東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第4話~愛して、愛され~

 

 

 この勝負に勝てないことくらいわかっている。

 

 相手は妖怪最強種の鬼。こちらはただの人間。

 

 

 これは意地。

 自分の思うことを通そうとする心。

 

 胸張って、虚勢を張って意地を張る。いつだってそうやって生きてきた。

 

 意地の張り合い。

 八つ当たり。

 

 一矢を報いるために賭けるは己の命。ハイリスク、ローリターン。つまり、いつも通りだ。

 

 

 

 

 

 フランちゃんの部屋じゃ殺し合いをするのに狭すぎた。それでロビーへ移動することに。

 その間はお互いに無言。流石に手は繋がなかった。

 

 ロビーに着きお互いに向き合う。

 

「はい、クロにあげる」

 

 そう言って、フランちゃんが一本のナイフを差し出してきた。

 

「えと、これは?」

 

「銀のナイフ。不公平でしょ? だってクロは人間。私は化物だもの」

 

 銀のナイフか。

 

「ん~、そのナイフはいらんよ。もう持ってる」

 

 懐から一本のナイフを取り出す。

 肌身離さず持ってる大切な相棒だ。

 

「あはっ。な~んだ、そうなんだ……クロはこうなることわかってたんだね」

 

「いや。このナイフは常に持ってるんだよ。未来なんて誰にもわからんさ」

 

 俺には珍しく嘘偽り無い本音です。

 

「ふ~ん。そう……じゃあ、始めましょう?」

 

 そう言ってフランちゃんは飛び上がった。

 さて、地獄の始まりだ……

 

 

 

 

 

 飛び上がったフランちゃんから色鮮やかな大量の妖弾。いきなりですか……

 

 なけなしの霊力で身体強化。

 

 致命傷になりそうな弾だけを避ける。雑魚は無視。

 こちらからも霊弾を放ってみるがフランちゃんのそれと比べて、速度は半分、密度は十分の一ほど。

 悲しいけどこれが俺の出せる限界なんだよね……霊力なんてほとんどないし。

 

 こちらの手持ちカードは2枚。

 あちらは無限大。

 正に絶望的だ。

 

「すごい! すごい!! クロってば飛べないのに避けるのが上手いのね!!」

 

 無邪気に笑うフランちゃん。

 楽しそうで何よりだよ此畜生……

 

 

 そして、笑っていたフランちゃんの姿が一瞬ぶれた。

 

 反射的にナイフを盾にする。

 瞬間、ナイフ越しに届いた衝撃は体を突き抜けた。

 受けきれず吹っ飛ぶ体。

 

 勘弁して欲しい。何をされたのかすらわからん。

 頭の奥がチリチリと痛む。霊力の限界も近い。

 

「これも避けちゃうんだね……」

 

 いや、直撃でしたよ?

 胃から迫り上がってきた血を吐き出す。

 

 フランちゃんは再び飛び上がり妖弾を放ってきた。密度は今までのよりもずっと濃い。

 

 

 参った……これは、避けきれん。

 

 

 今か? 今使う時か?

 

 いや……まだ、まだ耐えられる。

 

 残り僅かな霊力を使って体を無理やり動かす。脳が熱い。

 避けきれない弾は左腕でガード。左手はフランちゃんの愛の証で握力なんて残っていない。そんな腕、あって無くても同じだ。

 

 

 その結果、酷使した左腕は肘から先が無くなった。

 

「ーーーっつ!!」

 

 歯を噛み締め声を押し殺す。

 砕けた奥歯は溜まった血と一緒に吐き出した。

 

 

 こちらは満身創痍。

 あちらは無傷。

 

 何だよ……この差は何だ? 種族? センス?

 いくら努力しても、どんなに頑張ろうと埋まらないこの差は……

 

 

「すごいね……本当にクロってすごいね。まだ生きてるんだ。ごめんね、その腕、痛いよね。次はできるだけ痛くないようにする。一瞬で終わらせるから……」

 

 血が止まらない。

 止血をする暇はない。

 

「ありがとう、本当にありがとう、クロ。貴方と会えて心の底から嬉しかった」

 

 フランちゃんのキューティーボイスが上手く聞こえない。片方の鼓膜も破れたらしい。

 立っているのも辛い。

 

「ホント、勝手なことを言ってくれるよ……」

 

 フランちゃんから放たれ降り注ぐ弾幕。

 

 

 ……集中しろ

 

 とっくに限界なんて超えている。それでも、やらなきゃならんのだ。

 ありもしない霊力を搾り出す。既に脳は焼き切れる寸前。

 

 けれども、まだ張れる意地くらいなら残っている。

 

 時の流れが遅く感じた。

 極限状態。

 フランちゃんの飛んでいる位置を確認。

 

 

 ――さぁ、反撃開始だ。

 

 

 

 2枚のカードの内、1枚目。

 能力を使用。

 

 降り注ぐ弾の全てを、桜の花びらへと変える。結果、視界は薄桃色で染まった。

 

 『降りかかる物を桜の花びらに変える程度の能力』それが俺の能力。

 

 もちろん、フランちゃんはこの能力を知らない。精々、雨を桜の花びらに変える位にしか思っていないだろう。

 

 

 そして2枚目。

 

 両足に力を込め()()()()()

 

 そりゃあ、お前らみたいに長く早く飛び続けることはできないさ。

 ただ……一瞬だけ、瞬間速度だけなら天狗にだって負けない。

 

 一瞬だけならお前らと並べる。

 一瞬だけならお前らを抜ける。

 

 それだけの努力はしてきた。

 それだけの悪あがきを続けてきた。

 

 先ほど確認したフランちゃんの位置まで一直線。桜の花びらを押しのけ突き進む。

 俺が近づいて来ているのをフランちゃんは気づいたらしく、炎を手に纏い始めた。でも、それじゃあ間に合わない。

 

 ナイフを握った右手に力を込める。

 胸骨から指2本分上。目指すは相手の心臓。

 

 

 渾身の力を込めてフランちゃんにナイフを突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な~んてね。

 

 シャコっと間の抜けた音がナイフから響く。

 

 ナイフの刀身は柄の中へ。

 

 このナイフじゃ、紙だって切れるか怪しい。そもそも刃もないしね。

 

 殺す?

 フランちゃんを俺が?

 無理無理、できるわけがない。だいたい俺がフランちゃんを殺す理由なんて何もないしな。

 

 

 わはは、どうだ! どうよ? 吸血鬼から一本取ってやったぜ。

 

 

 

 

 と、ここで勝負が終われば俺にとって完璧だったのだろう。まぁ、終わるわけがない。

 

 驚いた顔をしたフランちゃんの右手が俺に迫る。

 その手には、炎の剣。

 

 ソイツが俺の左肺を貫いた。

 

 

 

 

 全身に衝撃が走った。

 当たり前か……地面に撃ち落とされたのだから。

 

 落ちた衝撃で肺の中の空気は押し出された。空気を吸おうとしても上手く吸えない。

 声も出ない。

 何も聞こえない。

 痛みすらも感じない……

 

 ぼやけた視界にフランちゃんが映る。

 

「ーーーっ! ーーーーっ!!」

 

 あ~、悪い。

 何言ってるのか、わかんねーや。

 

 触覚なんてないはずなのに寒気を感じる。

 

 もう、ダメっぽい。視界が黒へと変わり始めている。

 

 少しだけ……少しだけ休むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

『もう、もうダメなのか?』

 

『う~ん、そだね。これは厳しかも。あはは~』

 

『なんで……なんで自分じゃなくて、俺に能力を使ったんだよ』

 

『それを聞く? だってさ私より黒に、貴方に生きていて欲しかったんだもの。その理由も言おうか?』

 

『……いや、それはいい』

 

『ねぇ、黒』

 

『何さ、白』

 

『最期のお願い。私が私でいられる内の最期のお願いを聞いてもらっていい?』

 

『ああ、何でも』

 

『ありがと。じゃあさ――

 

 

 

――――――――

 

 

 泣き声が聞こえた。

 

 最初に戻ったのは聴覚。

 続いて口内に残る血の匂いと味を感じ、嗅覚と味覚が戻ったのがわかる。さらに、黒一色の景色から一変。可愛らしい少女が映る。視覚も帰ってきた。

 温もりを感じられたのは最後だった。

 

 フランちゃんは俺の頭を抱いているらしい。

 

 あんまり強くしないでね? 頭がパーンとかなるの嫌だからね?

