季節は完全に冬となり、雪が散らつく日も増えてきた。
今日は大晦日。きっと今頃は皆、年越しの準備でもしている頃だろう。
僅かに残っていた年籠りの習慣も、ここ数十年で完全になくなった。まぁ、わざわざ博麗神社まで行くのも大変だもんね。だいたい、あの神社って誰を祭ってあるんだろう? 俺は会ったことがないけど……
しかも博麗神社も今頃は、妖怪が蔓延っているだろうし、普通の人間には危ない。霊夢は人間の参拝客が来ないと怒っていたが、半分は霊夢自身のせいだと思う。
俺はそんな場所に行く気にもなれず、代わりに静かに年を越せる場所へと向かっていた。静かに越せると良いのだけど……
まぁ、約束していたし、ちょうど良いのかもしれない。
再思の道をゆっくりと歩く。大量のお酒を背負って。
あれだけ見事に咲いていた彼岸花も枯れ、代わりに葉が伸びていた。
少しだけ肌寒い。
まぁ、冬だもんね。仕方が無いね。
三途の川に近づくと、ゆらゆらと立ち上る煙が見えてきた。
どうやら小町が火に当たっているらしい。仕事はしていないけれど、寝てはいなかった。
……寒いのなら、その服装をやめれば良いのに。是非曲直庁の制服なのかな?
「や、小町。久しぶり」
「おや? 黒じゃないか。こんな日にどうしたんだい? 随分と大きな荷物を持っているみたいだけど」
「この前の約束しただろ? お酒を持って来るって」
俺がそう言うと、小町はう~んと考えるような仕草をして――
「ああ、そんな約束もしていたね。すっかり忘れていたよ」
と言って小町は笑った。
持ってきたのは純米大吟醸と純米吟嬢を4本ずつ。それと米・麦焼酎を数本。合計約20瓩すごく重いです……あと残念だけど、このお酒は小町の物じゃなくて、映姫の物なんだよね……
まぁ、たぶん一緒に飲むことになると思うけれど。年越しと言うことで大奮発です。
「映姫は仕事?」
「映姫様かい? ん~、今日、明日は非番だと思うよ」
じゃあ、待っていれば来るのかな? 二人で勝手に飲み始めたら映姫の奴、絶対拗ねるよな。
そしてどうせ説教が始まる。
「あっ、お摘み忘れたわ。小町何か用意できない?」
「摘みか~、三途の川の魚でも釣る?」
「……それ、食べても大丈夫なやつ?」
三途の川に魚いたんだ。
「海竜やゴンベッサで良いなら」
海竜って……あと、ゴンベッサってシーラカンスのことだよね? あれ、ビックリするくらい美味しくないぞ。油が多すぎてお腹壊すし。
「普通の魚は釣れないの?」
「あたいは見たことがないねぇ」
小町が見たことないのならいないのだろう。
う~ん、どうするかな。海竜でも釣って食べてみるか?
「三途の川の生き物を食べることはやめてください」
映姫が現れた。
「や、久しぶり映姫。約束通りお酒を持ってきたよ」
「……随分と遅かったですね」
あ、ほっぺたが膨らんだ。どうやらちょっと拗ねているっぽい。
「いや~、なかなか忙しくてね」
「忘れていただけでしょう?」
おっしゃる通りです。
「まぁ、持ってきたんだから良いだろう? んで、映姫は何か摘める物ある?」
「帰れば干し肉と干物、あと漬物くらいならあります」
「うん、それだけあれば充分でしょ。んじゃあ、ちょっと持ってきて」
「わかりました」
映姫がお摘みを取りに戻っている間、俺と小町で準備。焚き火をもう少し大きくし、適当に椅子の代わりの丸太を持ってくる。こういう時は小町も働いてくれるんだね。いつもこうなら映姫だって楽だろうに。
そして、丸太を持ってきたところで映姫が戻ってきた。
「随分と沢山持ってきたね」
「年越しですし、今日くらいは豪快にやりましょう」
珍しくテンション高めな閻魔様。毎日のお仕事お疲れ様です。
「やあっと飲めるよ。さ、はじめよう」
小町が言った。
「このお酒は私の物のはずですが……まぁ、今日くらいは良いでしょう」
「んじゃあ、始めよっか」
――乾杯。
あの世に最も近いそんな場所で、三人の声が響いた。
世にも珍しい、三途の川の畔での宴会。
「いや~、仕事の後の一杯は美味しいね」
「…………」
映姫が無言で小町を見つめた。
「え、映姫様今日くらいは説教なしで……」
「そうね。せっかく美味しいお酒もあるのだし。しかし黒は何故、大晦日なんかに来たのですか?」
「ゆっくり静かな所で年越ししたくてね。俺の店にいたら、絶対静かに年越しなんてできないし」
酔っ払いどもが俺の店に襲撃してくることが、用意に想像できる。しかもアイツらどうせ、料金なんて払わないだろうし。
「そうですか、だからと言って生きている者が此処に来るのもどうかと思いますが、今日くらいは楽しんでいってください」
