東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第23話~そんな未来も~

 

 

「はじめまして、八意××さん」

 

 あ~あ……言っちゃったよ。

 

 遠い昔の記憶が蘇る。誰にも語ったことはないし、誰も語ることはなかった物語。とっくの昔に吹っ切れたと思っていた。

 結局、俺の中のどこかで引きずっていたんだろう。全く、女々しいねぇ……

 

「……何故、貴方がその名を?」

 

 八意さんの目つきが鋭くなる。これが、殺意ってやつなのかな? 怖いったらありゃしない。

 

「何故って、そりゃあ貴女有名人でしたし」

 

 逆に知らない人の方が珍しいんじゃない?

 まぁ、あの頃の人達限定だけどさ。

 

「そう……それで? 貴方は月人なのかしら?」

 

 

 はい? ……月人? 俺が?

 

 ああ……そっか、そうか、そうだよな。

 

 そういう未来だってあったはずなんだよな。皆と月に行って、そこでもまた一緒に暮らして、いつものように馬鹿やって。幸せを噛み締めながら……皆と一緒に生きることだってできたはずなんだよな!

 それだのに、なんだこれは? どんな茶番だよ?

 駄目だわ、笑いが止まらない。

 

 

「あはっ」

 

「ク、クロ? どうしたの?」

 

「あははっ、俺が月人? なんだそれ、なんの冗談だってのさ? お前たちが! 俺たちを見捨てて行ったんだろ?」

 

 穢れた感情が止まらない。止まれって……彼女は関係ないだろ。なあなあのハッピーエンドで終わらせれば良いじゃないか。シリアスなんていらない。

 そうじゃなかったのかよ……

 

「そりゃあ、俺達なんてただの実験動物だったよ。でも……それでも、俺達は必死に生きてた! 何が不老不死の実験だよ? そして、実験に失敗したら捨てられる」

 

 支離滅裂。

 だから俺は何を言っているんだ。

 

「…………」

 

 八意さんは黙って俺の言葉を聞いていた。

 

 はぁ……もう、どうでもいいや。

 どうせ皆、好き勝手やっているんだ。考えるのも面倒臭い。

 

「なぁ、教えてくれよ。違いはなんだ? 俺達とお前達との違いはなんだ? お前達だって、俺達と同じ人間なんじゃなかったのかよ……」

 

 久しぶりに全力を出すのも悪くない。妖力が溢れ出す。頭が痛い。全身が焼けるようだ。

 

「ねぇ、クロ? さっきから変だよ?」

 

 声が聞こえた。

 何を言っているのかはわからない。

 

 そうだなぁ、手始めにここら一帯を穢れで満たしてやろうかな。

 

 さぁ、始めましょうか。

 

「神酒『ネクタール』」

 

 俺がそう言った時だった。

 目の前に紫が現れたのは。

 

 

 そして――紫が俺の頭を吹き飛ばした。

 

 

「貴方は何をやっているのよ? そんな莫迦なこと止めて。そのまま頭を冷やしなさいな。って、フフッ。頭はなくなってるから冷やしようがないわね」

 

「貴様! クロに何をする!!」

 

「落ち着きなさい吸血鬼。それに貴女だって黒を殺しているでしょ? はぁ、繋げるべきじゃなかったわね。私だって本調子じゃないのよ? 誰が貴方を止めるの……ほら、いつまでも寝ていないでさっさと起きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔から、どんなに努力を続けても、俺の霊力が増えることはなかった。

 それだのに、ただ生きているだけで俺の妖力は増え続けた。

 

 才能って言葉が嫌いだ。

 努力って言葉はもっと嫌いだ。

 

 

 ホント、何やってんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。あれだけ溢れていた妖力は消えていた。ああ、紫が切ってくれたのか。

 

「おはよう黒。気持ちの悪い夜ね」

 

 紫が言った。

 

「あ~、すまんな。迷惑かけた」

 

 むぅ、また紫に貸しができちゃったな。なんとか踏み倒せないかな?

 

「ク、クロ? もう大丈夫なの?」

 

 フランちゃんが聞いてきた。うん、もう大丈夫だと思うよ、ゴメンね心配させて。

 フランちゃんの頭をポフポフ叩いてみる。おお、やっぱ綺麗な髪してるな。

 

 

「……結局、貴方は何者なの?」

 

 八意さんがこちらを真っ直ぐ見て言ってきた。

 

「さあ、何者なんでしょうね? 逆に俺が聞きたいですよ」

 

 月人でないことは確かだけどさ。

 

 ねぇ、この話やめない? 昔のことなんて忘れて、ちゃんと今を生きようぜ。

 

 

「さてさて、黒の話なんてどうでも良いでしょ。貴女がこの異変の首謀者ですわね? こんな所にいていいのかしら。今頃、霊夢達がお姫様をボコボコにしていると思うけれど」

 

 うん? お姫様? 誰ですかそれ。

 

「はぁ……封印が壊された時点で、私たちが負けることくらい知っているわよ。いくら頑丈とは言え姫に乱暴をするのはやめてもらえるかしら?」

 

 いや、だから姫って誰だよ。フランちゃんは知っているのかな?

 

「フフッどうかしらね? まぁ、死ぬことはないと思いますわ」

 

 なんか、さっきから俺とフランちゃんは蚊帳の外だね。どうしようか、お散歩でもする?

 

 

 

 

 その後も紫と八意さんは二人だけで話し続けていた。

 口を出せる雰囲気ではない。隣にいるフランちゃんを見ると、欠伸をしていた。そろそろ夜も明ける。良い時間なんだろう。

 

「フランちゃん」

 

「なあに?」

 

「帰ろっか」

 

「うん」

 

 難しい話なんて俺にはわからないし、正直ここにはあまりいたくない。いつか、向き合わないといけなくなる日が来るのかねぇ? そりゃあ、何とも憂鬱な気分だ。

 

 フランちゃんと一緒に屋敷の外へ出ると、レミリアと咲夜さんがいた。

 

「お帰りなさいませ、妹様、黒様」

 

 咲夜さんが言った。おおー、『お帰りなさいませ』だって! ついに言ってもらえた。

 

「咲夜さんとレミリアは行かなくて良いの?」

 

「私は月さえ取り戻せれば、それで良いの。異変解決自体に興味はないわ」

 

 そっかそっか、皆から集中砲火を喰らって、動くことすら厳しいってわけじゃないんだね。

 随分とボロボロな姿をしているけれど、それは関係ないんだね。うん、じゃあ俺は何も言わないよ。

 

「お姉様……」

 

 フランちゃんがレミリアを見ながら呟いた。それ以上は口にしちゃダメだよ。泣くぞ、レミリアが。

 だから、その哀れみの視線はやめてあげて。ほら、レミリアのやつ、上を向いてるじゃん。あれ絶対、涙を堪えてるって。

 

「咲夜さんは?」

 

「私は膝に矢を受けてしまったので」

 

 そ、そうですか……

 たぶん、レミリアを一人にさせない為だと思うけれど……

 

 

「さ、それじゃ帰りましょ。私も眠いわ」

 

 どこか鼻声のレミリアが言った。目の端から溢れ落ちた涙なんて見ていない。

 

 

 その後、帰り道の途中で俺は紅魔館組と別れた。フランちゃんはもう少し一緒にいたかったみたいだけど、時間も時間だしなんとか納得してもらった。むぅ、随分と懐かれちゃったね。

 

 家に戻ってからは直ぐに寝床に倒れ込んだ。何もする気にならない。

 

 うっわ~~……なんか一人で恥ずかしいことしちゃったな。先ほどのことを思い出すと、恥ずかしさがヤバい。

 

「もう、いっそのこと引き篭ろうかな……」

 

 あうあう、言いながら転がっていると、壁に頭をぶつけた。痛い。

 

「何をやっているのよ貴方は……」

 

 聞きたくない声がした。

 

「や、紫。さっきぶり」

 

 うつ伏せのまま、紫に声をかける。今はちょっと放っておいてくれませんか?

 できれば10年くらい。

 

「異変なら解決したわ。今度、博麗神社で宴会があるから黒も来なさい。まぁ、無理矢理連れて行くけど」

 

 え~~、すごく行きたくないのですが……

 てか無理矢理連れて行くのはやめてください。

 

「行かないとダメ?」

 

「ダメ」

 

 そうですか……

 

「八意さんも来るんだよね?」

 

「ええ、もちろん」

 

 だよね……どうしようか。会いたくねー。ホントに会いたくねー。

 

「ねぇ、黒」

 

「何さ?」

 

 憂鬱だ。すごく憂鬱だ……

 

「貴方がどんな過去を生きてきたのかなんて、別に私は気にしないわ」

 

「…………」

 

「ただ、この幻想郷に貴方は必要なの。貴方が救ってきた命は、貴方が考えているよりもすっと多いってことを忘れないように」

 

「その命も背負えってこと?」

 

「はぁ……それくらいは自分で考えなさいな。では、宴会で」

 

 紫はそれだけ言うと消えてしまった。仰向けになって天井を見る。

 救ってきた命……ねぇ。

 

 どういう意味なんだろうか? 今度、あの説教好きの閻魔にでも聞いてみようかな。

 

 

 






と、言うことで第23話でした
文章診断ではオールAでしたが……うん、こんなものかもしれません

シリアスっぽいのは苦手です

次話は未定です
では、次話でお会いしましょう


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