スキマから吐き出された先には八意さんがいた。ホント、どうすっかね……
「あ、ども。こんにちは。今日も良い天気ですね。八意さんもお元気そうで何よりです。では、楽しんでいってください」
それじゃ、またいつか。
さて、挨拶も済んだし他の奴の所にでも行こうかな。
「ちょっと、待って」
八意さんに腕を掴まれた。ダメか、行かせてくれないのか……
「えと、何か?」
どこか困ったような表情の八意さん。怒られるのかなぁ。怒られるんだろうなぁ。
こっちは、さっき説教されたばっかなんだけど……
「聞きたいことがあるの」
それまた今度じゃダメですか? ほら、皆こっち見てるじゃん。今はやめておこうよ。
「貴方は……あの施設の?」
どの施設のことかは聞かなかった。八意さんが何を指しているのか、それくらい俺にだってわかる。
あの施設……ねぇ。
「そうですよ。町外れにポツンとあったあの施設の者です」
「おい、見ろよ霊夢。黒が敬語を使ってるぜ」
「明日は雨かしら?」
……失礼な。こっちのことなんか放って置いて酒でも飲んでなさい。
「そう……貴方は不老不死って聞いたわ。つまり実験は成功してしまっていたのね」
そうなのかな。
あれで成功だったんかな。
「あの頃の研究者として、謝らせてもらえるかしら?」
漸く八意さんが俺の手を放してくれた。こちらを真っ直ぐと見てくる。俺は目を逸らした。
「別に構いませんが、俺達は誰も恨んでなんかいませんでしたよ。施設の研究者達にも感謝していましたし。だからできれば謝罪はやめてほしいです」
そりゃあ、幸せではなかったかもしれないけど、不幸なんかじゃなかった。もしここで八意さんに謝られたとしたら、あの頃の俺達が否定される。そんなちっぽけなプライドがあった。
「…………」
八意さんがまた困ったような顔をした。むぅ、そんな顔されても……
「じゃあ、月人を代表してお礼をさせて。あの時、妖怪から船を守ってくれて本当にありがとう。貴方達のおかげで、沢山の人が助かったわ」
そう言って、八意さんが頭を下げた。
あ~~~……そうきますか。
「あの……その、えと……」
言葉が出てこない。いつもなら、別にあんたらのために闘ったわけじゃないとか、そんな言葉が出るはずなのに。
95人の仲間達の顔が頭の中に浮かんだ。
ああ、これは駄目だ。溢れ出る感情が止まらない。鼻の奥がツーンとして鳥肌が立つ。頬を何かが流れた。
八意さんに背を向けて上を見上げる。星空がぼやけて見えない。どうやら今日は曇りらしい。
誤魔化す様に咳払いを一つ。
「まぁ、ずうっと昔のことですしそんな気にしなくても良いですよ。それにあいつらだって……」
どこか鼻声。
「とりあえず、今日は宴会を楽しみましょうよ。湿っぽい話はまた今度でさ」
「ふふっ、そうね」
――ありがとう。
八意さんのそんな声が静かに響いた。
その後、八意さんと別れて一人でプラプラと神社の中を歩いた。
今はなんとなく一人で飲みたい気分。
「なあに、湿っぽい顔しているのさ。せっかくの宴会なんだからもっと楽しみなよ」
いきなり現れた萃香に言われた。どうやら一人にはさせてくれないらしい。
もうなんか色々と限界だったから萃香に抱きついてみた。
「……なにやってんの?」
「……お酒くれ」
「ん、はいよ」
萃香から伊吹瓢を受け取り、口の中へ流し込んだ。喉が焼ける。
「ああ……やっぱり美味いな」
色々と思うことはあるけれど、今は考えないようにしよう。いつかきっと、向き合わなければいけない日が来るまで。
――――――――――
私達月の民が、まだ地上にいた頃。あるプロジェクトが進められた。
その題材は不老不死。
それは爆発的に科学技術が進歩し、それでも残された最後の命題。
候補に残ったやり方は二つ。
一つは、寿命の原因である穢れを完全に取り去る方法。もう一つが、逆に穢れで満たしてしまう方法だった。
妖怪の血液を人間に入れる。そんなやり方が許されるはずもなく、後者は議会で否決され、前者が進められることとなった。
たった一つの研究グループを抜かして。
その研究グループは公から姿を消し、研究を進め続けた。最後の最後まで。誰にも気づかれないように。
結果は失敗だったと聞いている。被験者は拒絶反応で全員死んだ。そう記録に残っていた。
だから被験者たちは誰にも気づかれることなく、ひっそりと消えていったはずだった。
そして、私たちが月へと旅立つ日のこと。上層部の勝手な判断で、かなり強引に月への旅立ちが行われた。
その結果、三隻の船が旅立つ前に防衛ラインは崩壊。最悪の結果となった。
そんな時だった。一台のカメラが、妖怪と闘う者たちを映したのは。
彼らは崩壊した結界をたった数十人で修復し、妖怪達の進行を完全に止めた。
私は船の中でその映像を見ていたけれど、誰もがその映像に釘付けとなった。彼らが誰なのか目的は何か、知っている人間はいない。それはまるで映画のワンシーンのようだった。
けれども一人、また一人と彼らは倒れていった。それでも彼らは妖怪を食い止め続けた。どれだけボロボロになろうが、彼らは闘い続けた。
そして最後の船が月に向けて旅立った時、ギリギリで保っていた結界は崩壊した。
それまで闘い続けていた彼らは空を見上げ、歓声をあげ地面に倒れ込んだ。そして妖怪の波に飲み込まれていった。
映像はそこで途絶えてしまった。
月に着いてすぐに議会が開かれることに。内容はもちろん彼らについて。
しかし、誰も彼らのことは知らなかった。だって、ずっと隠されていたことだったから。
結論が出ないまま議会が終わろうとした時、長い間議会を離れていた研究者が口を開いた。彼らのこと、研究のこと、そして自分達だけが逃げてきたことを。
研究者には厳しい処分が言い渡された。
その後、名前のない96基の墓が建てられた。彼らのことを忘れないように、二度とこのような事件が起きないように。
そんなずうっと、ずうっと昔のお話があった。
そして、私の視線の先にはその彼らのうちの一人がいる。沢山の妖怪や人間に囲まれ、お酒を飲まされ、後ろから抱きつかれたり蹴られたりと随分と楽しげな様子。
名前は黒。あの研究者のレポートにあった、一番の問題児№96というのが彼なのだろう。あの研究の唯一の成功体。つまり不老不死。詳しい研究の内容は知らないし、きっと彼も話してはくれないだろう。
私たちが月へと旅立った日から、彼は長い間ずっと一人で生きてきた。想像もしたくないほどの期間を。死ぬことも許されず、たった一人きりで。
彼には聞きたいことが沢山あって、謝らなくてはいけないことも沢山あった。それでも彼は謝罪を受け取ってはくれず、お礼だってちゃんと受け取ったのかわからない。そして私のことはどうやら苦手らしい。
そのことが少しだけ寂しく思える。
いつか、私も彼の周りで笑える日が来るのだろうか? そんな私らしくないことを、ふと思ったのはなぜだろう。
いつかきっと、この感情が何なのかわかると良いけれど。
――――――――――
やたらと人に酒を飲ませようとしてくる萃香や、敬語を使っていたことを馬鹿にする魔理沙ちゃん、珍しく宴会に参加していたフランちゃん、無言で人を蹴り続ける霊夢達から逃げ、また一人でプラプラと歩く。
映姫には怒られるし、八意さんは何考えているんだかわからんし、今日だけで俺のメンタルはボロボロです。
たぶん、皆なりに励ましてくれているんだろうけどさ。
一人で歩いていると、博麗神社の端で一人お酒を飲んでいる奴を発見。親近感が湧くじゃあないか。
近づいてみると妹紅だった。
ん~なんで妹紅がいるんだ?
「や、もこたん。一人で酒盛りなんてしてどうしたの?」
「だから、もこたんはやめろって……なんか、ほら難しいだろ?」
皆と一緒に騒ぐことがだろう。妹紅って人見知りだもんね。
「そかそか、それじゃあ、一人で寂しく飲んでいるんじゃつまらんだろうし、俺が一緒に飲んであげよう」
「ただ、逃げてきただけでしょ?」
何ですか? 見てたんですか。そんなことを言いながらも妹紅は酒瓶を渡してくれた。全く、このツンデレさんめ。
相変わらず、妹紅は自分のことを話したがらないから、俺の話をしていると、いつの間にか膝の上にフランちゃんがいて、萃香が隣で酒を飲んでいた。
さらに人は増え、結局静かにお酒を飲むことなんてできなかった。八意さんは笑顔でお酒を注いでくるし、なんか怖いんですけど……妹紅も最初は、どうしていいのかわからないみたいだったが、最後の方は楽しんでいるように見えた。
いつの間にか、空は晴れていて星空が綺麗だった。
更新をしたものの、話は全く進みませんでしたね
と、言うことで第25話でした
次話も特に進まなそうです
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