どうもご機嫌な様子の閻魔様。いつもこんな調子なら、もっと遊びにだって来るのに。
小町や映姫と最近あったことをのんびりと話しながら、宴会は続いた。
夕方から始めて、辺りは既に真っ暗。
「そろそろ、年が変わりますね」
映姫が言った。
「ん? もうそんな時間なんだ」
今年も色々あったね。終わらない冬から、三日置きの百鬼夜行があって、懐かしい人物との出会いまで。
う~ん、思い返してみると禄なことがなかった。年が変われば何かが変わるのかな。
来年の俺はしっかりとやってくれるだろうか? まぁ、来年になってみないとわからんけどさ。
「年が明けますね、おめでとうございます。来年もよろしく頼むよ」
俺が言った。
「今、日付が変わりました。明けましてあめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「今年もよろしく頼むよ」
映姫と小町も言った。
ま、年が変わったこところで、な~んもないんだけどね。
「年もかわったことだし、んじゃあ改めて」
それぞれがコップを持つ。
――乾杯。
本日二回目、三人の声が響いた。
「そう言えば、来年……じゃなくて今年か。今年は60周期の年だけど、小町しっかり働いてくれよ」
「げっ、もうそんな年なのか。嫌になっちゃうね。う~ん、まぁやるだけやってみるよ」
……ダメだろうな。
映姫も小町を見ながらため息をついているし。
あれだけ持ってきたお酒も残りはわずか。ホント、君達はお酒が好きだね。
よく見ると、映姫の顔が僅かにだけど赤くなっていた。大丈夫?
「今日は少しだけ、飲みすぎました」
目蓋は垂れ気味。眠いのかな。
そのまま暫くすると、映姫はこてんと倒れて横になってしまった。
スースーと寝息が聞こえてくる。
お休み。どうかゆっくり休んでくださいな。
「寝ちゃったね」
「まぁ、映姫様も疲れていたんだろうね。今日くらいはゆっくりと寝てもらいたいよ」
閻魔という立場のせいで誰にも弱みを見せられず、一人孤独に生きなければいけない。それはきっと、俺が思っている以上に大変なことなのだろう。
昔はただの地蔵少女だったのにねぇ。
「黒は昔よりも随分と明るくなったね」
そう小町が言った?
ん~? そうかな。
「だって今は、自殺したいだなんて思っていないだろう?」
「……まぁ、そうだね」
背負わなくてはいけない物も増えちゃったし。
持っていたコップを傾けた。麦焼酎が喉を焼く。
「そりゃあ、良かった」
そう言って小町はカラカラと笑う。
「あたいらはさ、生きている奴らとは仲良くできないだろう」
焚き火の中に小枝を入れると、パチパチと音を立てながら勢いよく燃えていった。
「別にそのことを不満に思ったことはないけれど、やっぱり寂しいこともある。幽霊たちは基本的に何も喋ってくれないしさ」
助けてあげたい、導いてあげたいけれどそれが許されない。
だから映姫は必死になって説教をして歩き回るのだろう。直接手を出すことができないから。
「でも黒は死ぬことがない。だから私たちにとってはお前さんの存在は助かるんだ……っと一人で喋りすぎた。いや~、喋ることのない幽霊とばかり一緒にいたから、ついね」
元々、小町は喋り好きだし今日みたいに会話ができるっていうのは、嬉しかったのだろう。
すやすやと寝ている閻魔を見る。映姫だって喋るのは好きだしね。
「小町、最後の一杯だ。コップ出して」
あれだけあったお酒も最後の一杯。
名残惜しいものです。
小町と自分のコップにお酒を注ぐ。
そうしてから小町のコップと俺のコップをぶつける。キンっと高い音がして焼酎の香りが広がった。
今年もよろしく。
その後、簡単に片付けをして年越しの飲み会はお開きとなった。
いまだ、気持ちよさそうに寝ている映姫を見る。
ん~……
「小町、墨と筆ってある?」
「うん? ああ、なるほど。ちょっと待ってな、すぐ持ってくるよ」
新年一発目のちょっとした、いたずら。
「持ってきたよ」
「よしっ、んじゃあ小町は左半分を担当な。俺は右をやるよ」
……酔っぱらいのテンションっておかしいよね。
後で絶対に怒られるに決まっている。そんなこともわからず、本当に莫迦なことをしたと思う。
後日、鬼の形相の閻魔様が俺の店に殴り込んできたけれど、それはまた別のお話。
さて、今年はどんな年になるんだろうね。
と、いうことで第28話でした
年越しのお話です
ボケ担当がいないせいで、どことなくしんみりとしてしまいました
次話はもしかしたら異変が始まるかもしれません
でも、始まらないかもしれません
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております