「それじゃ、新しい仲間と、これからの幻想郷に……」
――乾杯っ!
博麗神社にそんな元気な声が響き渡った。
日も沈み、妖怪たちが騒ぎ出す時間。博麗神社の周りも、漸く葉たちが色づいてきている。
守矢神社、紅魔館、白玉楼に永遠亭の皆さんも交えての大宴会。それにしても……開く度にメンバーが増えてない? 俺の持ってきたお酒だけじゃ、絶対足りないよね。
ただ、今年のお米は粒も大きく良いできだった。きっと日本酒も美味しくできたと思う。
「なんだか、ここは不思議な場所ね」
神奈子が言ってきた。
人間や妖怪、亡霊なんかもいる。きっとそれは外の世界じゃ考えられないこと。
「悪くない場所でしょ?」
「まぁね。外の酒だけど飲むかい?」
む! 諏訪のお酒ってこと? それならいただきます。
酒処諏訪。諏訪のお酒って美味しいんだよね。
神奈子からもらった酒に口をつけてみる。
芳醇な香りや深い味があるわけでもない。それでも……
「おいしい」
軽く喉を焼きながら体に染み渡っていく。
とにかく美味しい。香りや味がどうでもよくなるほどに美味しい。どうやったら、こういうお酒が作れるのかね?
「これ、高かったんじゃない?」
きっと純米大吟醸だろう。
「最後だったしね。全部のお金を使ったのよ」
いかんな、口当たりが軽いせいかどんどん飲んでしまいそうだ。外の世界にも、こんなお酒が残っていたのか……
萃香のお酒でも飲んで、一回落ち着かないと。
「私は黒の作ってくれたお酒も好きだよ」
そりゃあ、嬉しいね。そう言ってもらえれば、作ったかいもある。
周りを見ると、早苗ちゃんが一人でポツンとしていたのを見つけた。
「早苗ちゃんは飲まないの?」
「その、私はまだ未成年ですし……」
同じ未成年仲間の、霊夢や魔理沙ちゃんは飲みまくってるけどね。
「ここは幻想郷。外の世界とは違うから、未成年とか気にしなくても大丈夫だよ」
とは、言うものの今の早苗ちゃんじゃ、美味しくお酒を飲めやしないだろう。お酒を飲んだこととか、なさそうだもん。
「でも、今までお酒なんてちゃんと飲んだことがないですし」
あ、やっぱり。
いきなり、鬼のお酒とか飲んだらどうなるのかな? ちょっと見てみたい気も……
今ここにあるお酒は全部、アルコール度数が高い。初めて飲むには厳しいかもね。
そんなことも考えて、ちゃんと用意してきたんだ。
「ちょっと待っててね」
博麗神社の母屋まで行き、準備をする。そして、できた物を早苗ちゃんに。
「はい、どうぞ」
「えと、これは?」
梅酒とレモンティーを1対1で割った物。お酒の香りもあまりしないから、飲みやすいと思う。
「あ、おいしい」
恐る恐ると言った感じで飲み、早苗ちゃんが言った。そかそか、そりゃあ良かった。
「せっかくの宴会なんだしさ。色々な奴らと話をしてみれば? 宴会中のあいつらは結構楽しいよ」
俺がそう言うと早苗ちゃんは――
「はい、そうしてみます。飲み物ありがとうございました」
と、言って騒がしい方へ向かって行った。
ああ、逝ってしまったか……たぶん、助からないだろうな。
早苗ちゃんの最期を見届けていると、後ろから声が聞こえた。
「わー久しぶりー!」
声のした方を向くと、フランちゃんがお腹へ突撃してきた。
体に衝撃が走る。息が止まった。
「こ、こひゅ……あふ……や、やあ久しぶりフランちゃん」
飛びそうになった意識を何とか捕まえて、フランちゃんに話しかけた。
「最近は全然来てくれないけど、どうしたの?」
そう言えば、最近紅魔館へ行ってなかったね。単純に忘れていただけです。うん、じゃあ、今度遊びに行くよ。なんて、フランちゃんに伝えようとすると、また声が聞こえた。
「わー黒だー!」
諏訪子が頭から、俺の横腹へ体当たりをしてきた。
レバーへもろに入った。
「ちょっ……おまっ……」
やばい、上手く声が出ない。
「わー! わー!」
また声がした。
萃香だった。
ちょっと待って! 無理! 萃香は無理!!
角刺さるから! 案外簡単に刺さるから!!
――――――――――
「わーっ、黒が倒れた!」
「えっ? これ生きてる?」
宴会らしい賑やかな声が博麗神社に響く。
「……息してない」
うん、いつも通りだ。
そんないつも通りの宴会、いつも通りの博麗神社に見慣れないものが一つ。そいつは鳥の巣箱のような形をしていた。
「なあ、霊夢。神社の隅の方にある鳥の巣箱みたいなやつはなんだ?」
「巣箱じゃなくて神社よ」
霊夢がお酒を飲みながら答えた。
霊夢の視線は、倒れている黒の方。気になるのなら行けば良いのにな。
「神社? こんなに小さいのにか?」
しかも、どうして新しい神社なんて作ったのか。
「詳しく言うと、神奈子の分社よ。試しに建ててみたの」
こんな小さな神社で効果があるのか? と思ったが、どうやらこれだけで十分らしい。神社ってのは、随分と融通が利くな。
きっとこの分社がこんなに小さいのは、霊夢のちょっとした意地なんだろうな。そう考えると、少しだけ笑える。
「……何笑っているのよ、魔理沙」
おっと、表情に出ていたらしい。コイツはやたらと聡いし、気を付けないとな。
「いや、なんでもないよ」
しかし、こんなもので神社になるとは……今度私も作ってみようかな。
霊夢はこの分社を建てたことで、人間の参拝客(お賽銭)を期待していたが、たぶん無理だろう。分社云々の前に、此処へ蔓る妖怪を何とかしないと。
周りを見る。
沢山の妖精や妖怪。そしてその中に、新しく来た早苗とか言う巫女が、境内の真ん中で倒れていた。
アレ、大丈夫なのか? どうやら巫女にも色々な種類があるらしい。
「全く、静かにお酒も飲ませちゃくれない」
黒が片手にお酒、腰に萃香をつけてこちらに来た。
と、言うか逃げてきただけだろうな。逃げきれてないけど。
「や、魔理沙ちゃん」
「よ、黒」
とりあえず、黒からお酒をもらう。それは最近作ったばかりのお酒らしい。細かい味なんて私にはわからないけど、まぁ、美味しいことは確かだ。
私はお酒に詳しくないけれど、美味しく飲むことができれば十分だと思う。
「なあ、黒。信仰ってなんだ?」
「ん~……何かを信じるってことじゃないかな。一般的には神様をなんだろうけど、魔理沙ちゃんの場合は魔法とかでも良いんじゃない?」
――詳しいことは神奈子にでも聞いてくれ。
と、黒はそう答えた。
へ~、そういうもんなのか。
ああ、そうだ、黒に聞かなきゃいけないことがあった。
「黒ってロリコンなんだろ?」
ロリコンの意味は知らないが。
「えっ」
あら、固まった。
「え? え? 魔理沙ちゃん、それは誰から?」
「この前、紫から聞いた。んで、ロリコンってどういう意味?」
――あのババァ……
そんな黒の独り言が聞こえた。
んなこと言うと、また怒られるぞ。私は知ったこっちゃないが。
「ロリコンっていうのはねー。私みたいに小さな女の子が好きな人を言うんだよ。へ~、黒ってロリコンだったんだ」
ニヤニヤと笑いながら、守矢神社のもう一柱の神様である、諏訪子が言った。つまり、さっきフランドールや萃香に絡まれていたのも、黒にとっては……
「へ、変態だ」
「いや違う! 違うからね!?」
「へ~そうだったの」
霊夢の声が聞こえた。うわっ、めっちゃ不機嫌になってる。いったいどうしたのだろうか?
「れ、霊夢さん? なんでそんなに怖い顔を?」
「べつに、なんでもないわ」
オロオロしている黒と、ツーンとしている霊夢。なんだか見ていて微笑ましいな。
宴も闌。
うんっ、お酒が美味しい季節だ。
――――――――――
魔理沙ちゃんには引かれるし、霊夢は機嫌が悪いしと、なんだかなぁ……別に俺は悪いことしてないと思うんだけど。
せっかくの宴会。
色んな奴と話さなければもったいない。
勇気を振り絞って、八意さんに背の伸びる薬はないか聞いてみた。すると、八意さんがとても良い笑顔で、今度永遠亭に来いと言ってくれたけれど、何をされるんでしょうね?
その笑顔がひたすらに怖いよ……
酔っ払って刀を振り回している妖夢ちゃんを宥め、倒れた早苗ちゃんを神社へ運び、姉妹仲良くお話中のスカーレット姉妹の所へ。
少し昔と比べると、この姉妹もかなり仲良くなったと思う。この前、紅魔館へ遊びに行ったときは、レミリアが――
「たーべちゃうぞー!」
とか言いながら、フランちゃんと鬼ごっこをしていた。流石に、それはどうかと思う。
レミリアに最近の調子を聞くと、ロケットを作って月へ行くらしい。
……逝ってらっしゃい。
えっ? 俺もついて来い? 勘弁して下さい。
騒がしかった宴会も、日が昇り始める頃に終わった。後片付けも済ませ、お茶を飲んで一服。
あ~眠い。
隣でお茶を飲んでいる霊夢も、眠そうにしていた。お疲れ様。
そして、霊夢の機嫌も元に戻ってくれたらしい。良かった、良かった。
お茶も飲み終わり、帰る準備を始める。俺も流石に眠いです。
ふむ……
「なあ、霊夢。今度どこかへ遊びにでも行くか」
人里でもブラブラとさ。
「二人で?」
「二人で」
「……逢引?」
んなわけないでしょうが。
「まぁ、別に良いけれど……」
そかそか、それなら良かった。
さてっと、帰ろっかな。
「じゃ、また」
茹だるような暑さも終わり、過ごしやすい季節。食欲、実り、読書、紅葉、行楽と見境なしの秋。
そんな季節、何からやってやろうかね?
諏訪のお酒と言えば真澄!
純米大吟醸、夢殿とか一度で良いから飲んでみたいです
諭吉を飛ばせば飲めますが……
と、言うことで第39話でした
目標の風神録もこれで終わりです
やっと失踪する準備ができましたね
とは言え、一応もう少し頑張る予定です
感想欄に書くのはNGだそうです
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております