東方酒迷録【完結】   作:puc119

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第50話~笑いながら~

 

 

 もう深夜と言って良い時間。そうだと言うのに、どうにも境内の方が騒がしい。

 

 一つや二つ程度の声ではないし……今日は宴会だったかしら? そんなことはないと思うけれど。

 

 

 このままじゃ静かに寝ることもできないだろうし、寝巻きからいつもの巫女服へ着替えて外へ。そこには、レミリア達紅魔館組をはじめ多くの人や妖怪などが集まっていた。紫までいるし……

 え? なにこれ宴会? 私は何も聞いていないのだけど。

 

「あら、霊夢も起きてきたのね。それならちょうど良いわ」

 

 紫が言った。その顔は珍しく苦しそうだった。

 

 何か嫌な感じがする。

 

 そう言えば黒の姿が見えない。こういう集まりにはいつもいるのに。

 

「どうしたのよ、こんなに集まって。宴会ではなさそうだけど」

 

 私がそう聞くと、何故か皆目を反らした。いや、説明してもらわないとわからないのだけど。

 

「異変が起きたのよ……」

 

 漸く紫が口を開いた。やはりその顔は辛そうだった。

 

「異変ってどんなのよ? 特に変わったことはなさそうだけど」

 

 天候が変わったわけでもないし、妖精たちも騒ぎ出していない。引っかかることと言えば、黒がいないと言うだけ。

 

「少し長くなるけれど、今から説明するわ」

 

 紫が言った。

 そしてさっきから続く、この何とも重たげな雰囲気はなんなのだろうか?

 

 

 

 

 

「あれ? 皆して集まってどうしたのさ?」

 

 そんな声が神社に響いた。声のした方を見ると、黒と仲の良いいつかの変な妖精がいた。名前は確か白って言ったと思う。

 

「うっ、あの時の妖精……何をしに来たのよ」

 

 そんなレミリアの声がした。どうしたのだろう。白とレミリアの間で何かあったのかしら?

 

「おっ、やほーレミリアちゃん。久しぶり。私は黒と遊びに来ただけなんだけど……何かあったの?」

 

 

「ちょうど良いわ。貴女も聞いていって。黒とこれからの幻想郷に関わる重要なことなの」

 

 それにしても、どうして紫はあんなに苦しそうなのかしら? いつも感じる余裕が全く見られない。

 

 ――それじゃ、今の状況を説明するわね。

 

 そう言って紫は話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫の話をまとめると、どうやら私には内緒で黒が中心になって異変を計画していたらしい。

 異変の内容は皆から黒に関する記憶を消し、各勢力は好き勝手に暴れる。そんな何ともよくわからないような異変。

 

 そして、黒に関する記憶を消すときに問題が発生。呪術や魔術、妖術や陰陽術などを用いて、各勢力は記憶が消されないように対応した。それらの術が組み合わさり、偶然が重なって記憶を消すはずの術が黒に跳ね返った。

 その結果、黒自身の記憶が消えてしまい、よくわからないけれど、黒の中にあった枷が外れた。さらに、黒の力を借りて張られていた博麗大結界も危ない状況に。

 萃香と紫の二人でなんとか黒の暴走を止めようとしたが、スキマの中に入れるのが精一杯だった。このままだと幻想郷が危ないから各勢力を集め現在に。紫が辛そうなのは、博麗大結界をなんとか維持しているからしい。

 

 私に内緒で異変を起こそうとしていたのは腹が立つけれど、この重苦しい空気の原因は理解できた。きっと全員が全員後ろめたいのだろう。それが偶然の結果だとしても。

 

「……どういう状況なのかはわかったけれど、これからどうするの? 時間もないんでしょ?」

 

 萃香と紫の二人がかりでも倒せないって……どれだけ強いのよ。

 

「それを今から話し合うところなの。けれどもかなり厳しい状況だわ。黒の妖力が大きすぎて、立っているのも辛かった。私や萃香ですら黒には歯が立たなかったもの……」

 

 そう言うことらしい。

 話が飛びすぎていてわからないけど、黒ってそんな力を持っていたの?

 

「神奈子様なら……なんとかなりませんか?」

 

 早苗が言った。

 その言葉に神奈子は何も答えず、代わりにもう一柱である諏訪子が答えた。

 

「無理だよ。アレは無理。全盛期の私と神奈子が二人がかりでも無理だったもの。今の私たちじゃ話にならない。純粋に妖力もおかしいけれど、あの再生力が巫山戯てる。負った傷はすぐ再生するし、黒の能力のせいでこちらは飛ぶこともできない。もしあの時、黒が正気に戻っていなかったらきっと私たちは此処にいない」

 

「そう……ですか」

 

 じゃあ、どうすれば良いのか? 諏訪子や神奈子達でも勝てず、並の力では黒の前に立つことすら許されない。

 

 沈黙が続く。

 

 これはごっこ遊びじゃないんだ。失敗したら全てが消えてしまう……

 

「……先に言っておくけれど、このまま黒を止められないようなら……私の存在ごと黒も一緒に消すことになるわ」

 

 長い沈黙を破り紫が言った。

 

 

 黒を――消す?

 

 

 ちょっと待って、そんなこと……

 

 

「そんなこと私が許さないよ。黒のいない世界なんて意味がないもん。そんな世界ぶっ壊す。全部、みんな、残らず、跡形もなくぶっ壊すよ?」

 

 あの妖精が言った。

 全員の視線がそこに集まる。

 

 

 そして、その瞬間空気が震えた。

 

 

「……っ。お願いだから、その殺気を収めてもらえるかしら? 貴女の気持ちはわかる。それでも私は……幻想郷のためにやらなければいけないの」

 

「っと、ごめんごめん。ちょっと感情的になっちゃった。ん~……それなら私が黒を止めに行くよ。黒にかかっている術を解けば良いんでしょ?」

 

 前から思っていたけれど、本当にただの妖精なの? 嫌な感じはしないけれど、この妖精の底が全く見えない。

 

「……貴女は死んでも良いの?」

 

「良いよ。黒のためなら笑いながらだって死ねる……まぁ、もう死んでるんだけどさ」

 

 そう笑いながら妖精が答えた。その言葉に何故か心がズキリと痛む。

 

 私はいまだ白と黒の関係をよく知らない。白は黒のことをどう思っているのか。そして、黒は白のことをどう思っているのか……

 

 ただ、もし今の白と黒の状況が逆だったとしても、黒は白を止めに行ったと思う。それだけは、なんとなくわかった。

 

「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。紫ちゃんお願い」

 

「一人で行くの? 流石の貴女でも、それは厳しいと思うわよ」

 

 白の強さは知らないけれど、紫と萃香でもダメだったのにどうして一人で行こうとするのか、私にはわからなかった。

 

「それなら私もついて行くわ。簡単には死なない体質なのだし」

 

 永琳が言った。確かに、永琳みたいな不老不死ならば今回はあっている気がする。

 

「あ~、えと……まぁ、それは嬉しいけど……」

 

 永琳の言葉を聞いて戸惑う白。どうしたのかしら?

 

「貴方は止めておいた方が良いと思うよ?」

 

「……何故?」

 

「いや、その……貴方が行くと、余計に黒が壊れそうだし……」

 

 うん? どういうこと? 確かに黒は永琳を避けていた気がするけれど、そこまでのことだったっけ?

 

「そうね……私も貴女が行くのには賛成できないかしら。以前のこともあるし」

 

 紫がそう言うと、永琳は『そう、わかったわ』とだけ言い、黙ってしまった。その顔には少しだけ憂いの色が見えた。

 

「それじゃ、今度こそ行ってくるよ。ちょっと様子を見てダメっぽかったらすぐに帰ってくるから、紫ちゃんお願い。私も時間は少ないしね」

 

 白がそう笑いながら言うと、紫は持っていた扇子を軽く振り、白はできたスキマの中へと入っていった。

 

「ねぇ、紫。あの妖精って黒とどう言う関係なの?」

 

 本当は白に直接聞けば良いのだろうけれど、何故か聞きづらかった。

 

「私も詳しくは知らないけれど、昔からの友人だそうよ。ずっとずっと昔からのね」

 

 昔からの友人。

 

『私は、貴方よりもずっと昔から、黒さんのことを知っている。貴方が思っているよりも、私と黒さんの仲は近いわよ』

 

 いつかの天狗が言った言葉が頭の中に浮かんだ。

 

「一緒にいた時間なんて関係……ないのに」

 

 独り言が溢れる。

 私は昔の黒を知らない。紫や白と違って、たった十数年の思い出しかない。

 

 ないものは……ないのだ。

 

 どうしてか、そんなことばかり考えてしまう。たぶん、きっと、純粋に私が黒を助けに行けないからなのだろう。私に黒を助けるだけの力が無いせいで……

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間、そんなことを考えていたのかわからないけれど、スキマからボロボロになった白が現れた。

 

 状況は思っていた以上に深刻だ。

 

「どう、だったの?」

 

 結果はわかっている。それでも聞かずにはいられなかった。

 

「……なにアレ?」

 

 帰ってきた白が言った。いや、私は知らないわよ?

 

「ちょっと強すぎない?」

 

 顔は笑っているが、服の所々に付いた赤い染みを見ると、私は笑えなかった。

 

「そう、貴女でも無理だったのね……」

 

 落ち込んだような紫の言葉。

 

「最初はいけるかな~って思ったんだけどね。躱せない攻撃でもなかったし。とりあえず動きを止めようと思って、足の骨を折ってみたんだ。でも直ぐに戻っちゃって……首をハネても一瞬で戻るし。妖弾は消されるし、一発の攻撃が巫山戯てるくらい重いし……どうしろって言うのさ! ん~まぁ、私一人じゃちょっとアレは無理かな。術を解く暇がないもん」

 

 所々で物騒な言葉が聞こえたが、黒の強さは相当なものらしい。

 白一人では無理。

 

 でも、少しだけ希望が見えてきた。

 

「そうね。それなら……」

 

 紫の呟きが聞こえる。

 

 萃香や神奈子達でも敵わない。紫も厳しいだろうし、永琳もダメっぽい……

 残っているのは……レミリア?

 

 いや、不安しかないか。

 

 

「霊夢。貴方がいきなさい」

 

 

えっ?

 

 






きっと次話が最終話


では、次話でお会いしましょう


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