「あっ、そうだ紫。頼みたいことがあるんだけど」
「なに?」
「ちょっと俺と繋げておいてくれない?」
「……ダメよ。この前にやったことを忘れたの?」
「あ~……まぁ、でも今回は大丈夫だと思うよ。妖力を霊力に変換して使うだけだし」
「そんなことできるの?」
「この前、白に教えてもらった」
――――――――
「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている。犬走椛、白狼天狗。お前は?」
俺の頭上を飛び、椛と名乗った少女が言ってきた。
術式を展開、有り余る妖力を霊力に。
体の調子を確認。調子はいつもより、ずっと良い。
霊力への変換率は、良くても3%。それでも、俺の霊力は3倍近くにまで増えた。
まぁ、元が少ないしね。
体が軽い、こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて。
「黒。少しだけ長生きの人間」
そう言って俺がナイフを構えると、椛ちゃんは弾幕を放ってきた。
いつかのフランちゃんの弾幕と比べると、密度は薄いし弾速も遅い。これくらいなら、能力を使うまでもないかな。
どうやら、相手は俺のことを舐めてくれているみたい。大天狗から何を教わったのか知らないけれど、それなら好都合です。
砂埃が立ち上り、地面は抉られ、木片が飛び散る。たぶん、一発食らったら終了だろう。
「狗符『レイビーズバイト』」
なかなか当たらない俺に、痺れを切らしたのだろうか。椛ちゃんの声が響く。
前後から、大量の弾幕が襲いかかってきた。けれども躱せない弾幕ではない。
う~ん、やっぱり舐められているのかな?
砂埃のスキマから、椛ちゃんと一瞬目が合う。
さてさて、それじゃあ今度は俺の番です。
「……原酒『ハッジ・フィルズ・テペ』」
赤白ピンクの弾幕をぶちまけた。
何故か、椛ちゃんのスタートは遅れ、さらに運良く一番弾幕の濃い部分にいてくれる。
このスペカって実は、小さな弾の方が強いんだよね……大きいのは中身スカスカで、当たってもダメージなんてないだろう。流石に霊力が足りませんでした。これは、そんな子供騙しのスペルカード。
何発か椛ちゃんに当てることはできたけれど、倒れてはくれなかった。
まぁ、そんなもんか。
「山窩『エクスペリーズカナン』!」
椛ちゃんが叫んだ。
その弾幕を避けようとした時、体に異変が起き始めた。ゆっくりと霊力が消えていく感覚。
えっ……制限時間短くね? ヤバいヤバい!
慌てて椛ちゃんの位置を確認。テンパりながらも、なんとかスペルを唱える。
「舞符『さくらさくら』」
上から襲ってくる弾幕全てを、桜の花へ。足に力をこめ、桜を押しのけ、さっき確認した椛ちゃんの位置まで飛び上がる。
そして切れないナイフを突きつけた。
残りの霊力は、ほぼゼロ。
……お願いですから、これで降参してください。
「……参りました」
制限時間ギリギリ、作戦は穴だらけ。それでも勝てたのは運が良かったからなのかな?
お雛さんには感謝です。
そして、あんまり人間を舐めちゃだめだよ? まぁ、俺が人間かと聞かれるとちょっと怪しいけれどさ。
椛ちゃんと共に地面へ降りたが、足の震えが止まらない。疲れも一気に襲ってきた。
どこかに良い、乗り物ないかな~そんなことを思いつつ、椛ちゃんを見つめる。
「……なんですか?」
すごく不機嫌そうな椛ちゃん。
うん、良い表情じゃないか。
「ねぇ、犬なんとか椛ちゃん」
「その悪意しか感じない呼び方はやめてください!」
「じゃあ、犬ちゃん」
「もっとダメだよ!! ブッ飛ばすぞ!?」
おおー、椛ちゃんがキレた。
う~ん、ずっとからかっていたいけれど、これ以上はカメラが止まる。そろそろ話を進めるとしよう。
「ちょいと、新しくできた神社まで乗せてってくれない?」
もう、歩くのも面倒だし、椛ちゃんと一緒なら他の天狗も襲ってこない。正に一石二鳥。
椛ちゃんのメリットは皆無だけど。
「嫌です。なんで私が……」
ほほー、そんな反抗的なことを言って良いのかな?
「じゃあ、俺みたいな弱い奴に、椛ちゃんは手も足も出ずボコボコにされたって、これから合う天狗全員に言いながら進むよ」
俺がそう言うと、椛ちゃんはビクっと体を震わせた。
「えっ、それは……」
……なんだろう、こんな反応されると、俺の弱さを見せつけられているようだ。
えっ? 俺ってそんなに弱いって思われていたの?
