東方酒迷録【完結】   作:puc119

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エピローグ~お酒と仲間と~

 

 

 賑やかな声が境内に響く。

 俺と霊夢が戻ってきた時には、既に宴会が始まっていた。待っててくれても良かったのにね。

 

 

 情けないけれど、自分では動くことができないから、霊夢の手を借りて神社の縁側まで移動。手はなんとか動くようになったものの、足には全く力が入らない。こりゃあ、当分は霊夢の世話になりそうだ。

 

 まぁ、仕方ないのかな。お世話になります。

 

 桜なんて散ってしまったし、見る物と言えば、楽しそうに騒いでいる者達だけ。酒の肴には少々甘すぎる。

 贅沢だろうか。

 

「この場所も随分と賑やかになったね」

 

 隣に座っている紫に言った。それにしても、紫にはまた借りができてしまった。返しきれるだろうか。

 

「そうね。でも貴方は賑やかな方が好きでしょ?」

 

「静かな場所も嫌いじゃないけどな」

 

 そんなことを俺が言って、持っていた盃を差し出すと、紫はお酒を注いでくれた。

 ありがと。

 

 お酒を口に入れながら、もう一度境内を見る。

 神、人、妖怪なんて関係なく、皆楽しそうに騒いでいた。

 

 数十年前には考えられなかったこと。これも霊夢のおかげなのかな?

 

 何故か霊夢の周りには人が集まる。それが、霊夢の能力だったりするのだろうか? そうだとしたら、消すことしかできない俺と大違いだ。

 

 ――『人を集める程度の能力』

 

 うん、よい響き。紫に分けてあげれば良いのに。

 

「また、失礼なことを考えているでしょ?」

 

 ジト目の紫さん。

 良い勘をお持ちなことで。

 

「まぁ、もう慣れたから良いけど……それより、身体の方は大丈夫なの?」

 

 おろ、随分と優しいじゃないか。

 カメラが止まるくらいは覚悟していたのに。

 

「ガタガタでボロボロだよ。自力で立つことだってできないし」

 

 ここまで酷くなったのは、神奈子達との戦い以来じゃないかな。いや、あの時より酷いかも。

 

「博麗大結界の方は大丈夫?」

 

 繋がりは戻っているっぽいけど、切れている時間も短くはなかったと思う。まぁ、ここで紫がのんびりとお酒を飲んでいるってことは、大丈夫ってことだろう。社交辞令みたいなものです。

 

「妖力はもう空だし、一時は諦めかけていたわ。それでも、今はもう大丈夫よ。供給源も戻ったし。ホント、妖力だけは莫迦みたいにあるのね」

 

 一時は諦めかけたって……思っていたよりやばかったのかな? ま、まぁ、とりあえずは一安心です。

 御迷惑をおかけしました。

 

「さて、流石に私も疲れたから、そろそろ帰るわ。それじゃ、またね黒」

 

「うん、またな紫」

 

 そう言って別れの挨拶を告げると、紫は消えていった。むぅ、お酒を注いでくれる人がいなくなってしまった。自分では動けないし、由々しき事態である。誰か来てくれませんかね?

 

「隣、良いかしら?」

 

 そんなことを考えていると、八意さんが声をかけてきた。

 片手にお酒を持って。うっわー、貴方ですか。できれば咲夜さんとかが良かった。

 とは言っても、断ることも、逃げることもできない。まぁ、仕方がないのかな。

 

「……はい、どうぞ。ちょうど今、空きましたし」

 

 ホント、この人は良いタイミングで現れるよね。ストーカーなんじゃないだろうか? いや、流石にそれはないか。

 

「……随分と間があったわね」

 

 そう言いながら、八意さんは俺の隣に座った。心の中で激しい葛藤があったんです。あと、ちょっと近くないですか? できれば、もう少し離れてもらいたいです。

 

「白って言ったかしら? あの娘は……貴方と同じあの施設の?」

 

 そんなことを八意さんは言って、お酒の入った瓶をこちらに向けてきた。あ、どうも、ありがとうございます。

 

