東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第46話~言葉にしないと伝わらない~

 

 

「春だ」

 

「春ね」

 

 満開に咲いた桜を見ながらぽそりと俺が呟くと、隣に座っていた幽々子は静かに同意した。降り積もった雪は溶けてなくなり、待ちに待った季節がやっときた。

 

 春。

 うん、やっぱりこの季節が一番好きかな。

 

 お土産に持ってきた大量の団子は既になくなり、今は串の山へと変わっていた。食べ過ぎです。

 

「しかしねぇ。こうも毎年桜を見続けると流石に飽きてくるな」

 

 ああ、今日もお茶が美味しいです。

 

「嘘でしょ?」

 

「嘘だよ」

 

 俺がそう答えると、幽々子はクスクスとどこか楽しそうに笑った。

 未来なんて誰にもわからないけれど、この桜を見飽きることなんてないんだろうな。そんな気がする。

 

「そう言えば今日だったわよね?」

 

 どこかを見ながら幽々子が言う。その視線の先には、あの咲かない桜の木。

 

「うん? 何が?」

 

「博麗神社でお花見」

 

 ああ、そう言えばそうだった。すっかり忘れていたよ。

 

「忘れていたでしょ?」

 

 ジト目の幽々子さん。

 

「歳のせいか忘れっぽくてね」

 

 俺がそう言うと幽々子はまた笑った。

 

 けれどもお花見と言う名の宴会まではまだまだ時間はあるのだし、もう少しゆっくりさせてもらうとしよう。

 

「あの木も以前より元気になった気がするわ」

 

 幽々子が言った。視線の先は変わらずその木に向けられている。

 

「そうなのか? 俺には違いがわからんけど」

 

 どう見ても枯れ木だもんね。俺には枯れ木の違いとかわかりません。

 

「また咲かせてみようかしら。そうすればもっと元気になりそうだし……」

 

 お願いですからやめてください。

 

「ふふっ、冗談よ。封印されている人は気になるけれど、私はそれでも良いと思っているし」

 

 どうか、そのままの気持ちでいてくださいね。封印するのだってなかなかに疲れるんだ。

 そして、もしあの封印が解けてしまったら今の幽々子に会うことはできなくなるだろう。それは少し悲しいかな。

 

「それに……」

 

「うん?」

 

「咲かない桜って言うのも風流だと思わない?」

 

 そう言って幽々子は笑った。

 うん、そうかもしれないね。

 

「俺は咲いている桜の方が好きかな」

 

「ひねくれ者」

 

 そういう性格なんです。

 

 

 

 そんな感じで妖夢ちゃんの淹れてくれたお茶を飲みながら、のんびり幽々子と雑談をしていると、視界の端にふよふよと此方へと近づいてくる紅白が見えた。

 

 おろ、どうして霊夢が? 宴会まで時間はまだあると思うけれど。

 

「あら? お迎えが来たみたいよ」

 

 ん~、俺に用があるのかな? 時間はまだお昼過ぎ。宴会に来るメンバーのほとんどは夜からが本番なのだし、流石に早すぎるでしょ。

 

「やっと見つけた。ここにいたのね」

 

 俺たちの目の前に降りて、霊夢が言った。どうやら俺に用があるらしいです。

 

「や、霊夢こんな時間からどうしたの?」

 

 もう少しのんびりしていたかったんだけどなぁ。

 

「お花見の準備をするから来て。それに萃香や紫は飲み始めてるし、レミリアも来てるし……」

 

 はええよ。今、何時だと思ってるんだ。そして何でレミリアが昼間からいるんだよ。

昼間はちゃんと寝てなさい。フランちゃんは……流石に来ていないよね?

 

 なんだかなぁ。

 皆、春になって浮かれているんですかね?

 

「了解。んじゃあな幽々子。また博麗神社で」

 

「ええ。また」

 

 そんな簡単な会話だけをして霊夢と一緒に飛び立った。

 

 お酒も持って来ないとだし、忙しくなりそうだ。ホント、ゆっくりさせてくれやしない。

 ただ、白玉楼の桜も嫌いではないけれど、やっぱり博麗神社の桜が一番。自分で植えたってのもあるんだろうね。まぁ、このお花見も心の底ではかなり楽しみだったりします。

 

 春の風に乗り、桜の香りに誘われて向かう先は博麗神社。花より団子と言う言葉があるけれど、できることならどっちもいただきたい。

 

「そう言えば黒」

 

 飛びながら、と言うよりは落ちながら博麗神社へ向かっていると、こちらを見ないまま霊夢が聞いてきた。

 

「どしたの?」

 

「この前、今度何処かへ二人で遊びに行くって言っていたけど、いつ行くのかしら?」

 

 ……うん?