 

 

「あの、フランちゃん? そろそろ離してくれない?」

 

 声は普通に出た。

 本当はもう少し続けてもらっても構わないのだが、やっぱり怖い。

 

「ふぇ……?」

 

 泣き声は止まり、そんな可愛らしい声が聞こえた。

 

「ど、どうして? なんでクロは生きているの?」

 

 涙声。

 フランちゃんが聞いてきた。

 

「ちょっと昔に色々あってさ、不老不死になったんだ。それだけだよ」

 

 昔、昔の物語です。

 

「なぁ、フランちゃん。例えお前が皆から嫌われたとしても、俺は嫌わない。むしろ、さっき言ったように全力で愛してやるよ。だからさ……簡単に死ぬなんて、死にたいだなんて言わないで欲しいかな。生きていたって仕様が無いかもしれんけど、死んだって仕様がないだろ? それに、人生捨てたもんでもないんだぜ」

 

 月並みのセリフ。

 よくあるセリフ。あ~もう、恥ずかしい。

 

 俺のセリフを聞いてなのかはわからないが、フランちゃんはまた泣き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣き疲れたのか、フランちゃんは俺の頭を抱いたまま寝てしまった。

 さて、そろそろ起きるとしようか。

 体は元通り。ホント便利な体質ですよ……

 

 

 寝てしまったフランちゃんをどうしようか悩んでいると、奥の方からお姉様とメイドさんが現れた。

 

「ちょうど良かった。メイドさん。フランちゃんをお願いしてもいい?」

 

 ナイスタイミングです。

 

「十六夜咲夜」

 

 メイドさんが言った。

 

「?」

 

「私の名前です。気軽に咲夜とお呼び下さい。あ、さっきゅんでも構いませんよ?」

 

「……フランちゃんをよろしく、咲夜さん」

 

「承りました」

 

 咲夜さんの声が聞こえ、気づいた時にはフランちゃんの姿も消えていた。

 

 か、変わった性格のメイドさんですね。

 

 そか、あれがフランちゃんの言っていた咲夜って言う人間か。突然消えたのは何かの能力だろう。

 

「レミリア・スカーレット。フランの姉で一応この紅魔館の主をやっているわ。貴方は?」

 

 お姉様――レミリアが聞いてきた。

 

「黒、フランちゃんの友人で一応カフェのオーナーをやているよ」

 

「カフェねぇ……今度、暇なときにでも行ってみるわ。……さて、黒。フランの姉としてお礼を言うわ。あの娘と遊んでくれて、ありがとう」

 

 ん? あれ?

 なんかお礼を言われたぞ。これはどういう……もしかして俺が勘違いしていたのか?

 

「な、なぁ、レミリア。質問してもいいか?」

 

「咲夜には『さん』付けで私は呼び捨てなのね」

 

 いや、だってお前みたいなちっこいのに『さん』付けは似合わんだろ。まだ『レミリアちゃん』のがしっくりくる。

 

「『さん』って付けた方がいい?」

 

「別に付けなくてもいいわよ。それくらいで怒るほど私の器は小さくない。それで、質問だったわよね? いいわよ答えてあげる」

 

「レミリアってフランちゃんのこと嫌いなの?」

 

 ど真ん中のスレート。直球勝負。

 まどろこしいのは嫌いなのだ。

 

「は? 私がフランのことを? そんなわけないでしょ。フランは私にとってたった一人の家族なのよ? むしろその逆よ」

 

 ん?

 んん?

 よくわからなくなってきた。

 

「いや、だってせっかくフランちゃんが帰ってきたのに、レミリアの反応は滅茶苦茶冷たかったじゃん」

 

「あれは……その、ほら……姉としての威厳を妹に見せたかっただけよ」

 

 ポソリとレミリアが呟く。

 ……え? ええ?

 

 

「妹様が出て行ってしまったときは大変でした」

 

 いつの間にか咲夜さんが戻ってきていた。ビックリするからいきなり出てくるのはやめてほしい。

 

「ん~……どういうこと?」

 

「はい、外は雨だというのにお嬢様は『フランを探しに行く!!』と言って大暴れ。終いには、パチュリー様に泣きながら雨を止めてくれと頼んでいました。正直あの姿は主としてどうかと……」

 

「こ、こら咲夜! 黙りなさい!! 仕方ないじゃない。フランのことが心配だったのよ」

 

 待て、待ってくれ。頭が追いつかない。

 

「うわー……部屋がぐちゃぐちゃです! せっかく門番の仕事が終わったのに……」

 

 今度はエントランスの方から門番さんが現れた。

 

「あ、門番さん。門番さん。さっきさフランちゃんに質問されたとき答えにくそうにしたじゃん。あれって何で?」

 

 最後の疑問。

 もう答えはなんとなくわかっているけど。

 

「あ、妹様の御友人の方ですね。紅美鈴です。えと……あれは、お嬢様が正直どうかと思うくらい暴れ狂っていたことを妹様に言うのは流石にと……」

 

「美鈴!」

 

 顔を真っ赤に染めて怒るレミリア。

 

「えっ? す、すみません! まさか、お嬢様がおられるとは思わなくて、つい……」

 

 はぁ、なんだかなぁ……

 

「……なあ、レミリア。フランちゃんのことは愛しているか?」

 

 最後の質問。

 

「当たり前じゃない。例えフランが私のことをどう思っていようが、胸を張って言えるわ。私はフランを愛しているわ」

 

 即答。

 そっか。

 そういうことなんだな。

 

 

 結局は、ただのすれ違いだったのだ。ちょっとした勘違いの連続。

 

 一方は勝手に嫌われていると思い。

 一方は愛情表現が上手くできなかっただけ。

 

 お互いに愛し合っているはずなのに……

 

 愛と言う字を解いてみると、糸し糸しと言う心。言葉にしなければ伝わらない。

 

 どっかの誰かが歌ってた。

 壊れるほど愛しても三分の一も伝わらない。

 

 詰まる所、そんなものなんだろう。

 

 

 はぁ、結論的に俺がただ空回りしただけだった。これじゃあとんだピエロだ。

 

「レミリア」

 

「なに?」

 

「言葉にしなきゃ伝わんないぜ?」

 

「……それくらいわかっているわよ。ただ、ほら……恥ずかしいじゃない」

 

 どちらかが、もう少しだけ勇気を出していれば起こり得なかった問題。まぁ、これから頑張ればいいよ。たった500年の溝なんてすぐ埋まる。

 

「ん~、じゃあ、俺は帰るよ」

 

 エントランスに向かってゆっくりと歩き始める。

 

「フランが目を覚ましたとき、貴方がいなかたら悲しむわよ?」

 

 後ろから声がした。

 

「また来るって伝えといてくれ。それでも悲しむようなら、レミリアがなんとかすればいい。ま、頑張ってくれや。お姉様」

 

 

 

 

 

 

 レミリア達と一方的な別れを告げ紅魔館を後に。

 いつの間にか雨は止み、東の空は赤くなり始めていた。

 あ~、眠い。大きなあくびを一つ。

 

 

「『死にたいだなんて言うな』だったわよね? フフッ、自分のことは棚に上げてよく言えたわね」

 

 神出鬼没。

 紫現る。

 

「ずっと見てたのか?」

 

「さあ、どうでしょう? ただ、夜更かしした甲斐はありましたわ」

 

 そう言って紫は笑う。さいですか。

 

「……また死ねなかったのね。実はあの吸血鬼の能力に期待していた?」

 

「さあ、どうだろうね? なあ紫。家まで送ってくれ。今日はちょっと疲れたわ」

 

「フフッ。わかりましたわ。スキマツアーに御案な~い」

 

 

 ……ホント、俺はいつになったら死ねるんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 以上でこのお話は終わり。

 オチなんて何もない。

 

 それから俺は、紅魔館へ偶にだけど遊びに行くようになった。フランちゃんと遊んだり、レミリアで遊んだり、咲夜さんに遊ばれたり、美鈴と駄弁ったりする。

 図書館にいる魔女さんとの絡みはあまりないかな。彼女も彼女で無口だしね。

 

 フランちゃんとレミリアの仲は、まずまずと言ったところ。まぁ、焦る必要なんてないさ。

 

 後日談はこんなものだろうか。

 

 明日はその紅魔館へ。

 スペルカードルール……ねぇ。一枚くらいは考えておかないとかな。

 

 

 






……お酒の『お』の字も出やしませんでしたね
書きすぎました
猛反省中です
しかも次から紅魔郷スタートとか……
閑話でも書こうかな


別に隠していたわけでもありませんが、主人公の能力と秘密を公開

では、次話でお会いしましょう


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