 へ~、白と会ってたんだ。

 白だって、八意さんのことは知っていただろうし……会話とかしたのかな? ちょっと気になる。

 

「はい、そうですよ。一緒に暮らした仲間です」

 

 あれから何年経ったんだろうね。自分で言うのもアレだけど、人生経験は豊富な方だと思う。八意さんには負けそうだけど。

 

「そう。あの娘は、今も生きて……」

「いえ、死んでいますよ」

 

 ああ、ホント懐かしいな。八意さんと会話をすると、あの時のことばかり思いだす。

 

 

 

『最期のお願い。私が私でいられる内の最期のお願いを聞いてもらっていい?』

 

『ああ、何でも』

 

『ありがと。じゃあさ、黒の手で私を――』

 

 

 まぁ、思い出すものが良い物ばかりじゃないってのは、ちょいと問題かな。楽しい思い出だって沢山あるんだけどね。

 

「じゃあ、何故あの娘は此処にいたのかしら?」

 

「俺がまだ、生きているからだと思います」

 

 俺の答えに八意さんは首を傾げた。白と俺の関係は、色々と複雑なんです。

 

 理由はそれだけじゃないと思うけれど、白がいつまでたっても消えないのは、それが一番の理由なんだろう。ま、あいつも楽しそうだし、これで良いと思う。

 

 いつかこの問題も解決しなきゃならないのかねぇ。そろそろ時効になっても、良い頃だと思うけど。

 

 むぅ、なんだか湿っぽい雰囲気になってしまった。これじゃあ、酒の肴に辛すぎる。

 

 八意さんからいただいたお酒を一口飲んでみる。香草とアルコールの香りが鼻を抜け、仄かな甘味を残しながら喉を流れていった。

 うん、なかなかに美味しい。

 

「あややや、ここにいましたか。探したんですよ黒さん」

 

 そんなことを言いながら、文が此方に近づいてきた。ちょうど良いタイミング。八意さんと話すこともないし、こういう時、空気を読まない文みたいな存在は助かる。こういう時以外は勘弁してもらいたいけど。

 

「探してたって、どしたの? ってか、文は異変参加組じゃないよね。何故此処にいる」

 

 何処から嗅ぎつけたのやら。

 流石は自称新聞記者。

 

「そうですよ、どうして私を誘ってくれなかったんですか? 私と黒さんの仲でしょうに」

 

 いや、そんなに仲良くないでしょ。たまに会って話すくらいじゃん。

 それに、普段文がいる場所とか知らんもん。あと、天狗が五月蝿いし、天魔は何考えているのかわからんし、妖怪の山はあまり行きたくない。

 あ~でも、椛ちゃんにはまた会いたいな。会ってくれなそうだけど。

 

「っと、話が反れました。天魔様からの伝言ですが、婚約の準備はできているそうですので、後は黒さんが来るだけだそうです」

 

「死ねって伝えといて」

 

 決めた。

 妖怪の山は二度と行かん。

 

「いや、だから私の立場的に無理ですって……」

 

 文だって、俺が断るくらいわかっているでしょうに、これが社会って奴なのかねぇ。面倒なことで。

 

「一途に貴方のことを想い続けること数百年。もう良いじゃないですか黒さん」

 

「良くねーよ。ただ、ただ気持ち悪いわ」

 

 いい迷惑にもほどがある。

 勘弁して下さい。

 

「永い人生なのだし、一度籍を入れてみるのも良いんじゃない?」

 

 お酒を飲みながら、八意さんがぽそりと呟いた。

 むぅ、人事だと思って……

 そもそも、前提がおかしい。八意さんは天魔を知らないのかな? 知っていて、この発言だったら困るけれど。

 

「あの……天魔、男ですよ」

 

「えっ?」

 

 ああ、やっぱり知らなかったか。そりゃあ、俺だって女性にここまで言い寄られていれば嬉しいよ。

 しかし、アイツは男だ。恐怖しか感じない。

 

 ――貴方ってそっちの気が……

 

