東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第36話~もみじがり~

 

 

「えっ? 妖怪の山に新しい神社?」

 

「そう、どうやら外の世界から移ってきたらしいわ。いったい、どこの誰でしょうね?」

 

 クスクスと胡散臭い笑を浮かべながら紫が言った。何を隠しているのやら……

 

 それは店の中で、のんびりくつろいでいる時のこと。

 いつものようにいきなり紫が現れ、そのことを教えてくれた。新しい神社ねぇ……しかし、なんで妖怪の山なんかに立てたんだか。あんなとこ、普通の人間には博麗神社より行きづらいのにね。天狗も五月蝿いし。

 

「そろそろ霊夢も動く頃だわ」

 

「うん? 霊夢が? 別にその新しい奴らが、異変を起こしたわけではないんでしょ?」

 

 ただ移ってきただけじゃなく、他にも何かやったのかな?

 

「どうやら、その新しく来た神社の巫女が、霊夢に博麗神社の営業もやめるように言ったみたい。どうせ、幻想郷の信仰を独り占めしようとか、考えているのでしょう。つまり、これは異変よ」

 

 営業も何も、あの神社に信仰なんてほとんど集まってないと思うけど。

 とは言え、博麗神社を止めにかかるとは……一見、ズレた考えだけど、幻想郷の中心はあの神社なのだし、正しい考えではあるかもしれない。それに、そんなことを言われたら、霊夢だって怒るだろうなぁ。

 異変か、全く……面倒なことを。

 

「んで、俺は何をすればいいのさ?」

 

 紫がそんな世間話をするためだけに、此処へ訪れたとは考えられない。

 

「あら、随分と察しが良いわね」

 

 そりゃあ、これでも長い付き合いだし……

 

「特に黒に、やってもらいたいことはないけれど……そうね、ちょっとその新し

い神社の様子でも見てきたら良いんじゃない?」

 

 つまり、行けってことですか。

 

「了解。まぁ、のんびりと妖怪の山でも見てくるよ」

 

 秋、実りと紅葉の季節。

 天狗は鬱陶しいけれど、紅葉狩と洒落込みましょうかね。

 

 ――あっ、そうだ紫。頼みたいことがあるんだけど。

 

 さてさて、今回はどんな人との出会いがあるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 全く、今思い出しても腹が立つ。いきなり来たかと思ったら、神社を明け渡せとか、信仰心をもらうだとかなんとか……だいたい、うちの神社に信仰心なんてほとんどないわよ。

 

 信仰心、か……どうにかもっと楽に、お賽銭が集まらないものかしら? うちにお賽銭が集まらないのも、信仰心が少ないからだろうか。

 

 そいつがいる場所へ向かう途中で倒した神や妖怪によると、何故か黒はもう既に此処へ来ているらしい。

 行くのなら、私と一緒に行けば良いのに……

 

「あやややや。侵入者がいると聞いて来てみれば、貴方でしたか」

 

 妖怪山を進んでいると、いつかの新聞記者天狗が現れた。

 

「私は天狗に用はないのだけど。この山に新しく来た神様に用があるだけ」

 

「ああ、あの神様のことね……」

 

 何か知っているらしい。

 まぁ、この山に住んでいるのだから、知っているに決まってそうだけど。

 

「この山を自分の物にしようとして、ひたすら信仰心を集めているってうわさよ。けれどもそれは、私達天狗がなんとかするから、貴方も黒さんも行く必要はないわ」

 

 折角ここまで来て、帰るわけがないでしょうに。

 

 それにしても――

 

「黒は今どこ?」

 

「今頃、頭でっかちで真面目な白狼天狗が、対応しているはずよ。残念だけど、黒さんじゃ勝てないでしょうね。天魔様なら、きっと黒さんがこの山に入ることを拒まないはずだけど、黒さんを嫌う大天狗も多いし」

 

 ――ホント面倒臭い。

 

 天狗の独り言が溢れた。

 

 対応ねぇ……

 

「……そいつって、あんたより強いの?」

 

「まさか。けれども、流石に黒さんには負けないわよ。どうしてあの人は、あんなに弱いのか……」

 

 なんだろうか、少しだけ心がざわつく。

 確かに、普段の黒は弱い。ちょっと驚いてしまうくらい弱い。けれども、きっと今の黒なら……

 

「じゃあ、黒が勝つわよ」

 

「……う~ん、貴方だって黒さんの実力はわかるでしょ? それに私は、貴方よりもずっと昔から、黒さんのことを知っている。貴方が思っているよりも、私と黒さんの仲は近いわよ」

 

 天狗の言葉に、チクリと体の何処かが痛んだ気がした。

 なんだって言うのよ……

 

「さて、無駄話はこれくらいにして……面倒だけど私は貴方を、あっさりと通すわけにはいかないの。さあ、前みたいに手加減してあげるから、本気で掛かって来なさい」

 

 どことなくモヤモヤした感じ。

 けれども、何故か調子は悪くない。それなら、本気でやってあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 紅葉を楽しみながら、歩いてゆっくりと妖怪山を進む。

 どうかどうか、天狗に見つかりませんように。

 

 季節は秋本番、赤や黄色に色付いた葉がとても綺麗だった。

 俺の能力も、花びらだけじゃなくて、紅葉とかにも変えられたら良かったのになぁ……良い加減、あの花びらも飽きた。

 

 

 自分では隠れるように進んでいたつもりだったけれど、道中では色々な奴らと出会うことに。焼き芋の香りがしたと思ったら秋姉妹の妹さんだった。

 

「や、久しぶり。今年も豊作だったっぽいよ」

 

「そうでしょう、そうでしょう。ま、私の力があればあのくらいは余裕ね」

 

 テンション高いなぁ……冬になると、ちょっと見ていられないほどのテンションになるのに。

 

「お姉さんにも、今年の紅葉も綺麗だったって伝えといてね。そうだ、今度焼き芋の作り方教えてよ」

 

 そんな感じで雑談をし、最後に紅白の巫女が現れたら、気をつけるように言って別れる。

 

 その次は厄神との出会いだった。

 

「ちょっ、お雛さんストップ、ストップ!」

 

 クルクルと回りながら近づいくるお雛さん。自分からお雛さんに話題を振るのはタブーだけど、これは仕方がないよね。

 えんがちょ、えんがちょ。

 

「あら? 黒じゃない。久しぶり。そして相変わらず貴方は厄を溜め込んでいるわね」

 

 あ、やっぱり? なんとなく、わかってた。

 

 厄を払ってもらいお雛さんと別れた後、河童なんかにも出会い、巫女には気をつけるように言っておいた。異変の時の霊夢は容赦ないからなぁ……

 

 

 そして、もう少しで目的地に着くと言うところで、犬走椛と名乗る白狼天狗に見つかった。

 これならさっさと、飛んで行けば良かったね。

 

「止まれ、そこの侵入者」

 

 いかにも天狗です。と言うような口調。

 お堅いねぇ。そういうのはあまり好きじゃないんだけど。

 

「別に天狗たちには、用ないんだから通してくれないかな?」

 

「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている」

 

 はぁ、大天狗ねぇ……まぁ、あの天魔が言うとは思えないけどさ。

 

 仕方がないか、たまには頑張ってみようかな。

 

 

 さあ、もみじ狩の時間だ。

 

 ……いや、流石にちょっと酷いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「いくら真面目に戦わなかったと言っても、やっぱり強いわね。これなら、あの厄介な神様だって……」

 

「じゃ、その神様の所まで案内して」

 

 黒のことは気になるけれど、大丈夫な気がする。それはただの勘でしかないけれど、多分間違いではない。

 

 それにしても、初めから勝つ気がないのなら、さっさと通してくれれば良いのに。

私がそのことを聞くと

 

「私が貴方をさっさと通したら、見回りをしている天狗が納得しないでしょ。組織に属すると言うことは、自分の意思だけでは動けなくなると言うことなのよ」

 

 面倒な種族なのね。私は天狗じゃなくて良かったわ。

 

「う~ん、なかなか報告が来ないわね。そろそろ来るはずなんだけど」

 

「報告? 何のよ?」

 

 また、新しい天狗が来るのだろうか? そうだったら面倒ね。

 

「黒さんを倒したら、私の所へその報告が来るはずなのだけど……何をやっているのか」

 

