東方酒迷録【完結】   作:puc119

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ってなわけで後編いってみよー





第恋話~紫ルート~後編

 

 

 一度自分の家へ戻り、紫から借りたままだったあの傘を持って家を出る。紫曰く、俺が何処にいるのか分かる目印だったかな。

 

 紫の住んでいる場所なんて俺にはわからないし、行くこともできない。だから、向こうから現れるのを待つだけ。

 

 行儀は悪いけれど、紙煙草を口に加えながら、ゆっくりと再思の道を歩く。秋になれば、真っ赤な花を咲かせた彼岸花で埋め尽くされてしまうが、今は夏。所々、茎の伸び始めた彼岸花も見えるけれど、花が咲くのはもう少しほど後だろう。

 

 煙草から落ちる灰は花びらに変えながら、のんびりとお散歩。

 別に此処へ訪れる意味なんてないけれど、ゆっくりと一人で考え事をするのにはちょうど良い。

 それに、俺が一人だけでいた方が紫も出てきやすいだろう。アイツのことだ、今だって俺のことを見ていると思う。

 

 さて、紫と会ったら何て声をかければ良いのだろうか。

 確かに今まで長い付き合いではあったけれど、紫とそう言う関係になるとか、そんなことは考えたこともなかった。紫がどう思っていたのかは分からないが。

 慰めるのは違うだろうし、謝るのも違うだろう。

 

 ……まぁ、なるようになるか。

 

 吸いきった煙草をピンと指で弾いて飛ばす。

 放物線を描いた煙草を花びらに変え、傘をクルクル回しながら進む。

 

 

 そして目の前に現れた一人の女性。

 

「や、紫。さっきぶり」

 

「こんにちは、黒」

 

 うっわ、本当に現れやがったよ。

 ヤバい、まだ何の準備もしてない。……どうすっかね。

 

「少し、歩きましょうか」

 

 紫は静かにそう言った。

 その紫の隣に立ち、ゆっくりと歩を進める。流石に邪魔となるから傘は閉じた。

 

 季節は夏なはずなのに、空気は何処か冷たく何ともよく分からない感覚。

 

「黒は昨日のことどれくらい覚えているの?」

 

「ん~……何も覚えてないよ。4人で乾杯して気がついたら朝だった」

 

 それで目が覚めると、紫の顔が目の前にあり滅茶苦茶驚いた。何事かと思った。

 

「えと……昨日の俺って紫に何言ったの?」

 

 あまり、聞きたくはないけれど気になった。変なことを言っていないと良いが。

 

「『いつもはつい冷たく接しているけれど、本当は好きだ。だから、ずっと俺の隣に居てくれると嬉しい』……そんなことを言っていたわね」

 

 滅茶苦茶、変なことを口走っていた。

 

「いや、お前……それは、絶対おかしいって気づくだろ」

 

 なんということを口走っているんだ。聞いているこっちが恥ずかしくなる。

 

「だって……確かにおかしいとは思ったけれど、それよりも嬉しくて……」

 

 顔を赤くした紫。その目は薄ら潤んでいるようにも見えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そして、お互い無言に。全く、八意さんはなんということをしてくれたんだ。どうすんだよ、この空気。

 

 

「あー! もう! 何だか腹が立ってきた。どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの。黒。あの医者の所へ行くわよ。何か仕返しをしないと気がすまない」

 

 突然、紫が吠えた。いや、もう俺のことは放って置いて……ああ、ダメですか、そうですか。

 

 そして、俺はスキマの中へ飲み込まれていった。

 俺、もう疲れたよ。

 

 

 

 

 

 スキマから吐き出されると、驚いた顔の八意さんがいた。

 どうやら、お茶を飲んでいたところらしい。お邪魔します。

 

「えと、何か用かしら? 確かに遊びへ来いとは言ったけれど、こんな形で来るとは思わなかったわ」

 

 うん、俺もこんな形で会うことになるとは思わなかった。そして、別に遊びに来たわけではないです。

 

「文句を言いに来たのよ。貴方でしょ? 萃香と幽々子に妙な薬を渡して黒に飲ませるよう言ったのは」

 

 俺に続いて現れた紫が叫ぶ。

 

 これって俺が来る意味あったのかな。

 できれば、帰りたいのですが。なんとなく嫌な予感がするし。嫌な予感ほどよく当たる。

 

「確かにそうだけど、何かあったの?」

 

 お茶を飲みながら八意さんが聞いた。

 貴女って存外マイペースですよね。

 

「何かって貴方……あの薬のせいで黒があることないこと言ったから、私が無駄に恥をかいたの!」

 

「うん? あること……ないこと?」

 

 あっ、ヤバい。

 なんとなく落ちが見えてきた。

 

 こ、これは逃げる準備をしなければ。だ、大丈夫、まだきっと逃げられるはずだ。

 

「何を考えているのか知らないけれど、どうしてあんな薬を渡したのよ」

 

「……なるほどね。なんとなく状況が分かったわ」

 

 八意さんと目が合う。

 優しく微笑まれた。

 

 流石月の頭脳。頭の回転はやはり速い。

 

 ……大ピンチだ。

 

 

「何か勘違いしいるみたいだから言っておくけれど、あの薬に相手を好きにさせる効果なんてないわよ。その人が思っていたことを、ただ口にしやすいようにするだけ。あれはそう言う薬よ」

 

 

 

「……えっ」

 

 

 八意さんの言葉を聴き終える前に、その場から俺は走り出した。惚けたような紫の声が聞こえたが、今は無視。

 

 走り出してすぐ、足元にスキマが開いた。

 それくらいは予想済み。

 スキマへ落ちる前に飛び上がる。

 

 そうすると、上から弾幕が降り注いできた。その弾幕は自分へ当たる直前に花びらへと変える。

 

 薄桃色で埋まった視界を全力で飛んだ――先にもスキマがあり自分からそこへ飛び込んでしまった。

 

 三段じこみの罠とかどうしろと……

 はっはっはー敵ながら天晴だぜ。

 

 全く笑えないが。

 

 まぁ、どうせ逃げられなかっただろうけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキマから吐き出された先は、何処かの部屋の中だった。

 見覚えはない。幻想郷にあるような部屋と言うよりも、どちらかと言えば外の世界の部屋に近いと思う。

 逃げることはできなさそうだ。

 

 ここが、紫の家なのかねぇ。長い付き合いではあるけれど初めて来たよ。

 

「此処は?」

 

 スキマから現れた紫に聞いてみる。

 

「私の部屋よ。藍も入ることはできない、私だけの部屋」

 

 予想は当たっていたらしい。

 なるほど密室か。殺人事件が捗りますね。

 

 しかし、まっずいっすな~……どうするよこれ。紫と目を合わせないよう下を向く。まるで判決をくだされる被告人になった気分だ。

 そんなの、なったことないけど。

 

「……何か、私に言わなきゃいけないことがあるんじゃない?」

 

 漸く、紫が喋ってくれた。

 圧倒的に不利な立場。も、黙秘権を行使します。弁護士呼んでください。

 

 はぁ、どうにかして、逃げられないものか。

 

 だいたい、今更なんて言えば良いんだよ。もっかい言えと? 素面であの恥ずかしい台詞をもう一度言えば良いのか?

 

 そ、それはちょっと、勘弁して下さい。

 

 本当なら、そろそろ紫をいじってやろうとか思っていたのに、どうしてこうなったよ。

 一発逆転にも程がある。

 

「何か喋ってくれないと分からないわよ?」

 

 紫が言った。

 きっと、とても良い笑顔なのだろう。見たくはないが。

 紫の言葉に俺は顔を背け、断固拒否の姿勢を示した。もう、お家に帰りたい……こんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。

 

 

 ――はぁ。

 

 なんて紫のため息が部屋に響いた。

 

 

「私は嬉しかったわよ」

 

 

 二人しかいない空間に紫の声は広がった。

 

 

 

 

「いつも私のことを莫迦にするけれど、本当は私のことを思って言ってくれているのは知っていた。たまに腹が立つこともあったけれど、本当に私が困っているときはいつも助けてくれた。最初に月へ攻め込んだときも、幽々子のときも、幻想郷を作るときも……いつだって助けてくれた。だから昨日は黒の気持ちを聞いたときは本当に嬉しかったの…………ねえ」

 

 

 

 

 ――貴方のことが好きよ。黒。ずっとずっと昔から。

 

 

 

 

 紫はそう言った。

 恐る恐る紫の顔を見ると、顔は真っ赤になっていたが優しい顔をしていた。それは見蕩れるような笑顔だった

 

