東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第44話~取材ってなんだっけ~

 

 

「えっ? 取材?」

 

 季節は冬。寒い日々が続きます。日が沈むのもかなり早くなってきた。

 ただ、太陽光の幸せを感じるのには、良い季節だ。

 

 どうせ、今日もお客さんなんて来ないんだろうなぁ。とか思いながらボーっと店の中で過ごしていると、入口の鈴が久方ぶりの来客を知らせた。

 

「はい、黒さんの記事は何故かやたらと人気がありますので、今日は一日密着取材でもしようかと」

 

 首にカメラをぶら下げ、メモ帳とペンを手に持ちながら文が言った。

 ただ、よくこの場所に来られたね。普通ならなかなか見つけられないはずなんだけど……妖怪の山に入口ができていたのかな?

 

 それにしても面倒だなぁ。帰ってくれないかなぁ。

 それに、取材も何も今日は一日店の中にいる予定だったし、記事にするには面白くないと思う。

 

「ちゃんと山の警備とか仕事しなさいよ」

 

「それは心配ありません。天魔様に黒さんの取材をすると言ったら、二つ返事で許可がおりましたので」

 

 ……それで良いのか天狗社会よ。

 相変わらずあの天魔も何を考えているのかわからない。何も考えてない気もするけど。

 

「ああ、あと天魔様が『結婚しよう』とも言っていました。ひゅ~黒さんモテモテですね」

 

「俺の代わりにぶん殴っといてくれ」

 

 やっぱり何も考えてなさそうだ。とうぶんは、あの山に近づかないでおこう。そうしよう。

 

「無茶言わないでくださいよ……」

 

「んで、取材って何するの? 今日は何もないと思うよ?」

 

 本当に今日は何の予定もないのだけど……どうせ取材をするのなら紅魔館とかに行けば良い。あのボケ集団の所ならネタだって尽きないだろうし。

 それに、文といると色々と危ない。だって、コイツすぐ危ない発言するんだもん。できれば閑話だけの登場にしてもらいたい。

 

「大丈夫です。取材と言っても、黒さんは普通に過ごしてもらっていただきます。まぁ、私の方からいくつか質問をしたりするとは思いますが」

 

 おろ? そうなの? んじゃあ、まぁ、普通に過ごさせてもらおうかな。外は寒いし、今日は家の中でのんびりとさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまんない……」

 

 お茶を飲みゆっくりとしていたせいか、眠くなり始めていた時だった。文がぽそりと呟いた。

 

 いや、お客さんなんて滅多に来ないし、こんなもんだからね。あと、眠いので寝ても良いですか?

 

「何ですかもう。もっとほら何か事件が起きたりとかはないんですか?」

 

 そんな簡単に事件が起きてたまるか。

 むしろ何もない日の方が多いわ。

 

「だから、今日は何もないって言ったじゃん。んで、眠いから寝ても良い?」

 

「流石に何もなさすぎですよ! こんなんじゃ記事にも小説にもできませんよ! 読者を舐めてるんですか!?」

 

 それって新聞のお話だよね? 他に意味なんてないよね?

 

「そんなこと言ってもなぁ」

 

 ないものはないのだ。もう今日は諦めて帰ったら? この後もお客さんは来ないだろうし。冬になると皆外に出ないせいか、迷子になる人なんてほとんどいない。

 

「むぅ、これは困りましたね……そうだ、どこかへ行きましょうよ。そうすればきっと何かが起こるはずです」

 

 コラ、無駄にフラグを立てるな。それに出かけるとしても、外寒いじゃん。すごく行きたくないです。

 

「外寒い。やだ」

 

 冬の間は大人しく家でのんびりしてようぜ?

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずに行きましょうよ。そうですね、人里にでも行きましょう」

 

 なんで、こう俺の周りの奴らは人の話を聞かないんでしょうね?

 

 そして、結局連れ出されることに。はぁ、平和に過ごしたい……

 

 

 簡単に出かける準備をして外へ出る。マフラー暖かいです。首元が暖かいと、妙に安心するよね。

 迷いの里はまだ暖かいけれど、ここから出たら寒いんだろうな。嫌になる。

 

「ほい、これ貸してあげるよ」

 

 文にもマフラーを渡した。妖怪にはいらないだろうけれど、まぁ、あって困ることではないだろう。

 

「あ、どうも。ありがとうございます。ふふっ、これでお揃いですね。――あっ、ちょっ外さないでくださいよ」

 

 変なことを言うな。恥ずかしいでしょうが。

 とは、言うものの背に腹は代えられない。寒いのは嫌いなんです。

 

 そして文が腕を組んできた。あの、動きづらいんですけど……放してもらえませんか?

