東方酒迷録【完結】   作:puc119

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作者も全く考えていなかった文さんルートです

霊夢さんのお話と比べて、糖分はきっとひかえめだったりします





第恋話~文ルート~

 

 

 気怠そうな顔をしながらも、しっかりと私の話を聞いてくれる目の前の男性は――

 

 

 鈍い。

 

 

 それも絶望的なほどに。

 いくら此方からアプローチをしても、本人には届かず、軽くあしらわれ何もなかったことにされてしまう。確かに、私も直接アプローチしているわけではないけれど、普通なら気づくと思う。

 

「んで、文は何をしに来たのさ。また取材? 最近よく来るけど」

 

「はい、そんなところです。あっ、天魔様の許可は頂いているので、決してサボっているとか、そういうのではありませんよ。これも仕事です」

 

 この男性は気づかない。お店の場所を探すため、私が毎日のように幻想郷を飛び回っていることを。それだけ探しても、お店への入口を見つけることができない日の方が多いと言うことも。

 取材と言う体の良い理由をして、此処に訪れる。そんな私の心を。

 

「それで、良いのか天狗社会……」

 

 ため息をしながら男性が言った。

 ため息をしたいのは此方の方だと言うのに。

 

「それで、黒さんはいつになったら山へ来ていただけるのですか? そろそろ来ていただかないと、天魔様が暴れだしそうなのですが」

 

 実際はそこまで危ない状況ではないけれど、話のネタに使わせてもらう。

 自分のことを話す勇気がないから。そんな自分が少しだけ嫌になる。

 

「嫌だよ。行きたくないもん。それにたまにだけど、天魔も俺の店に来るよ。この前も一緒にお酒を飲んだし」

 

 あら、そうでしたか。

 そう言えば以前、天魔様がいない時があった。なるほど、黒さんの所へ行っていたのね。それにしても、よく黒さんは一緒にお酒なんて飲もうと考えたものだ。私なら絶対断るのに。

 まぁ、お二人の仲は良いそうだけど、身の危険とかは感じなかったのかしら?

 

「なんと、そうでしたか。つまり近いうちに式を挙げられると言うことですね?」

 

 いつものように軽口をたたく。そんな言葉しか私の口から出てはくれない。

 

「んなわけないでしょうが。天魔とは今までもこれからも、ただの飲み仲間だよ」

 

「面白みがありませんねぇ。では、黒さんは誰と結婚されるのですか? そろそろ身を固める時期でしょう?」

 

 躍けながら、心の底の感情を隠しながら聞く。少しだけ――心が痛む。

 

「いや、誰ともしないよ。時期だったらとっくに過ぎているし」

 

 私もかなりの歳を生きてきたけれど、それでも黒さんから見れば、まだまだなのだろう。

 不老不死。私には想像もできない時間を生きてきている。私と黒さんの間にある壁は、予想以上に厚い。

 

「もったいないですねぇ。相手なら沢山いるでしょうに。ほら霊夢さんとか」

 

「莫迦なことを言うな。霊夢は娘みたいなもんだぞ?」

 

 まぁ、貴方から見ればそうでしょうね。霊夢さんがどう思っているかはわかりませんが。黒さんを見る霊夢さんの視線がおかしい時とかありましたし。

 

 ……はぁ、ライバル多いなぁ。

 

「じゃあ、あの妖怪賢者はどうですか?」

 

「ないだろ」

 

 即答された。

 そこまで早いと逆に怪しく見える。

 

「じゃあ……はっ、もしかして私ですか!?」

 

 いつもの冗談。本心を必死で隠し、悟られないよう、気づかれないよう、冗談で言っているように見せる。

 気づいてもらいたいと言う想いと、気づいて欲しくないと言う想いがぶつかり合って、矛盾した感情を曝け出す。言葉と行動と態度を、何枚も何枚も重ねて自分の心を隠し、冗談のような本音を落とす。

 

「だから何故そう言うことになる。違うと言ってるでしょうが」

 

 いつもの返事。

 けれども、その言葉は私の心を傷つける。そんなことも、この男性は気づかない。

 

 心が、痛い。

 

 いつも通りのやり取り。

 進展しない状況。

 

 ホント何をやっているのかしら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お茶をいただき、茶番にしか見えない会話をして黒さんと別れる。取材をするため訪れたのにも関わらず、真っ白なメモ帳。そんなものを見て、思わずため息が溢れた。

 

 いつから彼に惹かれてしまったのかはわからない。

 なんとなく、気になって。

 なんとなく、話すようになって。

 いつの間にか好きになっていた。

 

 彼と会話をする時は幸せに感じるけれど、私の冗談に見せかけた本音をあしらわれる度、私の心に影ができる。

 

 いっそ、誰かとくっついてもらえれば諦めもつくと言うのに……

 

 気づいて、気づかないで、気づいて……

 そんな矛盾した感情が止まらない。

 

 最近はこんなことばかり考えてしまう。

 

 彼と会わない時間が長ければ、寂しさが増し。

 彼と会ってしまうと、悲しさが増す。

 

 あれだけ好きだった新聞作りも、今はあまり手をつけられていない。ホント、どうしたものでしょうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 帰った、か。

 文のやつ最近はよく来るけど、絶対取材じゃないよな。メモ帳とか全く使ってなかったもん。

 素直に遊びに来たって言えば良いのにね。俺だって別に嫌っているわけではないのだし。

 

 俺の起こした異変も終わり、漸く自分の家に帰ってくることができた。

 

 異変を起こしたからと言って、特に何かが変わったわけでもない。強いて言えば、文がよく訪れるようになっただけ。まぁ、昔からちょくちょく来てはいたけど。

 

 それにしても、毎度毎度よく店の場所を見つけられるよね。椛ちゃんとかに頼んでいるのかな? あの二人、あまり仲が良さそうには見えなかったけど。

 

 

「今日もあの天狗は来ていたんだ。最近よく見るねぇ」

 

 萃香登場。

 久しぶりだ。

 

「や、いらっしゃい萃香。文なら今さっき帰ったところだよ」

 

 萃香の言葉を聞くに、コイツ見てやがったな。別に出てきても良かったのに。

 う~ん、妖力は感じなかったんだけどな。滅茶苦茶薄くなっていたのかね。

 

 実は窓の外からこっそり見ていた。とかだったか面白いのに。

 一生懸命背伸びをして、窓から中の様子を見ようとする萃香とか可愛い。

 

「ああ、角が見えちゃうからダメか」

 

「うん? 何を言っているのさ?」

 

 いんや、何でもないよ。

 

 身体の調子は大丈夫なのかな? 結構、酷くやられたと聞いた。やったのは俺らしい。信じられん。

 

「最近、萃香を見なかったけど。此処に来たってことは、もう体は大丈夫なの?」

 

 一ヶ月振りくらいの再会。

 萃香は、一番此処に訪れるお客さん。因みに、次によく来るのは紫で、その次が文あたりかな。

 

「うん、全快だよ。いやぁ、流石に私でもあの時は諦めていたけどね」

 

 そりゃあ、良かった。

 

「俺は覚えていないんだけど」

 

 なかなかにすごかったらしいが。店の中がぐちゃぐちゃだったし。

 

「まぁ、いいや。とりあえずお酒お願い。今日は焼酎をもらおうかな」

 

 かしこまりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、黒はどう思っているの?」

 

 お酒と摘みを渡すと、いきなり萃香が言った。

 うん? 何のお話でしょうね?

