東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第閑話~はじまり、はじまり~

 

 

「あ~……」

 

「どうしたのさ? ボーっとしちゃって」

 

 店の中でこれから起こる異変のことを考えていると、萃香に言われた。どうやら声に出てしまっていたらしい。

 

 異変が起きるまで、もう一日もない。

 

「いやさ。異変を起こすのなんて初めてだから、どうすれば良いのかな~って思って」

 

「黒は最後なんだから、ドーンと構えていれば良いんじゃない?」

 

 まぁ、それで良いとは思うけどねぇ。どうにも……

 

「最後が貴方じゃ、なんとも締まらない異変になりそうね」

 

 クスクスと笑いながら紫が言った。

 んなことは、わかってます。

 

「じゃあ、紫がラスボスやってよ。俺は道中の雑魚敵役になるから」

 

 異変解決時の霊夢に俺が何秒持つだろうか。文字通り瞬殺される未来しか見えない。

 

 今頃になってやめたくなってきた。まぁ、もう後戻りはできないのだけど。

 

「それじゃあ、意味がないでしょ。貴方が最後だから意味があるのよ」

 

 そうなの?

 そもそもこの異変自体、酒に酔った勢いで決めたやつじゃん……本当に大丈夫だろうか。

 

 いっそ白に頼んでラスボスをやってもらおうかな。いや、流石に無理か。

 

「ねぇねぇ」

 

「うん? どったの萃香?」

 

 うんうん悩んでいると萃香につつかれた。

 

「さっきから紫と目を合わせてないみたいだけど、どうしたのさ? 紫も黒の方を向こうとしないし」

 

 あっ、やっぱり気になります?

 てかなんだ、紫も俺の方を見ていなかったのか。

 

「喧嘩でもしたの?」

 

「いや……そうじゃないけど」

 

 先日の出来事のせいで、どうにも紫を見ることができない。そんな初心な性格ではなかったはずなんだけど……

 

「ま、まぁ、その話は良いでしょ? それより、そろそろ始めようと思うけれど、大丈夫かしら?」

 

 慌てたように紫が言った。

 

「うん……そうだね。そろそろ始めようか」

 

 俺がそう答えると、紫は持っていた扇子を軽く振った。そして床に八卦の図像が。

あ~、なんか緊張する。

 

 いよいよなんだね。

 

 その中心まで移動し軽く深呼吸。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ」

 

 どうか、無事成功しますように……

 

「それじゃあ、始めるわ」

 

 紫はそう言って、また扇子をふわりと振った。

 

 その瞬間、光が俺を包んだ。

 

 うおっ、これはすごいな。

 

「そう言えば紫。私も黒の記憶は消えちゃうの?」

 

 萃香が何かを話しているのだろうけれど、声がよく聞こえない。

 

 あれ? これ本当に大丈夫? なんか結界から嫌な音が聞こえるんだけど。

 

 確か、呪い返しってこんな感じだった気が……き、気のせいですか?

 

「この場所は結界の範囲外だから、貴方の記憶は消えないはずよ」

 

 おやおや、何故か頭が痛くなり始めましたよ? ちょっ、ちょっとまずくないですか? 声も出ないし。

 ね、ねぇ一旦これ止めません? 嫌な感じしかしないのだけど。

 

「へ~便利なものだねぇ」

 

 あ、ヤバい。身体も動かない。

 

 意識が……飛びそうだ。

 

「さて、そろそろ終わるはずだけど、どう? 調子の方はって……あれ?」

 

 ああ……ああ、どうか、何事もなく平和に終わりますように……

 

 そんなことを思いながら、俺の意識は薄れていった。

 

 後は頼んだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「さて、そろそろ終わるはずだけど、どう? 調子の方はって……あれ?」

 

 紫の声を聞いて黒の様子を確認。莫迦みたいに輝いていた結界はなくなり、その中心で黒が倒れていた。

 情けないなぁ。

 

 紫の言葉は引っかかるけれど、私の記憶が消えていないと言うことは成功したってことで良いのかな?

 

「何倒れているのさ黒。ほら起きなって」

 

 黒の側まで近寄り声をかける。

 

「失敗……したの? どうして? 繋がりが切れている」

 

 紫の呟きが聞こえた。繋がり? なんのことやら。

 

 そして、ぺしぺしと黒を叩いてみたもののなかなか起きない。

 

「まずい! 枷が外れて……っ! 萃香! 黒から離れて!!」

 

 うん? 枷? さっきから何を言っているのさ。って、おお、漸く黒が動い……んなっ!

 

 黒が起き上がったと思った瞬間吹き飛ばされ、店の壁に叩きつけられた。ガードは間に合ったけれど、腕の感覚がおかしい。

 

 何に飛ばされた?

 まさか黒……に?

 

「あ~……頭が痛いや。身体も怠いし、フラフラもする。でも、気分は悪くないかも」

 

 黒が言った。しかし様子がおかしい。

 

 そして、黒から巫山戯ているほどの妖気が溢れ出した。

 

 身体が震える。

 ちょ、ちょっと待て、何だって言うのだ。

 

 この妖力は……黒から?

 

「……黒。私達のことがわかるかしら?」

 

 紫の震えているような声がした。

 

「知らないよ。知らないけれど、今は一人になりたい気分なんだ。だからさ……」

 

 

 ――消えてくれないかな?

