東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第27話~たまには~

 

 

 綺麗に色付いた葉も散り始め、風は冷たくなった。秋も終わり、冬が近づいてきている。

 

 あの秋を司る姉妹もきっと、憂鬱な時を過ごしていることだろう。

 

「お邪魔するわ」

 

 人里では収穫祭も終わり、皆いそいそと冬に向けて篭る準備を始めていた。今年もまた、眠りの季節がやってくる。

 

 暑いのも苦手だけど、寒いのも苦手だ。ずっと春なら良いのにね。

 

 そんな風にうだうだと考えていても、冬が来ないということはないし、受け入れるしかないのだろう。

 

 冬になってしまうと、ただでさえ少ないお客さんが激減する。何とも悲しい季節だね。

 

「ちょっと聞いてるの?」

 

 はぁ、全くこの現実から逃げたいよ。

 

 何なんだろうか? そりゃあ、俺だってお客さんには来てもらいたいけれど、来てもらいたくないお客さんだっているわけだし……

 

『世の中に 人の来るこそ うれしけれ とはいふものの お前ではなし』

 

 今度そうやって書いた紙を入口に張っておこうかな。効果ない気もするけど。

 

「……ねぇ」

 

 だいたい、なんでこの店には人間が来ないんだよ? あれか? 呪われているのか?

 

 さっきから騒いでいる声の主を見る。はぁ……ため息が溢れた。

 

「ほんっと、貴方は失礼な男ね」

 

 ぶすっとした顔で言った。風見幽香が俺の店に来やがった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで? ここは何の店なの?」

 

 帰ってくれないかなー。無理だよなー……

 

「いらっしゃいませー、悪いけれどもう店仕舞いなんだ。また今度来なよ」

 

「ふふっ、店ごと吹き飛ばすわよ?」

 

 心の底からやめてください。何で、コイツらはすぐに暴力に訴えるんだろうね?

 争いは何も産まないというのに……

 

「もう一度聞くわ。ここは何の店なのかしら?」

 

 どうしようか、家電量販店です。とか言ってみる?

 たぶんカメラが止まると思うけど。

 

「一応、カフェだよ。何か飲む? お茶漬けでいい?」

 

「お茶漬けは飲み物じゃないでしょ……」

 

 早く帰れって意味です。

 

「そうね、とりあえず。お酒が怖いわ」

 

 はいはい、お酒ね。

 カフェって言ったんだけどなぁ……

 

「常温? 熱? 冷?」

 

「冷酒でお願い」

 

 かしこまりました~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 今日は何をしに来たの? お帰りは後ろの扉だよ」

 

 適当に漬物とお酒を出して、幽香と喋る。

 

「そんなに私と闘いたいの?」

 

 そんなわけないでしょうが。はぁ、どうしてこうなったんだか……

 

「フラフラと歩いていたら、此処に着いたのよ」

 

 幻想郷のためにも引き篭っててくれませんか?

 

 

 

「ハロー、黒。藍達と一緒に遊びに来たわって……うっわ」

 

 目の前にスキマができたと思ったら消えた。

 

 逃げやがったよアイツ。

 

「あら? どうしたのですか紫様? 早く行ってくださいよ」

「ちょっ、ちょっと藍押さないで!」

 

 再びスキマができて紫が落ちてきた。そして、そのまま紫は床に叩き落とされた。べちん、なんて音をたてながら。

 

「「…………」」

 

 幽香と俺は何も言わなかった。

 何やってんだコイツは……

 

 倒れていた紫はスッと立ち上がり――

 

「フフッ、久しぶりですわね。風見幽香」

 

 パサっと扇子を開き口元を隠しながら、紫が言った。紫の鼻は赤かった。鼻血、出なくてよかったね。

 

 幽香は紫を見ることもなく、静かにお酒を飲んでいた。

 

 何か言ってあげなよ、可哀想でしょ。

 

「お久しぶりです。黒様」

 

「お久しぶりです!」

 

 紫に続いて、藍と橙も出てきた。いきなり賑やかになっちゃったね。

 

「や、久しぶりだね。藍に橙。まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 

 ちょっと怖いお姉ちゃんがいるけれど、いきなり暴れたりは……しないよね?

 

「とりあえずお酒を常温で三ついただけるかしら?」

 

 紫が言った。あら、橙も飲むんだ。

 

「了解、ちょいと待ってて。すぐ用意するよ」

 

 漬物や干し肉、そしてお酒を大量に持ってくる。いちいち、取りに行くのも面倒臭いしね。

 

 

 

「それで? どうして貴女がここにいるのかしら?」

 

 紫が幽香に聞いた。

 

「別に私がいても良いでしょう? 暴れたりはしないから安心して。黒、お酒がなくなったわ」

 

 幽香の器にお酒を注ぐ。ホント、暴れないでね……

 

 橙は幽香が怖いらしく、ずっと藍にくっついていた。藍も藍でそのことが嬉しいらしく、まぁ、あれはあれでいいのかな?

 

 俺はいきなり日本酒を飲む気にもなれず、冷やしておいた麦酒を飲んでいた。

 

「黒様、それ何ですか?」

 

 橙が聞いてきた。麦酒って綺麗な色してるもんね。気になったのかな?

