雪を降らせ続ける分厚い雲を抜け、空へ。
「あら、雲の上は随分と暖かいのね」
霊夢が言った。
多分だけれど、ここまでは春が来ているのだろう。
仄かに香る桜の気配。白玉楼まで後少し、かな。
「うん? なんかこっちに来るな」
弾幕をまき散らしながら近づいてくるのが一つ。
「何かしら? あれ」
「春告精じゃないかな?」
どうやら、ここ雲の上はすでに春らしい。
「鬱陶しいわね。ちょっと倒してくる」
あんまり苛めないでね。彼女は春だって伝えたいだけなんだから。
まぁ、それが迷惑なんだけどさ……
「お、黒じゃん。お前も異変を解決しに来たのか?」
霊夢が春告精と闘っているのを、ボーっと見ていたら後ろから声がした。魔理沙ちゃんだった。
「今晩は、魔理沙ちゃん。俺は霊夢の付き添いだけどね。魔理沙ちゃんはどうしたの?」
異変を解決しに来たのかな?
君も物好きだねぇ。
「冬なのに桜の花が舞っていて、それを追いかけて来たら此処に着いたんだ」
そかそか、んじゃあまぁ、一緒に行こうか。
「雲の下は猛吹雪だっていうのに、その上は暖かいのね。素敵すぎて涙が出そう」
「今晩は、咲夜さん」
「はい、今晩は。黒様」
咲夜さんも登場です。
「咲夜さんも異変を解決しに?」
「ええ、紅魔館の燃料が尽きそうでしたので。そんなことより、この異変の原因は……貴方ですか?」
え?
「いや、違うけど……えと、なんで俺だと?」
とりあえず、そのナイフを閉まって下さい。怖いでしょうが。
「桜」
「ん?」
「ここまで、桜の花びらを追いかけて来ました。桜と言ったら貴方の能力でしょ?」
ああ、そういうことか。まぁ、そう思うのも仕方がないのかな?
とは言っても、俺じゃあ春を止めることなんてできない。無罪です。
「なんだ、じゃあ黒を倒せばいいのか?」
良いわけないでしょ。なんてことを言うんだ。
「ちょっ、待ちなさいって。とりあえず、ナイフと八卦炉を下ろして」
「私は黒の能力なんて知らなかったけれど、そう言われると黒って怪しいよな」
「何やってるのよ……」
あ、霊夢。
春告精は倒したのかな?
ああ、なんか下の方になんか落ちていった……
雲の下は滅茶苦茶寒いけど、春告精は大丈夫だろうか?
それは良いとして……助けて、この二人が俺をいじめようとする。
「黒に異変を起こすだけの力があるわけないでしょ? その辺の妖精にだって負ける程度の力しかないんだし」
フォロー……だよね?
「確かにそうだな。黒、弱いもんな」
あれ、雨か?
頬を伝うこの液体は一体……
「私はわかっていましたが」
じゃあ、何で言ったんだよ!?
「んじゃあ、本当のラスボスは誰なんだ?」
ん~そろそろ教えてあげてもいいのかな。
「今まで通り、桜を追いかけて行けば待ってるはずだよ。ラスボスが。ま、後少しだから頑張って」
今頃は半人半霊のあの娘と一緒に、お花見の準備でもしているのだろう。
「ずいぶんと、あっさり教えるのね。なんか黒って魔理沙に優しくない?」
いや、そんなつもりはないけど……
ん~別に、霊夢に厳しくしてるってことはないと思うんだけどな。ま、この異変を解決したら、お酒でもあげようかな。
「そんなことないさ。じゃ、そろそろ行こうか」
そろそろ物語が動いても良い時間だ。
「ちょっと姉さん待っててば」
「雲の上は暖かいね~」
おろ? また増えた。
「ん? 誰だ?」
あれは……騒霊三姉妹か? どうして此処にいるのかは知らないけど。何の用だろうか。
「あんたらは何者?」
霊夢が聞いた。
「私達は騒霊演奏隊だよ~。お呼ばれで来たの」
「宴の時間~」
「あなたたちは?」
「風上を目指していたらここにたどり着いただけの者よ」
「4対3か……どうする? 一人ずつやるか?」
ありゃ、戦う気満々ですね。
「んじゃあ、俺は先に行ってるわ。これでちょうどいいだろ?」
「あ、ずるい! また一人だけ」
「俺は一応お呼ばれしてるからね」
『春に来なさいよ』だったっけかな? ああ、でもお酒持ってきてないわ。
ん~また今度でいいか。
んじゃあ、後は任せたわ。どうか頑張ってくださいな。
霊夢達を置いて先へと進む。
そして、白玉楼へと続く長い階段が見えてきた辺りで、見えない壁にぶつかった。痛い……
結界か、こんなのあったね。この前に来た時は、妖夢ちゃんと一緒だったから普通に入れたけど……う~ん、どうすっかね。壊しても良いけど、壊したら紫の奴怒るよな。
仕方がないから、ギリギリ通ることができるくらいの穴を開けた。
これくらいなら、俺にだってできます。
白玉楼へと続く長い長い階段。春度でも俺の能力でもない、普通の桜の花びらがハラハラと舞い散っていた。結界を抜け、白玉楼に向かう途中妖夢ちゃんと遭遇。
何やってんの?
「あ、黒さん。いらっしゃいです」
「や、妖夢ちゃん。こんな場所でどうしたの?」
「プリズムリバー三姉妹を待っているところです」
ああ、なるほど……でも、たぶん来ないと思うよ。
「そっか、幽々子は白玉楼にいる?」
「はい、満開ではありませんが、西行妖も花を付けこれからお花見です。どうぞ、ゆっくりして行ってください」
はぁ、やっぱりあの化け桜咲きやがったか……
満開ではないってことは、封印は機能しているみたいだね。とりあえずは一安心と言ったところ。
「おう、じゃあ先に行ってるよ」
軽く言葉を交わして妖夢ちゃんと別れる。
てか、俺は別に正式に呼ばれているわけじゃないんだけど……良いのかな?
長い長い階段を登り終えると、満開となった桜達がまっていた。
ホント、綺麗だな……
「いらっしゃい、黒。来てくれるとは思っていなかったわ」
「お邪魔するよ、幽々子」
一際目立つ咲かないはずの桜の下に幽々子はいた。
「こんなに綺麗なのだから、もっと早く咲かせれば良かったわ。満開になったらもっと、すごいのでしょうね」
今は八分咲きと言ったところ。
残念だけどさ、幽々子。
お前が満開の西行妖を見ることは……絶対にないんだ。
「あ~幽々子? 招待してもらっておいてあれだけど、お酒持ってくるの忘れたんだよね」
「あら、そうなの? それは残念ね。まぁ仕方がないわ。それじゃあ、今日は楽しんでいってちょうだい……って、下の方が騒がしいわね。招かれざるお客さんかしら?」
霊夢達も着いたみたいだね。確かに妖夢ちゃんは強いけど、霊夢に勝つのは無理だろう。
霊夢の強さはちょっとおかしいと思うんだ。
騒がしい声が近づいてくるのがわかった。
「ちょっと待ちなさい! これ以上踏み込んで、お嬢様に殺されても知らないわよ!!」
どうやら、到着らしたらしい。
いや『殺される』って妖夢ちゃん、流石に幽々子でも能力使ったりはしないだろ……あ~妖夢ちゃんも派手にやられたみたいだね。
ドンマイです。
「あら、本当にここだけ春のようね」
「おおー、すごいな。桜が綺麗だ」
「あ、黒と……誰?」
三者三様の驚き方。
まぁ、下の世界は未だに冬が続いているもんね。
「それはこちらの台詞よ。私は西行寺幽々子。ここ白玉楼の主で亡霊をやっているわ。それで、貴方達は? 招待した覚えはないけど?」
「私も招待された覚えはないな。春を返してもらいに来たぜ。桜が恋しくてね」
「それなら、ここの桜を見ていけばいいじゃない。綺麗でしょ? ここの桜は」
さっき招待してないって言ってたのにね。
あ、ごめんなさい。何でもないです。そんな睨まないでよ……
「私はうちの神社でお花見がしたいのよ。さっさと返してもらえる?」
「物騒ね。あと少し、あともう少しで西行妖が満開になる。そうすれば封印が解けるのよ」
「封印されているのだから、解かない方がいいんじゃない? で、その封印が解けるとどうなるのよ?」
「すごく満開になる」
……いや、うん。まぁ、そうだけど。えっ? 何、幽々子そのためだけに幻想郷の春を集めたの?