 

「どしたの?」

 

「ほら、今日は密着取材ですし」

 

 たぶん、密着の意味が違うと思う。

 

 今は何も育てていない田畑を抜け文と一緒にまっすぐ進む。そう言えば、人里へ行くのも随分と久しぶりな気がする。何も起こらないと良いけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていた通り外は一面の銀世界だった。雪に反射した太陽光が眩しい。

 そして、凍てつくような寒さが身体を冷やした。マフラー持ってきて良かったね。

 

 何をしようか考えながら、文と二人で人里をぶらぶらと歩く。冬だと言うのに、人里の様子は今日も活気で溢れていた。皆元気そうで何よりです。

 昔と比べてここも良い里になったと思う。

 

「あ、黒さんじゃないですか。今日はどうしたのですか?」

 

 急に声をかけられたと思ったら、阿求ちゃんといつかの迷子さんがいた。こんな寒い中、阿求ちゃんは出歩いても大丈夫なのかな? 体は大切にしなよ。

 

「隣にいる天狗に無理矢理連れ出された」

 

 流石に文も面倒になったのか、腕は組まず手を繋ぐことになった。それじゃあメモなんて取れない気がするが、良いのかな?

 

「えと……逢引ですか?」

 

 いつかの迷子さんが言った。

 んなわけないでしょうが、ただ暇を潰しに来ただけ。

 

「違う違う、ただの取材らしいよ。それでこんな寒い日に阿求ちゃんたちはどうしたの?」

 

「いいな~私も取材したい……えと、私たちはこれから知り合いの貸本屋へ行こうと思っていたところです。黒さんも行きますか?」

 

 取材って、幻想郷縁起の英雄伝のことだよね。そっちは勘弁です。

 貸本屋か……ん~もう少しぶらぶらしたいし、今日は良いかな。

 

「俺は遠慮しておくよ。んじゃ、またいつか」

 

 そう言って、阿求ちゃん達とは別れた。正直に言うと、本にはあまり良い思い出がないんだよね。紅魔館で一度大変なめにあったし。いやホント、なんであんな本があるんだよ……

 

 その後も適当にぶらぶらと歩いていると、沢山の出会いがあった。酒屋の店主や慧音をはじめ、買い物に来ていた咲夜さんや妖夢ちゃんなどなど。歩くのも疲れたし、一休みしようと団子屋へ立ち寄ると、何故か映姫が小町に説教をしていた。

 人里で何やってんだよ……

 

「どうして貴方はすぐにサボるのですか!?」

 

「すみません、すみません。ちょっと休憩しようと……」

 

 上司と部下仲良しコンビのいつも通りの掛け合いが冬の人里に響く。

 今日は映姫も休みの日だったのかな? 休みの日くらい説教なんてしてないで、ゆっくりしていれば良いのに……まぁ、すぐにサボる小町がいけないんだけどさ。

 

 ガミガミと怒り続ける映姫。これじゃあ、団子屋にも迷惑だろうに。

 いや、逆に人は集まって来るのかな? 咲夜さんファンクラブとかあったし、映姫ファンクラブとかもありそう。

 

 映姫の側まで行って、人差し指を伸ばした右手で映姫の肩を軽く2回叩く。

 

「はい? なんでしょ……」

 

 映姫がこちらを振り向くと同時に、人差し指で映姫の頬をプニっと押した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互いに無言。

 そこに言葉なんていらなかった。

 

「よしっ、逃げるぞ文」

 

「何やってるんですか……しかし了解です」

 

 全力で逃げ出した。もうすでに日は沈み始めているもし逃げなかったら、お説教は夜まで続くだろう。

 これで小町の説教も終わるだろうし貸し一つといったところ。

 

「ちょっ、待ちなさい! またそうやって貴方は!!」

 

 映姫が何かを言っていたけれど、無視して逃げた。流石にこれだけで、俺の店にまで説教をしには来ないよね?

 

 

 

「全く、閻魔相手に貴方は何をやっているのですか?」

 

 映姫から完全に逃げ切ったところで、文が言った。場所は人里の外れ。随分と遠くまで逃げてきてしまったものだ。

 いや~どうも映姫をみるとからかいたくなっちゃってさ。仕様がないよね。

 

「ま、逃げ切れたんだし良しとしようよ」

 

「はぁ……それにしても、黒さんと話した方はほとんど女性でしたね。男性と話をしたのは酒屋の店主くらいじゃないですか? なるほど、黒さんは女たらしと……」

 

 コラ、変なことを言うな。

 そんなこと記事にしないでよ。仕方がないでしょうが、男の知り合いって何故か少ないんだから。

 

 さてさて、これからどうするかな。もうすぐ夜になるだろうし、帰っても良いけれど……あ~お酒が飲みたいな。

 そう言えば、夜雀のやっている屋台があるって聞いたことがある。行ってみようかな。

 

「なあ文。ちょっと行きたい場所があるんだけど、行っても良い?」

 

 でも、何処にあるのかはよく知らないんだよなぁ。人里の近くにあるとは思うけれど。

 

「こんな人里の外れで行きたい場所ですか……はっ、人気のない場所で私を襲うつもりですね! 流石は女たらしです」

 

 違うわっ! それに俺じゃお前には勝てないでしょうが。まぁ、勝てても襲わないけどさ。

 

「莫迦なことを言うな。ちょっと夜雀がやっている屋台ってのに行ってみたいだけだよ」

 

「なんだ、そうでしたか。それは良い案だと思いますよ。私もあの屋台は好きですし」

 

 おろ、文は行ったことあるのか。

 それなら都合が良い。

 

「んじゃあ、案内してよ。俺はまだ行ったことがないから、何処にあるのか知らないんだ」

 

 八目鰻が有名って聞いている。八目鰻のあの独特な風味が結構好きだったりします。お酒に良く合うし。今は冬だしちょうど旬な時期だ。

 

「了解です。とは言え、あそこは移動屋台ですので、何処にあるのかは私も知りません。まぁ、適当に歩いていれば見つかるとも思いますが」

 

 移動屋台ねぇ。

 なんだろう、少しだけ親近感が湧く。俺も移動屋台とかやってみようかな。

 

 雪が多く、歩くのは面倒だったから適当に飛んでいると、目的の屋台は直ぐに見つかった。本当に人里の側にあるんだね。

 

 屋台へ近づくと、蒲焼の良い匂いがしてきた。

 ああ、熱燗が飲みたい。

 

 下へ降り、暖簾を押しのけ屋台の中へと入る。こういう場所って『マスターいつもの』とか言いたくなるよね。まぁ、此処へは初めて来たんだけどさ。

 

「いらっしゃい、ご注文は?」

 

「熱燗と八目鰻の蒲焼で」

 

 うん、こういうのも良いかもしれない。

 

 季節は冬。

 熱燗が身体へ良くしみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、ご馳走様でした。すみません、お金も払ってもらって」

 

「ん、いいよ別に。そんなに使うこともないし」

 

 自分のためには滅多に使わないしなぁ。だから貯めていても仕様が無い。使ってあげなければお金がかわいそうだ。

 

「んで、今日のことは記事になりそうなの?」

 

 なんだか、普通に遊んでいただけな気がする。こんなんで良いのかなぁ。

 

「え? あ~……そうですね。うん、まぁなんとか書いてみます」

 

 忘れてたなコイツ……別に無理して書くものでもないと思うけどね。書きたいことを書きたいように書けば良いと思う。

 そんなものだろう。

 

「そか。ま、頑張ってくれ。んじゃ俺は帰るとするよ。うん、たまには外出も悪くないかもね」

 

「はい、私も楽しかったです。機会があればまた取材に行きますね」

 

 取材ってことは変わらないんだ。普通に遊びに来れば良いのに。

 

 それだけ言うと文は飛んで行ってしまった。

 ホント、忙しい奴だ。

 

 あっ、マフラー返してもらうの忘れてた。ん~ま、いっか。

 

 

 うん、冬って言うのも意外と悪くはないかもしれない。

 

 な~んてね。

 

 

 

 後日、『女たらしの店主に迫る』と書かれた文々。新聞を握り締めた良い笑顔の霊夢がお店に来たけれど、それはまた別のお話。

 

 






暑い日々が続きます
キンキンに冷えたビールが美味しい季節ですね
最近、全然飲めてませんが……

と、言うことで第44話でした
自分はお酒を飲めていないのに、主人公がのんびりとお酒を飲んでいる場面を書くと無性に悲しくなります
だらだらな感じのお話となってしまいましたが、私の作品はだいたいこんな感じです
そして、このお話のせいで霊夢さんとのデートで書く事がなくなりました
何やってんでしょうね

次話は……どうしましょうか?


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