死にたくなるくらい綺麗な桜の木の下で、少女が倒れていた。
周りは赤く染まり、少女の手には一本の小刀。
「黒……幽々子をお願い」
紫が泣きそうな声で言った。
落ち着け。
こなることくらい十分予想していたはずだ。
「わかってる。紫、幽々子が成仏しないように頼む」
「もう、やっているわよ。急いで」
ここからは時間との闘い。幽々子の体から魂が離れたら終わり。急げ。とにかく急ぐんだ。
幽々子と西行妖結び付ける。
そのために、大量の霊力が必要になるが……
「紫、今の俺の霊力じゃ全然足りん。ちょっと霊力を返してくれ」
「うん、わかった。つなげるわ」
紫が境界を弄ったのだろう。
体が熱くなる感覚。中に霊力が染み込んで来るのがわかった。
ちょっと前まではこれが普通だったのに、なんとも変な感じだ。
木の下に掘った穴へ、幽々子を丁寧に埋める。
慌てるな、急げ、落ち着け。
昔嫌になるくらい叩き込まれた封印術を必死に思いだす。
そして、幽々子と西行妖を結ぼうとした時だった。
猛烈な寒気と倦怠感が俺を襲った。
むぅ、これは……キツイな。
どうやら死に誘われているらしい。面倒臭い、少しぐらいおとなしくしていてくれ。
「紫、少しの間この桜を抑えられないか? 鬱陶しくてやってられん」
ヤバい、頭が回らん。くっそ、集中なんてできやしないじゃないか。
全く……不老不死だろうと関係なしですか。
「無理よ、自分と幽々子で精一杯だわ!」
指先が震える。
しっかりしろ、時間がねーんだ!
このままじゃ続けられん……どうする? どうすればいい?
どんどんと死が近づいて来る。
ああ、そっか――死ねば良いのか。
幽々子、ちょっとその小刀借りるぞ。
「え? く、黒? ……なにを、するのよ?」
死が俺にたどり着くまでの時間も惜しい。だったら、こちらからも迎えに行くだけ。
そして、小刀を自分の喉に突き立て掻っ切った。一瞬だけ視界が真っ白に、でもすぐに戻る。
リザレクション。ホント便利な体質なことで。
さてさて、作業再開だ。
自決で五回、霊力切れで二回の計七回の死を乗り越えての封印。封印には、西行妖が莫迦みたいに溜め込んだ春度と、俺の霊力を使った。
吸い込んだ春度は封印の維持に、吸い込みすぎた春度は弾幕に変わるように。ガチガチに固めるのではなく、ある程度ゆとりも持たせた。
一時間にも満たない時間だったと思う。
頭が痛い。
体もフラフラする。むぅ、霊力の使いすぎか。
そして、封印を終えた瞬間、西行妖の花が一斉に散った。
……この桜吹雪を忘れることは、一生ないだろう。それほどに綺麗で――何よりも悲しく見えた。
さらに桜の花びらが一箇所に集まり、塊が出来始めた。
その塊は人型となり、見覚えのある姿にまで。
よかった……どうやら上手くいったみたいだ。
そして俺は、生まれ変わった幽々子の声を聞くことなく、その場に倒れ込んだ。今回は本当に疲れたんです。
「ありがとう、黒。お疲れ様」
意識の途切れる直前に紫の声がした。
うん、おやすみ。
――――――――
目が覚める。
えと、昨日は……ああ、西行妖を封印したところで倒れたのか。情けないなぁ。
最初に封印した時は、昨日の何十倍もキツかったと思うけど……俺も歳かねぇ。
んで、だ。
「ここは……どこだ?」
周りを見る。障子を通して入り込む朝日。
畳のよい香り。
立派なお座敷。
綺麗な布団。
うん、少なくとも博麗神社ではないだろう。普通に考えたら、やっぱり白玉楼なのかな?
そんなことを考えている時だった。
「あら、やっと起きたのね」
幽々子が部屋に入ってきた。
「おっす、おはよう幽々子」
「おはようって貴方……もう日が沈むわよ」
ありゃ、朝日じゃなくて夕日だったのか。いや、やたら赤いな~とは思ったんだよ?
「そっか、一日近く寝てたのか」
「二日よ」
「うん?」
はい?
「だから一日じゃなくて二日近くよ」
……マジで? おいおい、いくら紫から霊力をもらっていなかったからって、流石に弱くなりすぎだろ。
「うわー、悪いな。迷惑かけた」
「私は何もしてないから別にいいわよ。あと博麗の巫女には、ちゃんとお礼をするのよ?」
ん? 博麗の巫女って霊夢のことだよね。
「どうして?」
「もう帰っちゃったけど、あの娘、今日の昼までずっと貴方のことを看ていたのよ」
――優しいところもあるのね。
なんて幽々子が言った。
霊夢がねぇ……裏がありそうな気もするけど、そんなこと考えちゃ失礼だよな。
「わかった。今度会ったら、お礼を言っておくよ」
「ふふっ」
幽々子がいきなり笑った。
なんですか? まさか顔に落書きでもされてる?
