「えっ、じゃあ黒さんは初めから神奈子様達が見えていたのですか?」
いくら夏とは言え、日は沈み始め風も出てきた。まだまだ、暑いけれど過ごしやすい気温。
縁側で神奈子と一緒にお茶を飲んでいると、早苗ちゃんが聞いてきた。
「うん、初めから見えていたよ」
「ど、どうして言ってくれなかったんですか?」
いや、だって早苗ちゃんが隠したがっていたから、気を使って見えないフリを……
それに、諏訪子を必死に止めている姿とか、見ていて面白かったし。口には出さんけど。怒られるのやだし。
「別に隠しておく理由はなかったけど……まぁ、なんとなくかな」
「はぁ、そうですか……じゃあ黒さんって、何者なんですか?」
俺に聞かれても困るんだけど。
神奈子の方を見てみる。
「ん~、何者なんだろうね。ただの友達ってことで良いんじゃないかい?」
お茶を飲みながら、神奈子が言った。
まぁ、そんなところだろうね。
「黒さんも神様なのですか?」
「いんや、違うよ。ちょっとだけ長生きな人間だよ」
――どこがちょっとなんだか……
そんな神奈子の声が聞こえた。
仕方がないでしょうが、なかなか死ねないんだし。
「う~ん、良くわかりません……」
そう言って、早苗ちゃんが首を傾げた。
「おや? 二人とも帰ってきていたんだね。おかえり」
ヘンテコな帽子を被った、小さな神様が走ってきた。
ただいま。どうせ湖でまた蛙と遊んでいたんだろう。昔からそうだったもんね。
「うん? なんだ、見えないフリをして早苗をからかうのはやめちゃったの?」
あ、コラ。
余計なことは言っちゃダメでしょうが。
「か、からかっていたんですか!?」
まぁ、ちょっとだけね。
「じゃあ、今日からは一緒にお酒が飲めるんだね!」
昨日だって、寝ている俺を叩き起して飲んだじゃん。
諏訪子を見ると、ウインクをしてきた。黙ってろってことですか。そのせいで、朝起きられなかったんですが……
今日の昼だって、無理矢理遊びに付き合わされるし。まぁ、楽しかったけれどさ。
「あまり飲みすぎないでくださいね」
ため息をしながら早苗ちゃんが言った。
「早苗ちゃんは飲まないの?」
「私はまだ未成年ですし……」
別に良いと思うけどな~
まぁ、飲みたくないのなら仕様が無いけれど。お酒は無理して飲むものなんかじゃないし。
夜になり、お待ちかねの酒飲みのお時間。
お酒を飲むことはないけれど、早苗ちゃんも参加してくれた。4人仲良く縁側に並ぶ。
「それじゃあ、乾杯しようか」
神奈子が言った。
――乾杯。
夏の夜に4人の声が揃った。
おチョコを傾けながら空を見上げる。濁った空気の向こうに僅かに光る星明かり。
う~ん、星空を見るなら幻想郷の方が良いかな。
「こっちの空も汚くなっちゃったね」
この神社から見る夜空は好きだったのになぁ……
「向こうの空はまだ綺麗なのかい?」
神奈子が聞いてきた。
「汚す奴もいないしな~」
前に紅い霧を出した奴とかいたけど、別に汚したわけでもない。
「うんっ、お酒が美味しい! これは全部黒が作ったやつなの?」
ああ、もの凄い勢いでお酒がなくなっていく。
俺の純米大吟醸が……結構良いやつなのに。
「そうだよ、前に持ってくるって約束したしね」
おかげで倉庫の中のストックが切れかかっている。こんな調子で秋まで持ってくれるのだろうか。
「そう言えば、黒はどうやって帰るんだい?」
「たぶん、迎えが来ると思う」
いきなり外の世界へ連れて行かれたから、わかんないけど……何考えてるんだろうね?
