お墓参りも無事に終了。結局、自分のお墓を持ってくることはしなかった。
そんなことができる空気じゃなかったんです。俺だって空気くらい読めます。
これで月には何の用事もないわけだけど、さてさて、どうやって月から帰れば良いのだろうか。
宙を見上げると、青い星がぽっかりと浮かんでいた。遠いなぁ……それに、霊夢たちがどうしているのかも気になる。
レミリアとかが暴れてなきゃ良いけど。
「ねぇ、豊姫さん」
「何かしら?」
「俺以外の侵入者が、今どうしているかわかる?」
たぶん、俺が勝手に逃げ出したことに怒っているよなぁ。会いたくないなぁ。
「一人以外は全員地上へ返したわ」
おろ、一人以外? それに、そんな簡単に帰らせられるものなの? 流石は月ですね。
「漸く見つけた。こんな所にいたのですね」
声のした方を向くと、莫迦みたいに強い人と霊夢がいた。
うん? でも、なんで霊夢が一緒に?
「や、先ほどぶり」
んで、霊夢はやっぱりこの人に勝てなかったっぽいね。霊夢も人間なんだな。少しだけ安心。
豊姫さんが依姫さんの所へ駆け寄って、何かを話し始めた。
「勝てなかった?」
霊夢に聞いた。
「…………」
霊夢は何も答えない。
ありゃ、珍しく落ち込んでいるのかな?
ふふっ、いくら霊夢でもそう言うこともあるってことだね。
そっと霊夢の頭に手を乗せてみる。
「ん……なに?」
「ま、お前はまだまだ小さいんだ。これからだって充分成長する。だから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
「……うん」
ん~、なんだかやけに素直だな。いつもこれくらいなら可愛げもあって良いのに。
「って、そう言えば黒。あんた、また一人で逃げ出したでしょ!」
むぅ、ちゃんと覚えていたのか。良い感じの話をして、何とか誤魔化せないかと思ったがダメか。
仕様がないでしょうが、お前らと一緒にいたら、お墓参りができそうになかったのだから。
「あの……本当に貴方は、あの施設の?」
霊夢にポコポコと叩かれていると、依姫さんが聞いてきた。豊姫さんが依姫さんに伝えたのだろう。
「うん、まぁ」
なんとなく恥ずかしくなったから曖昧に答えた。
「貴方たちは、私たち月の民にとって英雄で、玉兎たちにとっては憧れの存在なのよ。だって貴方たちのおかげ多くの命が救われたんだもの」
豊姫さんが言った。英雄? 憧れの存在? なんじゃそりゃ。それに俺たちは……あ~うん、まぁいっか。
「そうだったの?」
霊夢が聞いてきた。
いんや、英雄だのなんだのは初耳です。
しかし、英雄で憧れの存在か……実物を見たら、さぞがっかりするだろうね。白のような莫迦みたいに強い奴だったら別なんだろうけれどさ。
俺にはなんとも居心地の悪い場所だ。
「それで、どうして霊夢だけ残ってるの?」
「月に残って神降ろしを見せろって言われたのよ」
おろ? どうしてそんなことをするんだ?
「彼女が神々を降ろしていたせいで、私が謀反の疑いをかけられているからです。それで、黒さんはこれからどうしますか?できれば月で暮らしていただきたいのですが……」
それは全力でお断りします。それに、俺は穢れで溢れているし月の人たちも迷惑だと思うよ。
んで、謀反の疑いってのはなんでしょうね? まぁ、詳しくは聞かないけれど。
「できれば地上に帰りたいかな。あいつらのお墓だって見ることができたし。あと、霊夢はどのくらいで帰らせてもらえるの?」
代変わりしたわけでもないのに、あんまり長い間幻想郷に博麗の巫女がいないと困る。問題とか起きてないと良いけれど。
「そうですか……それは残念です。彼女は数日ほどで返すことができますよ」
数日か……面倒だな。
「ねぇ、霊夢。俺は先に帰ってm「だめ」……そうですか」
やっぱりダメか。
まぁ、数日くらいなら良いけれど。
しかし月にいる間、俺はどこで暮らせば良いんだ? 野宿はやだな~。文化的な生活を送りたい。
「霊夢がいる間、俺も月にいようと思うけれど、何処か住んでも良い場所ってある?」
ああ、あの施設で暮らすってのはダメかな? 寝られる場所くらいなら流石にあるだろうし。
「それなら私達の家にいれば良いわ。貴方とお話したいこともあるもの」
豊姫さんが言った。
ありゃ、良いの? それじゃ――
「数日間よろしくお願いします」
それから綿月家での生活が始まったわけだけど、事件が起きたわけでもなく、平和な日々が続いた。
豊姫さんとお話をしたり、おっさんと一緒に飲みに行ったり、玉兎の訓練を見に行ったり、サインをくれと玉兎に追いかけられたり、とそんな平和な日々だった。
サイン考えておけば良かったかな。
な~んてね。
それは良いとして……まぁ、あれだ。泣き上戸って面倒くさいね。何が楽しくて泣いたおっさんと酒を飲まなきゃいけないんだか。
あと、やたら幽々子と妖夢ちゃんに似ている二人組と出会ったけれど、きっと別人だったんだろう。そう思うことにした。
何やってんだよアイツら……
霊夢も、最初のうちは月の技術に興味を持っていたけれど、すぐに飽きたっぽい。うん、霊夢らしいね。
飲ませてもらった月のお酒は、雑味が一切なくすっきりとしていて美味しかったけれど、なんだろう……俺は地上のお酒の方が好きかな。少しだけ、地上のお酒を恋しく思った。
きっと、俺の中のどこかで月を認めていないんだろう。
そんな気がする。
そして漸く地上に帰る日が来た。
うん、月での生活も楽しかったよ。お土産にお酒も沢山いただいた。それだけでも俺は幸せです。
「いつでも来てください。待っていますので」
依姫さんが言った。
「いや俺はそんな簡単に、月とか行けないからね。それだったら今度はそっちが来なよ」
いやでも、俺も紫に頼めば行けるのかな?
「はい、では今度行かせていただきます」
えっ……マジで? もしかしていらんこと言った? も、もし来てもあんまり暴れないでね。
「それじゃ、そろそろ送るわね」
豊姫さんが言った。帰りは豊姫さんの能力を使い、一瞬で帰ることができるらしい。
便利ですね。羨ましいなぁ……
綿月姉妹以外にも、見送りに何匹かの玉兎が来てくれ、俺たちに手を振っていた。それに手を振り返す。
あんまり訓練をサボりすぎるなよー。
うん、こういうのもいいね。
「何ニヤついてるのよ」
霊夢に蹴られた。
そりゃ、可愛い娘に手を振ってもらえるってのは、やっぱり嬉しい。嬉しいものは嬉しいのだから仕方がない。
「では、また」
豊姫さんの声が聞こえ、視界が歪み、その歪みが直ると見慣れた景色だった。
冷たい風が体に当たる。
季節は冬、そこは博麗神社境内。うん、綺麗すぎる月の空気よりも、こちらの少し穢れた空気の方が心地良い。
これも、俺が穢れている証拠なのかねぇ。
あ、外の世界の空気は流石に嫌だよ? あれはやりすぎ。
う~ん、これからどうすっかね。このまま帰るのもアレだし……
「この後、霊夢は何かする?」
あまりに適当すぎる質問だけど、せっかく帰ってきたのだし何かやりたい。
「そうね……お酒が怖いわ」
了解。
ま、それくらいしかやることないしね。
空を見上げると、うっすら月が見えていた。あそこまで行って帰ってきたのか。あまりに遠すぎて実感が湧かない。
そして白く小さな物が降ってきた。
「雪、か」
これからまた、あの寒い季節がやってくる。
「こんにちは、黒、霊夢」
母屋へ行こうとしたら、幽々子と妖夢ちゃんが現れた。
「や、こんにちは。んで、どしたの?」
「ちょっと良いお酒が手に入ったから、一緒にどう?」
酒瓶をフラフラと揺らしながら幽々子が聞いてきた。そのお酒って……いや、まぁ気にしないでおこう。
「私も混ぜてもらおうかしら」
紫が現れた。なんか久しぶりだね。そろそろ冬眠する時期だろうし、春まで会わないと思ってた。
会わなくても良いと思ってた。
「……相変わらず貴方は失礼ね」
紫に睨まれた。だからその勝手に人の心を見るのやめてもらえませんか?
「フフッ、最近は良いことがなかったけれど、久しぶりの大勝利。今日はパーっと飲みましょ!」
年甲斐もなく、紫が燥ぎながら言った。よくわかんないけれど、何か良いことがあったらしい。
大勝利ねぇ……きっと幽々子と、幽々子の持っているお酒が関係あるんだろう。まぁ、せっかくの飲み会なんだ、細かいことは良しとしましょうか。
その後も、どこから嗅ぎつけたのか知らないけれど、紅魔館や永遠亭、守矢神社勢なんかも来て一緒に飲むことになった。
最初は霊夢と二人で飲む予定が、結局いつもの宴会へ。
雪も降って寒いってのに皆元気だね。
のんびりと雪見酒。月では見ることのできない、地上を生きる者達の特権。あれだけあった、月のお酒はすぐになくなり、いつも通り俺の作ったお酒を飲むことに。
今年はなくなるのが早そうだ……しかし、お酒が美味いのだから仕様が無い。相変わらず憎いことで。
「それで、月はどうだったの?黒の故郷みたいなものなんでしょ?」
紫が聞いてきた。
……故郷、ねぇ。今の俺にとっては、幻想郷の方がよっぽど故郷っぽいかな。
「別に、なんもなかったよ」
色々とあったけれど、少しだけ惚けてみせる。
「ふふっ、ひねくれもの」
まあね。
と、言うことで第43話でした
ただ月から帰ってきただけのお話でしたね
さて、これからどうしましょうか?
緋想天どうしよう……
そう言えば霊夢さんとデートの約束もありましたね
ホント、どうしましょうか
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