東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第3話~まっかな、まっかな~

 

 

 フランちゃんと手を繋いだまま店の外に出る。

 一見、俺が逃げないよう捕まえているだけに見えるがきっと気のせい。わーい、可愛い女の子とデートだ。

 

 当たり前だけど、店の外は真っ暗。今晩も星が綺麗です。

 

「ねぇ、クロ。どうやったら元の場所に戻れるの?」

 

 フランちゃんが聞いてきた。

 

「このまま真っ直ぐ進めばいい。そうすればあの鳥居の場所に着くよ」

 

 小さいながらも立派に育ってくれた、米・麦畑の脇を通ってまっすぐ進む。頼る明かりは月明かり、ここから先は修羅の国。

 な~んてね。

 

 道を進むと見慣れた景色から黒一色に。んじゃあ、行きましょうか。

 

 

 

 

 

「ん~、こっちに来るのも久しぶりだ」

 

 雨はまだ止んでいなかった。例のごとく、鳥居周辺だけは雨の代わりに花びらが降っている。

 

「どうしよう。雨止んでない……」

 

 ポソリと溢れたフランちゃんの言葉。

 

 目を閉じて少しだけ集中する。

 今回はでっかい規模でやったろうじゃないか。初回限定のサービスです。

 

 自分の中にある能力を使用。ま、こんな時くらいしか使えないしね。

 

 ザーザーと鳴っていた音が消え、代わりにベンゾ‐α‐ピロンの良い香りが鼻を突き抜ける。

 夜桜ってのも良いもんだ。

 

「うわぁ……綺麗」

 

 全ての雨粒を桜の花びらに変える。たったそれだけの能力。

 これだけの規模でやってしまったんだ。明日はきっと紫に怒られるだろう。ま、フランちゃんは喜んでくれたみたいだしいいかな。ハイリスク、ハイリターン。収支はトントンってところ。

 

「よしっ、行こうかフランちゃん。紅魔館って湖の方だよね?」

 

「うん、行きましょう」

 

 可愛い女の子と二人きりで夜のお散歩。

 ゆっくり楽しもうではありませんか。

 

「あれ? 飛ばないの?」

 

 ……普通の人間は飛べません。

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館。

 霧の湖の畔にある、真っ赤な真っ赤な館。正直、この色はどうかと思います。

 

 紅魔館が近づくに連れ、俺の手を握るフランちゃんの力が強くなっていった。あの、もう少し優しく握ってもらえれば嬉しいのですが……

 

 

 そして、そろそろ右手の感覚がなくなる辺りでやっと、紅魔館へ着いた。

 紅魔館ではチャイナ服の女性が、せっせと花びらのお掃除中。ご、ごめん……

 

「妹様は帰ってこないし、綺麗だけど花びらは鬱陶しいし、何なんでしょうか今日は……」

 

「ただいま、美鈴」

 

 俺の手を握ったまま、フランちゃんが美鈴と言う女性に話しかけた。

 あの娘も妖怪なのかな?

 

「あっ! 妹様! もう、何方へ行かれていたのですか? 心配したんですよ」

 

 美鈴と呼ばれる女性が俺達に気づいて声をかけてきた。

 

「それは、貴方が? それともお姉様が?」

 

 握られた手の痛みが強くなる。

 

「あ、その……」

 

「……ごめんね、嫌なこと聞いて。クロ、行きましょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。そちらの方は?」

 

「私の友人よ。じゃあね、もう行くわ」

 

「あ~、門番さん? この花びらだけど朝になれば消えるから、掃除はしなくて大丈夫だよ」

 

「えと、はい。わかりました……」

 

 門番さん(でいいのかな?)と別れを告げフランちゃんと紅魔館の中へ。既に雨はやんでいる。けれども雲行きは怪しい。

 

 立派な庭を抜け入った紅魔館は中も紅かった。まぁ、名前通りですね。

 

 エントランスを抜けロビーへと進む。紅魔館の中は見た目以上に中は広く、これじゃあ掃除するのも大変だよな。とか思った。

 

 そして――

 

 

 メイドさんが現れた。

 

 おおー、これはすごい。本物のメイドさんとか、初めて見た。

 

「お帰りなさいませ、妹様。そちらの方は?」

 

 うわっうわぁ、すごい!『お帰りなさいませ』だって! 俺にも言ってくれないかな?