「いっそ、こっちで暮らせば? 神社なら部屋も空いているよ。私も嬉しいし」
「いや~、遠慮しとくよ。向こうでやらないといけないこともあるし」
昔みたいに、フラフラと出歩くことも少なくなったかな。
「そっかぁ、まぁいつでも遊びに来なよ。待ってるからさ」
そう言って、諏訪子は笑った。
「黒さんは、今どちらに住んでいるのですか?」
幻想郷って言ってもわかんないだろうしなぁ……
「う~ん……まぁ、かなり遠いところかな。電気も録に通っていないような田舎だよ」
「なるほど、それであんなに燥いでいたのですね」
ありゃ、見られていたんだ。ちょっと恥ずかしい……まぁ、幻想郷じゃ見ない物ばかりだしなぁ。でも、スーパーとか凄いよね。テンション上がります。
そんな感じでゆっくりと始まった飲み会は、ゆっくりと終わった。
中途半端にお酒を飲んでしまったせいで、なかなか寝られず、寝床を抜け出して外へ出る。
微かに見えていた、星明りは消え分厚い雲が空を覆っていた。湿っぽい匂いが鼻の奥まで届く。明日の天気は悪そうだ。
持っていた煙管と刻み煙草を取り出して一服することに。
煙草も随分と久しぶりだ。
刻み煙草を指で軽く掴み、固める。それを煙管の中へ。霊力で火を起こし、煙草に火をつける。
そして、煙を口に含み味を楽しんだ。
うん、久しぶりに吸うとやっぱり美味しいね。
「煙草は体に悪いよ?」
諏訪子の声が聞こえた。
それくらいわかってはいるよ。
「たまにだけど、吸いたくなるんだ。それに煙草くらいで壊れるような体じゃないし」
燃え尽きた灰を落とし、花びらへと変える。
「黒はまだ寝ないの?」
「次はいつこっちに来られるのか、わからないからさ。もうちょっとだけ見ておこうと思って」
空気は重いし、空も汚い。
それでも最後となると、やっぱり寂しくなる。
「おや? なんだ二人とも起きていたのか。それならちょうど良い」
お酒を片手に神奈子が出てきた。
その後、結局朝まで飲み続け、三人まとめて早苗ちゃんに怒られた。
――――――――――
休日なのに、どんよりとした曇空。
今日の天気は悪そうです。
いつもより遅く起きると、三人が縁側で仲良く寝ていた。本当に仲が良いんですね。
その周りには酒瓶や樽が沢山。
……とりあえず、説教だ。
「いや~ちょっと飲みすぎたね」
ご機嫌な様子で神奈子様が言った。
「……頭痛い。あれのどこが、ちょっとだよ。樽一気とか考えられん……おい、諏訪子も起きろって。ああ、もう、抱きつくな。暑苦しい」
何をやっていたのですか……
そして、黒さんに抱きつくようにして寝ている諏訪子様。いつもの帽子は何故か黒さんが被っていた。
「あーうー。あと、ちょっと……」
黒さんが一生懸命諏訪子様を離そうとしていたが、あーうー言ってなかなか離れない。
見ていて和む。
「それで、黒はいつ帰るんだい?」
そう言えば、黒さんとも今日でお別れ。
寂しくなります。
「昼くらいだと思うよ。あんまり自信ないけれど」
「朝食はどうされますか?」
「俺は遠慮しておくよ。あまり固形物を入れたくないし」
だから、飲みすぎです。
「私も今日はいらないよ。諏訪子もいらないと思うから、悪いけれど朝食は早苗だけで済ませておくれ」
わかりました。
朝食を食べ終わり、3人のためにお茶を持っていくと、諏訪子様も起きていた。
「あうー、帽子を返してよー」
「はっはっはー。悪いがこの帽子は幻想行kぶぅっ……おまっ、今、腹はダメだって……」
諏訪子様にお腹を殴られ、倒れこむ黒さん。
あの……神社を汚すのはやめてくださいね。
「お茶をお持ちしました」
「雨か……」
外を眺めていた神奈子様が言った。
ああ、降ってきちゃったか。
「おお、ありがとね。早苗」
倒れ込んだ黒さんの背中に乗りながら、諏訪子様が言った。
お行儀が悪いですよ?
「なあなあ、諏訪子降りてくれないか?」
「だめっ。もう一泊していくのなら良いよ」
「そうだよ。黒だってもうちょっとゆっくりしていけば良いじゃないか」
諏訪子様と神奈子様が言った。この二柱は、私以外の人間と関わることができない。それってきっともの凄く寂しい事なんだろうな。
「そう言ってもらえる嬉しいけれど、帰らないとだしなぁ。んで、そろそろ降りてくれ重いんだけど……」
黒さんがそう言うと――
「重いとはなんだー!」
と、楽しそうに諏訪子様が言った。
本当に、黒さんとはどんな関係なんでしょうか?
シトシトと降っていた雨がポツポツへと変わり、お昼ころには土砂降りの雨となった。
黒さんたちはその間、ずっと縁側でお喋り。
「おお、これが夕立……じゃないから昼立ってやつなのかな?」
雨が凄い、まるで滝みたいだ。
最近はゲリラ豪雨ってよく言いますね。
「黒は朝立でしょ?」
クスクスと笑いながら諏訪子様が言った。
「おい、やめろバカ」
黒さんはその言葉に怒っていたけれど、どういう意味だろうか?
「さて、そろそろかな」
傘を手に持ち、黒さんが言った。
「もう行っちゃうの? また会えるよね?」
「いつでも来な。待っているからさ」
諏訪子様と神奈子様が言う。
「え……この雨の中、帰るのですか?」
いくら傘があっても流石にこれじゃあ、意味がないと思う。
「ま、大丈夫だよ。んじゃ、またいつか会おう」
そう言って黒さんが豪雨の中へ入って行く。
雨音と一緒に、12時を知らせる鐘が微かに響いた。
そして――また目の前が桜で埋まった。
「……すごい」
ここまで見事な桜吹雪は初めて見た。傘を差し、桜吹雪の中を黒さんがゆっくりと歩く。
その先には、金髪の女の人が僅かに見えた。
気がつくと黒さんは消えていた。
そして、黒さんが消えた瞬間、桜が雨に戻った。今のは……本当に現実だったんでしょうか?
「ねえ、神奈子。どういう意味だったと思う?」
諏訪子様が、黒さんの消えた方を見ながら言った。
「来いってことだろうさ」
「やっぱりそうだよねぇ……まぁ、そのことは神奈子に任せるよ」
何の会話でしょうか?
黒さんと別れたことは寂しいけれど、不思議とまた会える気がした。
小さな奇跡の続きは、きっとすぐ。
と、言うことで第34話でした
神奈子さん出番少なくてごめんねー
煙管は肺に入れると大変なことになりますよね
やはり紙煙草が一番な気がします
次話は未定です
まだ風神録には入らないと思いますが、どうなることやら……
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております