白いツツジは未だ咲かない   作:月見 栞

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後日談的なものになります。
視点、ここだけ3人称視点に切り替わります。


エピローグ

「できたよー! CYaRon!の卒業ソング! すっごく良いのが!!」

 千歌がユニットでの卒業ソング制作を提案してからしばらく経ったある日。

 今日は、全員が集まって曲の発表を行う日だ。提案者でもある千歌は、ユニット衣装を身にまとって誇らしげに部室へと飛び込んできた。

「いやー、これは流石に、今回は私たちの圧勝じゃないかなー?」

 満面の笑みでそう語る千歌は余裕綽々と言ったところだろうか。

 しかし、そんな千歌に堕天使が釘を刺す。

「フッ、甘いわね! 我らがGuilty Kissの新曲は、日本に定着した湿っぽい卒業ソングという固定概念を根底から覆す、いわば卒業ソング界の革命よ! 負けるなんて有り得ないわ!」

 ゴシック風の衣装を身にまとった善子は、普段以上に自信に満ちた様子で断言する。

 Guilty Kissとして歌う際は、9人で歌う時に封印している自分を爆発させることが出来るため、久しぶりのユニット活動にテンションが上がっているようだ。

「えっ、そうなの!? わー、めちゃくちゃ楽しみー!」

「って態度変わんの早っ!? あんたが勝負っぽい雰囲気にしたんだから、最後まで責任持ちなさいよ!」

 そんな善子の勝利宣言に対して、千歌は何のてらいもなく期待を全身で表現する。その様に毒気を抜かれた善子は、脱力しつつ突っ込みを入れた。

 この”暖簾に腕押し”な2人のやり取りは、特にユニット対抗の際によく見られる光景だった。

「え〜だって楽しみなものは楽しみだし……あっ、花丸ちゃん!」

「あらずら丸。どう、新曲は?」

 無言で部室に立ち入る花丸の姿を認めると、千歌と善子の質問が花丸に重なった。

 奇遇にもこの2人、作詞に悩む花丸と話をした2人である。思い詰めた表情でいた花丸のことを気にかけていた2人は、無言で入室した花丸に気遣うような視線を向ける。

「ふっふっふっ……。はっきり言って、今回の曲はAZALEAの『最高傑作』ずら!」

 しかし、顔を上げた花丸は不敵に笑い、自信に満ちた表情をしていた。

「さ、最高傑作ぅ!?」

 千歌と善子の声が、寸分の狂いなく重なった。花丸がここまで自信に満ちている姿は、それだけ珍しいものだったからだ。

「そうずら! この曲が完成した以上、最早マルたちAZALEAが勝つのは運命ずら。だから2人とも、どっちが勝つか負けるとか、そういう不毛な予想はもうやめるずら」

「……言うじゃない」

「いいねいいね、強気だねぇ! チカも燃えてきたぞーーっ!」

 花丸の強気な姿に千歌と善子は安堵し、ならば遠慮はいらないと闘志を燃やし始める。

 3つのユニット間で今、激しく火花が散っているようだった。

 

「ちょっと2人とも、花丸ってばあんな大胆に啖呵切っちゃってるけどダイジョウブ〜?」

 対抗心を隠すことなくぶつけ合っている3人を眺めながら、少し離れた場所に陣取っていた鞠莉は茶化し半分、心配半分で傍にいるダイヤへと声をかけた。

 いつもならここで、慌てて止めに入り花丸を引きずってくるのがダイヤだ。

「ええ、問題ありませんわ。事実ですもの」

「事実?」

 しかし、今回のダイヤは余裕のある態度で花丸の発言を許容する。普段と異なる姉の対応に、妹であるルビィは首を傾げた。

「確かに。みんなには悪いけど、今回は私たちが圧勝かな」

 ダイヤの言葉に対し、果南は深く首肯する。

 ダイヤも果南も、一点の曇りもない自信を胸に持っているようだった。

「ダイヤちゃんも果南ちゃんも、いつになく自信満々だね?」

「……でも、ちょっと分かるな」

 それを感じ取った曜の言及に合わせるようにして、梨子がポツリと呟く。

「梨子ちゃん、どういう事?」

「私、曲を作る前に花丸ちゃんから歌を貰ったの」

「歌? 歌詞じゃなくて?」

「もちろん、歌詞もくれたよ? でも、その時点で既にメロディーからパート分けまで、全部終わってたのよ」

 梨子は、自信に満ちたAZALEAの姿を見ながら、花丸が歌詞を渡してきた時のことを思い出していた。

 花丸は、歌詞カードだけでなくCDを渡してきたのだ。それも、パート分けされた3人分の声が入ったものを。一応仮歌、という名目で渡されはしたが、仮歌というには随分と完成度の高いものだった。