 そんなこと言ったかな? 覚えていないんだが。

 

 あら、ヤバい。霊夢さん不機嫌だ。えと……どうしようか。忘れていたとか言うと絶対怒られるよね。

 ただ、上手い言い訳なんてできるわけがない。

 

「忘れてたの?」

 

 漸く霊夢がこちらを見てくれた。

 俺は目を反らしたけれど。

 

「え~……まぁ、その……はい」

 

「……そう」

 

 いつもと変わらないように見えたけれど、何故かその声は悲しそうだった。もしかしたら楽しみにしていてくれたのかな。

 

 ごめんな。

 今度は忘れないようちゃんと覚えているよ。

 

 

 

 

 それからは会話もなく、どことなくギスギスとした雰囲気のまま博麗神社へと着いた。

 

 淡い桃色の花びらを付けた木々が博麗神社を春一色に染め上げ、なかなかに見事な風景。その桜の下では萃香と紫がお酒を飲んでいた。

 

 てか、紫は呼ばれてないでしょうが。なぜ此処にいる。呼んでも出てこないくせに、呼ばないと出てくる割と困ったちゃんめ。

 

「おー、やっと黒も来たんだ。こっちに来なよ」

 

 俺に気付いた萃香が言った。

 

「あら……霊夢が不機嫌そうだけど何かしたの? どうせ貴方が原因でしょうけれど」

 

 紫が言った。おっしゃる通りで返す言葉もございません。

 

「何をしたのかわからないけれど、ちゃんと謝っておきなさいよ? 言葉にしなきゃ伝わらないこともあるのだし」

 

 紫に俺自身が誰かに言ったセリフを言われた。

 

「……わかっているよ。俺はちょっとお酒を取ってくるからもう少し待っててくれ。皆がそろう前に飲み過ぎるなよ?」

 

 どうせダメだろうけれど、一応言っておいた。霊夢は博麗神社に着くと早々に母屋へと行ってしまった。たぶん宴会の準備をするんだろう。

 

 店に戻り、のんびりと準備をしていたせいで博麗神社へまた戻ってくる頃には宴会が始まってしまっていた。遅れたのは、早苗ちゃんのためにライスワインを探していたりしたせいです。

 

 

 紅魔館組をはじめ、白玉楼、永遠亭、守矢神社に妖精などと賑やかな声が神社に響く。

 

「遅いよー。何やっていたのさ?」

 

 片手にいつもの瓢箪を持ちながら萃香が言ってきた。

 

「のんびりしていたら遅れちゃったんだよ。まぁ、お酒はちゃんと持ってきたから良いだろ?」

 

「おおー、それなら良い。久しぶりに黒のお酒も飲みたいしね」

 

 お前は最近店に来てたでしょうが。あと、お花見なんだからちゃんと桜も見なさいよ。

 

「わー黒のお酒だ!」

 

 声のした方を見ると守矢神社の神様がいた。お前らのせいで日本酒のストックが既になくなりかけてるんだけどね。毎日のように俺の店に来ては大量のお酒を飲んでいきやがった。どうやって店へと続く入口を見つけているのやら。

 

「あ、諏訪子。このお酒は早苗ちゃん用だから渡しておいてあげて」

 

 5合ほどのお酒が入れられた瓶を諏訪子に渡す。

 

「何これ?」

 

 ライスワインとか言われるやつ。日本酒の発酵を途中で止めることで、甘く飲みやすいお酒になる。

 

「甘い日本酒って感じのお酒かな」

 

 持ってきたお酒は適当に回りながら皆へ渡していく。

 