「と同時に何者かが復活するらしいわ」
ありゃ、そこまで気づいていたのか……
はぁ……どこで知ったんだか。
「封印されている奴なんて、禄な奴じゃないでしょ……どうでもいいから、さっさと春を返して」
「ふふっ、貴方達から春を奪えば、西行妖も満開になるかしら?」
「これ以上奪われるわけないでしょ? さっさと花の下に還るといいわ、春の亡霊!」
「ふふっ、花の下で眠るといいわ、紅白の蝶」
「亡郷 『亡我郷』」
さてさて、弾幕ごっこの始まりです。
「魔理沙ちゃんと咲夜さんは闘わないの?」
弾幕ごっこが終わるまで、二人と雑談。妖夢ちゃんは端っこで倒れてます。ゆ、ゆっくり休んでね……
「私はジャンケンで負けたからなぁ。最初は霊夢に譲るよ」
「私は春さえ取り戻せればいいので」
異変の解決は、誰にやってもらっても構わないけれど、やっぱり霊夢には頑張ってもらいたいかな。
そんじゃ、頼んだよ、博麗の巫女。
「そっか、まぁ霊夢なら幽々子にも勝てるだろうし、のんびり待つとしようか」
「黒はあの亡霊姫と知り合いなのか?」
「まぁね、昔からの友人かな」
亡霊になる前だって友人だったと思うよ。まぁ、彼女がどう思っていたかは知らないけどさ。一応、1000年前からの付き合いだね。
そんな感じでのんびりと雑談。
我ながらのんきなものだ。
「桜符『完全なる墨染の桜‐開花‐』」
「霊符『夢想封印』」
勝負も終盤。
流石の霊夢もちょっと疲れ気味かな?
飛び交う色とりどりの弾幕。
そして――霊夢の霊弾が幽々子に直撃した。
「あいたた……貴方本当に人間なの? ちょっと強すぎない?」
「失礼ね。ちゃんとした人間よ」
わりと怪しいけど、人間なんだよね。
「おお、流石霊夢だな。じゃあ、春を返してもらおうぜ。博麗神社でお花見しようお花見」
「私も帰ろうかしら? 紅魔館も心配だし」
「あ~疲れた。それで、春はどうやって返してもらえるの? ……あら? あの桜なんかおかしくない?」
『反魂蝶 -八分咲-』
視界を埋め尽くすほどの弾幕……と言うよりは弾壁かな。蝶弾、大玉、レーザーと何でもありだ。
西行妖がそんな弾幕を放ってきた。
「え……なに、これ」
幽々子の驚いたような声が聞こえた。ああ、そう言えばこんな仕掛けだったね。
「……何よ、まだ続くの? 面倒ね」
続いて聞こえた、いつも通り気だるそうな霊夢の声。頑張って、これでラストだから。
と、言っても流石の霊夢でもこれは厳しいか。
お疲れ様。ここからは俺がやるよ。
「ちょ、ちょっと黒! 危ないわよ!!」
霊夢の声が聞こえた。
大丈夫だよ。今日はこのために来たんだ。
――能力使用。
近づいて来る弾幕全てを桜の花びらに変えた。
えっ? ずるいですか?
まぁ、許してよ。耐久スペルとかやってられんもん。
「これは……すごいな」
魔理沙ちゃんの声も届く。
弾幕の代わりに視界を埋め尽くした、舞い散る桜。
散る散る桜は美しい。
西行妖に近づき手をつけてみる。
ありゃ……無理やり春度を入れたせいかな? 封印がボロボロだ。もしかして割とギリギリだった?
封印するための結界を再構築。
陽陰の八卦を組み合わせて六十四。
そこへ、木火土金水の五行を重ねる。
陽の八卦で結んで、五行で縛り、陰の八卦で閉じる。
掛けて合わせて三百二十。
仕掛け自体は前回と同じ。これで1000年くらいは大丈夫かな? 申し訳ないけれど、彼女にはまだ眠っていてもらおう。
封印完了と共に、西行妖が付けていた花が一斉に散った。
お休み。
まぁ、ゆっくり休んでくださいな。
「っと……」
ふぅ……終わったか。
あ~駄目だ、滅茶苦茶疲れた。前回の封印よりは楽とは言え、霊力はすっからかんだ。
目蓋が重い。今日は白玉楼に泊まって行こうかな。これから帰れる気がしない。
「―――?――――っ」
霊夢たちが何か言ってる。
ゴメン、全然聞こえないわ。ちょっと休ませて。
意識が途切れる寸前に見えた桜は、やっぱり綺麗だった。
これだけ見ても全く飽きない。
ホントお前はずるいねぇ。
桜と聞くと『ソメイヨシノ』が有名ですよね
このソメイヨシノですが、自家不和合性であるため、自家受粉では実をつけません
じゃあ、どうやって繁殖しているかと言うと、挿し木や接木によってのみです
つまり無性繁殖ですね
そのためソメイヨシノは全てクローンだと言えます
雑学にもならなそうな話でしたね
と、いうわけで13話でした
八卦だの五行だの書きましたが、作者は理解していません
なんかカッコイイから書きました
これで幽々子さんが復活したら私のせいですね
次話は妖々夢エピローグっぽいです
感想・質問など何でもお待ちしております