「えっ? 妖怪の山に新しい神社?」
「そう、どうやら外の世界から移ってきたらしいわ。いったい、どこの誰でしょうね?」
クスクスと胡散臭い笑を浮かべながら紫が言った。何を隠しているのやら……
それは店の中で、のんびりくつろいでいる時のこと。
いつものようにいきなり紫が現れ、そのことを教えてくれた。新しい神社ねぇ……しかし、なんで妖怪の山なんかに立てたんだか。あんなとこ、普通の人間には博麗神社より行きづらいのにね。天狗も五月蝿いし。
「そろそろ霊夢も動く頃だわ」
「うん? 霊夢が? 別にその新しい奴らが、異変を起こしたわけではないんでしょ?」
ただ移ってきただけじゃなく、他にも何かやったのかな?
「どうやら、その新しく来た神社の巫女が、霊夢に博麗神社の営業もやめるように言ったみたい。どうせ、幻想郷の信仰を独り占めしようとか、考えているのでしょう。つまり、これは異変よ」
営業も何も、あの神社に信仰なんてほとんど集まってないと思うけど。
とは言え、博麗神社を止めにかかるとは……一見、ズレた考えだけど、幻想郷の中心はあの神社なのだし、正しい考えではあるかもしれない。それに、そんなことを言われたら、霊夢だって怒るだろうなぁ。
異変か、全く……面倒なことを。
「んで、俺は何をすればいいのさ?」
紫がそんな世間話をするためだけに、此処へ訪れたとは考えられない。
「あら、随分と察しが良いわね」
そりゃあ、これでも長い付き合いだし……
「特に黒に、やってもらいたいことはないけれど……そうね、ちょっとその新し
い神社の様子でも見てきたら良いんじゃない?」
つまり、行けってことですか。
「了解。まぁ、のんびりと妖怪の山でも見てくるよ」
秋、実りと紅葉の季節。
天狗は鬱陶しいけれど、紅葉狩と洒落込みましょうかね。
――あっ、そうだ紫。頼みたいことがあるんだけど。
さてさて、今回はどんな人との出会いがあるのかな?
――――――――――
全く、今思い出しても腹が立つ。いきなり来たかと思ったら、神社を明け渡せとか、信仰心をもらうだとかなんとか……だいたい、うちの神社に信仰心なんてほとんどないわよ。
信仰心、か……どうにかもっと楽に、お賽銭が集まらないものかしら? うちにお賽銭が集まらないのも、信仰心が少ないからだろうか。
そいつがいる場所へ向かう途中で倒した神や妖怪によると、何故か黒はもう既に此処へ来ているらしい。
行くのなら、私と一緒に行けば良いのに……
「あやややや。侵入者がいると聞いて来てみれば、貴方でしたか」
妖怪山を進んでいると、いつかの新聞記者天狗が現れた。
「私は天狗に用はないのだけど。この山に新しく来た神様に用があるだけ」
「ああ、あの神様のことね……」
何か知っているらしい。
まぁ、この山に住んでいるのだから、知っているに決まってそうだけど。
「この山を自分の物にしようとして、ひたすら信仰心を集めているってうわさよ。けれどもそれは、私達天狗がなんとかするから、貴方も黒さんも行く必要はないわ」
折角ここまで来て、帰るわけがないでしょうに。
それにしても――
「黒は今どこ?」
「今頃、頭でっかちで真面目な白狼天狗が、対応しているはずよ。残念だけど、黒さんじゃ勝てないでしょうね。天魔様なら、きっと黒さんがこの山に入ることを拒まないはずだけど、黒さんを嫌う大天狗も多いし」
――ホント面倒臭い。
天狗の独り言が溢れた。
対応ねぇ……
「……そいつって、あんたより強いの?」
「まさか。けれども、流石に黒さんには負けないわよ。どうしてあの人は、あんなに弱いのか……」
なんだろうか、少しだけ心がざわつく。
確かに、普段の黒は弱い。ちょっと驚いてしまうくらい弱い。けれども、きっと今の黒なら……
「じゃあ、黒が勝つわよ」
「……う~ん、貴方だって黒さんの実力はわかるでしょ? それに私は、貴方よりもずっと昔から、黒さんのことを知っている。貴方が思っているよりも、私と黒さんの仲は近いわよ」
天狗の言葉に、チクリと体の何処かが痛んだ気がした。
なんだって言うのよ……
「さて、無駄話はこれくらいにして……面倒だけど私は貴方を、あっさりと通すわけにはいかないの。さあ、前みたいに手加減してあげるから、本気で掛かって来なさい」
どことなくモヤモヤした感じ。
けれども、何故か調子は悪くない。それなら、本気でやってあげる。
――――――――――
紅葉を楽しみながら、歩いてゆっくりと妖怪山を進む。
どうかどうか、天狗に見つかりませんように。
季節は秋本番、赤や黄色に色付いた葉がとても綺麗だった。
俺の能力も、花びらだけじゃなくて、紅葉とかにも変えられたら良かったのになぁ……良い加減、あの花びらも飽きた。
自分では隠れるように進んでいたつもりだったけれど、道中では色々な奴らと出会うことに。焼き芋の香りがしたと思ったら秋姉妹の妹さんだった。
「や、久しぶり。今年も豊作だったっぽいよ」
「そうでしょう、そうでしょう。ま、私の力があればあのくらいは余裕ね」
テンション高いなぁ……冬になると、ちょっと見ていられないほどのテンションになるのに。
「お姉さんにも、今年の紅葉も綺麗だったって伝えといてね。そうだ、今度焼き芋の作り方教えてよ」
そんな感じで雑談をし、最後に紅白の巫女が現れたら、気をつけるように言って別れる。
その次は厄神との出会いだった。
「ちょっ、お雛さんストップ、ストップ!」
クルクルと回りながら近づいくるお雛さん。自分からお雛さんに話題を振るのはタブーだけど、これは仕方がないよね。
えんがちょ、えんがちょ。
「あら? 黒じゃない。久しぶり。そして相変わらず貴方は厄を溜め込んでいるわね」
あ、やっぱり? なんとなく、わかってた。
厄を払ってもらいお雛さんと別れた後、河童なんかにも出会い、巫女には気をつけるように言っておいた。異変の時の霊夢は容赦ないからなぁ……
そして、もう少しで目的地に着くと言うところで、犬走椛と名乗る白狼天狗に見つかった。
これならさっさと、飛んで行けば良かったね。
「止まれ、そこの侵入者」
いかにも天狗です。と言うような口調。
お堅いねぇ。そういうのはあまり好きじゃないんだけど。
「別に天狗たちには、用ないんだから通してくれないかな?」
「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている」
はぁ、大天狗ねぇ……まぁ、あの天魔が言うとは思えないけどさ。
仕方がないか、たまには頑張ってみようかな。
さあ、もみじ狩の時間だ。
……いや、流石にちょっと酷いか。
――――――――――
「いくら真面目に戦わなかったと言っても、やっぱり強いわね。これなら、あの厄介な神様だって……」
「じゃ、その神様の所まで案内して」
黒のことは気になるけれど、大丈夫な気がする。それはただの勘でしかないけれど、多分間違いではない。
それにしても、初めから勝つ気がないのなら、さっさと通してくれれば良いのに。
私がそのことを聞くと
「私が貴方をさっさと通したら、見回りをしている天狗が納得しないでしょ。組織に属すると言うことは、自分の意思だけでは動けなくなると言うことなのよ」
面倒な種族なのね。私は天狗じゃなくて良かったわ。
「う~ん、なかなか報告が来ないわね。そろそろ来るはずなんだけど」
「報告? 何のよ?」
また、新しい天狗が来るのだろうか? そうだったら面倒ね。
「黒さんを倒したら、私の所へその報告が来るはずなのだけど……何をやっているのか」
「あんたは黒のことを過小評価しすぎよ。そいつ、黒に負けたんじゃない?」
「流石にそれは……」
天狗がそう言った時だった。楽しげな黒の声と、明らかに棒読みな少女の声が聞こえた。
「よしゃ、それ行けワンコ。目的地までもうちょっとだぞ」
「……わんわん」
その声のした方を見ると、見知らぬ少女の背中に黒が乗っていた。
……なにやっているのよ。
「えっ」
間の抜けた天狗の声が響く。
――――――――――
大天狗様から命令を受け、山に侵入した、黒という人間を追い払うことに。大天狗様曰く、その人物はまともに飛ぶことすらできないらしい。そんな奴、放っておいても勝手にやられそうだけど……
しかし、上の命令には逆らえない。どこかの烏天狗は、上の命令をちゃんと聞かず、自分勝手にやっているそうだが……
けれども、私はそんなことはしないし、やろうとも思わない。
私の能力を使って、目的の人物を確認。
力の無い者に此処は危険だと言うのに、そいつはのんびりと紅葉を見て、神々や河童とお喋りをしながら進んでいた。何を考えているのだろうか? これ以上進まれても困るから、黒と呼ばれる奴の場所まで行き声をかける。
「止まれ、そこの侵入者」
舐められないよう、できるだけ低いトーンで。
「別に天狗たちには、用ないんだから通してくれないかな?」
そうはいかない、こちらだって仕事なのだ。
「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている。犬走椛、白狼天狗。お前は?」
私がそう言うと黒は――はぁとため息をついて言った。
「黒。少しだけ長生きの人間」
そして、黒が小さなナイフを構えた。
そんな物で私とやるつもりなのか? なんとも間の抜けた人間だ。
「通してはくれないんだよね?」
当たり前だ。
さっさと終わらせるために、妖弾を何発か放つ。
気絶されたら運ぶのが面倒だけれど、此処は仕方がない。
しかし、そいつは飛ぶこともなく妖弾を躱した。
あれ? もしかして、意外と速い?
その後、何発も妖弾を放ったが黒には当たらず、その周りの木や地面ばかりが抉られていく。
あーもうー、ちょこちょこと鬱陶しい。
「狗符『レイビーズバイト』」
本当は、こんな奴相手に使いたくはなかったけれど、これ以上続けたくもない。
弾幕と砂埃が視界を覆った。ちょっと、やりすぎちゃったか?
しかし、晴れた視界の先には黒が立っていた。何だか嫌な予感がする。
「……原酒『ハッジ・フィルズ・テペ』」
黒がスペルを唱えると、飛んでいた私に、赤、白、桃色の大弾と小弾の混ざった弾幕が襲ってきた。
「っ! 速い!」
完全に舐めていた。
それは普通なら避けることのできた弾幕。慢心、油断、用意されている逃げ道には、間に合わない。
大きな霊弾だけを避け、小さな霊弾は盾を使ってやり過ごす。
それでも、何発か受けてしまった。威力はそこまでないが、頭がふらつく。
「山窩『エクスペリーズカナン』!」
黒のスペルカードが終わった瞬間に叫んだ。
どういうことだ? 聞いていた話と違う。そんなこの状況を頭が理解しようとしてくれない。
「舞符『さくらさくら』」
黒の声が小さく響くと、私の放った弾幕全てが花びらへと変わった。
再び視界が埋まり、黒を見失う。
ど、どこへ行った!?
そして目の前に、あの小さなナイフが構えられていた。
きっと、最初からこの勝負に私は負けていたのだろう。
「……参りました」
ここから、生涯忘れることのないような、地獄の時間が始まった。
主人公の貴重な勝利シーンでした
たぶん、もうないです
と、言うことで第36話でした
椛さんの口調にひたすら迷いました
敬語を喋らせれば良かったです
次話は、主人公と椛さんのその後あたりでしょうか?
では、次話でお会いしましょう
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