 魔理沙ちゃんは珍しく来ていた橙と弾幕ごっこ。酔っ払った妖夢ちゃんはいつものように剣を振り回し、それを見て笑っている幽々子。妹紅と慧音は、端の方で桜を見ながら静かにお酒を飲み。永遠亭のメンバーは紅魔館組と一緒にいた。月に言った時のことでも話しているのかな。

 

 賑やかな空気。

 楽しげな雰囲気。

 

 しかし、何かが足りない。

 

「なあ、紫。霊夢は?」

 

 いつの間にか隣にいた紫に尋ねる。

 

「母屋で休んでいるわよ。珍しく飲み過ぎたみたいね」

 

 へぇ、そりゃあ珍しいな。鬼のお酒でも飲んだんだろうか。飲みやすい割にアルコール高いしね、あのお酒。

 

「行ってあげなさいな。一人にしてはかわいそうでしょ?」

 

 まぁ、それもそうだね。元気になるとも思えないけれど、一人じゃ寂しいもんな。

 

 そんな会話を紫として母屋へと向かう。その途中で八意さんに捕まった。なんですか? もう。

 

「巫女のところへ行くの?」

 

「ええ、まあ」

 

 心配と言えば心配だし。

 

「じゃあこれを持って行きなさい」

 

 そう言って八意さんが紙に包まれた物を渡してくれた。

 

「……これは?」

 

「酔いの為の薬よ」

 

「ども、ありがとうございます」

 

 助かります。それ俺にもくれないだろうか?

 

「……いくらあの巫女が人間離れしているとは言え、あの娘はまだ子どもよ。身体も……心もね」

 

 それだけ言って八意さんは騒がしい方へと戻っていった。

 

 ……子どもねぇ。そんなこと俺が一番わかっているはずなのにな。

 

 

 そしていつもの縁側に霊夢は座っていた。うん? 思っていたよりと大丈夫そう?

 

「あら? やっと、来たのね」

 

 こちらをまっすぐ見ながら霊夢が言った。ちょっと遅れちゃったけどね。まぁ、きっと間に合ったんだろう。

 

 てか、すごく酒臭いぞこの巫女。どんだけ飲んだんだよ。

 

「珍しいね。霊夢が飲み過ぎるなんて」

 

「……なぜか飲みたい気分だったのよ」

 

 おっさんみたいな奴だな。口には出さんけど。怒られるのやだし。

 

 そんなことよりだ。

 

 

 霊夢の機嫌は治ってくれたのかな?

 

 

 ああ……いや、違うか。

 

 紫に言われたじゃないか。口に出さなきゃ伝わらないって。

 

 あ~、やだな~、恥ずかしいったらありゃしない。まぁ、でも言わなきゃいけないんだろう。

 

「……ごめんな」

 

 そっぽを向き、ぽそりと言った。

 

「……文とは遊んでたくせに」

 

 すねたような口調で霊夢が言った。

 

 あれは無理矢理連れて行かれたんだけどね。そんな言い訳が口から出かかる。ただ、それでは話が進まない。

 

「すっかり忘れたんだ。だからその……ごめん。今度はちゃんと覚えておくし、ちゃんと俺の方から誘うからさ」

 

 だから機嫌を直してくれませんか?

 

「うん……楽しみにしているわ」

 

 霊夢もどうやらかなり酔っているようで珍しいくらい素直だった。

 

 

 その後も霊夢を置いて騒がしい方へと戻る気にはなれず、八意さんからもらった薬を渡し、お茶を飲み、夜桜を楽しみながらのんびりとした時間を過ごした。その時どんな話をしたのかなんてのは……まぁ、別に言わなくても良いとしよう。

 

 

 結局その日、お酒を口にすることはなかったけれど、こういう日も良いかもしれない。

 

 な~んてね。

 

 

 さてさて霊夢とのお出かけは……ホントどうしようか。

 

 






先日、日本酒の講演会があり行ってきました
決して試飲会が楽しみだったわけではありません
ええ、違いますとも

そこで本文でも出てきたライスワインを初めて飲んだのですが非常に美味しかったです
日本酒が嫌いと言う方でも美味しく飲めるかと思います

お値段は高いですが……


と、言うことで第46話でした
間が空きましたが私は元気です
ラブコメっぽいの書きたいな~とか思いながら書いたらこの有様だよちくしょー

次回は漸く霊夢さんとのデート……を書けたら良いと思っております


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