「あんたは黒のことを過小評価しすぎよ。そいつ、黒に負けたんじゃない?」

 

「流石にそれは……」

 

 天狗がそう言った時だった。楽しげな黒の声と、明らかに棒読みな少女の声が聞こえた。

 

「よしゃ、それ行けワンコ。目的地までもうちょっとだぞ」

 

「……わんわん」

 

 その声のした方を見ると、見知らぬ少女の背中に黒が乗っていた。

 ……なにやっているのよ。

 

「えっ」

 

 間の抜けた天狗の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 大天狗様から命令を受け、山に侵入した、黒という人間を追い払うことに。大天狗様曰く、その人物はまともに飛ぶことすらできないらしい。そんな奴、放っておいても勝手にやられそうだけど……

 しかし、上の命令には逆らえない。どこかの烏天狗は、上の命令をちゃんと聞かず、自分勝手にやっているそうだが……

 けれども、私はそんなことはしないし、やろうとも思わない。

 

 

 私の能力を使って、目的の人物を確認。

 力の無い者に此処は危険だと言うのに、そいつはのんびりと紅葉を見て、神々や河童とお喋りをしながら進んでいた。何を考えているのだろうか? これ以上進まれても困るから、黒と呼ばれる奴の場所まで行き声をかける。

 

「止まれ、そこの侵入者」

 

 舐められないよう、できるだけ低いトーンで。

 

 

「別に天狗たちには、用ないんだから通してくれないかな?」

 

 そうはいかない、こちらだって仕事なのだ。

 

「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている。犬走椛、白狼天狗。お前は?」

 

 私がそう言うと黒は――はぁとため息をついて言った。

 

「黒。少しだけ長生きの人間」

 

 そして、黒が小さなナイフを構えた。

 そんな物で私とやるつもりなのか? なんとも間の抜けた人間だ。

 

「通してはくれないんだよね?」

 

 当たり前だ。

 

 さっさと終わらせるために、妖弾を何発か放つ。

 気絶されたら運ぶのが面倒だけれど、此処は仕方がない。

 

 しかし、そいつは飛ぶこともなく妖弾を躱した。

 あれ? もしかして、意外と速い?

 

 その後、何発も妖弾を放ったが黒には当たらず、その周りの木や地面ばかりが抉られていく。

 あーもうー、ちょこちょこと鬱陶しい。

 

「狗符『レイビーズバイト』」

 

 本当は、こんな奴相手に使いたくはなかったけれど、これ以上続けたくもない。

 

 弾幕と砂埃が視界を覆った。ちょっと、やりすぎちゃったか?

 しかし、晴れた視界の先には黒が立っていた。何だか嫌な予感がする。

 

「……原酒『ハッジ・フィルズ・テペ』」

 

 黒がスペルを唱えると、飛んでいた私に、赤、白、桃色の大弾と小弾の混ざった弾幕が襲ってきた。

 

「っ! 速い!」

 

 完全に舐めていた。

 それは普通なら避けることのできた弾幕。慢心、油断、用意されている逃げ道には、間に合わない。

 

 大きな霊弾だけを避け、小さな霊弾は盾を使ってやり過ごす。

 それでも、何発か受けてしまった。威力はそこまでないが、頭がふらつく。

 

「山窩『エクスペリーズカナン』!」

 

 黒のスペルカードが終わった瞬間に叫んだ。

 どういうことだ? 聞いていた話と違う。そんなこの状況を頭が理解しようとしてくれない。

 

「舞符『さくらさくら』」

 

 黒の声が小さく響くと、私の放った弾幕全てが花びらへと変わった。

 

 再び視界が埋まり、黒を見失う。

 ど、どこへ行った!?

 

 そして目の前に、あの小さなナイフが構えられていた。

 きっと、最初からこの勝負に私は負けていたのだろう。

 

「……参りました」

 

 ここから、生涯忘れることのないような、地獄の時間が始まった。

 

 

 






主人公の貴重な勝利シーンでした
たぶん、もうないです

と、言うことで第36話でした
椛さんの口調にひたすら迷いました
敬語を喋らせれば良かったです

次話は、主人公と椛さんのその後あたりでしょうか?

では、次話でお会いしましょう


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