 

「これもお酒だよ。飲んでみる?」

 

「はい! いただきます」

 

 コップを渡すと、少しだけ匂いを嗅いだ後に、橙はぐびりと飲んだ。

 

「うげっ……う~、苦いです……」

 

 渋い顔をした橙が言った。あ~、苦いのは嫌だったか。ふふっ、じゃあ甘いお酒を持ってくるね。

 

「それにしても、皆して来るなんて珍しいね。今日はどうしたの?」

 

 橙に果実酒を渡しながら、藍に聞いた。

 

「そろそろ、紫様も冬眠しやがりますので、その前に。と、言うことらしいです」

 

 おい藍、口調がぶれてるぞ。まだそんなに飲んでないと思うけど、疲れてたのかな?

 

 冬の間は藍一人で色々とやらないとだし、それを考えると気が重いよね。

 

「まぁ、この冬は俺も手伝うし、何とか頑張って」

 

 しかも、来年って60周期の年だよね……はぁ、結界も緩むし面倒だなぁ。

 

「ありがとうございます。本当に助かります」

 

 冬の間の藍って死にそうな顔してるもんね。それくらいは手伝うよ。本当は紫が冬眠をしなければ良いんだけど、まぁ、無理か。

 

 

 

 その後ものんびりとお酒を飲みながら談笑。幽香を怖がっていた橙も、お酒が入ってその緊張は抜けたみたい。

 流石に仲良くお話をするということはなかったけれど。

 

「さて、藍、橙そろそろ帰るわよ。私はもう少し残るけれど、二人は先に帰りなさい」

 

「わかりました。さ、橙帰ろう」

 

 藍が言った。その顔は珍しく赤くなっていた。

 

「黒様、今日はありがとうございました。今度は迷い家にも来てください」

 

 そう言って元気よく橙は言ったけれど、どこか眠そう。

 

「うん、今度行かせてもらうよ。藍もまた来な。いつでも待っているよ」

 

 色々と大変だろうけれど頑張って。

 

「はい、また来ます。では、また」

 

 そう言って二人はスキマの中へ消えていった。うん、またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒、焼酎と何か料理をお願い」

 

 紫が言った。

 まだ飲むのかよ。しかも焼酎ってお前……

 

「麦? 米? ああ、あと芋もあるよ」

 

 収穫したばかりの馬鈴薯を使って一応作ってみた。残念ながらできはイマイチ。

 

「麦、水割で」

 

「了解。幽香は?」

 

 それまで一人で静かに飲んでいた幽香にも聞く。

 

「それじゃあ、ウイスキーをお願いできるかしら?」

 

 二人とも流石は大妖怪というべきだろうか、あれだけ飲んだのにも関わらず、顔色は全く変わっていなかった。ウイスキーなら、咲夜さんに作って20年ものの、シングルモルトがあるし、ちょうどいい。

 

「水割? ロック? ストレート?」

 

「ロックで」

 

「かしこまりました~」

 

 ロック用の氷あったかなぁ。

 

 

 料理は簡単に兎肉と卵の炒りつけと川魚の干物を出した。

 

 俺の分の飲み物は変わらず麦酒。橙は嫌っていたけれど、やっぱり麦酒って美味しいよね

 

「フフッ、たまにはこういうのも良いわね」

 

 紫が言った。数少ない癒し成分の橙も帰っちゃったし、俺は胃が痛いけどね。

 

「そうね」

 

 カランっと氷とガラスがぶつかる音がして、静かに幽香が同意した。

 

「幽香も随分と丸くなったね。昔なら問答無用でレーザーをぶっぱなしてただろうに」

 

「あら、今からやっても良いのよ」

 

 だから、やめてください。

 

「やめておきなさいな、貴方じゃ私と黒には勝てないわよ?」

 

「……わかってるわよ」

 

 拗ねた様に幽香はお酒を飲んだ。

 まぁ、俺単体だったら瞬殺だけどね。

 

「おかわり」

 

 むぅ、そのお酒を作るの大変だったんだから、大事に飲んでよ?

 

 

 時がゆっくりと流れる。会話なんてほとんどないが、沈黙が痛くない。

 

 ホント、たまにはこういうのも良いかもね。

 

「また、あの年が来るのね」

 

 久しぶりに幽香が口を開いた。花々が狂い咲き、行く宛のない霊達が舞い踊る年。

 

「楽しみ?」

 

 幽香に聞いた。

 

「そうね」

 

 幽香が答えた。花の妖怪としては、きっと嬉しいイベントなんだろう。

 

「あんまり問題は起こさないでくれよ?」

 

「さあ? どうかしらね」

 

 クスクスと笑いながら幽香が答えた。こうやって笑っているだけなら、美人だし良い妖怪なんだけどなぁ……

 

「貴方とも決着をつけないとね。この前だってすぐに逃げちゃったし」

 

「ま、また今度ね」

 

「そう。楽しみにしているわ」

 

 そう言って幽香はまた笑った。楽しみにされても困るんですが……

 

「黒、貴方はどうするの?」

 

 紫が聞いてきた。

 

「あ~、博麗大結界の緩みでも直してようかな。紫だけじゃ大変だろ?」

 

 あと、小町の所に行ってちゃんと仕事をさせないとだな。幽霊だらけになっちゃうし。

 

 あっ、映姫のこと忘れてたわ……ヤバい、絶対に怒られる。うわー、また説教されるのか。

 

「何、顔を青くしてるのよ……」

 

 三人だけの静かな宴会はその後も続き、結局朝まで飲み続けた。

 

 後半は記憶が曖昧だが、まぁ、楽しかったと思う。

 

 

 






と、言うことで第26話でした
今回も本編的に何も進んでいません
こんなんで良いのかな……

次話もまたこんな感じのお話になりそうです
ラブコメとか書いてみたいですね
まぁ、書けませんが
そもそも、このお話にメインヒロインっているのでしょうか?

では、次話でお会いしましょう


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