 ずっと、ずっと昔から……か。

 

 紫と出会ってから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。俺にとってはそれほど昔ではないけれど、幻想郷の中では一番付き合いの長い存在だろう。

 

「だからもう一度、貴方の気持ちを教えてくれると嬉しいのだけど……」

 

 不安そうな顔をして紫が言った。

 

 ……うん、大丈夫。

 これ以上は逃げるつもりもない。随分と情けない形にはなってしまったけれど、そろそろ俺も口に出さないといけないのだろう。

 たまには素直になるのも、悪くはない。

 

 いい加減、自分へ正直になってみよう。

 

 

 

 

「好きだよ紫。何百年も昔からずっと。だから……俺の隣に居てくれると嬉しいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 そんなことから数日ほど。

 とりあえず、紫とそんな関係になったことを萃香と幽々子へ報告することに。

 

 萃香に報告すると――

 

「えっ……黒もしかして、まだ薬抜けてないの?」

 

 なんて、本気で心配された。大丈夫です。薬の効果はもうなくなっています。

 

 その後、スキマの中へ萃香は消えていったけれど、まぁ、どうせまた直ぐに会えるだろう。

 

 幽々子へ報告した時は――

 

「あら、そうなの。それはおめでとう」

 

 なんて言われて、普通に祝福された。

 なんだか調子が狂う。

 

 多分だけど、幽々子はあの薬の効果を知っていたんじゃないかと思う。何を考えているのか分かり辛いけれど、幽々子はかなり聡明なのだし。どうせ萃香は知らなかっただろうが。

 

 

 

 一通り報告をし終わり、俺の店で一休み。

 移動は紫のスキマを使った。ホント便利なものだ。

 

 まだ二人にしか教えていないけれど、どうせ俺と紫が一緒になったという噂は直ぐに広まるだろう。そう言う話が好きな奴らばかりだし。

 

 そんな未来のことを考えると、無意識にため息が出た。

 

「どうしたのよ? ため息なんてついて」

 

 いんや、何でもないよ。

 

「ああ、そうだ。何か飲む?」

 

 まだ、昼間ではあるけれど、昼間から飲むお酒というのも悪くはない。あの背徳的な気分がなかなかに心地良い。

 

「そうね……じゃあ、お茶でもいただけるかしら?」

 

「おろ? お酒じゃなくて良いの?」

 

 紫にしては珍しい。

 どうしたのだろうか。

 

「だって、酔ってしまったらもったいないでしょ? せっかく貴方と二人でいるのだし」

 

 クスクスと笑いながら、ものすごいことを言われた。相変わらず顔は真っ赤だったが。

 紫ってすぐ顔赤くなるね。口にすると怒られそうだけど。

 

「いきなり変なことを言うなよ」

 

「口、にやけているわよ?」

 

 何処か楽しそうに紫が言葉を落とす。うっさい、分かってるわ。

 

 全く……あ~、顔が熱い。

 

 

 

 

 たぶん、これからもこんな関係が続いていくのだろう。お互いに冗談を言い合って、助け合って……そんな関係。

 

「ほい、お茶」

 

 一見すると今までとそれほど変わっていないように見えるけれど、お互いの距離はあの日からかなり近くなったと思う。

 

「ありがとう」

 

 この関係がいつまで続くのかは分からない。

 

「どういたしまして」

 

 けれども、まぁ大切にはしていきたい。

 

「ああ、そうだ。黒、ちょっとこっちに来なさいよ」

 

 な~んて思ったりします。

 恥ずかしいから口には出さないけどさ。

 

 

 

 さて、俺と紫のお話はこんなところだろう。

 

 ずっと見守ってきてくれたカメラさんにも感謝です。本当にお疲れ様でした。

 

 だからいつもように、俺は言った。

 

「おい、カメラ止めろ」

 

 ここから先は、また別のお話なのです。

 

 

 






カメラ止めて何をしたんですかねぇ(マジギレ)


と、言うことで第恋話~紫ルート~でした
疲れました
本当に疲れました

前編の前書きにも書いたように、これで東方酒迷録は終わりにする予定です
長かったですね~
お酒のお話をもっと書きたかったですが、わりとやりきった感はあります
と言うか疲れました

皆さんの感想がなければ失踪していたことでしょう

ここまで読んでくださった読者の皆さんには感謝しております
ありがとうございました

では、またいつかお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


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