閑話でも良かった気がします
つまり、読まなくても何とかなりそうです
読んでもらえると作者が喜びます
「どうして貴方は、傘なんかを差しているのですか?」
季節は夏。
風が強い。
雨の日でも、晴れの日でもないのに唐傘を差していた少年に私は聞いた。
「俺が何処にいるのか、すぐわかるようにだってさ」
傘をクルクルと回し、遊びながら彼が言った。やっぱりその傘は少年の体に対して、少し大きく見えた。
「えと……どういう意味でしょうか?」
「さあ? アイツの考えなんて俺にはよくわかんないし。まぁ、たぶん目印なんだろうね」
傘がクルクルと回る。
彼の言葉の意味はよくわからない。
そしてこれは、私たちが幻想に消える前に出会った不思議な少年と、小さな奇跡のお話。
ジメジメとした梅雨が開け、季節はすっかり夏となった。これから続く暑い日のことを思うと少しだけ嫌になる。
そして学校からの帰宅途中、その少年と出会った。
そんな彼は、晴れの日にも関わらず大きな唐傘を差していた。あれは……日傘、でしょうか?
「こんにちは」
目があったので、とりあえず挨拶。年は私と同じか、少し下くらいかな?
「おろ? こんにちは。ちょいとお嬢さん、聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
私が彼に声をかけると、彼は少しだけ驚き、私に訪ねてきた。
ナンパ……には見えないか。見た目の割に、随分と落ち着いた話し方だなんて思った。
「はい、どうされました?」
「守矢神社……いや、諏訪大社かな。まぁ、その神社を探しているんだけど、どこにあるのか知らない? この辺りの土地は詳しくなくてさ」
どうやら彼は、家の神社に用があるみたい。
「それでしたら、私も行きますので御案内しますよ」
境内の掃除だってしなければいけないし。やらなければいけないことが、沢山ある。
「おお、そりゃ助かるよ。ありがとね」
そう言って彼は笑った。
「ふふっ、どういたしまして」
雑談をしながら神社へと進む。
「参拝の方ですか?」
さっきは気づかなかったけれど、彼は大きなリュックを背負っていた。その中から、ちゃぷんちゃぷんと微かに水の音。何が入っているのでしょうか?
「ん~、参拝というか……社会見学?」
いや、私に聞かれても……
「なんかさ、3日ほど外の世界に行って来いっていきなり言われて、叩き出されたんだよ」
ん~……どういう意味でしょうか? 何かの比喩?
「お、ようやっと、見覚えのある所まで着いたね。いや~助かったよ。君はこの神社にどんな用事があるの?」
彼が尋ねてきた。どうやら、彼は一度守矢神社に来たことがあるらしい。それなら、私とも会ったことがあるかもしれませんね。
「私は守矢神社で風祝をしている、東風谷早苗と言います」
「おろ? そうだったんだ。そりゃあ運が良かった。そう言えば前に来た時、君がいた気もするかな。あ、俺は黒って名前だよ」
黒さんですか。
名前……だよね。苗字っぽくはないし。
「それでは行きましょうか」
黒さんとのんびり参道を歩き、守矢神社へ到着。
「知っていると思いますが、拝殿はあちらです。私は着替えてきますので、どうぞゆっくりしていってください」
お茶ぐらいは、出したほうが良いよね。それなら準備をしないと。
「了解」
そして黒さんは傘をクルクルと回しながら、拝殿の方へ歩いて行った。
「おかえり早苗。誰か来たの?」
母屋へ行くと諏訪子様が声をかけてきた。
「はい、ただいまです。参拝の方が来ていますよ」
私がそう言うと諏訪子様は――
「へ~、どんなやつだろうね。ちょっと見てくる」
なんて、言って出て行った。
あまり、いたずらはしないでくださいね。普通の人に諏訪子様は見えないのだし。
着替えを終え、境内に戻ると黒さんは背負っていたリュックを脇に置き、木陰に腰掛けていた。
「おお、本物の巫女さんだ」
私に気付き声をかけてくる。
一方、黒さんの傍にいる諏訪子様は、黒さんのリュックをじっと見つめていた。
「ねえ、ねえその荷物は何?」
諏訪子様が言った。
「えと、黒さんの持っていたリュックには何が入っているのですか?」
諏訪子様の代わりに私が尋ねる。
「お酒だよ。ここの神様たちにも飲んでもらおうと思ってね」
笑いながら黒さんがそう言うと、諏訪子様が――
「ホントー!」
と、言って黒さんのリュックへ猛ダッシュ。
黒さんに怪しまれないように、なんとかそれを止める。ちょ、ちょっと落ち着いてください。
「何をする!?」
諏訪子様こそ何をやっているのですか……
「それで、頼みたいことがあるんだけどさ」
黒さんが言った。
「はい、なんでしょうか?」
「二日ほど、ここに泊めさせてもらえないかな? 他に行く場所もないし」
え?