 

「何がさ?」

 

 いや、もうちょっと詳しく言ってもらわないとわからないのですが……

 

 なんとなく、嫌な予感。嫌な予感だけは当たるのだ。いつだって。

 

「あの烏天狗のことを、だよ」

 

 渡したコップを傾けながら萃香が言った。

 アルコールの匂いがふわりと広がる。

 

「……たまにぶっ飛ぶけど、愉快な友達だとは思っているよ」

 

 嘘ではありません。

 

「それだけ?」

 

 そう萃香が言った。

 

 むぅ、これは困った。これが紫相手とかだった良いのだけど、萃香相手だと嘘もつけないし……

 どうやって誤魔化したものやら。

 

 今日も今日とて、文の奴が随分と居座ってくれたおかげで、もう日は沈んでいるだろう。そろそろ良い子は寝る時間だ。

 

「何を聞きたいのかな?」

 

「なあなあの関係のままズルズルと生きていく。そういうのが良いって奴もいるけどさ。やっぱり私はサクッと、スッキリとした方が良いと思うんだ。黒だってそうでしょ?」

 

 ああ、これはダメな奴だ。

 逃げられない。

 

「何が言いたいのかな?」

 

 

 

 

「好きなんでしょ? あの娘のことが」

 

 

 

 

 人の少ない店内に、萃香の声はよく響いた。

 

 否定は、しません。

 

「伝えてあげれば良いじゃん」

 

 いや、まぁそうなんだけどさ。

 自分から言うのは……ほら負けた気がするでしょ?

 

 

「恥ずかしいの?」

 

「……少しだけね」

 

 本当は滅茶苦茶恥ずかしいです。

 

 いつかの会話を思い出す。あの時の仕返しかコノヤロー。

 

「情けないなぁ」

 

 仕様が無いでしょうが。恥ずかしいものは恥ずかしいのだから。

 だってねぇ、文の奴、絶対俺の気持ち知らないぜ? アイツが軽口を叩く度に、俺がどんな思いをしていたのとかさ。

 

 全く、鈍感なのはどっちの方だって言うんだか。

 

 

 

 その後も、萃香から意気地無しとかチキンとか暴言を吐かれ、怒られ続けた。何でこんな小さい子に怒られなきゃならんのだ。

 

「小さいって言うな!」

 

 言っていません。

 思っただけです。

 

 仕舞いには――

 

「あーもう! じゃあ私が代わりに伝えてくるよ!」

 

 とか言い出した。

 本当にやめてください。

 

 わかった、わかったよ。うん……流石にこれ以上は粘れない。思いを伝えるきっかけが、萃香に言われたからと言うのはなんとも情けないけれど、まぁ、これ以上引き伸ばすつもりはない。

 ちょうど良い機会なんだと自分に言い聞かせる。

 

「文が今どこにいるのかわかる?」

 

 自分の家とかだったらどうしようか。まぁ、行くと決めたのだし、何処だろうと行ってやるけれど。

 

「おおー、漸く素直になったね。んと、ちょっと待ってね……ああ、今は夜雀の屋台に一人でいるよ」

 

 ありがとう。

 夜雀の屋台ねぇ。確か人里の近くだったよな。

 どうやら、妖怪の山へは行かなくてすみそうだ。それは一安心。

 

「了解。ん~それじゃあ行ってくるよ」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 ホント、良い友達に恵まれたものだ。これが終わったら、萃香にお酒を渡さないとかな。

 

 そんじゃま、行くとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 店を出ると辺りは暗く、もう真夜中と言っても良い時間になっていた。

 

 頭が少しだけ重い。どうやら飲みすぎたみたいだ。店主に愚痴を聞いてもらいながら、ついつい飲みすぎてしまった。

 

 そう言えば、以前この店に黒さんと二人で来た時があったっけ。私が無理矢理連れ出して、人里へ行き、最後にここで一緒にお酒を飲んだ。

 

 あの時は楽しかったなぁ。

 

 またいつか、一緒に来られる日が来るのだろうか。

 ああ、あの時貸してもらったマフラー、まだ返していないや。でも、もういっそ、もらってしまっても良いのではないだろうか。

 うん、それくらいは許されるはず。私の想いに気づかない黒さんがいけないんだ。

 

 新聞作りにも身が入らないし、どうにも上手くいかない日々が続く。困ったものです。

 

 はぁ、帰ろうかな。

 

 

 そうして、帰路に着こうとした時だった。

 

 

「や、今晩は文。さっきぶりだね」

 

 

 本日二度目の黒さんとの出会いがあったのは。

 

「えっ……どうして貴方が?」

 

 間の抜けた声が口から溢れる。

 ドクリと心臓が大きく跳ねた。

 まずい、全く心の準備ができていない。もう、何でこの人はこうタイミングの悪い時に現れるのか。

 

「ん~……文に会うため、かな」

 

 黒さんの声が聞こえた。

 はい? えっ……今、何て?

 

 私に会いに?

 

「え、えと……」

 

 予想外の黒さんのセリフのせいで、言葉が上手く口から出てこない。驚きと嬉しさと不安と期待と恐怖と……様々な感情が私の中から溢れ出しそうになる。

 だって、こんなこと今まで一度も……

 

「こんな時間に、ですか? はっ……も、もしかして夜這いですか!?」

 

 本当の感情が溢れないよう、必死で言葉を繋ぎ合わせいつもの冗談を口にする。ツギハギだらけの薄っぺらい言葉で、溢れようとする感情を止める。

 

 けれども――長くは持ちそうにない。

 

「だから、そんなわけないでしょうが。全く、人の気持ちも知らないで……」

 

 いつも通りのやり取り。

 でも、黒さんの言葉で私の中の何かが――破れた。

 

 

「気持ち、ですか……」

 

 人の気持ち。

 知らないのは、分かってくれないのは……貴方の方じゃないですか。

 

「黒さん」

 

「うん? どうしたの?」

 

 ああ、これはまずいなぁ。

 もう、止めようがないかな。

 

 黒く染まった感情が溢れ始めた。頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 

 今まで溜め込んでいたものが、押さえ込んでいたものが混ざり合って――

 

 

「貴方のことが嫌いです」

 

 

 最悪の言葉が溢れた。

 

 その溢れ出た感情は、本当の感情と真逆の物だった。これは、冗談で終われない。

 

 だって、きっとこの人は私の本心に気づかない。

 

 鈍くて、鈍感で、そしてどこまでも優しいこの人は気づかない。その言葉のまま受け止めてしまう。

 

「貴方のことが嫌いです。貴方の態度が嫌いです。貴方の性格が嫌いです」

 

 視界がぼやける。

 頬を何かが流れた。

 

 ぼやけた視界の先にいる黒さんは何も言わず、私の叩きつけるような言葉を聞いていた。

 

「その黒髪が嫌いです。透き通るような瞳が嫌いです。鈍感な貴方が嫌いです。誰にでも優しい貴方が嫌いです。楽しそうにお酒を飲む貴方が嫌いです。喋りかけてくる貴方が嫌いです。私の気持ちに気づかない貴方が嫌いです。貴方の……全てが嫌いです……」

 

 呼吸が荒くなった。汚い言葉と、目から流れ落ちる涙が止まらない。

 

 どうして……どうしてこうなってしまったのだろうか。黒さんは悪くないのに。私が一方的に想っていただけなのに。

 

 

「そっか……ごめんな文」

 

 

 黒さんの優しい声が聞こえた。

 これ以上はもう聞きたくない。

 

 これでもう、この人と会うことはできなくなる。

 それは嫌だなぁ。自業自得ではあるけれど、こんな現実は辛すぎる。

 

 

「でもさ」

 

 

 また声が聞こえた。

 耳を両手で塞ぎギュッと目を瞑る。けれども、音は聞こえてきてしまうし、この現実から目を反らすこともできない。

 

 

 

 

 

 

「俺は文のことが好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 両手で塞いでいたはずの耳から、黒さんの言葉ははっきりと聞こえた。

 はっきりと聞こえたはず、けれども頭がその言葉の意味を理解してくれない。

 

 だって、今黒さんは、私のことが――

 

 

 好きだって。

 

 

 閉じていた目を開け、黒さんを見る。

 視界は今だぼやけたまま。

 

「今、貴方は……あのっ、もう一度……もう一度言ってもらえますか?」

 

 だって、だってこんなの都合が良すぎる。

 確証が欲しい。現実だと教えて欲しい。

 

「あ~その、何度も言うのは流石に恥ずかしいんだけど……言わないと駄目?」

 

 ぼやけた視界の先に、上の方へ顔を向け、頭を手で書きながら言葉を溢す黒さんが見えた。顔はよく見えない。

 

 涙を袖で拭い、黒さんを見て私は言った。

 

「はい、ダメです。言ってください」

 

「わかったよ……」

 

 はっきりと見える黒さんの顔。

 その顔は珍しく、頬が赤く染まっていた。

 

 

「好きだよ、文」

 

 

 さっきよりもはっきりと聞こえた言葉。

 今度は頭も理解してくれたらしい。

 

 そしてまた、涙が溢れ始めた。

 だから私は黒さんへ飛びついて、顔を見られないようその胸で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 泣き疲れたのか、寝てしまった文を背負ってとりあえず自分の家へ帰宅。

 本当は文の家へ送って行った方が良いのだろうけれど、文の家は知らないし、絶対五月蝿い天狗共に絡まれるから止めておいた。

 

 店へ戻るとそこには萃香がまだいて、文を背負った俺の姿を見ると何も言わず、笑いながら消えていった。腹が立つほどの良い笑顔だった。

 

 別に居てくれても良かったのに。変な気を使わせてしまったね。

 

 とりあえず文を寝床へ移したものの、どうにも落ち着かない。俺の想いは伝えたものの、文の想いは聞いていない。

 いや、思いっきり『貴方が嫌いです』とか言われたけど、あれはノーカンだと思う。

文の本心ではないはず。たぶん、きっと、そのはず……だよね?

 

 一世一代の告白をしたせいで、今だに心臓はバクバク。俺もかなり疲れました。

 

 寝床は文が使っているので、俺の寝るところがない。仕方が無いから、その日はカウンターに突っ伏して寝ることにした。

 

 これからどうなるんかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、いつまで寝ているんですか? 良い加減起きてください」

 

 文の声がした。

 むぅ、カウンターで寝たせいか体中が痛い。よだれとか垂れていないよね?

 

「もう昼ですよ? はぁ……聞いてはいましたが、本当に朝が苦手だったのですね」

 

 こればっかりはなぁ。

 どうしようもないんです。

 

「や、おはよう文」

 

「はい、おはようございます黒さん」

 

 むぅ、なんだか気恥ずかしいな。文の方もどこかそわそわしているし。どうやら昨日のことはしっかりと覚えているらしい。

 

「えと、それで……昨日のことですが」

 

 珍しく歯切れの悪い文。

 昨日のことって言うと……まぁ、やっぱりあのことだよね。

 

「あの時の言葉は本当ですか?」

 

 顔を下に向けてはいるものの、赤く染まった耳が見えた。

 

 ふむ……どうだろうか。

 ここで『実は嘘でしたー(*ゝω・)てへぺろ☆』とかやってみようか。たぶん、殺されるけど。

 カメラが止まる程度ではすまないだろう。

 

「うん、嘘偽り無い本心だよ」

 

 うむ、巫山戯るのはやめておこう。

 命は大切なのだから。

 

「……そう、ですか」

 

 相変わらず、顔は下を向いたまま。

 そしてお互い無言に。おい、どうすんだよこの空気。

 

 

 

「あの……昨日あんなことを言いましたが私も――「やほー黒。今日も遊びに来たよ」わた、私も……」

 

 文の顔が上がり、漸く何かを言ってくれるかと思ったら、萃香が現れた。萃香の後ろにはに紫までいる。

 空気読みなさいよ。いや、もしかして読んだ結果か?

