうだい。私はお茶を飲んでいるわ」
なんだよ、完成しても入れてあげないぞ?
と、言うことで魔理沙ちゃんとかまくらを作ることに。まずは雪を集めて雪山にする。
連日連夜降り続いてくれたおかげで、雪の量には困らない。
俺がせっせと雪を集めている間、魔理沙ちゃんは違うものを作っていた。いや、手伝ってよ……
「えと……これは何なの魔理沙ちゃん?」
かなり適当な雪の柱を真ん中に立て、その周りに歪な形の雪玉が二つ。
「浪曼砲だ」
魔理沙ちゃんが言った。
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度低いなオイ。
「甘い……浪曼砲はこんなもんじゃない。作り直すぞ! 魔理沙ちゃん、水を持ってきてくれ。できれば塩水で」
「え? お、おう」
かまくら作りは止め、浪曼砲の制作となった。
ソイツを全身全霊で作る。男にはやらなきゃならん時があるんだ。
2時間を超える制作時間のすえ、終に完成。直径1米の完璧な球を二つ。真ん中にあの独特な柱。横幅3米、縦1米、高さ4米の浪曼砲。
それを目立つよう、博麗神社の参道の真ん中にぶっ立てた。
「で、できた……完璧だ」
我ながら、かなりの完成度だと思う。
「これが……これが本当の浪曼砲か……」
魔理沙ちゃんと二人で完成を喜び合う。ハイタッチとかしたりした。
その後、霊夢に『そんな変な物作るな!』と言って、叩き壊された。
俺は泣いた。魔理沙ちゃんは笑っていたけど。
雪遊びを終え、家の中で談笑中。
「手、手の感覚が……」
2時間以上も雪を触り続けていたせいで、手がとても冷たい。炬燵に手を入れ必死に温める。
むぅ、一人用の炬燵じゃやっぱり狭いね。
「馬鹿なことやっているからよ」
俺たちが遊んでいる中、霊夢はずっとお茶を飲んでいた。
自由だなぁ。
「魔理沙ちゃんは手、大丈夫なの?」
魔理沙ちゃんだってあれだけ雪を触ったのだし、ヤバそう。
「私は魔法で温めていたから大丈夫だよ」
何それ、ずるい。いいなぁ、魔法。
俺も一応、使えることは使えるけど、如何せん魔力がほとんどないからなぁ。
「それにしても、今年の冬はやたらと長いわね。そろそろ薪や炭がなくなりそうだわ」
なんだ、霊夢も今年の冬が長いってことは気づいていたんだ。
ん~、やっぱり異変なのかね? だとしたら、誰が起こしているのやら……
「それに、こんなに雪があったら参拝客だって来ないじゃない」
「つまり、いつも通りか」
「いつも通りだな」
俺と魔理沙ちゃんのセリフが被った。
雪がなくたって人来ないでしょ。
「でも、妖怪は来るんでしょ? レミリアとか」
よく遊びに行くって言ってたし。
「アレが来ても仕様がないでしょ?」
アレとか言うなよ……かわいそうでしょ。
「んじゃあ、逆に霊夢が紅魔館に行けば?」
歓迎してくれるんじゃない? レミリアも喜ぶぞ。
「嫌よ。面倒臭い」
そんな性格だから人が来ないんだろうね。
「紅魔館か……私はよく遊びに行くけどな」
「いや、魔理沙ちゃんは……遊びっていうのか?」
「ああ、ちょっと本を借りにな」
本を狩りに行ってるの間違えだろう。
「図書館の魔女さん困ってたぞ? この前なんて、スカスカになった本棚を悲しそうに見つめて、むきゅむきゅ言ってたし」
「むきゅむきゅは言ってないだろ……ちょっと借りてるだけだって、そのうち返すよ」
早めに返してあげてね。
「そう言えば、黒の能力でこの雪を消せないの?」
「降ってくる雪なら消せるけど、積もってるのは無理だよ。あと、俺が能力を使っても暖かくはならないよ」
そこまで便利な能力じゃないのです。
「なによ、使えないわね」
そんなストレートに言わないでくれ……
そんな感じでダラダラと喋っていたから、すっかり夜になってしまった。
日が長くなったとは言え、いまだ冬。夜は冷え込む。
と、言うことで。
「鍋やるべ」
冬の定番。
冬と言ったら、やっぱり鍋だよね。温めたお酒が美味しい季節です。
「なんで訛るの? あと家に食材はないわよ」
うん、だろうとは思ってた。
「いいよ、俺が家から持ってくる。霊夢と魔理沙ちゃんは準備してて。お酒は持ってきてあるから燗もお願い」
そんなこんなで、鍋を作ることに。具材は、白菜や葱などの野菜と兎肉。
それと、魔理沙ちゃんがなぜか持っていた干し茸。……これ、毒茸じゃないよね?
寒い冬の日に鍋と熱燗。最高です。
霊夢と魔理沙ちゃんは気づいていなかったけれど、いつの間にか萃香も一緒に鍋を食べていた。萃香ってどこにでも現れるね……
鍋の具材を持ってくるついでに、お酒も持ってきたけれどすでに空。いや、どんだけ飲むんだよ。
俺が持ってきたお酒はなくなったから、萃香のお酒を飲むことに。それでも霊夢と魔理沙ちゃんは、萃香に気づかなかったみたいだった。
もしかして、ただ酔ってるだけなんじゃ……
その後、流石に鬼の酒は強かったのか、二人とも寝てしまった。
俺はまだ飲めたので、簡単に酒瓶や鍋を片付け萃香と二人で飲むことに。
「博麗の巫女もだらしないねぇ。もう寝ちゃったのかい?」
萃香が酒を飲みながら言った。
人間基準ならこれでもおかしいけどね。十分飲み過ぎです。
「人間と鬼を比べるなよ……それと鬼の酒は人間には強すぎる」
「私にとっては人間の飲む酒が弱すぎると思うけどね。これも嫌いじゃあないけど。それに黒はまだ飲めるんでしょ?」
歳の差ってやつかな。それにそもそも、普通の人間とは体の作りも違うんだろうね。
「俺は別。萃香、一杯くれ」
「はいよ、どんどん飲みな」
伊吹瓢からお酒をもらい喉へ流し込んだ。
高いアルコール度数が喉を焼きながら、体に染みていく。いやー、キッツい、滅茶苦茶キツいけど……
「やっぱり美味いな」
「私はいい加減飽きてきたけどねぇ。まぁ、美味いことには変わらない」
伊吹瓢いいな~羨ましい。
酒虫ってもう捕まえられないのかな?
そう言えば、萃香はこの長すぎる冬をどう思っているんだろうか?
「なぁ、萃香はこの終わらない冬をどう思う?」
萃香なら何か知っている気がする。
「私はさっさと春になって、お花見しながらお酒を飲みたいんだけどね。まぁ、もう暫くは雪見酒で我慢するよ」
どこかズレた答え。
でもそれは萃香らしい答え。酒ばっかだね。お前は。
「そうだねぇ……どうやら、亡霊の姫君が春を独り占めしようとしているみたいだけど、その辺りはあんたらに任せるよ。異変解決は人間のやることなんでしょ?」
萃香が言った。
ん? 亡霊の姫君って幽々子のことだよね? 春を独り占めって、春度でも溜め込んでるのか?
何をしようってんだよ。
「はぁ、やっぱり異変か……」
どうしようか、紫を起こした方がいいのかな。何を企んでいるのかわからないけれど、どうにも良い予感はしない。
「異変だね。咲かない桜を咲かせようとしている。ま、私は咲かない桜ってのも良いとは思うけど」
咲かない桜……西行妖か。あれだけ念入りに封印したのだし、あの桜が咲くとは思えないけれど……
う~ん、俺も異変解決の手伝いをするか。それなら紫も起こさなくて大丈夫だろ。冬の間、ずっと篭っていたのだし、たまには運動するのも悪くない。
「情報ありがと。今度お酒を持ってくよ」
「そりゃあ嬉しいね。今度は雪の上じゃなくて、桜の下で飲みたいかな」
了解。
また春になったら一緒に飲もう。
その後も萃香と喋りながら飲み明かした。
終わらない冬はもう少しだけ続きそうだ。
溶けていく雪だるまを見ると妙に悲しくなりますよね
と、いうことで春雪異変スタートです
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