東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第42話~名のない墓標に一握の花を~

 

 

「その建物は特別な場所。この月の都で唯一穢れがあり、最も神聖な場所。貴方じゃ入れないわよ。侵入者さん」

 

 最後まで上手くいくとは思っていなかったけれど、なんだかな~。ホント、昔からこんなんばっかだね。

 

 それにしても、唯一穢れが残り最も神聖な場所ねぇ。そんなところに墓なんて作るなよ。

 

 後ろを振り返る。

 腰ほどまで金髪を伸ばした女性が立っていた。

 

「貴方は?」

 

「私は綿月豊姫。今は、月の都の防衛と地上の監視をしているわ。はぁ、まさか黒幕がもう一人いたとはね……」

 

 綿月……ん~ああ、なるほどさっきの人のお姉さんか妹さんか。きっとこの人が、八意さんの言っていた姉妹の一人なんだろう。たぶん、もう一人はさっきの莫迦みたいに強い人。

 

「俺は黒。あと、黒幕じゃなくてここへは観光に来ただけなんだけど」

 

 豊姫さんの言っている黒幕ってのは、たぶん紫のことだと思う。名前は黒だけど、俺は黒幕じゃないです。

 

 ……いやなんか、ごめん。

 

「そんなこと信じられるわけないでしょ。どの道、貴方はその建物には入ることができないけれど」

 

「やってみないとわからないよ?」

 

 墓参りくらい簡単にさせて欲しい。

 まぁ、ここにあいつらはいないんだけどさ。

 

「はぁ、じゃあ試してみなさいな。網膜認証システム。貴方たちにとっては違うでしょうけれど、私たちにとっては遥か昔のシステム。それでも、部外者を入れるほど脆いシステムじゃないわよ」

 

 網膜認証、か。

 なんだ……昔と変わってないんだね。

 

 扉に取り付けられたカメラに目を合わせてみる。

 

『ACCEPT No.96』

 

 無機質な声が響き、カチャリと何かが開く音がした。

 

 おお、この感じ懐かしいね。毛細血管パターンが変わっていたらどうしようとか、そもそも俺のデータが入っているのかとか思ったけれど、どうやら中へ入ることはできるらしい。

 

 いや~、良かったね。もし、これで開かなかったら恥ずかしくて死ねる。まぁ、死ねないんだけどさ……

 

 それにしても、いったい誰が俺のデータを入れてくれたんでしょうね?

 

「えっ……ちょっと待って! どうして、地上の者である貴方が? それにNo.96って……いえ、貴方が誰であろうと中へは入れさせないわ」

 

 そう言って、豊姫さんが俺に扇子を突きつけてきた。別に中に入って、いたずらをしようとか思っているわけじゃないんだけどなぁ。

 

「その扇子は?」

 

「全ての物質を素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子よ」

 

 ……何て言うもんを持っとるんだ、このお嬢ちゃんは!? おちおち落ち着けって、やめてください。死んでしまいます。

 

 ん? でも、そんな扇子を使ったらこの神聖な建物(笑)も浄化するんじゃない?

 あ、豊姫さんが少し苦い顔をした。ははーん、豊姫さんって実はどこか抜けているっぽいね。

 

 ……さて、こちらは別に争うつもりはない。

 

「ねぇ、豊姫さん。別に俺は危害を加えようとしているわけじゃなくて、本当にただ観光に来ただけなんだ。もし変なことをしたら殺してくれても良いからさ、中へ入らせてもらえないかな?」

 

「…………」

 

 豊姫さんは何も言わなかった。

 沈黙は肯定として受け取らせていただきます。

 

 

 

 そして、昔よりも軽く感じられた扉を開け、中へ入った。

 

 こんな時、何て言えば良いのかわからないけれど……まぁ、ただいま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 建物の中の様子は、流石に昔のそれとは違った。

 床の部分は土で、そこにいくつもの石の柱。神聖な場所の割には随分と寂しい場所だね。

 あいつらには賑やかな場所の方が似合うってのにさ。

 

 さてさて、俺のお墓はどれなのかな? お土産として持ち帰ってみたい。

 自分のお墓なんだし、それくらいは許されるよね。ダメですか? ダメだろうなぁ。

 

「それで、貴方の本当の目的は?」

 

 一緒について来た豊姫さんが言った。

 

「お墓参りだよ」

 

 結局地上では、あいつらの骨を拾ってやることはできなかったし。唯一残ってしまった家族として、これくらいはやらないと。

 

「貴方は……」

 

 いくつも立てられている石の柱の中で、一番奥のやつの所へ。その石の柱にはNo.01とだけ書かれていた。

 

「こいつはさ、数字のせいか皆から『お姉さん』とか呼ばれていたんだ。俺には姉なんていなかったけれど、No.01はいつも優しくて……もし、俺に姉がいたらこいつみたいな奴だったらいいなとか思ってた。まぁ、怒ると滅茶苦茶怖いんだけどさ」

 

 一つ隣の石の柱の前に立つ。

 そこにはNo.02という数字。

 

「こいつは、すっげーお堅い奴でさ、本当に真面目な奴だったよ。んで、成績も優秀だったけど結局最後まで一番にはなれなかった。そして、いつも他人に気を使ってばかりで自分のことは二の次。ホント、不器用だよな」

 

 百年、千年、一万年なんて軽く超えた昔々の話なはずなのに、何故か思い出がすらすらと口から溢れた。

 俺が一人で喋っている間、豊姫さんは何も言わなかった。

 

 一人一人の思い出を語っていく。こいつらの思い出話をできるのは、この世ではたぶん俺だけなのだろう。ああ、懐かしくて涙が出そうだ。

 

 

 

 No.45の話を終え、隣へ。

 No.46と書かれた数字。

 

「こいつは……」

 

 あれだけ饒舌だった俺の口が、いきなり止まった。

 

「……この方は? どう言う人だったの?」

 

 豊姫さんの声が聞こえた。

 

 全身が震える感覚。

 

「あ、ああ。こいつは、誰よりも明るくてさ。何が楽しいのか知らんけど、いっつもニコニコ笑ってた。んで、誰よりも成績が良くて最後まで一番だったな。それなのに……、結局こいつが一番最初に死んじゃったよ。95個の命を救うためにさ」

 

 ホント、アイツは何を考えてたんだろうね?

 

 

 その後も話し続け、漸く最後の柱となった。

 

「あ~……こいつはさ、誰よりも成績が悪くていつも一番下だったよ。それなりに努力はしていたっぽいけれど、その努力が報われることなんてなかった。でも、何故かコイツだけが最後の実験に成功したらしく、不老不死とか言う意味わからん存在になったらしいよ」

 

「それが……それが貴方なのね?」

 

 豊姫さんが言った。

 

「……そうらしいね」

 

 あ~あ、何が楽しくて自分の説明なんかしているんだか。全く、恥ずかしいったらありゃしない。

 

 どれくらいの時間、話し続けていただろうか。俺はもう喉がカラカラです。

 

「……私などが言うのは失礼かと思いますが、月人を代表してお礼を言わせて下さい」

 

「お礼はいいよ。もう貰ってる」

 

 以前、八意さんから受け取っているしね。これ以上は持ちきれない。

 

「敬語もいらない。その変わりさ、ここでお酒を飲んでも良い?」

 

 わざわざ地上から持ってきたんだ。これくらいは許して欲しい。

 

「……ええ」

 

 ありがとう。

 

 本当なら、こういう場面では乾杯じゃなく、献杯とか言うんだろう。しかし、しみったれた言葉はアイツらに似合わない。

 だから俺はいつものように言った。

 

 

「乾杯」

 

 

 たぶん、この時に飲んだお酒の味を忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、お墓まりも済ませたしそろそろ帰ろうかな。残ったお酒はどうしようか……このままじゃ荷物になるし、ん~。

 

「豊姫さん。このお酒いる?」

 

 困ったから、押し付けることにした。

 

「え? ああ、じゃあいただくわ」

 

 それにしても、お墓なのに花一つ無いなんて寂しいものだね。

 

 ……ふむ。せっかくここまで来たんだ、最後くらいは花々しくしてあげよう。

 

「神酒『ネクタール‐VERY EASY‐』」

 

 施設の天井からそこそこの量の弾幕が降る。

 

 紫とは繋げたままでいるものの、距離がかなり離れている。そんな今の俺にはこれっぽっちの小さな弾幕が限界。

 

「っ! 何をして!?」

 

 大丈夫だよ、すぐに変えるから。

 

 ネクタールってのは神々が飲む不老不死の霊薬。自然の雨から作られるそれを模した嘘っぱちの弾幕。

 

 そして、その弾幕を桜の花びらへ。

 

 君たちが普段見ているであろう桃の花も確かに綺麗だけれど、やっぱり俺はこの花が一番好きかな。

 

 土の床に薄桃色の絨毯を。色褪せ始めた思い出に一つの色を。あのバカヤローたちに一握の花びらを。

 俺にはこれくらいが限界です。

 

 

「ここで何をしている?」

 

 

 そんなことをし終わると、入口の方から男性の声が聞こえた。

 声のした方を見る。

 

 そこには見覚えのある姿が。

 

 ……ああ、そうか。そうだよな。俺達はこの人達の為にも戦ったんだもんな。あの日、空へ飛び立つ船に乗っていたはずなんだ。

 

「豊姫様がいながら、この場所でこんなことをして……お前はいった……い」

 

 男性の声が小さくなる。

 

 

「や、久しぶり。おっさん。ちょっとだけ老けたね」

 

 

 あの施設の研究者の一人がそこにいた。

 

「え……あ……どうして?」

 

 大の大人がまごまごするなよ、気持ち悪い。夢に出たらどうしてくれる。

 

「どうやら、おっさん達の実験は成功してたっぽいよ。おかげで俺は元気です」

 

 あ、別に皮肉を言っているわけじゃないからね。

 

「No.96……なのか?」

 

「うん」

 

 俺がそう言うと、おっさんが膝と手をつき、土下座をしようとした。

 

 俺はおっさんの顔面を蹴り上げた。

 

 本当にやめてください。心の底から気持ち悪いです。あんたにゃそんな行動似合わないでしょうが。

 

 なんだかな~昔みたいにギャーギャーと怒っても良いのに。これじゃあ、調子が狂うじゃないか。

 

 あんたら研究者達が何を思っているのか知らんけどさ、一億年も前のことだよ? そんなの気にすんなって。

 ……まぁ、ちょっと難しいかもしれないけどさ

 

「なあ、おっさん。俺達はさ、一人もあんたらを恨んでいる奴はいなかったよ。むしろ育ててくれたことに感謝してるし」

 

 俺みたいな問題児もしっかりと面倒を見てくれた。感謝しきれないほどだ。

 

「私達はお前達を見殺しに……」

 

 はぁ。だから、恨んでなんかないっての。なんとか、わかってくれないかねぇ。

 

「あの日、俺達が必死になって戦ったのはさ。白の弔い合戦って意味もあったけれど、おっさん達に無事月まで行って欲しかったってのもある。俺達が必死に戦っているところだって見てたんだろ? 最後に全員が空を見上げたのは、おっさん達の乗った船が飛び立てたからなんだぜ」

 

 俺の言葉が、おっさんへどこまで伝わったのか分からないけれど、俺がそう言うとおっさんは大声をあげ泣き始めた。

 

 育て親とも言って良い存在が大声を上げて泣くとか……トラウマになりそうな光景だった。頼むから夢には出ないでください。

 

 全く……どうして、こう月人ってのはすぐに謝ったりお礼を言ったりするのだろうね。どうせ貰えるのならお酒とかの方がよっぽど嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ泣いているおっさんを残して、施設の外へ。色々と話たいこともあったけれど、今はちょっと時間をおこう。

 

 あ~あ、おっさんの泣いている姿を見ていたせいか、こっちまで泣きそうだよ。

 

「黒、貴方……」

 

 後ろからついて来た豊姫さんが言った。

 

 ……わかっているから、それ以上は言わないで。

 

 視界がぼやける。頬を何かが流れた。

 

 

「ホント……おっさんが生きてて良かった……」

 

 

 これだけで俺達は救われた気がする。俺達がただ死んだだけではなかったって、初めて実感できた。

 

 






豊姫さんの持っている扇子は『森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす』としか書いてありませんが、この作品ではそれを全ての物質に対して、としました
森限定でしか使えなかったらすみません
そんな最新兵器はどうかとも思いますが……

と、言うことで第42話でした
一握どころか、両手でも足りないほどの花をぶちまけましたね

お酒の起源は、パンにたまった雨水(ビール)であったり、木の虚に木の実がたまりそこへ雨水が入ってできた物(果実酒)な~んて言う説があります
神酒『ネクタール』はそんな説を元にした弾幕です
今考えたわけではありません
違うったら違います
そして、なんとなく寂しい感じのお話となってしまいました
結局、儚月抄も終わらなかったし……

次話はこの続きか閑話となります

では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


アトガキナガクテ、ゴメンネー

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