「それは……凄いね」

 最初期からAqoursのメンバーとして、衣装作りを始め色々な作業を掛け持ちでやってきた曜は、それが如何に凄いことなのか理解できた。

 しかも、聞いた話では千歌から話があった後1週間足らずでそこまで仕上げたというのだから、驚く他ない。

「そのメロディーが凄く素敵で……思わず一晩で曲を仕上げちゃったの。歌の力に引っ張られるみたいにして」

「梨子ちゃんにそこまでさせるってことは、間違いなく最高傑作ってことだね!」

 曜は、梨子が音楽に関してお世辞や嘘を言うような性格ではないことは知っている。だからこそ、その梨子を徹夜させるくらいの曲を仮歌の時点で作れていたという事実は、AZALEAの自信が確かなものであると信じるに値する事実として映った。

「ええ。ーー勿論、私達も負けるつもりはないけどね?」

「おっと、それはこちらも同じであります!」

 しかし、自分達の曲に掛けた気概が負けるとか劣るとは、梨子と曜も更々考えていなかった。

 一見平穏そうにしている2人も瞳の奥に熱い闘志を燃やしている。

 

「ほらほらみんな、体育館行くよ!」

「ユニット恒例、対抗お披露目ライブの時間よ! 我が眷属たち!」

 いち早く準備を整えた千歌と善子が、真っ先に体育館へと躍り出る。

 それをきっかけに、他のメンバーも次々と体育館へと歩を進めた。

「ル、ルビィ達、眷属になっちゃったの!?」

「ルビィちゃんは、私達CYaRon!の仲間だから大丈夫だよ?」

 慌てるルビィと、それを優しく宥める曜。

 明るく愛らしいCYaRon!が賑やかに体育館へと移動する。

「ふふっ、じゃあマリーさん、私達”眷属”も、行きましょうか!」

「Off courseよリリー! 我らギルキス、宵闇のStageへGet back!!」

 お互いをニックネームで呼びながらステージへ向かう、梨子と鞠莉。

 ゴシック調の衣装に身を包んで攻撃的な雰囲気を放つGuilty Kissが、不敵な笑みとともに歩を進める。

 

「全く、騒がしい限りですわね」

「本当、私達を見習って欲しいよね?」

 最後に残ったAZALEAは、あくまで余裕の態度を崩さない。

 白を基調とした衣装に身を包み、果南とダイヤは静かに微笑む。

「2人とも!」

 そんな2人に、花丸がいつもより力強い声をかける。

 振り向いた2人に向けて、一輪の笑顔が咲いた。愛らしくも力強い、清楚かつ強かな笑顔が。

「出し切ろうね! マル達のーーAZALEAの、全力を!!」

「ええ!」

「もちろん!」

 全力を誓う花丸に対し、呼応するように力強く頷く果南とダイヤ。

 携えるのは、遍く切なさを束ねる想いの極致。

「よーし、行くずらーーっ!!」

 明るく、強く、清らかに。AZALEAはステージへの1歩を踏み出す。

 先を往く先輩2人の背中を眺めつつ、花丸はそっと自分の髪飾りに手を伸ばした。

 

 

 その花は、AZALEAの名前そのもの。彼女達のシンボル。

 

 4月の敷居の向こうで微笑む為に、花丸はその花を自室に飾っていた。

 

 頭を飾るその花は、白く清楚なアザレアの花。

 

 今日も部屋の隅で開花を待つ、白いアザレアの花言葉はーー

 

 

 

 

ーーーー『あなたに愛されて幸せ』

 

 

 

 

 

                                       fin.

 

 

 




お疲れ様でした、これで本当に最後です。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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