「……よわっ」
目の前に広がる、雲一つない完璧な空。
ああ、今日も良い天気だ。
「さっきの勝負、本気だった? 全く手応えがなかったけれど……この程度じゃ、あの氷精にだって勝てないわよ?」
風も心地よい。自然だけはいつだって俺に優しくしてくれる。
「話には聞いていたけれど、まさかここまで弱いとは……」
おや? 雨かな?
おかしいな……さっきまで綺麗に見えていた空が、ぼやけて上手く見えない。
「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
あーもう!
「聞いてます! はいはい、あんたは強い強い!」
「いや、私が強いんじゃなくて、貴方が弱いだけじゃ……それもビックリするくらい」
「それ楽しい!? さっきから人の心抉って楽しい!?」
「事実を言っているだけじゃない」
それが! 俺の! 心を! 抉るんだよ!!
この会話でわかると思うけれど、俺と魔女さんの闘いは終始一方的だった。一言で言うと『下は大火事、上は洪水コレな~んだ?』
そんな感じだった。
接近戦なら勝てるだろうと思い、勝負が始まってすぐ一気に近づこうとした。足元が爆発した。もう笑うしかない。
地面は炎で覆われ、仕方がないから飛ぶ。そしたら、飛んでくるありえん数の水弾。
下から来るせいで能力も使えない。
必死で考えた俺のスペルカードによって放たれた霊弾は、全て魔女さんの水弾に打ち消され、水弾はそのまま俺に近づいてきた。
あ、これ終わったわ。
とか人ごとのように考えているうちに、地面へと叩き落され、さらに追撃を食らった(鬼か!?)。
この間10秒くらいです。
さらに魔女さんは、弾幕ごっこによる外側の破壊だけでなく、精神攻撃による内側の破壊まで試み始めた。俺が何をしたって言うんだよ……
「妖気が無くならない……じゃあ、この異変は貴方が原因じゃないのね?」
「だから最初から言ってたじゃん……」
――そう。じゃあ、次に怪しいのは……あの亡霊ね。
なんて言って魔女さんは飛び立って行った。亡霊というのはたぶん幽々子のことだろう。忙しい人だ。
ああ、空が綺麗だなぁ。
「黒も随分と弱くなったねぇ。本当にあれが全力かい?」
いつの間にか萃香がいた。
なんとか体を起こしてみる。うわっ、コイツまたお酒飲んでるよ。
「今の俺じゃ、あれが本気なんだよ」
悲しいけど現実なんだよね、これ。
「紫に貸したままなんだろう? 返してもらえばいいじゃないか」
「ん~別に必要じゃないしなぁ。いいよ」
それに、あの体が熱くなるような感覚嫌いなんだよね。
「まあ、あんたがそう言うなら私は何も言わないよ。さっきの奴に私のことを教えなくて良かったのかい?」
魔女さんのことかな?
「いいよ。俺はこの異変を解決したいわけじゃないんだし」
それに今回はどちらかと言うと、異変を起こした側の立場に近いしね。萃香を裏切ってしまうようでどうにも。
「黒は異変を解決する側じゃないの?」
「時と場合によるかな」
幻想郷が危ないのなら、俺も動くけど今回の異変は……ねえ。
「そうか、そうかわかったよ。これから忙しくなると思うけど、まぁ頑張って」
と言うと、萃香は消えてしまった。ん? 何を頑張るって言うんだ?
ま、考えてもわからんか。せっかく来たのだから、とりあえず霊夢に会っていこう。
そんなことを考えつつ、霊夢がいつもいる縁側へ。
あら? いないな。そもそも、あれだけ境内で騒いでいたのに、霊夢が出て来ないっていうのもおかしい。
ついに霊夢も動き出したのかな?
ん~、霊夢がいないんじゃ仕様がない。疲れたし、今日はもう帰ろう。明日また来てその時にでも話を聞けばいいか。
そして次の日から、頑張りだけではどうにもならない地獄が始まった。
わざわざ博麗神社になんて行かずに家にいれば良かったのに。
次の日。時刻はお昼を少し過ぎたくらい。
今日も、博麗神社に来たわけだけど……霊夢がいない。境内にもいつもの縁側にも、母屋の中にも霊夢はいなかった。
どうしたんだろうね? どうしよう、萃香も消えているみたいだし暇になっちゃったな。
「よう黒、昨日から探してたぜ」
後ろから声がした。
嫌な予感。
「や、魔理沙ちゃん。どしたの?」
逃げることは……できないか。
「霊夢のやつは違うって言ってたけどさ。やっぱり黒って怪しいよな。うん、少なくとも私よりは絶対怪しい」
なんだろう、少しだけ逆恨みっぽい匂いがする。
「いやいや、俺はこの異変を起こしてなんていないよ。だいたい魔理沙ちゃんだって、俺の実力くらいわかっているでしょ?」
「そうだな。あの妖怪桜を、簡単に封印できるくらいの実力だってことはわかっているぜ」
簡単じゃなかったよ? その後倒れてたじゃん……
「……見逃してはくれないかな?」
「見逃してはやれないな」
――恋符。
魔理沙ちゃんの声が届いた。
さあ、今日の天気はどうだろうね?