「わかりました……案内します」
肩と犬耳を落としながら椛ちゃんが言った。さて、じゃあどうやって乗せてってもらおうかな?
ん~……
「よしっ、ほら四つ這いになれ」
それは、本の冗談で言った言葉。けれどもその言葉を受け椛ちゃんは、ギリギリと歯を噛み締め俺を睨みつけながら、地面に手を置いた。
……えっ、マジで?
どうしよう……今更冗談でした。とも言えないし……
「ほら、黒。さっさと乗ってください!」
めっちゃ怒ってるよ。ん~ここまで来たら、徹底的にやった方が良いのかな?
「黒? 黒さん。だろ? ああ、ご主人様でも良いよ?」
おお、何かテンション上がってきた。
「っーー!……乗ってください、黒さん」
椛ちゃんが凄い表情になった。
あれ? ちょっと泣いて……み、見なかったことにしよう。
椛ちゃんの背に乗り、神社へ向かう途中も椛ちゃんで遊び続けた。呼び方をワンコに変えたり、「わんわん」と言わせてみたりなどなど。なにこれ楽しい。
そんな俺を乗せながら何かを呟く椛ちゃん。
――コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル……
ああ、うん。聞かなかったことにしよう。
「よしゃ、それ行けワンコ。目的地までもうちょっとだぞ」
「……わんわん」
目的地までもう少し。椛ちゃんは反抗するのも諦めたらしい。
彼女はちょっと真面目すぎるかもね
そして、視界に霊夢と文が映った。霊夢にはいつの間にか抜かされていたっぽい。ちょっと遊びすぎたね。
文が俺たちに気づくと――
「えっ」
と、間の抜けた声を出した。
椛ちゃんも文たちに気づくと、俺を振い落し、俺は地面に叩きつけられた。……痛い。
「えと……どうして黒さんと貴方が?」
そんなことを文が聞いてきた。
椛ちゃんの方を見ると、下を向き肩を震わせていた。
……ふむ。
椛ちゃんの頭に手を置き、文へ伝える。
「ただ椛ちゃんに案内してもらっただけだよ」
――えっ。
なんて声を出し、椛ちゃんが俺を見てきた。
ごめんね、ちょっと意地悪しすぎたな。
「……そうですか。まぁ、また後で詳しく聞かせてくださいね」
納得していない様子の文。
それはやめてもらいたい。俺は喋んないよ? 文に捕まると面倒だし。
「神社はすぐそこですので、私は仕事へ戻ります。では、また」
と言い、ものすごい速さで文は飛んで行ってしまった。
「んじゃ、行くか」
霊夢と椛ちゃんに言う。
「勝てたの?」
霊夢が聞いてきた。
「うん」
そして、俺がそう言うと霊夢は――
「そう」
とだけ言った。
たったそれだけの言葉だけれど、何故か霊夢の機嫌は良さそうに見える。
それから、神社へ続いていると思われる道を、三人でゆっくりと進んだ。
「そう言えば黒は、ここの神社の奴らとも知り合いなの?」
「いや、今回はわかんないよ。全く何処の誰がこんなことをしたのか……」
しかし、外の世界から神社ごと移すってことは、相当力があるんだろうね。話の通じる相手だと良いけれど……
そんなことを考えつつ、紅葉なんかを見ながら進んでいると、頭にコツンと何かが降ってきた。
「おろ? ああ、ドングリか……霊夢、食べる?」
「バカにしないで、流石に今はそこまで飢えてないわよ。そんなの犬にでも食わせておきなさい」
今はってお前……
それにしても、ふむ、犬にでも、か。
「はい、じゃあ椛ちゃんにあげるよ」
「だから、私は犬じゃありません!」
怒られた。
別に犬でも良いと思うけどなぁ。
可愛いじゃん犬。俺は猫派だけど。
「ほら、バカなことやっていないで、さっさと進むわよ」
いかんな、幻想郷には珍しいツッコミ要因がいたからつい……
参道を上り終え、立派な鳥居をくぐり漸く神社に着いた。
って、あら? この神社にこの気配……
「フフッ、まさか貴方の方から山に入るとは、今すぐうちの神様を……って、えっ?」
早苗ちゃんがいた。
……なんだこれ。
クヌギなんかのドングリはあくが多くて抜くのが面倒ですが、結構美味しいですよね
あくが少なく、水に沈むような新鮮なドングリは生でも美味しいですよ
と、言うことで第37話でした
ツッコミ要因は大切ですね
主人公も、ちょっとだけ強くなったっぽいです
どのくらいの強さかよくわかりませんが
次話は守矢神社からですね
では、次話でお会いしましょう
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