「はじめまして、八意××さん」
あ~あ……言っちゃったよ。
遠い昔の記憶が蘇る。誰にも語ったことはないし、誰も語ることはなかった物語。とっくの昔に吹っ切れたと思っていた。
結局、俺の中のどこかで引きずっていたんだろう。全く、女々しいねぇ……
「……何故、貴方がその名を?」
八意さんの目つきが鋭くなる。これが、殺意ってやつなのかな? 怖いったらありゃしない。
「何故って、そりゃあ貴女有名人でしたし」
逆に知らない人の方が珍しいんじゃない?
まぁ、あの頃の人達限定だけどさ。
「そう……それで? 貴方は月人なのかしら?」
はい? ……月人? 俺が?
ああ……そっか、そうか、そうだよな。
そういう未来だってあったはずなんだよな。皆と月に行って、そこでもまた一緒に暮らして、いつものように馬鹿やって。幸せを噛み締めながら……皆と一緒に生きることだってできたはずなんだよな!
それだのに、なんだこれは? どんな茶番だよ?
駄目だわ、笑いが止まらない。
「あはっ」
「ク、クロ? どうしたの?」
「あははっ、俺が月人? なんだそれ、なんの冗談だってのさ? お前たちが! 俺たちを見捨てて行ったんだろ?」
穢れた感情が止まらない。止まれって……彼女は関係ないだろ。なあなあのハッピーエンドで終わらせれば良いじゃないか。シリアスなんていらない。
そうじゃなかったのかよ……
「そりゃあ、俺達なんてただの実験動物だったよ。でも……それでも、俺達は必死に生きてた! 何が不老不死の実験だよ? そして、実験に失敗したら捨てられる」
支離滅裂。
だから俺は何を言っているんだ。
「…………」
八意さんは黙って俺の言葉を聞いていた。
はぁ……もう、どうでもいいや。
どうせ皆、好き勝手やっているんだ。考えるのも面倒臭い。
「なぁ、教えてくれよ。違いはなんだ? 俺達とお前達との違いはなんだ? お前達だって、俺達と同じ人間なんじゃなかったのかよ……」
久しぶりに全力を出すのも悪くない。妖力が溢れ出す。頭が痛い。全身が焼けるようだ。
「ねぇ、クロ? さっきから変だよ?」
声が聞こえた。
何を言っているのかはわからない。
そうだなぁ、手始めにここら一帯を穢れで満たしてやろうかな。
さぁ、始めましょうか。
「神酒『ネクタール』」
俺がそう言った時だった。
目の前に紫が現れたのは。
そして――紫が俺の頭を吹き飛ばした。
「貴方は何をやっているのよ? そんな莫迦なこと止めて。そのまま頭を冷やしなさいな。って、フフッ。頭はなくなってるから冷やしようがないわね」
「貴様! クロに何をする!!」
「落ち着きなさい吸血鬼。それに貴女だって黒を殺しているでしょ? はぁ、繋げるべきじゃなかったわね。私だって本調子じゃないのよ? 誰が貴方を止めるの……ほら、いつまでも寝ていないでさっさと起きなさい」
昔から、どんなに努力を続けても、俺の霊力が増えることはなかった。
それだのに、ただ生きているだけで俺の妖力は増え続けた。
才能って言葉が嫌いだ。
努力って言葉はもっと嫌いだ。
ホント、何やってんだろうね?
目が覚める。あれだけ溢れていた妖力は消えていた。ああ、紫が切ってくれたのか。
「おはよう黒。気持ちの悪い夜ね」
紫が言った。
「あ~、すまんな。迷惑かけた」
むぅ、また紫に貸しができちゃったな。なんとか踏み倒せないかな?
「ク、クロ? もう大丈夫なの?」
フランちゃんが聞いてきた。うん、もう大丈夫だと思うよ、ゴメンね心配させて。
フランちゃんの頭をポフポフ叩いてみる。おお、やっぱ綺麗な髪してるな。
「……結局、貴方は何者なの?」
八意さんがこちらを真っ直ぐ見て言ってきた。
「さあ、何者なんでしょうね? 逆に俺が聞きたいですよ」
月人でないことは確かだけどさ。
ねぇ、この話やめない? 昔のことなんて忘れて、ちゃんと今を生きようぜ。
「さてさて、黒の話なんてどうでも良いでしょ。貴女がこの異変の首謀者ですわね? こんな所にいていいのかしら。今頃、霊夢達がお姫様をボコボコにしていると思うけれど」
うん? お姫様? 誰ですかそれ。
「はぁ……封印が壊された時点で、私たちが負けることくらい知っているわよ。いくら頑丈とは言え姫に乱暴をするのはやめてもらえるかしら?」
いや、だから姫って誰だよ。フランちゃんは知っているのかな?