 八意さんの口から何かが聞こえた。

 

 おい、待て。どうしてそうなる。

 

「種族を超えての恋愛とか素敵じゃないですか?」

 

 性別を超えての恋愛とか素敵じゃないですね。

 心の底からやめて下さい。

 

「まぁ、私もこのままの方が、黒さんを理由に仕事をサボれるので助かりますが」

 

 すごくナチュラルにサボるって聞こえたな。ちゃんと仕事しなさいよ。まぁ、どうせ言っても無駄なんだろうけどさ。

 

 騒がしい文を流しつつ、勘違いしたままの八意さんの考えを訂正しながら、ゆっくりとお酒を口に含む。

 今だ静まることのない、楽しげな声。

 

 

「ホント、この場所も賑やかなになったねぇ」

 

 

 それはきっと良いことなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけ騒がしかった境内も、東の空が明るくなり始める頃には、普段の静けさを取り戻した。

 宴会の片付けも終わり、神社にいるのは俺と霊夢だけに。片付けの間も、俺は縁側に座っていました。片付け手伝えなくてごめんね。

 

「あ~、疲れた」

 

 そんなことを言いながら、霊夢が俺の隣に座った。

 

「お疲れ様」

 

 宴会は良いけれど、その後の片付けとか大変だよね。片付けをせず、そのまま寝ちゃったりすると、次の日ものすごく後悔する。

 

「まぁ、今日は妖夢や咲夜が手伝ってくれたから、まだマシだったわ。そう言えば、黒ってこれからどうするの?」

 

 いつもなら妖夢ちゃんとか酔っ払ってて、手伝うとかできないもんね。今回は、無事生き残れたみたいだけど。

 

「一人じゃ、まともに生活できないからなぁ。申し訳ないけど、霊夢の世話になるかな。それでも良い?」

 

 これでダメって言われたらどうしようか。まぁ、紫に頼むくらいしかないんだけどさ。

 

「別に良いわよ」

 

 毎度毎度、お世話になります。

 

「あっ、忘れないうちに言っておくけど、白からよろしく伝えといてって言われたわ。なんか、当分来られなくなるそうよ」

 

 ありゃ、それは残念。

 ん~、当分ってどのくらいなのかな? 数百年とかかねぇ。

 あいつも、もう少しゆっくりしていけば良いのに。寂しいじゃん。

 

 

「ふっ、んーっと。それじゃあ、私はそろそろ寝るけれど、黒はどうするの?」

 

「俺はもう少し此処にいようかな。お疲れ様、お休み霊夢」

 

「ん、お休み。黒」

 

 そう言って、霊夢は母屋の方へ向かって行った。

 

 

 

 

 これで、また一人。

 

 あっ、霊夢がいなくなったら俺って移動できなくなるじゃん。

 ……ま、まぁ、眠くなったらここで寝れば良いか。

 

 何処を見るでもなく、ボーっとしてみる。

 

 ん~……こうしていると、昔のことばかり考えてしまうね。何とも年寄りくさいことだ。

 

 たった一人だけ地上に残された時から、いくつの年月が流れたのだろうか。何年も何年もの間を一人で過ごし、神々や鬼たちみたいに人間じゃない奴らとも沢山出会ってきた。

 

 出会いがあって

 別れがあって

 再会があって

 また別れがあって……

 

 人生って難しいよね。

 上手くいかないことばかりだ。

 

 

 けれども、まぁ……笑いながら一緒にお酒を飲む仲間がいるこの人生、思っているよりは幸せなのかもしれない。

 

 

 な~んてね。

 

 






と、言うことでエピローグでした

これで東方酒迷録は完結となります
書き始めて一年……長ったですね

ここで、この作品を書きながら考えていたことを書いても良いのですが、長くなりそうですので、そのうち活動報告に書かせていただきます
今後の予定とかもそちらに書きます

長い間更新が止まってしまったりしたこともありましたが、なんとか完結できたのも読者の皆様のおかげです


ありがとうございました


またいつか、お会いできることを楽しみにしております
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