シャリシャリと音を立てながら雪の上を歩く。相も変わらず一面は銀世界だけど、漸く雪も溶け始め、少しだけ春の訪れを感じられた。
木々の新芽は出始め、桜咲くあの季節がもうすぐやってくる。嬉しいね。どうやら今年は普通に春が来てくれそうだ。
チャプチャプと背中に背負ったリュックから液体が揺れる感覚。中身はみんな大好き、日本酒と麦焼酎です。あとは少しのおつまみと言ったところ。
外の世界には桜を使った日本酒があるらしい。一度飲んでみたいものだ。たぶん桜の香りとかはしないと思うけれど。
少しばかり重くなった雪を踏みしめ向かう先は、妹紅の家。以前に行くとか言っておきながら結局行ってないしね。
鬱蒼と竹が生い茂っているせいで、非常に迷いやすい場所だから、妹紅の霊力を頼りにゆっくりと進む。
所々で見られた竹の焦げた跡は気にしないことにした。
できればやめてもらいたいけれど、それが妹紅とあのお姫様の生きがいになっているのだから、どうしても止めにくい。
それにしてもあの二人は仲が良いのか悪いのかわからん。俺には子供がじゃれている様にしか見えないけれど……
昼過ぎに出発し、のんびりと歩いていたのにも関わらず、今だに日は高いままだった。日も長くなったねぇ。
そして漸く、一件の平屋が見えてきた。
軒先には干し柿や魚が吊るしてあり、周りは一応雪かきをしているらしい。
しかし……言っちゃ悪いけれどあばら家にしか見えない。もう少し良い家に住もうよ……冬とか絶対寒いじゃん。いくら春が近づいていると言え、とても寒そうです。
玄関と思われる入口まで近づき、何とも頼りなさそうな扉を二回叩く。もし妹紅が居なかったらどうしようか。待っていても良いけれど、やはり肌寒い。
「はいよー、何方さんだい?」
そんな声がした。そして立て付けが悪いせいか、ガタガタと変な音を立てながら妹紅が出てきた。
「やほー、もこたん「ぶっ飛ばすぞ」……ご、ごめんなさい」
妹紅さん超怖い。そろそろ『もこたん』呼ばれるのも諦めれば良いのに……それに暴力は反対です。
「それで、今日は何しに来たの?」
何処か不機嫌そうな妹紅。
不機嫌になる理由がわからない。
なんてね。
「今日は一日暇だし、いつか遊びに行くって約束したから来たんだけど」
まぁ、約束してなくても遊びに行くことはあると思う。
「ん~約束なんてしたっけ? 覚えてないけど……まぁ良いかとりあえず上がりなよ」
そう妹紅に言われ、家の中へ。お邪魔します。
家の中の様子は、真ん中に小さな囲炉裏があるくらいで、家具なんかはほとんどなかった。布団も見当たらないし、どんな生活を送っているんだろうか。
「悪いけれど座布団は無いんだ。まぁ適当に座ってよ」
リュックを置き、言われた通り適当に座る。見た目の割に家の中は暖かい。結界でも張ってあるのかな?
「はい、とりあえずお酒ね」
リュックから一升瓶を四本取り出し妹紅へ渡す。日本酒は純米吟醸だし、たぶん美味しいんじゃないかな。
「おおーありがとう。お酒も久しぶりだ」
お酒だけじゃなくて、ちゃんと食べてる?見たところ食材とかほとんどないけど……これじゃあ慧音も心配するはずだ。
「まだ日は高いけどもう飲み始める?」
他にすることもないし。
「そうだね。飲み始めるか」
そんな感じでのんびりと二人だけの飲み会が始まった。たまにはこういう雰囲気も悪くない。
囲炉裏で干し魚を焼き、俺が持ってきた野沢菜の漬物を食べながら、ちびちびとお酒を飲んでいく。漬物は良い塩梅で漬かってくれたらしく、お酒も進む。干し魚の方は、竹串に刺し妹紅の持っていた炭を使って囲炉裏でじっくりと。
「……もこたんのもくたん」
そんなことをぽそりと呟いたら叩かれた。
痛い……あと、木炭ではなく竹炭だそうです。
「それにしても、よく私の家の場所がわかったね」
ポリポリと野沢菜を食べながら妹紅が聞いてきた。
「まぁ、妹紅の霊力を辿って来ただけだけどね」
途中途中に霊力の残りがあったせいで、ちょっと面倒臭かったけれど、割とスムーズに来られたと思う。
「普通はそれができないんだけどな……」
大丈夫、長生きしてればすぐにできるようになるよ。
「それにこれからは今回よりも簡単に来られると思うよ」
おっ、そろそろ魚も食べられそうだ。魚から油がにじみ出し、良い匂いがしてきた。
「ん? どういうこと?」
これって塩とかかかっているのかな?
「来る途中にもこた……じゃなくて『妹紅の家こちら』って看板をいくつか立てといた」
「何やってんの!?」
もこたんが吠えた。うわっ、いきなり大きな声を出さないでよ。ビックリするでしょうが。
「何って今度から簡単に来られるようにしただけだよ」
焼き魚にカブリつきながら言った。うん、ちょっと薄味だけど油も乗っていてなかなか美味しい。こりゃあ、お酒が止まりませんねぇ。
「そんなことしたら、他の奴らも来るじゃん!」
「え……まずかった?」
「はぁ……まぁ、いいよ。これで迷子になる人が減ると考えるさ」
うん、妹紅ならそう言ってくれると思ってた。それに嫌がることも知っていたけれど、これで少しでも妹紅の人見知りが治るのなら良いのかなとも思っていた。
妹紅も、もう少しくらい人里に顔を出さないとダメだよ?
そんなお話や、俺が月に行ってきたお話なんかをしながら、ゆっくりお酒を飲んだ。二人で飲むのにはちょっと多いかな、と思っていたお酒も残りわずかに。
まぁ、妹紅もお酒はよく飲むしこんなものなのかな。たぶん、外はすでに真っ暗だろう。まぁ、帰ってもすることはないし、のんびりしていようかな。
そんなことを考えていると、玄関の扉を叩く音がした。
「うん? 慧音かな。ちょっと出てくるよ。はいよー、今行くよ」
そう言って妹紅は扉の方へ。あら、野沢菜もなくなっちゃったか。干し柿でももらおうかな。焼酎には合いそうだし。
ん~、もしお客さんが増えるとしたら絶対にお酒が足りないよね。どうしようか。
「今晩は妹紅。暇だから遊びに来てあg」
妹紅が扉を開け、誰かの声がしたと思ったら、勢いよく扉を閉める音がした。
え……何? 何があったの?
「えと……誰だったの?」
妹紅の様子から慧音ではなさそうだけど。
「家を間違えたそうだ」
いや、でもさっきの人確かに『妹紅』って言ってたよ? それにその言い訳はちょっと無理があると思う。
そして、また扉を叩く音がした。
さっきよりも乱暴な感じだった。
「黒。私が合図をしたら全力で横へ飛べ。そしてたらヴォルケイノするから」
やめなさい。
なるほど、来客は永遠亭のお姫様でしたか。
「こんな日くらい喧嘩するな。向こうだって喧嘩しに来たわけじゃないんだろ?」
「まぁ、確かに今日は戦う日じゃないけれど、アイツのことだし何をするか……」
日にちとか決めてるんだ……仲良いですね。口に出したら絶対否定されると思うけれど。何時まで経っても妹紅ってばお子様なんだから。
「んじゃあ、俺が話を聞いてみるよ」
「……任せた」
了解。全くもこたんも世話が焼ける奴だ。ここは一つ大人の対応ってのを見せてあげよう。
立ち上がり、今だに叩かれ続ける扉を開けた。
そしてその扉を開けると、永遠亭のお姫様と八意さんがいた。
「あら、貴方もいたのn」
俺は扉を閉めた。
……いや違う、違うんだ。言い訳をさせてくれ。お姫様は良いんだ。でも八意さんはダメだ。まだその時期じゃないんだ。
「……何やっているのさ?」
妹紅の視線が痛い。
し、仕方が無いじゃないですか……俺だって苦手な人はいるのだから。
「あーもう、鬱陶しい! お邪魔するわよ!!」
そう言ってお姫様が入ってきた。
もちろん八意さんもだ。
うわー、帰りてー。
「あら妹紅の家にあの半獣意外がいるなんて珍しいわね」
お姫様が言った。
「……それで、何しに来たのさ?」
途端に不機嫌になるもこたん。見ていて微笑ましい。
「最初に言ったでしょ? 暇だったから永琳と一緒に遊びに来たのよ」
一人で来てください。心の底からそう思った。
「久しぶりね」
八意さんが俺に言ってきた。
「え、あはい。そうっすね……」
八意さんから目を反らし、自分でも分かるくらいぶっきら棒に答えた。なんとかこの場所から逃げることはできないだろうか。
「ん~、お酒もなくなったし俺はそろそろ帰ろうかな」
「お酒なら持ってきたわよ」
八意さんが言った。
余計なことを……
「えと……ああ、そうだ帰ってやらなきゃいけないことが」
「さっき、今日は一日暇だって言ってただろ?」
意地の悪い笑を浮かべながら、妹紅に言われた。
仕返しか!? 看板立てたことの仕返しなのか!?
はぁ……どうやら逃げることはできないらしい。仕方が無い……のかな?
「いつ来てもこの家は狭いわね。座布団とかないの?」
「無いから帰れ」
ギャーギャーと仲良く騒いでいる妹紅とお姫様。
「結構良いお酒を持ってきたのだけど、どう?」
そして、八意さんは俺にそう言ってきた。む、良いお酒ですか?
ふむ……お酒に罪はないのだし此処は素直にいただくとしよう。
「いただきます」
まぁ、八意さんにも罪なんて無いんだけどさ。
いただいたお酒は香草の良い香りがする、すっきりとした味わいのハーブ酒だった。焼酎はまだあるし、今度俺も作ってみようかな。
人数が倍に増え、一気に賑やかな飲み会となった。賑やかなのは主に妹紅とお姫様だけどさ。
俺は八意さんと二人で静かに飲んでいました。ホント、何を考えているんだろうね、この人。
「黒って言ったかしら?」
そう言ってお姫様が声をかけてきた。
「そうだけど、どうしたの?」
そう言えば、このお姫様と会話をするのは始めてかもしれない。まぁ、俺がほとんど永遠亭に行ってないからだけど。行ってもてゐとぐらいしか話せない。
「うちで暮らしてみない?」
いきなり凄いことを言われた。
手に持っていたコップを落とさなかっただけでも褒めてもらいたい。
「えと……どうして?」
てか、普通に嫌です。永遠亭で暮らすとか、心が擦り切れます。
「貴方と喋っている永琳が楽しそうに見えたからよ。部屋も余っているし。永琳だって別に良いでしょ?」
お姫様はそう、俺と八意さんに言った。あれで楽しそうだったのか? 俺にはよくわかんないけど……
「まぁ、私は構わないけれど」
俺を見ながら八意さんも言った。
いやいや、勘弁して下さいって……
「今住んでいる所も大事だし、悪いけど断らせてもらうよ」
もし永遠亭と紫の家どちらに住むかと聞かれても、俺は永遠亭を選ばないと思う。俺だって色々と複雑なのだ。
「そう。もし暮らしたくなったのならいつでも言いなさい。それに遊びにくらい来なさいよ?」
お姫様が言った。
そう言えば永遠亭に遊びに行く約束あったっけ。すっかり忘れていた。
「ま、そのうちね」
ここの4人は時間だけはあるのだし、のんびり行かせてもらおう。これから永い付き合いにもなる。焦る必要はないのだから。
そんな会話をしながら、不老不死者達による飲み会は朝まで続いた。
お姫様はすでに寝ている。妹紅も妹紅で何処か眠そうだ。八意さんは変わってないけど。
簡単に片付けをして、妹紅に別れを告げる。
「んじゃあ、そろそろ帰ろうかな。また遊びに来るよ」
「ん、待ってるよ」
そんな簡単な会話をして外へ出る。冷たい空気がお酒で火照った体によく沁みた。
吐き出す息は白くなり、まだ冬なのだと感じさせられる。
隣に立っている八意さんの背中には、気持ちよさそうに寝ているお姫様。俺が背負って行こうか? と聞いたら丁重にお断りされた。
「それで? うちにはいつ来てくれるのかしら?」
八意さんが聞いてきた。
「えー、まぁ……そのうちでしょうか?」
俺がそう答えると、八意さんは小さくため息をした。吐き出される息はやはり白かった。
「貴方は少し気にしすぎ。あまり来ないようなら、私の方から行くわよ?」
え……マジすか?
「まぁ、今の所は冗談だけど、そろそろ来なさいよ? 別に一人で来いとも言っていないのだし」
あ~じゃあ霊夢でも連れて行こうかな。
「わかりました。近いうちに遊びに行かせてもらいます」
「そう、それなら良いの」
そう言って八意さんは帰って行った。相変わらず何を考えているのかは分からない。
嫌いってわけじゃないんだけどな……どうにも、ね。もう少し器用に生きることができれば良いんだけど……
さて、俺も帰るとしようかな。
流石に寒くなってきた。
春が恋しいです。
今回、主人公さんは妹紅さんの『霊力を辿って来た』とか言ってましたが、妹紅さんの力って妖力なんでしょうか?
妖術を使うのでそのエネルギー源はやっぱり妖力なのかな
とも思いましたが、一応彼女も人間ですので霊力としました
と、言うことで第45話でした
最近急に寒くなってきたので、ビールから麦焼酎にシフトしました
結局冷たいままで飲むので意味はあまりありませんが……
次話は未定です
完結までのビジョンが全く見えません
どうしたのもか……
では次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております