冬が終わって、春が過ぎ、季節は夏。
サンサンと降り注ぐ太陽光は、今日も俺の体を焼き続ける。
「あ~暑い……」
外の世界ではクーラーと言う随分と便利な物があるけれど、当然俺の店にはない。窓を開け放ち、風を通す。それでも篭もり、篭った熱気は抜けてくれない。
夏だもんね、仕様が無いね。
こんなに暑くては、何もする気が起きない。何処か涼しい場所は、ないのかねぇ。
ああ、一瞬だけ北極に行きたい……
そんな莫迦みたいな事を考えている時だった。カランカランと鈴の音。店のドアが開き、久しぶりのお客さんが来た。
そして中に入ってきたのは――
「おや? 黒じゃないか。随分と久しいね」
長い白髪に真っ白なカッターシャツ、そして赤いもんぺ。
おろ、随分と珍しいのが来たものだ。
「や、久しぶり。もこたん」
「もこたん言うな」
う~ん、本当に久しぶりだ。少なくとも数百年は会ってなかったと思う。
「と言うか、もこたんも幻想郷にいたんだね。知らんかったよ」
「いや、だから、もこたんはやめろよ」
人里では見かけたことなかったしなぁ。
「ねぇ聞いてる? 私の話ちゃんと聞いてる?」
今はどこに住んでいるんだろうか?
「それで今日はどうしたの? もこた「おい、カメラ止めろ」あ、ちょっ、ごめっ……」
もこたんがキレたん。
~テイク2~
「それで? 妹紅が来るなんて珍しい……ってか初めてだよね。どうしたの? 迷子にでもなった?」
「あの……とりあえず、その鼻血を止めないか? いや、私のせいだけどさ」
グーだった。パーじゃなくてグーだったよ……容赦ないね。
霊力を治癒力に回し、とりあえず止血。流れていた鼻血は手拭いで拭く。
う~、鼻が痛い。全く、乱暴なんだから。
「改めて聞くけど今日はどうしたの?」
本日、三回目のセリフです。
「適当に歩いていたら、変な鳥居があってそしたら此処に着いた」
なんだ、迷子じゃなかったのか。
ま、妹紅なら迷子になっても、心配はないと思うけどさ。
「そかそか、俺はここで茶飲み屋みたいなことをしているんだ。どう? 何か飲んで行く?」
「へ~、今はそんなことをしてるのか。酒を作っているだけじゃないんだな。あと、残念だけど遠慮するよ。お金なんて持ってないしさ」
「ん~、お金はいいよ。妹紅とは知り合いだし、初めてのお客さんにはサービスするようにしてるから」
例外もいたけどね……そう言えば、あの二人組は元気だろうか?
まぁ、元気じゃないところが想像できないけどさ。
「そうか? それなら悪いけどご馳走になるよ。それで、こういう店って普通は何を頼むものなんだ?」
「普通の店は抹茶とかなんじゃない? まぁ、うちは基本的に何でもありかな」
抹茶なんて頼む人はほとんどいないけど……ま、まぁこの店は一応カフェだしね。
「んじゃあ、冷酒で」
「はいよ~冷酒ね」
「あ、冷酒もあるんだ……」
うちのメインはお酒なんです。ホント、どうしてこうなったんだろうね?