「どしたのよ?」
「いえ、黒や紫と最初に会った日のことを思い出して。黒ってあの時も寝ていたでしょ?」
よく覚えてるね……
「あの時も疲れてたんだよ。色々あってさ」
「そうだったの? なんか、あの日と似てるな~ってなんとなく思って、ね」
こりゃあまた……随分と勘の良いことで。本当のことなんて言えるわけがない。
「そうか? 今日は紫もいないし、全然違うと思うけど」
なんとか表情には出さなかったと思う。
どうにか誤魔化せたんじゃないかなって思う。
「だからなんとなく、よ」
そんな感じで幽々子と喋っていると、妖夢ちゃんが来た。
「あ、幽々子様。こちらにいましたか。って黒さんも起きたのですね」
「や、妖夢ちゃん。久しぶり」
「は、はい、お久しぶり? です」
俺の言葉に首を傾げる妖夢ちゃん。
可愛らしいです。
「それで、どうしたの? 妖夢」
「えと、お食事の準備が出来ましたので呼びに」
おろ、ちょっと早い気もするけれど、そんな時間なのか。
「黒はどうするの?」
「帰ろうかな。流石に食事までもらうわけにはいかないし」
てか、俺の分の食事なんて用意してないよね。俺の答えに幽々子は、少しだけ考えるような仕草をして言った。
「そうねぇ……妖夢、食事を持って博麗神社まで行くわよ」
へ?
なんで博麗神社?
「わかりました。でも一人で全部を運ぶのは流石に……」
「黒も一緒に運んでくれるわ。いいでしょ?」
幽々子が聞いてきた。
「いや、まぁ手伝うのはいいけど、なんで博麗神社なのさ?」
「お花見よ。たまには、ここじゃない場所でやるのも良いと思ってね」
ああ、そっか。もう春になったんだもんな。
「了解。んじゃあ行こっか」
そして、大量の重箱と少量のお酒を持って神社へと向かった。
お酒を取りに、一度自分の家に戻っていたこともあり、俺が博麗神社に着いた頃にはすでに夜となっていた。
あれだけ積もっていた雪はどこかに消え、代わりに現れた満開の桜。博麗神社では、多くの妖怪妖精、そして少しの人間が飲めや歌えやの大騒ぎ。空では弾幕が飛び交い、地上では酒と料理が沢山。
ちゃんと桜見てる? こいつら宴会なら、なんだって良いんじゃ……
レミリア、咲夜さん、魔女さんの紅魔館組。どうやら美鈴とフランちゃんはお留守番らしい。
魔理沙ちゃん、アリスの魔法使い組。
よく見ると萃香もいた。
皆楽しそうで何よりです。
萃香と一緒にお酒を飲みながら、満開の桜を見ていると、さっきまでレミリアと弾幕ごっこをしていた霊夢が近づいてきた。
「なに一人で飲んでいるのよ?」
一人じゃないけどね。やはり霊夢には萃香が見えてないらしい。
「いや~、桜が綺麗だなと思ってさ」
「やっぱりお花見はうちでやるのが一番ね。ちょっと騒がしいけど」
満開になった桜を見ながら霊夢が言った。
「ありがとな、霊夢」
「なにが?」
キョトンとした顔で、霊夢が聞いてきた。
「ずっと看ててくれたんだろ?」
「別に気にしなくてもいいわよ」
そんな霊夢の答え。
少しぐらい照れてくれたっていいんだぞ?
「まぁ、そう言うなって。霊夢のためにお酒も持ってきたし。飲もうぜ」
ああ、コラ萃香。
それは霊夢のためのお酒だからまだ飲むな。
「……妙に優しいわね。何か企んでる?」
ジト目で霊夢が聞いてきた。企んでなんていません。
ちょっと傷ついたじゃないか。
「たまにはな。ま、生きてる人間の中では、霊夢が一番大事だしな」
「……? どういう意味?」
「さあ? 自分で考えな」
「生きてる人間、ねぇ……まぁ、どうでもいいか。とりあえず飲みましょ」
そんな感じで言葉を交わした後、霊夢と二人でお酒を飲んだ。
萃香はいつの間にか消えていた。
そんな大宴会の中での小さな宴会は、霊夢が『もうちょっと静かに騒げ!』と周りに怒るまで続いた。
良い季節になりました。
あれ? お酒の話が出てこない……
はい、と言うことで第14話でした
主人公が喉を掻っ切る場面がありましたが、R‐15タグは必要でしょうか?
必要があれば修正します
血の表現などはカットして、それなりに抑えたつもりですが……
掻っ切る場面なだけにね(ドヤァ)
なんだこれ
次話は未定です
感想・質問など何でもお待ちしております