 

「私の友人よ。お姉様はどこ?」

 

「友人……ですか。分かりました。お嬢様は私室です」

 

「そう、ありがとう。わかったわ」

 

 そう言って、フランちゃんは俺の手を引っ張る。あの、さっきから空気が重いのですが……正直、もう帰りたい。

 

 バカみたいに広い真っ赤な廊下を進む。窓はなかった。まぁ、主が吸血鬼だしそりゃそうか。

 

 そして、とある部屋の前でフランちゃんは立ち止まった。たぶん、この部屋の中にお姉様はいるのだろう。

 

 フランちゃんはノックもなしに勢い良くドアを開けた。

 

「……あら、フランじゃない。やっと帰ってきたのね」

 

 中には青みがかった髪の大きな黒いツバサを持った少女が優雅に何かを飲んでいた。

 ……今、一瞬ビクってなってたよね。その服についたシミ飲み物を溢したからだよね。いきなり人が入ってきたらビックリしちゃうよね。仕方無いね。ま、まぁそんなこと言えないけれどさ。

 

「勝手に出て行ってごめんなさい。お姉様」

 

 そう言ってフランちゃんは素直に謝った。

 頭は下げていなかったけれど、誠意は十分に感じられる謝罪。

 

「そう。別に気にしてないわ」

 

 と、フランちゃんのお姉様は言った。

 それだけだった。

 それだけしか言わなかった。

 

「……それ、だけ?」

 

 フランちゃんの小さな声が聞こえた。

 ……こりゃあまた面倒なことになりそうだ。

 

「え? 何か言ったかしら?それで……そこの人間は誰?」

 

 どうやらフランちゃんの声はお姉様に届かなかったらしい。

 

「……私の友人よ。私に付き合ってくれたの」

 

「そう、それはご苦労ね。もう行っていいわよ」

 

 その声を聞いてフランちゃんは無言で部屋をあとにした。握られた手の感覚なんて、とっくに無くなっている。

 

 

 

 

 

「ありがとね、クロ! 一緒に来てもらって」

 

 フランちゃんは無邪気に笑う。

 中身なんてない空っぽの笑顔だ。

 

 

 ――ホント反吐が出る。

 

 

「ん、いいよ。気にすんな」

 

「クロはこの後どうするの? 帰る?」

 

 手は繋いだままフランちゃんが聞いてきた。空っぽの笑顔をその顔面に貼り付けて。

 

「ん~、せっかくだしもう少しフランちゃんに付き合うよ」

 

「ホント? じゃあ、私のお部屋に行きましょう!」

 

 このまま帰るなんてできなかった。

 偽善。

 エゴ。

 何とでも言ってくれ。

 

 

 

 

 フランちゃんに連れられて紅魔館の地下へと進む。此処まで来てしまったんだ。もう後戻りはできないだろう。

 

 可憐な少女の部屋には似合わない重苦しい扉を開けて中へ。中には大きなベットがあるだけで、伽藍堂と言ってもいいレベル。

 

 キモチワルイ……

 

 フランちゃんはベットに腰掛け言った。

 

「お話をしましょう」

 

「……何のお話かな?」

 

 俺は聞いた。

 

「一人の吸血鬼のお話。バカな吸血鬼のお話」

 

「…………」

 

 俺は何も言わなかった。

 言えなかった。

 

 ――その吸血鬼はね。

 

 なんて言葉を落として、フランちゃんは話し始めてくれた。

 

「その吸血鬼はね、色々とおかしかったの。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』そんな能力を持っていて、『きゅっとしてドカーン』ってするだけで、みーんな壊れちゃう。そんな危ない能力。でもね……んー、だからかな。その吸血鬼は皆から怖がられちゃったの。実の姉からもね……苦しかったな~だって、みーんなその吸血鬼のことを壊れ物みたいに接するんだもん。まぁ、確かに壊れてるけどさ……」

 

 フランちゃんは話し続ける。

 感覚を失った俺の手を握ったまま。

 

「だからさ、その吸血鬼は篭っちゃったんだ。皆から受ける視線が、態度が、扱い方が嫌だったから。500年位引き篭ってたかな~。でもさ、他にやることもなかったし、一人でいると色々考えちゃうでしょ? どうすれば皆から嫌われなくなるのかな~とか。なんで、こんな能力を持っちゃったのかな~とか……

 

 

 ――私って死んだ方がいいのかな~とか、さ。

 

 

 フランちゃんはそう言った。

 

「それでね。次にその吸血鬼は自分で死ぬ方法を考えたの。最初は自分の爪で心臓を突き刺したりしたの。でもね、ダメだった。吸血鬼ってなかなか死ねないんだね。だから方法を変えて日光に当たるとか、雨の中に飛び出すとか、銀のナイフを心臓に突き刺すとか。でもね、いざやろうとすると体が動かないの。バカだよね~たぶん自分で死ぬ覚悟が足りなかったんだろうね」

 

 フランちゃんは笑いながら話してくれる。

 俺は何も言わない。

 

「その吸血鬼は考えたの。何で死のうとするのかって……理由は簡単だった。今死ねばまだわからないまま死ねるから。本当は愛されていたんだって思いながら死ねるから。でもね、できなかった。だから……だから最期の賭けをしてみたの。私が消えればたった一人の家族は心配してくれるんじゃないかっていう賭け」

 

 吸血鬼は『私』へと変わっていた。

 これは困ったことになってきた。何が可愛い女の子とデートだよ。

 

 はぁ……しゃーない、腹、括るか。

 

「でもね、ダメだった。帰ってきた私にお姉様は何も言わなかった。怒って欲しかった。心配して欲しかった。本当はさ……本当はわかってたんだ。紅魔館を出て少したった辺りから。私が紅魔館を出たあとに降った雨は、お姉様がパチュリーに頼んだからだと思う。つまり私に帰ってきて欲しくないっていう意思表示」

 

 今ここで『そんなことない!』って言ったらこの娘は救われるのだろうか?

 まぁ、ダメなんだろうなぁ……きっとそんな単純なお話ではないのだから。

 

「たった、少し。本の少しでいいから愛されたかったな~。…………一人ぼっちは、さみしいよ」

 

「ねぇ、クロ。私、どうやったら死ねるのかな?」

 

 そう言ってフランちゃんは下を向いた。

 いつの間にか手は離されていた。

 

 愛されたい。

 死にたい。

 愛されたい。

 死にたい……

 

 

 

 ホント

 

 

 全くもって

 

 

 心の底から

 

 

「……反吐が出る」

 

「え?」

 

「愛されてるのか、愛されていないのか……んなもん直接聞けよ!」

 

 自分のことは棚に上げて叫ぶ。

 

「でも、それでダメだったら……」

 

「そしたらここを出て、自分を愛してくれる場所でも探せ!」

 

 自分にはそんな勇気もないくせして、少女に言葉を叩きつける。

 

「そんな場所ないもん」

 

「ある! もし見つからなかったら、俺の所へ来ればいい! 全力で愛してやるよ」

 

 えと、一応言っておくけど俺はロリコンじゃないからね。

 

「たった500年しか生きてない餓鬼が世界を語るな!」

 

「……ありがとう」

 

 そう言ってフランちゃんは漸く顔を上げでくれた。

 しかし、その顔には笑顔が……黒い、どす黒く染まった笑顔が。

 

「ありがとう、クロ。希望が、少しだけだけど希望が持てた。でも、もういいんだ。疲れちゃった。それにこの希望だけでこれから先も生きていける。ねぇ、クロ最期のお願いを聞いてもいい?」

 

 

 さて、漸く本番だ。

 

 

「……何でも来いや」

 

 

「殺し合いをしましょう?」

 

 

 ここから先は修羅の国。

 

 虚勢を張って胸を張れ。

 

「かかってこいや、引き篭り初心者が。この業界の厳しさを教えてやるよ」

 

 






なかなか進まない物語
読み返す度に見つかる誤字脱字
頑張ります


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