東方酒迷録【完結】   作:puc119

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前話の続きです


読 ま な く て も 大 丈 夫 で す 






第恋話~霊夢ルート~後編

 

 

 口の中に、お茶の味とわずかに甘い香りが広がった。

 目の前に見える、目を閉じた霊夢の顔。キス、接吻、口づけ……色々な呼び方はあるけれど。

 

 え? え? なにこれ? どういう状況?

 霊夢が……え?

 

 寝起きってこともあると思うけど、頭の中が意味わからないことに。

 

 

 突然だった。

 

 

 不意打ちだった。

 

 

 ちょ、ちょっと待ってよ。どうして霊夢が俺に……? いまだ頭の中はパニック。

 時間にしては一瞬だったと思う。けれども、霊夢の唇が離れるまでかなり長く感じた。

 

「あら? お茶がもうないわね。ちょっと淹れてくるわ」

 

 何事もなかったかのように、そう霊夢は言い、急須を持ってこの場を離れた。な、な、なんだったんだ? 本当に意味が分からない。

 

 一般的な口づけの意味くらい、俺だってわかっている。それに、そのことを霊夢が知らないとも思えない。嫌われていたとかは思っていなかったけれど……霊夢が俺を?

 

 そんな思考がぐるぐると頭の中を回る。

 いや、だってあの霊夢だよ? 夢? 幻想? 答えとしてはそっちの方がまだしっくりくる。

 じゃあ、唇に残っているこの感触は?

 

 ……ダメだ、さっぱりわからん。

 こんなこと初めてだから、本当にどうすれば良いのかわからない。これでも、長い人生を歩んできたはずなんだけどなぁ。そっち方面のことはさっぱりなんです。

 

 と、とりあえず、お茶でも飲んで一回落ち着かないと。

 

 

 お茶に口をつけ一息。

 ああ、熱いお茶は今日も美味しい。

 

 ……うん?

 そう言えば、まだ全然お茶を飲んでいなかった気がするけれど、もうお茶がなくなったのか? 霊夢だってそんなに飲んでいなかった気が……ん~、気づかいないうちに飲んでいたのかね。

 まぁ、いっか。そんなこと気にしても仕様が無いわけですし。

 

 しっかしなぁ、どう霊夢に聞けば良いのか……

 現実だよね、これ。どうして、霊夢があんな行動をしたのか聞きたい。もしかしたら、ただ俺が勘違いしているだけなのかもしれないし。

 そうだったら、恥ずかしくて死ねる。でも、これって聞いても良いことなのかな? それを聞くのって滅茶苦茶失礼な事なんじゃ……ん~、どうしたもんかなぁ。

 そして、情けないことに自分から聞く勇気も無いってのもある。苦手なことから、逃げてばかりの人生でしたし。

 

 ホント、どうっすかな。

 

 ただお茶を淹れてくるだけのはずなのに遅いな、なんて考えていると漸く霊夢が戻ってきた。

 何かあったのかな?

 

 しかし、霊夢は何も言わずに俺の隣に座った。霊夢の顔を見てみる。いつもと変わらぬ仏頂面。

 さとりちゃんでもいれば、霊夢が何を考えているのかわかるのだけど……いや、それは流石に情けないか。

 

 ……これはいかんね。さっきから、この状況を逃げようとしてばかりだ。

 

 お茶を持ったまま、そっと目を閉じてみる。微かに聞こえる風の音。冬が過ぎ、桜が散って過ごしやすい季節になってきた。

 

 ……うん、漸く落ち着いてきた。

 

 霊夢が俺にした行動ってのは、そう言う意味なんだと思う。

 そしてその考えは、たぶん間違っていない。はぁ、どうして俺なんかを……

 性格や見てくれが良いわけでもないし、何より俺は不老不死だ。普通の人間じゃ……ない。

 そんな俺をどうして?

 

 また風の音がした。

 

 まぁ……きっと、理屈じゃないんだろう。

 きっかけなんて、そんな物だ。

 

 

 

「ねぇ、黒」

 

 霊夢の声。

 心臓の鼓動が速くなるのがわかった。

 

 風の音は――もう聞こえない。

 

 

「貴方が好き。だからずっと私の側にいて」

 

 

 霊夢の声だけが響いた。

 直球。

 ど真ん中のストレート。いかにも霊夢らしい。

 

 さて、ここまで言われてしまったんだ、何か返事をしないといけない。閉じていた目を開け、手に持っていたお茶を一口。

 そして、また目を閉じて考えてみる。

 

 霊夢と初めて出会ってから、十数年。初めて出会った時は確か、桜が綺麗な季節だったかな。

 それから、霊夢は博麗の巫女として、俺はそれを育てる者として一緒に暮らした。霊夢が一人でも大丈夫になってから別れたけれど、その後も此処へはよく訪れた。

 

 

 ――何故?

