賑やかな声が境内に響く。
俺と霊夢が戻ってきた時には、既に宴会が始まっていた。待っててくれても良かったのにね。
情けないけれど、自分では動くことができないから、霊夢の手を借りて神社の縁側まで移動。手はなんとか動くようになったものの、足には全く力が入らない。こりゃあ、当分は霊夢の世話になりそうだ。
まぁ、仕方ないのかな。お世話になります。
桜なんて散ってしまったし、見る物と言えば、楽しそうに騒いでいる者達だけ。酒の肴には少々甘すぎる。
贅沢だろうか。
「この場所も随分と賑やかになったね」
隣に座っている紫に言った。それにしても、紫にはまた借りができてしまった。返しきれるだろうか。
「そうね。でも貴方は賑やかな方が好きでしょ?」
「静かな場所も嫌いじゃないけどな」
そんなことを俺が言って、持っていた盃を差し出すと、紫はお酒を注いでくれた。
ありがと。
お酒を口に入れながら、もう一度境内を見る。
神、人、妖怪なんて関係なく、皆楽しそうに騒いでいた。
数十年前には考えられなかったこと。これも霊夢のおかげなのかな?
何故か霊夢の周りには人が集まる。それが、霊夢の能力だったりするのだろうか? そうだとしたら、消すことしかできない俺と大違いだ。
――『人を集める程度の能力』
うん、よい響き。紫に分けてあげれば良いのに。
「また、失礼なことを考えているでしょ?」
ジト目の紫さん。
良い勘をお持ちなことで。
「まぁ、もう慣れたから良いけど……それより、身体の方は大丈夫なの?」
おろ、随分と優しいじゃないか。
カメラが止まるくらいは覚悟していたのに。
「ガタガタでボロボロだよ。自力で立つことだってできないし」
ここまで酷くなったのは、神奈子達との戦い以来じゃないかな。いや、あの時より酷いかも。
「博麗大結界の方は大丈夫?」
繋がりは戻っているっぽいけど、切れている時間も短くはなかったと思う。まぁ、ここで紫がのんびりとお酒を飲んでいるってことは、大丈夫ってことだろう。社交辞令みたいなものです。
「妖力はもう空だし、一時は諦めかけていたわ。それでも、今はもう大丈夫よ。供給源も戻ったし。ホント、妖力だけは莫迦みたいにあるのね」
一時は諦めかけたって……思っていたよりやばかったのかな? ま、まぁ、とりあえずは一安心です。
御迷惑をおかけしました。
「さて、流石に私も疲れたから、そろそろ帰るわ。それじゃ、またね黒」
「うん、またな紫」
そう言って別れの挨拶を告げると、紫は消えていった。むぅ、お酒を注いでくれる人がいなくなってしまった。自分では動けないし、由々しき事態である。誰か来てくれませんかね?
「隣、良いかしら?」
そんなことを考えていると、八意さんが声をかけてきた。
片手にお酒を持って。うっわー、貴方ですか。できれば咲夜さんとかが良かった。
とは言っても、断ることも、逃げることもできない。まぁ、仕方がないのかな。
「……はい、どうぞ。ちょうど今、空きましたし」
ホント、この人は良いタイミングで現れるよね。ストーカーなんじゃないだろうか? いや、流石にそれはないか。
「……随分と間があったわね」
そう言いながら、八意さんは俺の隣に座った。心の中で激しい葛藤があったんです。あと、ちょっと近くないですか? できれば、もう少し離れてもらいたいです。
「白って言ったかしら? あの娘は……貴方と同じあの施設の?」
そんなことを八意さんは言って、お酒の入った瓶をこちらに向けてきた。あ、どうも、ありがとうございます。
へ~、白と会ってたんだ。
白だって、八意さんのことは知っていただろうし……会話とかしたのかな? ちょっと気になる。
「はい、そうですよ。一緒に暮らした仲間です」
あれから何年経ったんだろうね。自分で言うのもアレだけど、人生経験は豊富な方だと思う。八意さんには負けそうだけど。
「そう。あの娘は、今も生きて……」
「いえ、死んでいますよ」
ああ、ホント懐かしいな。八意さんと会話をすると、あの時のことばかり思いだす。
『最期のお願い。私が私でいられる内の最期のお願いを聞いてもらっていい?』
『ああ、何でも』
『ありがと。じゃあさ、黒の手で私を――』
まぁ、思い出すものが良い物ばかりじゃないってのは、ちょいと問題かな。楽しい思い出だって沢山あるんだけどね。
「じゃあ、何故あの娘は此処にいたのかしら?」
「俺がまだ、生きているからだと思います」
俺の答えに八意さんは首を傾げた。白と俺の関係は、色々と複雑なんです。
理由はそれだけじゃないと思うけれど、白がいつまでたっても消えないのは、それが一番の理由なんだろう。ま、あいつも楽しそうだし、これで良いと思う。
いつかこの問題も解決しなきゃならないのかねぇ。そろそろ時効になっても、良い頃だと思うけど。
むぅ、なんだか湿っぽい雰囲気になってしまった。これじゃあ、酒の肴に辛すぎる。
八意さんからいただいたお酒を一口飲んでみる。香草とアルコールの香りが鼻を抜け、仄かな甘味を残しながら喉を流れていった。
うん、なかなかに美味しい。
「あややや、ここにいましたか。探したんですよ黒さん」
そんなことを言いながら、文が此方に近づいてきた。ちょうど良いタイミング。八意さんと話すこともないし、こういう時、空気を読まない文みたいな存在は助かる。こういう時以外は勘弁してもらいたいけど。
「探してたって、どしたの? ってか、文は異変参加組じゃないよね。何故此処にいる」
何処から嗅ぎつけたのやら。
流石は自称新聞記者。
「そうですよ、どうして私を誘ってくれなかったんですか? 私と黒さんの仲でしょうに」
いや、そんなに仲良くないでしょ。たまに会って話すくらいじゃん。
それに、普段文がいる場所とか知らんもん。あと、天狗が五月蝿いし、天魔は何考えているのかわからんし、妖怪の山はあまり行きたくない。
あ~でも、椛ちゃんにはまた会いたいな。会ってくれなそうだけど。
「っと、話が反れました。天魔様からの伝言ですが、婚約の準備はできているそうですので、後は黒さんが来るだけだそうです」
「死ねって伝えといて」
決めた。
妖怪の山は二度と行かん。
「いや、だから私の立場的に無理ですって……」
文だって、俺が断るくらいわかっているでしょうに、これが社会って奴なのかねぇ。面倒なことで。
「一途に貴方のことを想い続けること数百年。もう良いじゃないですか黒さん」
「良くねーよ。ただ、ただ気持ち悪いわ」
いい迷惑にもほどがある。
勘弁して下さい。
「永い人生なのだし、一度籍を入れてみるのも良いんじゃない?」
お酒を飲みながら、八意さんがぽそりと呟いた。
むぅ、人事だと思って……
そもそも、前提がおかしい。八意さんは天魔を知らないのかな? 知っていて、この発言だったら困るけれど。
「あの……天魔、男ですよ」
「えっ?」
ああ、やっぱり知らなかったか。そりゃあ、俺だって女性にここまで言い寄られていれば嬉しいよ。
しかし、アイツは男だ。恐怖しか感じない。
――貴方ってそっちの気が……
八意さんの口から何かが聞こえた。
おい、待て。どうしてそうなる。
「種族を超えての恋愛とか素敵じゃないですか?」
性別を超えての恋愛とか素敵じゃないですね。
心の底からやめて下さい。
「まぁ、私もこのままの方が、黒さんを理由に仕事をサボれるので助かりますが」
すごくナチュラルにサボるって聞こえたな。ちゃんと仕事しなさいよ。まぁ、どうせ言っても無駄なんだろうけどさ。
騒がしい文を流しつつ、勘違いしたままの八意さんの考えを訂正しながら、ゆっくりとお酒を口に含む。
今だ静まることのない、楽しげな声。
「ホント、この場所も賑やかなになったねぇ」
それはきっと良いことなんだろう。
あれだけ騒がしかった境内も、東の空が明るくなり始める頃には、普段の静けさを取り戻した。
宴会の片付けも終わり、神社にいるのは俺と霊夢だけに。片付けの間も、俺は縁側に座っていました。片付け手伝えなくてごめんね。
「あ~、疲れた」
そんなことを言いながら、霊夢が俺の隣に座った。
「お疲れ様」
宴会は良いけれど、その後の片付けとか大変だよね。片付けをせず、そのまま寝ちゃったりすると、次の日ものすごく後悔する。
「まぁ、今日は妖夢や咲夜が手伝ってくれたから、まだマシだったわ。そう言えば、黒ってこれからどうするの?」
いつもなら妖夢ちゃんとか酔っ払ってて、手伝うとかできないもんね。今回は、無事生き残れたみたいだけど。
「一人じゃ、まともに生活できないからなぁ。申し訳ないけど、霊夢の世話になるかな。それでも良い?」
これでダメって言われたらどうしようか。まぁ、紫に頼むくらいしかないんだけどさ。
「別に良いわよ」
毎度毎度、お世話になります。
「あっ、忘れないうちに言っておくけど、白からよろしく伝えといてって言われたわ。なんか、当分来られなくなるそうよ」
ありゃ、それは残念。
ん~、当分ってどのくらいなのかな? 数百年とかかねぇ。
あいつも、もう少しゆっくりしていけば良いのに。寂しいじゃん。
「ふっ、んーっと。それじゃあ、私はそろそろ寝るけれど、黒はどうするの?」
「俺はもう少し此処にいようかな。お疲れ様、お休み霊夢」
「ん、お休み。黒」
そう言って、霊夢は母屋の方へ向かって行った。
これで、また一人。
あっ、霊夢がいなくなったら俺って移動できなくなるじゃん。
……ま、まぁ、眠くなったらここで寝れば良いか。
何処を見るでもなく、ボーっとしてみる。
ん~……こうしていると、昔のことばかり考えてしまうね。何とも年寄りくさいことだ。
たった一人だけ地上に残された時から、いくつの年月が流れたのだろうか。何年も何年もの間を一人で過ごし、神々や鬼たちみたいに人間じゃない奴らとも沢山出会ってきた。
出会いがあって
別れがあって
再会があって
また別れがあって……
人生って難しいよね。
上手くいかないことばかりだ。
けれども、まぁ……笑いながら一緒にお酒を飲む仲間がいるこの人生、思っているよりは幸せなのかもしれない。
な~んてね。
と、言うことでエピローグでした
これで東方酒迷録は完結となります
書き始めて一年……長ったですね
ここで、この作品を書きながら考えていたことを書いても良いのですが、長くなりそうですので、そのうち活動報告に書かせていただきます
今後の予定とかもそちらに書きます
長い間更新が止まってしまったりしたこともありましたが、なんとか完結できたのも読者の皆様のおかげです
ありがとうございました
またいつか、お会いできることを楽しみにしております