とある夏の夜。空には丸い月が浮かび、真っ暗な世界を仄かに照らす。
いつもなら、月見酒といきたいところ。
いつもなら……だ。
一見すると綺麗な満月。よく見ても綺麗な満月。しかし、何かがおかしい。何かが足りない。
人間の俺が感じるんだ、夜の世界を生きる妖怪にとっては死活問題だろう。
たぶん……異変なんだと思う。しかし今回は困ったことに、俺もこの異変の犯人がわからない。満月になると、困ることがあるって事なのだろうけど、誰が困ると言うのだろうか?
考えてもわからない。まぁとりあえず霊夢の所へ行こうかと思い、博麗神社へ。
しかし、そこに霊夢はいなかった。すでに異変解決へ出た後らしい。置いていかれた……
一人で行ってもやられるだけだから、一緒に行ってくれる人を探すために紅魔館へ。魔理沙ちゃんでもいいけれど、魔理沙ちゃんの家は知らないからやめた。咲夜さんとか、一緒に行ってくれないかな?
そんなことを思いながら、紅魔館へ来たわけだけど……
「ねぇ、ねぇ。これ、この本読んで」
フランちゃんに捕まっちゃいました。
紅魔館の中へ入り、咲夜さんを探していると、ててててっとフランちゃんが右から走ってきて俺に体当たり。
今日は、鳩尾じゃなくてレバーだった。朦朧とする意識の中、フランちゃんに連れられて図書館へ。
そして、現在にいたります。
日に日に体当たりが強くなってきている気がする……
「いらっしゃいませ、黒様。妹様の分のお飲み物もこちらに置いてきます」
フランちゃんを膝の上に乗せ、本を読んでいると咲夜さんが現れた。フランちゃん、そんなにくっついて暑くない?
「おお、ありがとね。ああそうだ咲夜さんはこの後、暇?」
フランちゃんには悪いけれど、この異変もどうにかしないと。
「デートのお誘いですか?」
クスクスと笑いながら、咲夜さんが聞いてきた。
「そうだって言ったら、乗ってくれる?」
「フフッ、素敵なお誘いですが、遠慮させていただきます。この後、お嬢様と出かけなければならないので」
レミリアと、ねぇ。
「異変の解決にでも行くの?」
「はい。お嬢様は一人で行くと言っていますが、心配ですし」
ああ、つまり子守りってわけね。
「咲夜ー。そろそろ行くわよ。って、あら黒が来ていたのね」
レミリアも登場。
珍しく図書館が賑やかだ。
「こんな大きな異変が起きているのに、黒が動かないなんて珍しいわね。今日は霊夢と一緒じゃないの?」
……霊夢には置いて行かれました。
「まぁ、色々あってね。それでなんだけど、俺もついて行っていい?」
「ん? 別にいいわよ? ああ、邪魔だけはしないでね」
おお、ありがと。助かるよ。
「と、言うことで、ゴメンなフランちゃん。ちょっと用事があるから行かないとなんだ」
フランちゃんの頭を撫でながら言った。綺麗な髪してるな~この娘。
「え~! 皆でお出かけするの? ずるい!!」
まぁ、お出かけと言えば、お出かけだけど。
「また、来るからさ。今日は魔女さんにでも本は読んでもらいな」
――私は読まないわよ。
そんな魔女さんの声がした。
あ、この会話聞いてたのね。
「うー……じゃあ……私も行く!」
え?
……え?
「だ、ダメよ! フラン!! ほら、お外は危険がいっぱいなのよ!?」
レミリアが慌てたように言った。
「でも、私この中で一番強いよ?」
いや……まぁ、そうなんだけどさ。どっちかと、言えばフランちゃんの相手のが心配なんだよね。
その後、俺とレミリアで必死に説得しようとしたが、フランちゃんが折れることはなかった。
その結果、レミリアが折れ、フランちゃんもついて行くことに。
「いい? フラン。もし、きゅっとしてドカーンってやりたくなっても我慢するのよ?」
「うん、わかった」
う~ん……大丈夫だよね? フランちゃんだって、そこまで子供なわけじゃないし。
「もし、きゅっとしてドカーンってどうしてもやりたくなったら、黒にやるのよ?」
おい、コラ。
「うん、わかった」
いや、それはわかっちゃダメだよ。
そんなどうにも締まらない空気の中、ようやっと出発。この間、魔女さんはずっと一人で本を読んでいた。
自由だね、君……
嘘っぱちの満月が浮かぶ空の中を四人で飛ぶ。本物の月を取り返すために。いつものように、異変が起きたことに興奮した妖精が襲ってくるわけだけど……
「あはっ! すごい、すごい!! 倒しても倒しても出てくるのね!」
「このっ! 妖精がっ!! 妖精ごときがっ!!」
……吸血鬼無双です。
何コレ? あ、あんまりやりすぎないでね? てか、フランちゃんは良いとして、レミリアは妖精に嫌な思い出でもあるの?
この姉妹のおかげで、俺と咲夜さんはすることがほとんどない。いや、楽だから良いんだけどさ。
「蛍って食べられるのかしら?」
咲夜さんの声がした。いきなり、何を言ってるんだ、この人は……
「いや、普通は食べないと……って咲夜さん、その手に持っているのは何?」
「蛍です」
ず、ずいぶんと大きな蛍だね……静かだとは思っていたけど、何やってんだか。
「ちょ、ちょっと放してよ。もう、攫ったりなんてしないからさ」
「咲夜ー、それなあに?」
フランちゃんが聞いた。
「新しいおもちゃですよ」
いやいやいや、それはやめてあげて。たぶん、耐久力とかそんなにないよ?
「ホント!? ねぇねぇ、お姉様。これはきゅっとしていいの?」
「え? ああ、いいんじゃないかしら?」
いや、ダメだって、あんた出発前に自分で言ってたこと忘れたのかよ。
「ひぃっ。やめっ……む、虫なんて食べても美味しくないよ?」
「ん~? おもちゃを食べたりなんてしないわよ?」
どこか、ズレた答えのフランちゃん。名も知らぬ妖怪さんが、こちらを見てくる。
「た、たすけて……」
流石に可哀想に思えた。
「咲夜さん、放してあげなよ……それにフランちゃんも別におもちゃはいらないでしょ?」
「うん、クロがいるし」
あれ? 俺ってもしかしておもちゃ扱いだったの?
その後、妖怪が咲夜さんから放されると、すぐに飛んで逃げて行ってしまった。ホントにあれって、蛍だったのかな?
外の世界には、黒くてツヤツヤしたもの凄い速さで動く虫がいるらしい。たぶんだけど、今の妖怪みたいな感じなんだろうな。
なんとなく、そんなことを思った。
そんなこともあったけれど、相変わらず吸血鬼姉妹の無双は続いた。流石の妖精たちも何かを感じ取ったのか、途中から襲ってくる要請はほとんどいなくなった。やっぱ怖いよね、この人達。
そして、さっきからレミリアの妖精に対しての異常な執着心は何だろうか?
「ちょっと、待ちなさい。そこの人間と蝙蝠。特に人間の方」
新たな、犠牲者さんの気配。今のこの人たちに関わるのは、やめておいた方がいいよ?
「誰よあんた。こっちは急いでいるんだ。さっさとどいてくれない?」
「お嬢様、こんな雑魚は無視して進みましょう。時間もありませんし」
「随分と失礼な奴らね。夜に飛ぶ鳥を恐れた事は無いのかしら?」
「ハッ、私がお前みたいな餓鬼を恐れる? 笑わせてくれるわね」
なんだろう、今日のレミリアはかっこいいな。いつもこの調子ならカリスマ(笑)とか言われないのにね。
「ねぇ、ねぇ」
レミリアが新たな妖怪と話をしていると、フランちゃんが俺の服を掴んで聞いてきた。
「ん? どうしたの?」
「これはドカーンした方がいい?」
「ん~、これもドカーンしちゃダメかな」
「うん、わかった」
と言うか、ドカーンは禁止ね。
「雀は確か食べられたわよね」
だから、咲夜さんは何を言ってるんだ。別に食料に困ってはないでしょ?
「いえ、たまには変わり種をと」
「雀は小骨が多いらしいよ」
「では、じっくりと煮込む必要がありますね」
うん、でも食べる必要はないと思うよ?
「さ、次に進むわよ」
そんな会話をしていると、レミリアが俺達に言った。おろ? さっきの夜雀は……ああ、地面で倒れてるわ。
「てか、レミリアは何処へ行けば良いのかわかってるの?」
このまま進むと、人里なんだよね。流石に人里へ入るのは、まずいかな。
「妖気を辿って行けば良いだけでしょ? それくらいわかるわよ。ちょっと薄いから、気を付けないと見失いそうになるけれど」
おろ? そうなの? 俺は全くわかんないけど。
んじゃあ、ここはレミリアに任せようかな。
嘘っぱちの月明かりの下、四人は進む。
月……ねぇ。
正直、月にはあまり良い思い出がない。
どことなく、胸がざわつく。そう言えば昔から、嫌な予感だけはよく当たる。
今夜は長い夜になりそうだ
蛍は食べたことがありませんが、昔、御当地グルメで「ほたる丼」と言うものなら食べたことがあります
なかなか美味しかったです
雀ですが、伏見稲荷神社の近くのお店で食べました
こちらも、なかなかに美味しかったです
と言うことで第21話でした
紅魔館組が勝手に動くせいで、話がなかなか進みません
終わらない夜の終わりは、まだまだ先っぽいです
では、次話でお会いしましょう
次話は未定です
感想・質問など何でもお待ちしております