「私は良いよー」
諏訪子様が言った。
てか諏訪子様は、お酒を飲みたいだけな気がする……
「えと、私だけでは決められないので、ちょっと待っていてください」
神奈子様にも聞いてみないと。
「私も構わないよ」
後ろから声がした。
いつの間にか、神奈子様が来ていた。び、びっくりしたぁ。
「あ~、その……やっぱり大丈夫です」
自分だけでは決められないと言ったのに、このセリフはおかしいよね。怪しがられないかな?
「そりゃあ、良かった」
そんなことも思ったけれど、どうやら黒さんは気にしていないみたい。
良かった。怪しまれてはいない……のかな?
「今夜は酒盛りだ」
諏訪子様と神奈子様の喜ぶ声が聞こえた。
全く、この神様たちは……
でも、黒さんはどうやってお酒を手に入れたのかな? 明らかに未成年だと思うんだけど……
そんなことをしていると、すっかり夕方となってしまった。
黒さんは、夕飯の準備を手伝ってくれると言ったが、諏訪子様たちの分も作らないといけない。そのことを見られたら怪しまれるので、お断りした。
そして、お客さんということで、先にお風呂へ入ってもらうことに。
「じゃあ、私も一緒に入ろうかな」
諏訪子様が言った。
何を言ってるんだこの神様は……お願いですからやめてください。
「……それは、俺も遠慮してもらいたいかな」
黒さんが何かを言った。
あれ? 今、何て?
それから――私も一緒に食べる! とブーブー文句を言う、二柱を何とか説得し黒さんと二人で夕食を食べた。
そう言えば、異性と二人きりで食事は初めて。あ~……うん、あんまり考えないようにしよう。
黒さんは私の料理を褒めてくれたけれど、夕食の味はよくわからなかった。
洗い物は黒さんに任せ、お風呂を済ませ出てくると、黒さんが縁側に腰掛け何かを飲んでいた。
その両脇には、諏訪子様と神奈子様。
む、お酒の匂い。
「コラ、黒さん! 未成年がお酒を飲んじゃダメですよ」
置いてあったお酒を取り上げる。
「あ~私のお酒」
「早苗、黒なら大丈夫だから返してよ」
諏訪子様と加奈子様が言った。
大丈夫じゃありません。黒さんがいる間は我慢してください。
「えと……一応、俺も二十歳は超えてるんだけど」
黒さんが言った。
「貴方が二十歳なら私は三十路です!」
「いや、意味わかんねーよ」
私だって、わかりません!
そして、黒さんの持ってきたお酒を全て没収し、その日は床に着いた。いくら夏とは言え、風が吹けば涼しく、寝やすいはず。
それなのに、その日の寝付きは良くなかった。
次の日、朝食の準備をし、黒さんを待っていたが、なかなか黒さんが起きてこない。仕方がないから、先に朝食を食べることに。
食べ終わっても、黒さんはまだ来なかった。
まだ寝ているのでしょうか?