 

 

 目を閉じたまま、またお茶に口をつける。いまだ心臓の音が五月蝿い。

 

 博麗の巫女は俺にとって娘のような存在。

 

 

 じゃあ博麗霊夢と言う、一人の人間としての存在は?

 

 

 

 

 意味もなく博麗神社へ何度も訪れた。

 

 

 理由もなく霊夢に会うために訪れた。

 

 

 答えなんてわかっている。

 

 

 

 

 

 きっと俺は霊夢のことを――

 

 

 

 

 

 

 閉じていた目をゆっくりと開け、残っていたお茶を喉へ流し込む。

 

「俺は不老不死者だよ?」

 

「そんなの関係ない」

 

 お互いに向き合うこともなく、言葉を交わす。

 

「毎朝のように俺を起こすことになるよ?」

 

「毎朝でも叩き起こしてあげるわよ」

 

 二人の声だけが響く、静かな空間。今まで、逃げてばかりの人生だったけれど、そろそろ向き合う時が来たのだろう。

 

「霊夢以外の女の子とも仲良くするかもよ?」

 

「そしたら、力づくでも私の方を向かせるわ」

 

 強引だなぁ……

 霊夢の言葉に自然と笑が出る。

 

 そっか……うん、だいぶ時間がかかってしまったけれど、漸く覚悟ができた。一度、静かに深呼吸。

 

「霊夢」

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

「好きだ。だから俺のずっと側にいてくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

「……はい、喜んで」

 

 俺の言葉に、霊夢はそう返事をし笑った。

 漸く、二人が向き合う。

 

 きっといつか、この言葉を後悔する日が来るのかもしれない。

 けれども、まぁこの永い人生、自分以外の誰かのために尽くしてみるって言うのも、悪くはないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 そんな出来事から一ヶ月ほど。

 つまり、まぁ、霊夢とまた一緒に暮らし始めてから一ヶ月。

 

 此処、博麗神社では今日も今日とて、楽しそうな声が響いていた。

 

 人、神、妖怪が混じった大宴会。どうして宴会が始まったのかは知りません。

 

 幻想郷ってのは、俺が思っている以上に狭いらしく、俺と霊夢が一緒に暮らすようになったという噂は、恐ろしい勢いで広まっていった。別に隠していたわけでもないから、良いんだけど……なんだかなぁ。

 できれば、もう少し静かにしていてもらいたかった。まぁ、それはもうほとんど諦めている。

 

 毎日のように、お祝いに人や妖怪は訪れるし、祝いの品物もかなりいただいた。

 

 霊夢はお賽銭が増えたと喜んでいたが、俺は疲れました。喜ぶ霊夢の姿は可愛かったけど……

 

 

「それで? 黒さんは霊夢さんになんと告白したのですか?」

 

 メモ帳を片手に、文が楽しそうに聞いてきた。俺が疲れている原因その1です。全く、楽しそうに燥いじゃって……そう言う話が好きなのかな?

 

「さあ、俺は忘れちゃったよ。霊夢に聞いてみたら?」

 

 だいたい、そんなこと恥ずかしくて答えられるわけがないでしょうに。それに、もしここで答えたら新聞にされ号外とか言って、バラ撒かれるんだろ?

 どんな公開処刑だよ、それ……

 

「むぅ、またそうやって誤魔化す。じゃあ、良いです。想像して書きますから」

 

 いや、全然良くないから。

 むしろ悪いわ。

 

「ふむ、まさか本当に霊夢さんに手を出すとは……黒さんにとって、娘のような存在でしょう?」

 

 うっ……ま、まぁそうなんだけどさ。

 

「仕様が無いだろ、好きになったんだから……」

 

 理屈じゃないのだから。

 

「あっ、その言葉良いですね。使わせていただきます」

 

 しまった、いらんこと言った。

 んもう、早くどっかに行ってくれないだろうか。まぁ、どうせ文がいなくなっても、違う奴が来るだけなんだろうけど。

 

「それにしても、これで私の言った言葉は正しくなりましたね。流石は私です」

 

「うん? 文の言った言葉? いつのやつさ?」

 

 そんなこと言ってったっけ?

 全く記憶にないのだけど。

 

「ほら、小昔話~前編~で言った『これでまた、黒さんの光源氏計画が始まるんですね』ってやつですよ」

 

「だから、そういうのはやめなさい」

 

 また、その話だけUA数が伸びちゃうでしょうが。

 

「はっ、じゃあ、次は文さんルートになるわけですね! きゃー、ど、どんな告白をされるのか楽しみです」

 

「もう帰れよ」

 

 だから、そんなルートないって。少なくともこの世界では。

 

「全く、仕様が無いですねぇ。それに、このまま黒さん相手に話し続けていると、霊夢さんにも怒られそうですし……では、違う場所に行くとします」

 

 もう、なんで文はそう言う発言ばかりするのやら……疲れるので勘弁してもらいたい。

 

「ああ、忘れていました」

 

 うん? 何さ?

 

 

「おめでとうございます」

 

 

 それだけ言って、文は離れていった。

 

 ……ありがとう。

 

 

 

「文とはどんなことを話していたの?」

 

 文がいなくなって、暫くすると霊夢がやってきた。見ていたのかな?

 

「あ~、その、俺が霊夢に何て告白したのか、とかそういうことを聞かれただけだよ」

 

 少々恥ずかしい。

 でも気持ちを伝えてきたのは、霊夢からなんだよなぁ。今でも信じられないけど。

 

「浮気?」

 

 ジト目の霊夢。今の会話からどう解釈したらそう言う結論に至るのでしょうかねぇ。

 

「んなわけないでしょうが」

 

 そんなことしたら、霊夢だけじゃなく他の奴らにも殺されるわ。どうせ、幻想郷中が俺たちの関係を知っているのだろうし。

 

「ふふっ、わかっているわよ」

 

 そう言って霊夢は笑った。

 

 ん……霊夢ってこんなに笑う奴だったんだな。最近になって気がついた。それはたぶん、良いことなのだと思う。

 

「二人で仲良くしているところ、悪いのだけどちょっと良いかしら?」

 

 そんな言葉をかけながら紫が現れた。そう言えば、紫と会うのも久しぶりだ。もう体は大丈夫なのかな?

 

「うん? どしたの?」

 

 あ~、もしかして怒られるのかな? 博麗の巫女のサポートをしなければいけない俺が、一人の巫女とこんな関係になってしまったのだし。

 

「特に用事はないわよ。ただちょっと様子を見に来ただけ」

 

 そう言って、紫はお酒を俺たちに渡してくれた。

 何ですか、それ? せっかく霊夢と二人きりだったのに……邪魔をしに来たようにしか見えない。ほら、霊夢だって機嫌が悪くなって……はないな。むしろ、お酒をもらったから嬉しそうだ。

 

 ふむ、しかしまぁ、紫には相手なんていないのだろうし、此処は俺が、慰めてあげるべきなのだろう。

 あっ、演出家さん。『紫』の文字に『行き遅れ』ってルビお願いします。

 

「……ちょっと、調子に乗りすぎじゃない?」

 

「だから、心を読むな。冗談だって。んで、紫的には俺と霊夢がこんな関係になったわけだけど、大丈夫なの?」

 

 まぁ、ダメと言われたところで、どうしようもないけれど。

 

「別に問題ないわよ。むしろ、こうでもならなければ黒って何処かへ行ってしまいそうだし、ちょうど良かったわ。爆発しろ。それに、これで次代の博麗の巫女は探さなくても大丈夫そうね」

 

 一瞬、心の叫びが聞こえた気がするけれど、まぁ聞かなかったことにした方が良さそうだ。

 別に急に消えたりはしないと思うけどねぇ。放浪癖があるわけでもないし。そして、後半の発言に対してはノーコメントで。

 

「式をあげる時は、うちの神社でよろしくね~」

 

 そんなことを言いながら、諏訪子が近づいてきた。

 

 式ねぇ。やっぱり、そういうのはやった方が良いのかな? 俺は別にやらなくても良いと思うけど……

 

 霊夢はどう思っているんだろうか?

 

「おお~、そりゃあ良いわね。それで? いつやるのさ?」

 

 神奈子も来た。ああ、やることは確定なんだね。俺の意見とかは聞かないんだね。いつも通りだね。

 

 その後も、俺と霊夢の意見なんて聞かず、式の予定について二柱は盛り上がっていた。

 

 何処へ行ってもこんな話ばかり。

 もう俺は疲れたよ……

 

「これからは博麗神社で生活するのよね?」

 

 紫が聞いてきた。

 

「まぁ、そうだね。お酒を作るとき以外は戻らないと思うよ」

 

 お店の方も当分は閉店かなぁ。霊夢に追い出されない限り……

 

 もういっそ、博麗神社にお店を作ってもらおうかな。神社にカフェとか聞いたことないけどさ。

 

 まぁ、そういうことはこれからのんびりと考えていけば良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして始まったのかわからない宴会も終わり、漸く霊夢と二人きりに。今回はちゃんと片付け手伝いました。

 

 いつもの縁側に座って、いつものようにお茶を飲む。うん、幸せだ。

 

「はぁ、疲れた……」

 

 無意識に言葉が溢れる。

 

「相変わらず年寄り臭いわね。はい、お茶」

 

 仕様が無いでしょうが、こういうことは経験したことがないのだし。

 霊夢は疲れていないのかな? 魔理沙ちゃんとか早苗ちゃん、咲夜さんあたりから質問攻めされていたようだけど。

 

「ん、ありがと」

 

 もらった、熱いお茶に息を吹きかけ冷ましていると、隣に座っていた霊夢が俺の肩に頭を乗せてきた。それは他に人がいる時は、絶対やらないような行動。

 

 まぁ、悪い気はしないけど。

 むしろ、嬉しかったりして……

 

「ねぇ、黒は何で私が好きになったの?」

 

 俺の肩に頭を預けたまま、霊夢が聞いてきた。ま~た、答えにくい質問を……

 

「答えないとダメ?」

 

「ダメ」

 

 恥ずかしいったらありゃしない。それに、何でって言われても……

 

 探そうと思えば、いくらでも見つかる。

 

 冷たいように見えて実は優しいところとか、たまに見せてくれる笑顔が可愛いところとか……

 けれども、どうにも答えとしてはしっくりこない。

 

 だから、一番しっくりくる応えは――

 

 

「なんとなく……かな」

 

 

 きっかけなんて覚えていないし、そもそも、いつからそうなのかもわからない。ただ、恋愛なんてそんな物なんじゃないのかな。

 

「何よ、それ」

 

 俺の答えに霊夢はそう言った。

 僅かに肩が揺れる。顔は見えないけれど、たぶん笑っているんだろう。

 

 ああ、もう恥ずかしいな。

 さっきから顔が熱い。

 

「じゃあさ、霊夢はどうしてさ?」

 

 自分だけこんな思いをするのは、気に食わん。霊夢にも恥ずかしい目にあってもらわないと。

 

 しかし、俺の質問に霊夢は――

 

「……教えない」

 

 としか言わないかった。

 

 むぅ、何それずるい。これじゃあ、俺の一人負けだ。何と戦っているのかわからんけど。

 

 また肩が揺れる。

 ホント、よく笑うようになったね。

 

 

「別に良いじゃない。理由なんて。それに、こうして黒と一緒に居られるのは幸せよ。私はそれだけで十分だと思うわ」

 

 まぁ、それもそうか。

 

 

 

 お茶を一口飲んでから縁側に置く。

 うん、今日もお茶が美味しい。

 

「ねぇ、霊夢。ちょっとこっちを向いて」

 

 俺がそう声をかけると、霊夢は頭を上げ此方を見て、そっと目を閉じた。どうやら意図は伝わってくれたらしい。

 

 何だかんだで、一ヶ月振り。

 まだ二回目。

 

 

 そして俺は、顔を近づけ目を閉じてから、霊夢の唇にそっと自分の唇を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、霊夢に酒臭いと怒られたりもしたけれど、まぁ、俺は幸せだったりします。

 

 






うわあああぁぁぁああああ! こういう恋愛してみてええええぇぇええええ!!!!
もうすぐクリスマスだよおおおおお!! なんも予定ないよおおおおぉぉおぉおお!!!!


と、言うことで第恋話~霊夢ルート~でした
なんでしょうね、疲れました

うわー、うわー言いながら書きました
バットエンドにしてやろうかとも思いました
失踪ってのも悪くないんじゃないかと思いました

それでもなんとか投稿です
いかがでしたでしょうか?

次話は……私のメンタルが治り、書ける気力があれば書きます
できるだけ頑張ります


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