枝豆や漬物など適当におつまみも出し、俺も一緒にお酒を飲む。俺は麦焼酎のロックです。美味しいよね、麦焼酎。
熱くなった体に冷たいお酒が染み込んでいく。夏も夏で良いものかもしれない。
「さっきは聞きそびれちゃったけれど、妹紅はいつ幻想郷に来たの?」
あ、妹紅が嫌そうな顔をした。
自分のことを喋べるのは、相変わらず苦手らしい。
「……よく覚えてないけど、300年位前だったかな。フラフラとなんとなく旅をしていたら、いつの間にか此処にいた。今は迷いの竹林に住んでいるよ」
そう言ってから妹紅は冷酒を一気に呑んだ。
ああ、あの人里近くの竹林か。そう言えば、竹林の中に入ったことはなかったな。人里に住めば良いとも思うけど、妹紅って人と接するのは苦手だし、何より不器用だもんね。
仕方がないのかな。
「む、何だよその目は。別に私がどんな生活をしていようが勝手だろ?」
「まぁそりゃあ、そうだけどさ。知らない仲でもないし、どうせだったら良い生活していてもらいたいかな。ちゃんと飯は食べてる?」
「え? ……ああ、まあな」
ああ、食べてないのか。
はぁ……
「ダメだよ、ちゃんと食べなきゃ。いくら、食べなくとも平気って言ってもお腹はすくでしょ? 何でも良いから楽しみは見つけないと……俺達みたいな不老不死者の一番の敵は、暇なんだしさ」
死なないからと言って、食事も何もしなくなる。暇に押しつぶされるよ? アイツら容赦ないし。
ん~、なんか説教っぽくなっちゃったな。俺のキャラじゃない。
「ああ、それなら大丈夫だよ。だいぶ前から、ちょうど良い暇潰しがあるし」
おろ? そうなの? それなら良かったよ。
妹紅が自分のことは話したがらないせいで、その後は最近起きた俺の話をした。真っ赤な霧に覆われた話。終わらない冬と妖怪桜の話。不思議な二人組みの迷子さんの話。三日置きの百鬼夜行の話。
そんな話を続けていると、夜になってしまった。二人だけでかなりの量のお酒を飲んだと思う。
珍しくもなく、妹紅以外のお客さんは訪れなかった。
「それじゃあ、私は帰るとするよ」
妹紅が言った。
外は真っ暗、深夜と言える時間だろう。大丈夫? ちょっとフラフラしてるよ。ちょっと呑み過ぎたかな。
「ん、気をつけて帰りなよ?」
「大丈夫だよ。それに死にたくても、死ねないしな」
はぁ……また、そんなことを言う。
「……ありがとな、黒」
こっちを真っ直ぐ見て妹紅が言った。
「別に気にしなくていいよ。初回限定のサービスだし」
あ、でも、今度来る時はお金を払ってもらうよ?
「ああ、いや、そっちも感謝してるけど……そうじゃなくて、さ」
頭を掻きながら、視線はどこか上の方。じゃあ、なんのことだろうか?
「黒にはさ。色々と教えてもらったじゃん。陰陽術とか生き方とか……だから、さ」
ありゃ、こんな素直な妹紅は珍しいね。
「もしかして、酔ってる?」
「茶化すなよ。こっちは真剣なんだし。それに酔ってなきゃ、こんな恥ずかしいこと言えるか」
顔を真っ赤に染めながら妹紅が言った。その赤いのはお酒のせい? それとも……
「ふふっ、どういたしまして。うん、妹紅とも会えたし今日は楽しかったよ。今度は、妹紅の家に寄らせてもらおうかな」
「そりゃあ、いいな。いつまでも待ってるよ。私も黒と会えて良かった。今日は久しぶりに楽しかったよ」
最後に妹紅は笑ってくれた。
良い笑顔だ。
「ん、じゃあね。もこたん」
「だから、もこたんはやめろって……」
店の外へ出て妹紅を見送る。
多少はフラフラしていたけれど、しっかりとした足取りで彼女は帰って行った。
不老不死……か。これから、妹紅とは永い付き合いとなるのだろう。それこそ永遠と言っても良いくらい。
霊夢や魔理沙ちゃんみたいな人間はもちろん、幽々子やレミリアのような人以外の奴らとだって別れは来る。あの紫とですら、いつか会えなくなる日が来る。
出会いがあれば別れがあって、その時、俺は……いや、考えるのはやめておこう。
嫌なことは後回し。
長い時を生きるのには、大切な考え方だと思う。
なんと、登場人物が二人だけ
こんなんで良いのかな?
最後の方がなんとなく悲しい雰囲気となってしまいましたね
私は不老不死ではないので、主人公がどんな思いなのかはよくわかりません
と言うことで第20話でした
どうでも良いですが、本日5月14日は私の誕生日だったりします
ああ、ビールが飲みたい
次話は……どんな話になるんでしょうね?
では、次話でお会いしましょう
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