「……よわっ」
目の前には広大な雲一つない空
ああ、今日も良い天気だ。
「さっきの勝負、本気だったか?もう少しぐらい強いと思ってたんだけどなぁ」
俺、何か悪いことしたかな? 日頃の行いだってそこまで悪くないと思うけど……畜生、涙で前がよく見えない。
「う~ん、妖霧が消えないな……黒じゃなかったか」
だから、言ったのに俺はやってないって……
「じゃあ、やっぱり紅魔館のやつらが原因か?」
残念、紅魔館は関係ないよ。
「なあなあ、黒は知っているんじゃないか? この異変を誰が起こしているのか」
「……知ってるけど教えない。あ、ちょっ、マスパはやめて!」
やめてください、死んでしまいます。
「なんだよ~教えてくれても良いじゃないか」
うるせー、人をボコボコにしたくせに。
「明日の宴会になればきっとわかるよ。それまでは自分で頑張って」
「そうかい、そうかい、それじゃ私は行くよ。また明日の宴会で会おうぜ」
そう言うと魔理沙ちゃんは飛び立って行った。うん、じゃあね。
ああ、本当に空が綺麗だ。
魔理沙ちゃんとの一方的な闘い(いじめ)が終わった後、清々しい青空の下で眠りについた。もう、疲れたよ。
そしてその日の夕方、博麗神社の様子を見に来た紅魔のメイドにボコボコにされ、『……よわっ』と言われた。
なに? その言葉、流行っているの?
身も心もボロボロにされ、博麗神社で不貞腐れていると新たな来客。『妖霧は妖霧でも、私は関係ありません!!』とか言っている妖夢ちゃんと闘うことに、いや知らねーよ、そんなこと……
俺をボコボコにした後、流石に悪かったと思ったのか、妖夢ちゃんは謝ってくれた。隣にいた幽々子は笑っていた。
博麗神社の屋根の上を見ると、いつの間にか帰ってきていた萃香の姿。その場所、気に入ったのかな?
軽く手を振ると、こちらに気づいた萃香がブンブンと手を振替してくれた。のんきだね、お前のせいで俺はボコボコにされているんだぞ?
まぁ、別に怒りはしないけどさ……
「新茶の香りってすぐに消えてしまうわよね」
幽々子が話しかけてきた。妖夢ちゃんは、だいぶ荒れてしまった博麗神社の掃除中。ありがとね。
「まぁ、そりゃあそうだな」
何の話だろうか?
何かの比喩?
「でも、本当は消えてなんかない。ただ広がって薄くなって感じなくなっただけ」
ああ、なるほど。そういう話ね。もう少しストレートに言ってよ。
「で、今はどうなの? その香りは感じる?」
「少しだけね。でも香りだって物質よ。広がりもすれば萃まりもする。ここはその香りがよくするわ」
萃香も最初の頃と比べると、割と手を抜いているしね。無意識なんだろうけど、やっぱり妖気が濃くなっている。
「幽々子は見えていないの?」
「普通は見えないわよ……感じられる程度。私は黒ほど器用じゃないの。それに、見えている黒の方がおかしいのよ?」
これ以上薄くなられたら、俺も見えなくなるけどね。
妖夢ちゃんが掃除をし終わると、二人は帰って行った。
二人が帰って暫くすると、フヨフヨと飛んでくる一つの紅白。漸く霊夢と会えた。
「あら、黒じゃない。どうしたの? こんな時間に」
「や、お帰り霊夢。異変解決の様子見かな。解決できそう?」
どうやら、今回は霊夢の勘も冴えないらしい。
「う~ん、なんか今回は上手くいかないわ。とりあえず思いつくやつは全員倒したけれど、皆ハズレだったし。あと、残っているのは紫と……」
――貴方だけよ。
霊夢がこちらを真っ直ぐ見て言った。
「俺は違うんじゃなかったのか?」
「わかっているわよ。そして、紫でもない。あと少しで分かりそうなのだけど、見えてはいるけど見えてないみたいで……モヤモヤしてるっていうか……う~ん、この霧のせいかしら?」
「ヒントいる?」
「いらない。たぶん明日になればわかると思うし」
だってさ萃香、どうする? どうやら明日で終わりっぽいよ。
屋根の上の萃香を見ると、お酒を呷りながら笑っていた。
「それよりお腹が空いたわ。おゆはんにしましょ。黒も食べて行くでしょ? 手伝って」
そう言って霊夢は母屋の中へ。
明日の宴会は楽しくなりそうだ。さてさて、萃香は本当にただ宴会をやりたかっただけなのかな?
たぶん本当は……ま、考えても仕様が無いか。
霊夢が俺を呼ぶ声がした、本日も晴天なり。明日も晴れるといいね。
お茶の香気成分は100種類を超えるらしいです
たぶんですが、テルペン類やアルコール類とかが主じゃないでしょうか?
知りませんが
と言うことで第17話でした
萃夢想終わりませんでしたね
書いている途中で、『あ、これダメだわ。終わらんわ』とか思いましたし……
次話では終わると思います
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております