東方酒迷録【完結】   作:puc119

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閑話でも良かった気がします
つまり、読まなくても何とかなりそうです

読んでもらえると作者が喜びます





第33話~風と桜と小さな奇跡~

 

 

「どうして貴方は、傘なんかを差しているのですか?」

 

 季節は夏。

 風が強い。

 雨の日でも、晴れの日でもないのに唐傘を差していた少年に私は聞いた。

 

「俺が何処にいるのか、すぐわかるようにだってさ」

 

 傘をクルクルと回し、遊びながら彼が言った。やっぱりその傘は少年の体に対して、少し大きく見えた。

 

「えと……どういう意味でしょうか?」

 

「さあ? アイツの考えなんて俺にはよくわかんないし。まぁ、たぶん目印なんだろうね」

 

 傘がクルクルと回る。

 彼の言葉の意味はよくわからない。

 

 そしてこれは、私たちが幻想に消える前に出会った不思議な少年と、小さな奇跡のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジメジメとした梅雨が開け、季節はすっかり夏となった。これから続く暑い日のことを思うと少しだけ嫌になる。

 

 

 そして学校からの帰宅途中、その少年と出会った。

 そんな彼は、晴れの日にも関わらず大きな唐傘を差していた。あれは……日傘、でしょうか?

 

「こんにちは」

 

 目があったので、とりあえず挨拶。年は私と同じか、少し下くらいかな?

 

「おろ? こんにちは。ちょいとお嬢さん、聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

 

 私が彼に声をかけると、彼は少しだけ驚き、私に訪ねてきた。

 ナンパ……には見えないか。見た目の割に、随分と落ち着いた話し方だなんて思った。

 

「はい、どうされました?」

 

「守矢神社……いや、諏訪大社かな。まぁ、その神社を探しているんだけど、どこにあるのか知らない? この辺りの土地は詳しくなくてさ」

 

 どうやら彼は、家の神社に用があるみたい。

 

「それでしたら、私も行きますので御案内しますよ」

 

 境内の掃除だってしなければいけないし。やらなければいけないことが、沢山ある。

 

「おお、そりゃ助かるよ。ありがとね」

 

 そう言って彼は笑った。

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

 雑談をしながら神社へと進む。

 

「参拝の方ですか?」

 

 さっきは気づかなかったけれど、彼は大きなリュックを背負っていた。その中から、ちゃぷんちゃぷんと微かに水の音。何が入っているのでしょうか?

 

「ん~、参拝というか……社会見学?」

 

 いや、私に聞かれても……

 

「なんかさ、3日ほど外の世界に行って来いっていきなり言われて、叩き出されたんだよ」

 

 ん~……どういう意味でしょうか? 何かの比喩?

 

「お、ようやっと、見覚えのある所まで着いたね。いや~助かったよ。君はこの神社にどんな用事があるの?」

 

 彼が尋ねてきた。どうやら、彼は一度守矢神社に来たことがあるらしい。それなら、私とも会ったことがあるかもしれませんね。

 

「私は守矢神社で風祝をしている、東風谷早苗と言います」

 

「おろ? そうだったんだ。そりゃあ運が良かった。そう言えば前に来た時、君がいた気もするかな。あ、俺は黒って名前だよ」

 

 黒さんですか。

 名前……だよね。苗字っぽくはないし。

 

「それでは行きましょうか」

 

 黒さんとのんびり参道を歩き、守矢神社へ到着。

 

「知っていると思いますが、拝殿はあちらです。私は着替えてきますので、どうぞゆっくりしていってください」

 

 お茶ぐらいは、出したほうが良いよね。それなら準備をしないと。

 

「了解」

 

 そして黒さんは傘をクルクルと回しながら、拝殿の方へ歩いて行った。

 

「おかえり早苗。誰か来たの?」

 

 母屋へ行くと諏訪子様が声をかけてきた。

 

「はい、ただいまです。参拝の方が来ていますよ」

 

 私がそう言うと諏訪子様は――

 

「へ~、どんなやつだろうね。ちょっと見てくる」

 

 なんて、言って出て行った。

 あまり、いたずらはしないでくださいね。普通の人に諏訪子様は見えないのだし。

 

 着替えを終え、境内に戻ると黒さんは背負っていたリュックを脇に置き、木陰に腰掛けていた。

 

「おお、本物の巫女さんだ」

 

 私に気付き声をかけてくる。

 一方、黒さんの傍にいる諏訪子様は、黒さんのリュックをじっと見つめていた。

 

「ねえ、ねえその荷物は何?」

 

 諏訪子様が言った。

 

「えと、黒さんの持っていたリュックには何が入っているのですか?」

 

 諏訪子様の代わりに私が尋ねる。

 

「お酒だよ。ここの神様たちにも飲んでもらおうと思ってね」

 

 笑いながら黒さんがそう言うと、諏訪子様が――

 

「ホントー!」

 

 と、言って黒さんのリュックへ猛ダッシュ。

 黒さんに怪しまれないように、なんとかそれを止める。ちょ、ちょっと落ち着いてください。

 

「何をする!?」

 

 諏訪子様こそ何をやっているのですか……

 

「それで、頼みたいことがあるんだけどさ」

 

 黒さんが言った。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「二日ほど、ここに泊めさせてもらえないかな? 他に行く場所もないし」

 

 え?

 

「私は良いよー」

 

 諏訪子様が言った。

 てか諏訪子様は、お酒を飲みたいだけな気がする……

 

「えと、私だけでは決められないので、ちょっと待っていてください」

 

 神奈子様にも聞いてみないと。

 

「私も構わないよ」

 

 後ろから声がした。

 いつの間にか、神奈子様が来ていた。び、びっくりしたぁ。

 

「あ~、その……やっぱり大丈夫です」

 

 自分だけでは決められないと言ったのに、このセリフはおかしいよね。怪しがられないかな?

 

「そりゃあ、良かった」

 

 そんなことも思ったけれど、どうやら黒さんは気にしていないみたい。

 良かった。怪しまれてはいない……のかな?

 

「今夜は酒盛りだ」

 

 諏訪子様と神奈子様の喜ぶ声が聞こえた。

 全く、この神様たちは……

 

 でも、黒さんはどうやってお酒を手に入れたのかな? 明らかに未成年だと思うんだけど……

 

 そんなことをしていると、すっかり夕方となってしまった。

 黒さんは、夕飯の準備を手伝ってくれると言ったが、諏訪子様たちの分も作らないといけない。そのことを見られたら怪しまれるので、お断りした。

 

 そして、お客さんということで、先にお風呂へ入ってもらうことに。

 

「じゃあ、私も一緒に入ろうかな」

 

 諏訪子様が言った。

 何を言ってるんだこの神様は……お願いですからやめてください。

 

「……それは、俺も遠慮してもらいたいかな」

 

 黒さんが何かを言った。

 あれ? 今、何て?

 

 それから――私も一緒に食べる! とブーブー文句を言う、二柱を何とか説得し黒さんと二人で夕食を食べた。

 そう言えば、異性と二人きりで食事は初めて。あ~……うん、あんまり考えないようにしよう。

 

 黒さんは私の料理を褒めてくれたけれど、夕食の味はよくわからなかった。

 

 

 

 洗い物は黒さんに任せ、お風呂を済ませ出てくると、黒さんが縁側に腰掛け何かを飲んでいた。

 その両脇には、諏訪子様と神奈子様。

 

 む、お酒の匂い。

 

「コラ、黒さん! 未成年がお酒を飲んじゃダメですよ」

 

 置いてあったお酒を取り上げる。

 

「あ~私のお酒」

 

「早苗、黒なら大丈夫だから返してよ」

 

 諏訪子様と加奈子様が言った。

 大丈夫じゃありません。黒さんがいる間は我慢してください。

 

「えと……一応、俺も二十歳は超えてるんだけど」

 

 黒さんが言った。

 

「貴方が二十歳なら私は三十路です!」

 

「いや、意味わかんねーよ」

 

 私だって、わかりません!

 

 そして、黒さんの持ってきたお酒を全て没収し、その日は床に着いた。いくら夏とは言え、風が吹けば涼しく、寝やすいはず。

 それなのに、その日の寝付きは良くなかった。

 

 

 

 

 

 

 次の日、朝食の準備をし、黒さんを待っていたが、なかなか黒さんが起きてこない。仕方がないから、先に朝食を食べることに。

 

 食べ終わっても、黒さんはまだ来なかった。

 

 まだ寝ているのでしょうか?

 そろそろ私も出発しないと、遅刻しちゃう。

 

 黒さんを起こそうと思い、少しだけ緊張しながら、黒さんの泊まった部屋の中へ。

 

 中へ入ると、黒さんは起きていた。けれども、どこかボーっとしていて、布団に腰掛けたまま動こうとしない。

 

「あの、おはようございます」

 

「ん……おは」

 

 私が声をかけると黒さんが返してくれた。

 朝、弱いのかな?

 

「顔を洗ってきたらどうですか?」

 

「うん……わかった」

 

 そう言って、黒さんは立ち上がり動き出そうとして、一歩目で躓いて転けた。

 

「……いたい」

 

 何やってるんですか……

 

「あははっ、黒は昔っから朝が弱いね。早苗、そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ」

 

 諏訪子様が言った。

 え? 昔から? って、そうだ時間がないんだった。

 

「朝食は用意してありますので、しっかり食べてくださいね。では、行ってきます!」

 

 細かいことは帰ってきてから聞くことにしよう。

 

 結局、学校には少しだけ遅刻しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、学校を終え、正門に足を運ぶと黒さんがいた。

 えと……な、なんでここに?

 

「やほー、早苗ちゃん。迎えに来たよ」

 

 風が強く、天気は曇り。

 そうだというのに持っていた、傘をクルクルと回しながら黒さんが言った。

 

「え? その人誰? 早苗の彼氏?」

 

 一緒に帰ろうとしていた、同級生に聞かれた。

 

「ち、違いますよ」

 

「ふ~ん……じゃあ私は一人で帰るね…………爆発しろ」

 

 そう言って、彼女は帰って行ってしまった。今度会ったとき、何を言われることやら……

 

「んと、来ない方が良かったかな?」

 

 少しだけ困ったような顔をして、黒さんが言った。

 

「あ、いえ。大丈夫です。少しだけ寄りたい所がありますが、帰りましょうか」

 

「そかそか、それなら良かった。んで、何処へ寄って行くの? 買い物とか?」

 

 はい、お買い物です。

 そして、お話は漸く冒頭へ。

 

 

 

 

 買い物へと向かう途中、黒さんに傘のことを訪ねた。

 

「さあ? アイツの考えなんて俺にはよくわかんないし。まぁ、たぶん目印なんだろうね」

 

 傘を回しながら、黒さんが言った。

 

「そうですか……黒さんは今、何をされているのですか?」

 

 学校には通っていなさそうだけど。

 

「今はカフェで働いているよ。まぁ、俺がいないからお店はお休み中だけど。むぅ、風が強い、傘壊れないかなぁ」

 

 そう思うのなら、傘を持ってこなければ良かったのに……

 それにしても、その年でもう働いているんですね。素直に尊敬します。

 

 

 その後、スーパーで買い物をしたわけだけど、何故か黒さんのテンションがやたらと高かった。何がそんなに楽しかったのかな?

 

 買い物を終えると、日は沈み始め人影も減ってきた。黒さんは右手に傘を、左手に買い物袋を持ち、私の数メートル前を嬉しそうに歩く。

 

 神社へ向かってゆっくりと進む。

 人影は私達以外にはいない。その途中には壊れかけた家があり、夕方ということもあって、何故か無性に悲しく感じた。

 

 

 そんなことを思った時、突風が吹いた。

 

 黒さんの頭上には、壊れかけの家から大量の瓦が。

 

 

「あぶないっ!!」

 

 

 思わず叫んだ。

 時が遅く感じられる。

 

 マズい、私の風では間に合わない。

 

 

 

 そして、目の前が桜一色に染まった。

 

「へっ?」

 

 何が起きたのかわからない。

 

「あぶなっ。ビックリしたな、もう。早苗ちゃんは怪我とかしてない?」

 

 黒さんが聞いてきた。

 

「わ、私は大丈夫でしたが……あの、今は何が?」

 

 ひらひら、ひらひらと桜の花びらが舞う。

 

「奇跡でも起きたんだろうね。いや~、傘持ってて良かったよ。あのままだったら桜まみれだったし」

 

 傘をクルクルと回し、コロコロと笑いながら黒さんが言った。

 

「さ、帰ろっか」

 

 何事もなかったかのよう、に黒さんが言った。

 これは色々と、聞かなければならないことがありそうだ。

 

 






と、言うことで第33話でした
早苗さん視点にする意味は、あまりありませんでしたが、なんとなくしました

次話は主人公視点で、また外の世界のお話っぽいです

では、次話でお会いしましょう


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