「フフッどうかしらね? まぁ、死ぬことはないと思いますわ」
なんか、さっきから俺とフランちゃんは蚊帳の外だね。どうしようか、お散歩でもする?
その後も紫と八意さんは二人だけで話し続けていた。
口を出せる雰囲気ではない。隣にいるフランちゃんを見ると、欠伸をしていた。そろそろ夜も明ける。良い時間なんだろう。
「フランちゃん」
「なあに?」
「帰ろっか」
「うん」
難しい話なんて俺にはわからないし、正直ここにはあまりいたくない。いつか、向き合わないといけなくなる日が来るのかねぇ? そりゃあ、何とも憂鬱な気分だ。
フランちゃんと一緒に屋敷の外へ出ると、レミリアと咲夜さんがいた。
「お帰りなさいませ、妹様、黒様」
咲夜さんが言った。おおー、『お帰りなさいませ』だって! ついに言ってもらえた。
「咲夜さんとレミリアは行かなくて良いの?」
「私は月さえ取り戻せれば、それで良いの。異変解決自体に興味はないわ」
そっかそっか、皆から集中砲火を喰らって、動くことすら厳しいってわけじゃないんだね。
随分とボロボロな姿をしているけれど、それは関係ないんだね。うん、じゃあ俺は何も言わないよ。
「お姉様……」
フランちゃんがレミリアを見ながら呟いた。それ以上は口にしちゃダメだよ。泣くぞ、レミリアが。
だから、その哀れみの視線はやめてあげて。ほら、レミリアのやつ、上を向いてるじゃん。あれ絶対、涙を堪えてるって。
「咲夜さんは?」
「私は膝に矢を受けてしまったので」
そ、そうですか……
たぶん、レミリアを一人にさせない為だと思うけれど……
「さ、それじゃ帰りましょ。私も眠いわ」
どこか鼻声のレミリアが言った。目の端から溢れ落ちた涙なんて見ていない。
その後、帰り道の途中で俺は紅魔館組と別れた。フランちゃんはもう少し一緒にいたかったみたいだけど、時間も時間だしなんとか納得してもらった。むぅ、随分と懐かれちゃったね。
家に戻ってからは直ぐに寝床に倒れ込んだ。何もする気にならない。
うっわ~~……なんか一人で恥ずかしいことしちゃったな。先ほどのことを思い出すと、恥ずかしさがヤバい。
「もう、いっそのこと引き篭ろうかな……」
あうあう、言いながら転がっていると、壁に頭をぶつけた。痛い。
「何をやっているのよ貴方は……」
聞きたくない声がした。
「や、紫。さっきぶり」
うつ伏せのまま、紫に声をかける。今はちょっと放っておいてくれませんか?
できれば10年くらい。
「異変なら解決したわ。今度、博麗神社で宴会があるから黒も来なさい。まぁ、無理矢理連れて行くけど」
え~~、すごく行きたくないのですが……
てか無理矢理連れて行くのはやめてください。
「行かないとダメ?」
「ダメ」
そうですか……
「八意さんも来るんだよね?」
「ええ、もちろん」
だよね……どうしようか。会いたくねー。ホントに会いたくねー。
「ねぇ、黒」
「何さ?」
憂鬱だ。すごく憂鬱だ……
「貴方がどんな過去を生きてきたのかなんて、別に私は気にしないわ」
「…………」
「ただ、この幻想郷に貴方は必要なの。貴方が救ってきた命は、貴方が考えているよりもすっと多いってことを忘れないように」
「その命も背負えってこと?」
「はぁ……それくらいは自分で考えなさいな。では、宴会で」
紫はそれだけ言うと消えてしまった。仰向けになって天井を見る。
救ってきた命……ねぇ。
どういう意味なんだろうか? 今度、あの説教好きの閻魔にでも聞いてみようかな。
と、言うことで第23話でした
文章診断ではオールAでしたが……うん、こんなものかもしれません
シリアスっぽいのは苦手です
次話は未定です
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております