東方酒迷録【完結】   作:puc119

67 / 69


こっそりこっそりと書いた幽香さんルートです

久しぶりに書くのも悪くはないかもしれませんね




第恋話~幽香ルート~

 

 

 理由はなんだ? とかきっかけはなんだ? なんて聞かれると少し困ってしまう。

 ただまぁ、一つ言えることは咲いた花を見つめる彼女の顔が好きだった。ってことじゃないかな。普段のドSっぷりからは全く想像できないあの顔が、俺は好きだったと思うんだ。

 優しげに、そして嬉しそうに自分で育てた花を見つめる彼女の顔が好きだった。そんな彼女の顔がいつから好きになってしまったのかなんて、俺には思い出せないんだけどさ。

 なんとなくから始まって、なんとなくで止まっている。でもまぁ、それで良いんじゃないかな。なんて俺は思うのです。

 

「相変わらず湿気た顔ね。せっかく来てあげたのだから、もう少しまともな顔はできないの?」

 

 ため息を零しながら、目の前の人物がそんな言葉を落とした。

 すみませんねぇ、どうにもひねくれた性格ですから。

 

 素直な気持ちなんて出せるはずもない。

 

「んで、今日は何をしに来たの? お帰りは後ろの扉だよ」

「ぶん殴るわよ?」

 

 心の底からやめてください。

 別に俺はマゾヒストってわけではない。違うったら、違います。

 

「じょ、冗談だって」

「ホント、減らない口ね。冷酒で」

 

 さてさて、花を見る彼女の顔が好きだとか言葉を濁していたけれど、そろそろちゃんと言葉にしてみよう。どうにも臆病な性格をしているけれど、自分にくらいは素直になれたいしね。

 

 まぁ、つまりアレですよ。

 

 

 どうやら俺は彼女――風見幽香のことが好きらしい。

 

 

「かしこまりました」

 

 しっかし、どうしてそんなことを思うようになったのかねぇ。人生わからないことだらけだ。ホント、どうしたものやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の季節は夏。茹だる様な暑さが続きはするけれど、夏だからこそ楽しめるものもある。照りつける太陽に向かって花を開く、あのヒマワリだってこの夏にしか楽しむことはできない。

 

「今年もヒマワリは咲いているの?」

「ええ、元気に咲いてくれたわ」

 

 出した冷酒を傾けながら、嬉しそうに幽香は言った。

 おお、そりゃあ良かったよ。それなら今度俺も見に行こうかな。ちょいと暑いだろうけど、ヒマワリを見ながら飲むお酒だって悪くはないはず。

 

『幽香も一緒にどう?』

 

 な~んて誘っては見たいけれど、相変わらず俺にはそんな勇気がありません。ホント、臆病な性格をしてくれたものだよ。

 はぁ……どうせ幽香の方から誘ってくれることはないだろうし、難しいものだね。なんだって、こんな奴を好きになってしまったのやら。

 

「……失礼なこと考えているでしょ?」

 

 ジト目の幽香。

 鋭い勘をお持ちなことで。別に失礼なことを考えていたわけじゃないけどさ。

 

「いんや、考えてないよ」

「嘘でしょ?」

「ホントです」

「嘘ね」

「嘘だけどさ」

 

 俺がそう言うと、クスクスと幽香は笑った。

 思わず見とれてしまいそうな笑顔だなんて思ってしまったのは、やっぱり俺が幽香のことを好きだからだろうか? はぁ、ホント面倒なことになってしまいましたね。

 

 永い人生を生きてきた身ではあるけれど、恥ずかしながら恋愛ごとはさっぱり。どうして良いのか全くわからない。まさか、こんなにもモヤモヤさせられるとは思わなかった。それならいっそ此方の気持ちを伝えれば……な~んて思いはするけれど、やっぱり俺にはそんな勇気がないから、あともう一歩が踏み出せなかった。

 お酒で酔った勢いに乗り言ってしまうのも良いかもしれないけれど、それじゃあ情けない。じゃあどうするのか。それがわからなかった。

 

 はぁ、ホント、どうすれば良いのか誰か教えてくれないものでしょうか?

 

「今年はあの子たちを見には来ないの?」

「ああ、行かせてもらうよ。毎年の楽しみだしさ」

 

 幻想郷一危ない場所ではあるけれど、あの一面に咲いたヒマワリたちが創り出す景色はやはり見事なもの。一度くらいは見ておかないともったいない。

 きっと今年も綺麗に咲いてくれているのだろうし。

 

「そうじゃあ、いつでも来なさいな。ああ、でもあの子達に乱暴したら許さないから」

 

 そんなことできるわけがないし、するはずもない。あのヒマワリはあの場所で咲いているから良いのだ。

 

「この季節、幽香はあの場所にいつも居るの?」

「まぁ、そうだけど……むぅ、私が居ない方が良いってこと?」

 

 また睨まれた。そんなつもりはないんだけどなぁ。むしろ居てくれた方が……ああ、ダメだ。いつもの調子じゃない。全く、俺は何を浮かれているんだか。

 自分が素直じゃないことくらいはわかっている。わかってはいるけれど、どうにも不器用で天邪鬼なこの性格。そんな性格だから、自分の思っていることとは全く違う言葉が出てきてしまう。

 

 ホント、損な性格だよなぁ……

 

「いやまぁ、だって幽香がいたらゆっくりできないだろ? ヒマワリくらいゆっくり見たいし」

 

 いつも通りの軽口。俺の口から出てくるのはそんな言葉ばかりだ。

 今までもそうやって生きてきたからなぁ。いきなり変えるなんてことはやっぱりできなかった。少しは素直になってみろってんだよ。な~んて他人事のように思うばかりです。

 

「…………」

 

 無言で睨まれた。

 もし此処で、素直な気持ちを言葉にすることができていたら……してしまっていたら、どうなっていたんだろうか。後悔ばかりの人生です。

 

 

「…………ばか」

 

 

 うん、知ってる。

 

 小さくぽそりと落ちた幽香の言葉。でもそんな小さなものは、俺に深く突き刺さった。

 小さいからこそ突き刺さった。これじゃあ上手く抜けそうにはない。

 

 

 それから俺と幽香の間に会話なんて特になく、静かな時が流れるだけだった。

 このままじゃダメだよなぁ、とは思う自分と、このままでも良いんじゃないかと思う自分がいて……まぁ、つまるところ俺が臆病だってだけなんだけどさ。

 

 結局、今日も幽香に俺の気持ちを伝えることはできなかった。

 

 何をやっているのやら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽香が帰り一人きりとなった店内。

 何をするでもなく、ボーっと天井を眺めてみる。幽香が好きと言うこの気持ちに偽りはない。けれども、それからどうして良いのかがわからなかった。

 

 なんとなしに煙草を取り出し吸ってはみたけれど、あまり美味しいとは感じられない。煙草の先から上る煙は天井へ着く前に消えてなくなる。いっそ俺の気持ちも、この煙のように消えてなくなってくれれば良いのにな。

 な~んて、情けない感情が溢れた。

 

 

「随分と濁った空気ね」

 

 吸っていた煙草を指で弾き、桜の花びらへと変えると突然、紫が現れた。

 

「煙草を吸っていたしな。そりゃあ空気だって濁るさ」

 

 どうせお客さんなんて来ないだろうと、店内で吸っていたけれど外で吸えば良かったね。はぁ、窓開けるか。

 

「いえ、煙草の煙みたいな綺麗な濁り方じゃないわよ。もっと湿ったようなドロドロとした濁り方」

 

 ……見てたんですか? クスクスといつもの胡散臭い笑を浮かべながら紫に言われた。ホント、お前は覗き見が好きな奴だね。

 ああ、もう。恥ずかしいったらありゃしない。

 

「莫迦でチキンで臆病で情けない奴だとは思っていたけれど、まさか此処までだったとはねぇ」

「仕方無いだろ? どうして良いのかわからないんだし」

 

 正解を教えて欲しい。

 

「正解なんてあるわけないでしょ? でも、そうねぇ。今の黒の状況が正解でないことは確かかしら」

 

 まさに言われたい放題。実に楽しそうな顔の紫。

 俺のハートはボコボコです。メンタルだって強い方じゃないんです。

 

「別に、貴方たちがどんな関係になろうと私は知らないけれど……まぁ、精々酒の肴になる程度は頑張りなさいな。その程度の方が黒には似合っているわよ?」

 

 他人の恋次が酒の肴とは……はぁ、まぁでもそんなものなのかな? 俺が難しく考えすぎているだけで。それができたら苦労はしないんだけどさ。

 

「もし、俺がフラレたら紫が拾ってくれる?」

「鼻で笑ってあげるわ」

 

 ……それは心が折れそうですね。せめて慰めてくれても良いだろうに。

 

 うん、でも少しだけやる気にはなれたかな。紫には少しだけ感謝をしておこう。長い付き合いなんだ。鈍感な俺でも、紫が何をしようとしていたのかくらいは流石にわかる。

 まぁ、言葉には出さないけどさ。素直じゃないもんな。お互いに。

 

 そんじゃま。腹、括るとしますか。

 少しくらい素直になってみようじゃないか。

 

 

「なぁ、紫。今からでも間に合うと思う?」

「レーザーの2,3発ですむくらいじゃないかしら?」

 

 そのくらいで済めば良いけどねぇ。

 幽香が俺の気持ちに気づいているのかなんてわからないけれど、随分と遅れてしまった。今までだってのんびり生きてきたしなぁ。これも仕様が無いのかね。

 

「さっさと行きなさいな。遅いよりは早い方が良いに決まっているのだから」

「うん、行ってくるよ――いつもありがとう、紫」

 

 そんな言葉は予想以上にすんなりと俺の口から溢れてくれた。素直になってみる練習です。ああ、もう。ホント恥ずかしいたらありゃしない。

 

「っ……フラレちゃえ、ばか」

 

 その時はよろしくお願いします。

 鼻で笑ってあげてください。

 

 さてさて、決して足取りは軽くなんてないけれど、進むとしようか。例え、足取りが重くとも空を飛ぶことはできるのだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はもう夕方。

 沈みかけの太陽が真っ赤に染まる時間。そんな真っ赤に染まった世界の中で、ヒマワリたちが見事に咲いていた。

 

 視界いっぱいに広がるヒマワリ畑。いつ来ても、いつ見ても壮大な景色。すごいよな。幽香はこれを一人で育てているのだから。

 ヒマワリかぁ、花言葉はなんだったかな。

 

 一本のヒマワリに近づき、ゆっくりと観察。太陽は西で輝いているけれど、ヒマワリのその大きな顔は東を向いたまま。幽香が能力を使わない限り、花の向きはもう変わらないだろう。

 

 

「私が居ない時、ゆっくりと観察するんじゃなかったの?」

 

 そんな声を上からかけられた。

 声のかけられた方を向くと、空へ浮き傘の先端を此方に向けている幽香の姿があった。

 どうにも良い雰囲気じゃない。幽香から漏れ出した妖力がピリピリと肌に刺さる。

 

「どうしてもヒマワリを見たくなってさ。それで来たんだよ」

「そう……でもね、私は今、貴方と会いたくなかったの」

 

 

 ――だから、消えてもらえないかしら?

 

 

 瞬間、幽香の構えていた傘からぶっといレーザーが放たれた。

 はぁ、ホント君は容赦無いね。

 

 能力を使用し、上から放たれたレーザーを花びらへと変える。ヒマワリ畑に薄桃色の花びらがひらひらりと舞い散った。

 う~ん、桜の花びらも悪くはないけれど、今はヒマワリだけを楽しみたいんだよなぁ。

 

「……何の用なの?」

 

 どうにも機嫌の悪い様子の幽香。眉間に皺とか寄っちゃってるもん。

 まぁ、それもこれも俺が悪いんだけどさ。

 

 いつもの軽口が口から出そうになる。けれども必死にソレを飲み込んで、なんとか抑えてみた。だって流石にこれ以上はマズイしな。

 

 とは言うものの……さてさてなんて言えば良いのやら。

 な~んも考えずに家を出てきてしまったから、言葉なんて用意していない。相変わらずの行き当たりばったりな人生だ。

 

「なぁ、幽香。ヒマワリの花言葉ってなんだっけ?」

「……『あなただけを見つめている』よ」

 

 ああ、そう言えばそんな感じだったな。あなただけを見つめる。ねぇ。俺にそんなことができるだろうか? こんなひねくれた性格をしている俺でも、そうやって生きることができるだろうか。

 

 ま、できないわな。だって俺はヒマワリではないのだし。

 

 真っ赤な夕日に照らされた幽香はやっぱり綺麗だった。

 莫迦みたいに心臓が暴れて、呼吸だってうまくできない。なんだってこんなに苦しいってんだよ。たった一言を伝えるだけなのにさ。

 

「なぁ、幽香」

「さっきからなんなの? 私は黒の顔を見たくはないのだけど」

 

 随分と辛辣な言葉。

 いや、ごめんって。どうにもこうにも、俺には勇気がないからさ。

 

 

「私の気持ちも知らないで、馬鹿にしたような言葉ばかり。いつもいつも、貴方はそうやって……」

 

  

 いや、うん。申し訳ないとは思っています。

 

 素直になるって難しいよね。

 でも良い加減、そんな言い訳ばかりを言っている場合じゃない状況だ。

 

 言い訳や嘘ばかりのこの人生。少しばかりの本音を落としてみよう。

 

 

 

 

 

 

「貴女のことが好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 たったの一言。そんな11文字の言葉出てくれるまで、随分と時間がかかってしまった。

 けれども、やっと言葉が出てくれたんだ。良しとしようじゃないか。

 

 

「それだけをさ。伝えたかったんだ。ん~……そんじゃ俺は帰るとするよ。幽香にも伝えられたし、ヒマワリだって見ることもできたし」

 

 自分の中にあった、重い重い何かが無くなったような感覚。

 うん、これは悪い感覚じゃない。

 

「えっ……あっ、ちょっ、ちょっと待って。そんないきなり……だって貴方」

 

 そんな幽香の様子は珍しく慌てているように見えた。

 でも、もう限界です。情けないことだけど、これ以上此処には居たくない。夕日に照らされた俺の顔はきっと真っ赤だろう。

 

 だから俺は、逃げるようにその場を離れた。

 この時、ちゃんと返事を聞いておけば良かったなぁ。な~んてこの先、後悔することになるんだけどさ。ま、やっちゃったものは仕様が無いよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「チキン」

 

 はい、おっしゃる通りで……

 

「臆病者」

 

 返す言葉もございません……

 

「ドM」

 

 いや待て、それは違うぞ。誤解です。そんな趣味、俺にはこれっぽっちもない。

 

 自分の店へ戻ると、紫、幽々子、萃香の三人が何故か居て、お酒を飲んでいた。お願いですから一人にしてください。今は放っておいてください。

 

「どうして返事を聞いてこなかったのさ? まぁ、黒らしいっちゃらしいけど」

 

 お酒を飲みながら萃香に言われた。

 どうやら当たり前のように、俺の行動は見られていたらしい。どうなってんだ。

 

「そうね、黒だし仕方が無いんじゃない? それよりもお腹が空いたから摘める物を何か……ああ、どうして黒があの花妖怪を好きになったのか教えてくれるのも良いわね」

「あら、それは良いわね」

 

 良いわけあるか。どんな公開処刑だよ。

 帰ってくれないかなぁ。帰ってくれないんだろうなぁ。

 

 何? 皆して俺を虐めて楽しいの? 人の不幸は蜜の味とか言うけれど、蜜じゃあお酒には合わないでしょうが。

 全く、此処ぞとばかりに人のことを馬鹿にして……もう地底にでも引き篭ってやろうかな。そして、さとりちゃんに慰めてもらおう。それくらいは許されるはず。

 

「それじゃあ、とりあえず乾杯でもしましょうか」

「おおー、そりゃあ良いね。何に乾杯するの?」

 

 俺のことを無視して盛り上がる紫と萃香。

 幽々子はそんな二人を見て笑っていた。

 

「生き遅れた紫の取り返しがつかない人生に乾杯」

 

 紫にぶん殴られた。

 いや、流石に理不尽じゃないですか? 弱肉強食なこの世界が恨めしい。弱者はいつだって虐げられる。

 

「黒も変わらないねぇ。そんなんだから逃げてきちゃうんだよ」

 

 殴られた頬が痛い。それ以上に心が痛い。

 

「いや、関係……あるのか?」

「そりゃあ、あるさ。そんじゃ幻想郷と黒の幸せな未来に――

 

 

 乾杯。

 

 

 そんな幸せな未来が来ると良いんだけどねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「そう言えば、アレから幽香とは会ったの?」

「いんや、会ってないよ。だから返事ももらっていない」

 

 一世一代の告白をしてから既に一週間。未だ幽香は訪れてくれない。俺の方から聞きに行っても良いけれど、どうにもそんな気は起きなかった。

 決して俺に聞く勇気がないとか、そう言うことではありません。かと言って、これで幽香と会えなくなるのは嫌なんだよなぁ。

 

 そんななんともモヤモヤした感情を持ったままこの一週間は過ごしました。その間、紫、幽々子、萃香の三人は代わる代わるこの店へ訪れてくれた。んで、今日は紫の番らしい。

 何? お前ら暇なの?

 

「聞きに行けば良いじゃない」

「俺からは伝えちゃったしなぁ。返事をしてくれるかわからないけれど、まぁ、のんびり待つことにするよ」

 

 それに幽香に伝えることができたおかげで、以前よりもモヤモヤは少なくなっている。そりゃあ返事をもらいたいところではあるけれど、別にこのままでも良いのかなぁ。なんて思うのです。

 

「それは黒が臆病なだけでしょ?」

 

 そうなのかねぇ。もう俺にはよくわかんないや。

 

 

「あら? ふふっ、どうやら漸く臆病者が動いたらしいわね。それじゃあ、邪魔者は消えることにするわ」

 

 そう言って紫はスキマの中へ消えていった。まぁ、つまりはそう言うことなんだろう。

 臆病者、か。人生それくらいの方が良いと、俺は思うんだけどねぇ。

 

 

 紫が消えてから直ぐ、カランカランとドアに着いた鈴が音を出した。

 

 その扉を開けたのは――

 

 

「……お、おじゃまするわ」

「や、いらっしゃい幽香。今は誰も居ないし、まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 

 白色のカッターシャツに赤のスカートとベスト。そしてあの緑色の綺麗な髪。いつも通りの姿。一週間ぶりの再会。

 

 幽香にしては珍しく、少しばかりおどおどした様子でいつもの椅子に腰掛けた。目の下にはクマのようなものもある。

 

「ご注文は?」

 

 全く、来るのならもっと早く来てくれれば良かったのに。何をしていたのやら。

 

「……冷酒で」

「かしこまりました~」

 

 自分でも驚いたが、予想以上に心臓は暴れなかった。もうアレだね。きっと今まで緊張し過ぎたせいで、心臓だって暴れるのが疲れてしまったんだろう。

 

 雪冷えにした冷酒と御猪口。それと簡単な浅漬けを一緒に出す。漬物と日本酒ってやたらと合うよね。

 

 そうやって出した日本酒と浅漬けだけど、幽香はなかなか手をつけようとはしなかった。どうしたと言うのやら。

 

「飲まないの?」

「はぁ……これじゃあ一人で莫迦みたいね」

 

 うん、俺もそう思う。

 やーい、ばーかばーか。とか言ってみようかと思ったけどやめておいた。そんなことをしたら絶対怒られる。

 

「でもね、私だってその……こんなことは初めてだから、どうして良いのかがわからないのよ」

 

 おろ、そうなの? まぁ、俺だって初めてだったしなぁ。

 

「黒は本当に私のことを……でも、どうして?」

 

 いや、どうしてって言われても……なんとなくとしか言いようがない。

 でも、それじゃあ納得してくれないよなぁ。

 

 

「幽香の花を見つめる顔が好きだったからかな」

 

 

 俺がそう伝えると、ガンっと幽香はカウンターに自分の顔を叩きつけた。

 この人、何やってんだろう……

 

「よ、よくそんなことが言えるわね……」

 

 もごもごと口篭りながら言葉を落とす幽香。何この人超可愛い。

 そりゃあ俺だって恥ずかしいけれど、俺の気持ちはもう伝えちゃったしなぁ。今更こんな程度のことで怯むことはない。

 さてさて、こんな調子で返事をもらえることはできるのかねぇ。

 まぁ、俺はのんびりと待つだけなんだけどさ。

 

「返事、した方が良い?」

 

 漸く、カウンターから幽香が顔を上げてくれた。その鼻と頬を真っ赤に染めながら。

 

「そりゃあ教えてくれれば嬉しいけど、別に今もらわなくても良いよ。俺はいつまでも待っているからさ」

 

 俺だって幽香に気持ちを伝えるまで、かなりの時間をかけてしまったんだ。幽香にだけ急がせるってのは違うだろうさ。お互いに臆病者同士。のんびりやろうじゃないか。

 

 ああ、でも一つだけ教えて欲しいことはあるかな。

 

「嫌だった?」

「……それくらいわかれ、ばか」

 

 ふふっ、それだけ聞ければ充分さ。

 さてさて、せっかく来てくれたんだ。お酒を飲まなきゃもったいない。今ばかりは、辛口の麦酒を喉へ流し込みたい気分なんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの俺と幽香だけど、流石は臆病者同士とでも言えば良いのか進展なんてほとんどなかった。

 ただ、幽香が俺の店へ来ることが増え、俺が幽香の所へ行くことが増えた程度。そんなことをずっとやっていたからか、紫には何度もからかわれた。絶対に仕返ししてやる。

 

 そんな臆病者同士がちゃんとお互いの気持ちを伝えあったのは、数年後のとある夏の日のことだった。

 

 






いったい、何人の方が読んでくれているのかわかりませんが……読了、ありがとうございます

前々から書こうと思っていた幽香さんルートです
ギャグ色が強め……でしょうか?

新しいお話を追加するのは嫌でしたので、文さんルートを一つにして幽香さんルートを追加しました
この方法を使えばあと二人追加できますね
いつか書くかもしれません

では、またいつかお会いしましょう

感想・質問何でもお待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。