きっと最後の第恋話です
目が覚めると、目の前に紫の顔があった。
……え? 何ですか、これ。本当にわけがわからない。
と言うか、昨日の記憶がほとんどない。白玉楼にて俺、紫、幽々子、萃香の4人でお酒を飲んだことは覚えている。一緒に乾杯して……まずい、そこからの記憶がほとんどない。
嫌な汗が全身から吹き出た。
「ん……あっ、おはよう黒」
混乱した頭を必死で整理していると、紫の声がした。
ちょ、ちょっと近いですよ。もう少し離れなさいよ。
寝起きの紫の様子は、何処かそわそわしていて、珍しく顔も赤くなっていた。本当に意味が分からない。
「えと……その昨日のことだけど……これからもよろしくね、黒」
真っ赤に顔を染めながらも、笑顔で紫はそう言った。
昨日の飲み会で何があったんだよ……これからもよろしくってどういうこと!?
見覚えのある天井だから今、自分が白玉楼にいることはわかる。しかし、今の状況が全く分からない。
もう少し考える時間が欲しい。
「……ああ、よろしく」
何がよろしくなのかは全く分からないが、とりあえず紫に返事をしておく。なんとなく、どういうことが起きたのかはわかる。
けれども、頭がそのことを考えてはくれない。いや、これは無理だって。
「あら、もう起きていたのね。全く、朝から見せつけちゃって」
布団から出ようとした時だった。
幽々子が声をかけてきた。見せつけるってお前……えっ、何? 俺と紫ってそういう関係なんですか? 嘘でしょ?
「ちょっ、からかわないでよ幽々子!」
慌てた様子の紫。
ああ、うん、なんだか一周回って冷静になってきた。
酔っ払っただけで、俺と紫がそう言う関係になるとは思えない。それに、二日酔い特有の頭痛や気怠さも感じない。
と、言うことはだ。
「……薬か」
「えっ? 何か言った?」
紫が聞いてきた。
いんや、何でもないよ。
幽々子に視線を向ける。
目を反らされた。どうやら、正解らしい。
「ま、まぁ、今日は二人でのんびりしていきなさい」
慌てたように幽々子はそう言って、逃げるように出て行った。これは、ちょいと面倒なことになった。
「二人でって幽々子……」
恥じらうように言った紫の声。いやお前、さっきからキャラ変わりすぎだろ……
その後も、紫と昨日何があったのか探ろうと頑張ってはみたがどうにも上手くいかない。紫も頼むからいつもの調子に戻ってくれ。どうして良いのかわからん。ホント、昨日何があったのやら……
このままではどう仕様も無いから、とりあえず帰ることに。
紫は残念がっていたけれど、また明日会おうと言ったら納得してくれた。なんだろうか、此処まで紫が素直だと本当に調子が出ない。
俺と紫はそう言う関係ではないのだ。お互いに冗談や悪口を言い合って、たまに協力する。
そんな関係なんだ。
白玉楼を去る時、幽々子に何があったのか聞こうとしたが、妖夢ちゃん曰く、どうやら何処かへ行ってしまったらしい。逃げられた。
と、なるとだ。
話を聞けるやつは、残り一人しかいない。しかし、俺では見つけることはできたとしても、あの鬼を捕まえられない。
捕まえさえすれば、嘘は言えないのだし喋ってくれると思うけれど。
そんなわけで、白玉楼から博麗神社へと飛んだ。困ったときは博麗の巫女に頼るのが一番だしね。
どっかの天人が一度ぶち壊し、その後萃香が立て直してくれたため、現在は新築の博麗神社。まぁ、新しくなったと言うだけで、間取りとか変わっていないけど。
いつもの縁側へ行くと、今日も今日とて呑気に霊夢はお茶を飲んでいた。
「あら、黒じゃない。今日はどうしたの?」
「ちょっと頼みたいことがあってさ」
鬼退治の手伝いをしてもらいたいんだ。俺の力だけでは、どうしても萃香を捕まえることはできないから。
「頼み? まぁ、良いけど……それで、何をすれば良いの?」
自分の中にある溢れる妖力を、できる限り霊力へ変換。集中力を上げ、萃香を探す。どうせ萃香のことだから、俺の様子をお酒飲みながら見ていることだろう。
キリキリと痛む頭を抑えながら、萃香を探す。
そして、いつもの屋根の上にお酒を飲んでいる萃香を発見。
見つけた。
「霊夢。屋根の上に悪さをする子鬼がいるから、御札を投げてくれない?」
萃香に自分の姿が見つかったことがバレないよう、小さな声で霊夢に伝える。これで逃げられたら面倒だ。
「それって萃香のことでしょ? 良いの?」
「大丈夫。全力でやって良いよ」
俺がそう言うと、霊夢は御札を5枚ほど取り出し、詳しい萃香の位置は伝えていないのにも関わらず、萃香に向かって真っ直ぐ御札を飛ばした。
流石は博麗の巫女。霊夢の奴また、強くなったんじゃないか? ホント何処まで強くなるのやら……
「あたっ、えっ? 何コレ? あっ、まずい……えと、もしかして見えてる?」
うん、バッチリ見えています。
鬼を捕まえると言う、何とも不思議な鬼ごっこはどうやら俺が勝ったらしい。まぁ、ほとんどやったのは霊夢だけどさ。
体中に御札を貼り付けられた萃香のいる屋根へ、ふわりと飛んで移動。
「や、萃香」
「や、やぁ黒。え、えと、何の用事……なのかな?」
落ち着かない様子の萃香。
目は合わせてくれない。
やはり、コイツも噛んでいたか。
「昨日のことで聞きたいんだけど、何があったの?」
「え~、あ~……」
「鬼は嘘をつかないんだよな?」
「うぅ、そりゃあ、そうだけど……」
悪いことをした自覚はあるのだろう。これではまるで、萃香をいじめているように見えるが、実際の俺と萃香の実力は天と地ほどの差がある。
いじめにはならないだろうさ。
それにしても、なかなか喋ってくれないな。多少ごねるとは思っていたけどさ。
「あら、捕まっちゃったのね。まぁ、いつかはこうなると思ってはいたけど」
幽々子の声がした。
萃香と幽々子、どっちが主犯なのやら。
「それで? 昨日は何があったの?」
「……黒の飲む酒に媚薬入れて、紫へ告白させた」
顔を下に向けたまま、萃香がぽそりと呟いた。
いや……何をやっているんですか。
はぁ、じゃあ今朝、紫の言っていた『これからもよろしく』と言うのは……まぁ、そう言うことなのか。
どうすんだよ、これ。
「何やってんのさ、お前ら」
「良いじゃない、黒だってそろそろ身を固める時期でしょ?」
「とっくに過ぎてるわ、そんな時期!」
「だって、このままだと紫一人ぼっちで可愛そうだし」
「おい、俺の感情はどうなる」
「あら、紫じゃない。あんたもお茶飲む?」
「だって、貴方枯れているし、絶対協力してくれないでしょ?」
「相手が悪いわ、相手が」
「ああ、もう何を嫌がっているのさ。ほら、紫もそんな所に立って…ないで……えっ? 紫?」
「えと、これはどういうことかしら?」
紫の声がした。
空気が、凍った。
「今日もお茶が美味しいわ」
いつもと変わらない霊夢の声が静かに響く。
――――――――
「そう、つまり私が一人で勘違いしたってことなのね……」
幽々子と萃香の説明を聞いた紫が言った。
薬は八意さんに作ってもらったそうだ。
なんだか俺まで申し訳なくなってくるけれど、今回は俺も被害者だよな。記憶とか全くないし。
「その……ごめん紫!」
「ごめんなさいね。紫」
あたふたした様子の萃香と、此方も珍しく慌てた様子の幽々子が紫に謝罪した。あの……俺はまだ謝ってもらっていないのですが。
この紫と俺との対応の差はなんだろうか。
「はぁ、別に良いわよ。黒にも迷惑をかけたわね」
そう言って紫は悲しそうに笑った。そんな紫を見て心がズキリと痛んだ。
「それじゃ、私は帰って寝ることにするわ。バーイ」
いつものように紫はそう言って、スキマの中へ消えていった。どうにも心がざわつく。
これで全部元通り。
今までのような俺と紫の関係へ戻る。
――なんてことは流石に思わない。
確かに、事件を起こしたのは幽々子と萃香だ。けれども、これは俺と紫の問題。知らぬ存ぜぬでは終われない。
はぁ、どうにも気は重いけれど、ここからは俺がやらなければいけないのだろう。ホント、面倒なことをしてくれたよ。
「どうして、あんなことをしたの?」
何も考えずやったとは思えないし、軽いいたずらってわけでもなさそうだ。何か理由があるのだろう。
「紫と黒にくっついてもらいたかったのよ。そうすれば、この幻想郷だってこれからも大丈夫だろうし」
はぁ、俺は別に紫とそういう関係にならなくても、この幻想郷を捨てたりなんかしない。
紫だってそうだろう。
「それにさ」
幽々子に続いて、萃香が言った。
なんだろうか。
「見ていてモヤモヤしたんだよ。黒は枯れてるし、紫は奥手だし、だから……それに、黒だって紫のことは嫌っていないでしょ?」
……そりゃあ、嫌いじゃないさ。紫のことは信頼もしているし。
それにしても、他に方法などいくらでもあったでしょうが。
「どうして薬を使ったのさ?」
「あの月の医者がくれたのよ。黒に使えば面白いんじゃない? とか言って」
何やってんですか八意さん……
頭が痛い。ホント、あの人は何を考えているのかわからん。
「はぁ、とりあえず俺も今日は帰るわ。紫だって子どもじゃないんだ。大丈夫だろうし。それじゃ、また」
とりあえず、家に戻ろう。
「黒」
「うん?」
「「紫のことお願い」」
幽々子と萃香が口を揃えて言った。
何かをするなんて言ってないんだけどなぁ……
けれども、まぁ……もう被害者面するつもりもない。
できる限りはやってみようと思う。
全く……紫には友達がいないとか言っていたけれど、そんなことないじゃないか。自分のことをちゃんと考えてくれる奴が、少なくとも二人はいるのだし。
それだけいれば十分だろう。
一話にまとめようかとも思いましたが、文字数が多くなりますので結局わけました
では、後編でお会いしましょう