 

「ふふっ、もしかして御邪魔だったかしら?」

 

 いつものような胡散臭い笑を浮かべながら紫が言った。こいつら絶対見ていただろ……あまりにもタイミングが良すぎる。

 

「えっと……あ~、しゅ、取材の御協力ありがとうございました。それでは私は帰りますね」

 

 真っ赤な顔をした文はそう言って、ものすごい勢いで店を飛び出していった。あ~あ、帰っちゃったじゃん。

 結局、文の気持ちは聞けなかった。はぁ……まぁ、また会えるか。

 

「んで、二人はこんな昼間からどうしたのさ?」

 

 まぁ、俺で遊びに来ただけなんだろうけど。

 

「紫と一緒に黒の様子を見ていたんだけどさ、良い雰囲気になって腹が立ったからぶち壊しに来た」

 

 正直なのは良いことだけど、最悪じゃねーかよ。ここまでくると、いっそ清々しいわ。

 

「だってねぇ、黒ばかり良い思いをするのはダメでしょ?」

 

 紫も言った。

 ダメではないでしょうが。たまには俺だって良い思いくらいしたい。

 

 

「なるほど了解したわ。ちょっとお前らそこに座れ。封印解くから」

 

「「それはやめて!!」」

 

 

 たぶんだけど、二人だって本気で邪魔をしに来たわけではないと思う。長い付き合いなのだし、それくらいはわかる。

 

 どうにもこうにも、俺の周りはひねくれ者ばかりだから勘違いしてしまう時がある。素直になれないだけ。

 全く誰に影響されたのやら……

 

 確かにタイミングは悪かった。まぁ、でもあの雰囲気を壊してくれた二人には感謝している自分もいます。

 

 少しだけだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあったのがもう一ヶ月ほど前

 

 その後、文と一緒に生活するようになったとか、そういうことは別にない。

 ただ、毎日この店に文が訪れるようになっただけ。どうやら、紫が文の家とこの店とを繋いでくれたらしい。あんなことを言っておきながら、紫もちゃっかりしてるね。

 うん、紫には感謝です。

 

 文の様子はと言うと、結局向こうから気持ちを伝えてもらったことはまだない。言ってくれそうにもないし……

 むしろ言わせた者勝ちとでも言うのか、店に来ては俺が気持ちを伝えたことをからかってくる。顔を赤くしながらだけど。恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。

 

 そんな姿は見ていて可愛らしいから黙っておくことにします。

 

 後は、文の店へ訪れる理由が取材から遊びに来たに変わった。

 カメラは相変わらず持ったまま。たまに二人で写真を撮ったりも……たまにだけどね。

 

 

 一度俺が――

 

「俺が文に好きだって言ったことは記事にしないの?」

 

 なんて聞くと。

 

「そ、そんなことできるわけないじゃないですか!バカっ!」

 

 と、顔を真っ赤に染めながら怒られた。ご馳走様です。

 他人のことなら良いけれど、自分のことは流石に恥ずかしいらしい。まぁ、俺も恥ずかしいから記事にするのはやめてもらいたいけど。

 

 文からの返事はまだ聞けていなし、隣に文がいることは今だ慣れない。けれども、まぁ時間はあるのだし俺はゆっくりと文が気持ちを伝えてくれるのを待つとしよう。

 それに文が隣に居るって言うのも、いつの日か自然なことになると思う。

 

 そんな未来のことを考えると、自然と笑が溢れた。

 

 

 

 






最初は二人がもっとキャッキャウフフな感じにする予定でした
文さんをヤンデレな感じにしようとも思いました
けれども、まぁ、このくらいがちょうど良いのかもしれません


と、言うことで第恋話~文ルート~でした
結局この二人の関係はあまり変わりませんでしたね

別に、作者のメンタルが壊れたとかそういうのではなく、成り行きでこうなっただけです
実は書き直しまくっているとかそんなことはありません

次話は……あるかもしれません
ルートが二つだけだと寂しいですし
未定ですが……

では感想欄か、もしあれば次話でお会いしましょう
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