 

 

 紫の舌打ちが聞こえた。

 ちょーっと、まずいかもね。

 

「萃香! 時間を稼いで。黒をスキマに押し込むから!」

 

 無茶な要求をしてくれる。流石の私でもアレとは戦いたくないと言うのに。

 

「わかったよ。ごめんね黒。手加減はできないから」

 

 手加減をする余裕なんて、ない。

 

 身体を疎にして黒の後ろへ。動かない右手の代わりに左手を使い、黒の首へ全力で叩き込んだ。

 

「……一瞬だけ消えてって意味じゃないんだけどね」

 

 空を切る拳。

 

 あっ、ヤバい。ちょいとばかし、次元が違う。

 

 そして、背中から激痛が走り、床へ叩きつけられた。

 

「萃香っ!」

 

 息が上手く吸えない。

 

 紫、お願いだから早くして……これは無理だよぉ。

 

 顔を上げると黒が拳を振り上げているのが見えた。能力を使う暇はない。

 

 最近は生ぬるい生活を送っていたしなぁ。もう身体が動かないや。

 

 そんなことを考えていると、拳が届く直前に黒は消えていった。どうやら間に合ってくれたらしい。

 

 紫の姿を確認すると、膝を床につけ呼吸は荒くなっていた。たぶん、いろいろと無茶をしたのだろう。

 

 

 呼吸を整え、なんとか立ち上がって紫の方へ。身体中が悲鳴を上げている。うわ~、フラフラだ。

 こんなの何年振りの感覚か……

 

 

「ねぇ、紫。何が起こったの?」

 

 本当は黒ってあんなに強かったんだね。うん、できれば二度と戦いたくないかな。

 

「……はぁ。何故か幻想郷を囲うように張った結界が跳ね返って来たのよ。中心にいた黒へ。それで、黒の記憶が飛び、封印していたはずの妖力が出てきた。私とも切れてしまうし、このままだと博麗大結界も……」

 

 紫の息が荒い。詳しいことはよくわからないけれど……

 

 

「つまり?」

 

 

「最悪の状況ね」

 

 

 なるほど。

 さて……どうやってアレを止めようか。

 

「とりあえず、博麗神社に人を集めましょう。私たちだけでは、どうしようもできないわ。それに時間がない。萃香、各勢力への呼びかけをお願い」

 

 どうやら紫は相当辛いみたい。

 

 私もかなりキツいんだけどね……休んでいる場合じゃない。まぁ、了解したよ。

 

 時刻はもうとっくに夜となっている。残された時間は、少ないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 時は少しばかり戻って、舞台の場所は紅魔の館へ。

 

「良かったのですか、お嬢様?」

 

 紅魔館のメイドである咲夜がレミリアに聞いた。きっと昨晩にした、黒からのお願いのことだろう。

 

「別にあれくらい構わないわよ。霊夢とまた戦える、と言うのも悪くはないしね」

 

 朝食に好物の納豆を食べたおかげか、何処かご機嫌な様子のレミリア。

 

 本当に妖怪最強種である吸血鬼なのか怪しいけれど、気にしてはいけない。夜の帝王(レミリアの場合は女王か)なのに何故、朝起きているのか気にしてはいけない。

 

「確かに黒だけじゃなく、妖怪賢者に良い様に使われているのは気に食わない。けれども黒の頼みだしねぇ」

 

 フランドールの件もあるだろうが、黒の好感度はやはり高いらしかった。

 

「そうですか」

 

 何処か納得していない様子の咲夜。と、言うかこのメイドはいつ寝たのやら。昨晩も黒に私刑を行っていたのにも関わらず、その顔に疲れは見えない。

 いくら時間を止めようが、この様子は真似できる物ではないだろう。流石はプロと言ったところか。

 

「まぁ、私も良い様に踊るつもりはないけれどね。咲夜、パチェを呼んできて」

 

 レミリアが言った。

 さてさて、何を企んでいるのでしょうか。

 

「はい、かしこまりました」

 

 

 

 

 

「どうしたのレミィ? 私は今から寝ようと思っていた所なのだけど」

 

 咲夜に連れられてパチュリー登場。いつもに増して眠そうな顔。

 

「ちょっとお願いがあってね。どうやら、妖怪賢者が私達の記憶を消す結界を張るらしいから、それを防いでもらいたいの」

 

 良い様に踊るつもりはないと言っていたが、どうやらそういうことらしい。それはきっとレミリアなりの反抗なのだろう。

 

「妖怪賢者の結界? だとしたら妖術でしょ? 防げるかどうかわからないわよ」

 

「魔術だろうが呪じゅちゅだろうが、防ぎさえすれば構わないわ。できないとは言わせない。やりなさい」

 

 今、噛んだよね。

 呪術って言えなかったよね。

 

「信頼しているわよ。パチュリー」

 

「……御意に」

 

 そして紅魔の図書館が動き出した。

 

 

 さらにどうやら、紅魔の館だけではなく亡霊少女や月の頭脳、山の上の神々だって、何もせず異変を迎えるつもりはないらしい。

 

 一匹の蝶の羽ばたきが嵐を引きこす様に、わずかな差が大きな結果を引き起こす。

 

 

 きっと今回は、たまたまそれが悪い方へと転がっただけなのだろう。

 

 






なんとか更新です

少女を全力で殴る主人公とか……ま、まぁ、きっと今回だけでしょう


と、言うことで第閑話でした

三人称視点が入ったので閑話に
最初はレミリアさん視点でしたが、書いていて『こりゃダメだ』と思い書き直しました
違和感パないですが……

完結までもう少し
あと少しだけお付き合いいただければ私は幸せです

では、次話でお会いしましょう
次話は誰視点になるのやら


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