そろそろ私も出発しないと、遅刻しちゃう。
黒さんを起こそうと思い、少しだけ緊張しながら、黒さんの泊まった部屋の中へ。
中へ入ると、黒さんは起きていた。けれども、どこかボーっとしていて、布団に腰掛けたまま動こうとしない。
「あの、おはようございます」
「ん……おは」
私が声をかけると黒さんが返してくれた。
朝、弱いのかな?
「顔を洗ってきたらどうですか?」
「うん……わかった」
そう言って、黒さんは立ち上がり動き出そうとして、一歩目で躓いて転けた。
「……いたい」
何やってるんですか……
「あははっ、黒は昔っから朝が弱いね。早苗、そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ」
諏訪子様が言った。
え? 昔から? って、そうだ時間がないんだった。
「朝食は用意してありますので、しっかり食べてくださいね。では、行ってきます!」
細かいことは帰ってきてから聞くことにしよう。
結局、学校には少しだけ遅刻しました。
そして、学校を終え、正門に足を運ぶと黒さんがいた。
えと……な、なんでここに?
「やほー、早苗ちゃん。迎えに来たよ」
風が強く、天気は曇り。
そうだというのに持っていた、傘をクルクルと回しながら黒さんが言った。
「え? その人誰? 早苗の彼氏?」
一緒に帰ろうとしていた、同級生に聞かれた。
「ち、違いますよ」
「ふ~ん……じゃあ私は一人で帰るね…………爆発しろ」
そう言って、彼女は帰って行ってしまった。今度会ったとき、何を言われることやら……
「んと、来ない方が良かったかな?」
少しだけ困ったような顔をして、黒さんが言った。
「あ、いえ。大丈夫です。少しだけ寄りたい所がありますが、帰りましょうか」
「そかそか、それなら良かった。んで、何処へ寄って行くの? 買い物とか?」
はい、お買い物です。
そして、お話は漸く冒頭へ。
買い物へと向かう途中、黒さんに傘のことを訪ねた。
「さあ? アイツの考えなんて俺にはよくわかんないし。まぁ、たぶん目印なんだろうね」
傘を回しながら、黒さんが言った。
「そうですか……黒さんは今、何をされているのですか?」
学校には通っていなさそうだけど。
「今はカフェで働いているよ。まぁ、俺がいないからお店はお休み中だけど。むぅ、風が強い、傘壊れないかなぁ」
そう思うのなら、傘を持ってこなければ良かったのに……
それにしても、その年でもう働いているんですね。素直に尊敬します。
その後、スーパーで買い物をしたわけだけど、何故か黒さんのテンションがやたらと高かった。何がそんなに楽しかったのかな?
買い物を終えると、日は沈み始め人影も減ってきた。黒さんは右手に傘を、左手に買い物袋を持ち、私の数メートル前を嬉しそうに歩く。
神社へ向かってゆっくりと進む。
人影は私達以外にはいない。その途中には壊れかけた家があり、夕方ということもあって、何故か無性に悲しく感じた。
そんなことを思った時、突風が吹いた。
黒さんの頭上には、壊れかけの家から大量の瓦が。
「あぶないっ!!」
思わず叫んだ。
時が遅く感じられる。
マズい、私の風では間に合わない。
そして、目の前が桜一色に染まった。
「へっ?」
何が起きたのかわからない。
「あぶなっ。ビックリしたな、もう。早苗ちゃんは怪我とかしてない?」
黒さんが聞いてきた。
「わ、私は大丈夫でしたが……あの、今は何が?」
ひらひら、ひらひらと桜の花びらが舞う。
「奇跡でも起きたんだろうね。いや~、傘持ってて良かったよ。あのままだったら桜まみれだったし」
傘をクルクルと回し、コロコロと笑いながら黒さんが言った。
「さ、帰ろっか」
何事もなかったかのよう、に黒さんが言った。
これは色々と、聞かなければならないことがありそうだ。
と、言うことで第33話でした
早苗さん視点にする意味は、あまりありませんでしたが、なんとなくしました
次話は主人公視点で、また外の世界のお話っぽいです
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております