ただひたすらに冗長です。あれもこれもインフルエンザと夏の暑さが悪い。
※今回は名称等を弄るネタが含まれます。ご注意ください。
視点がガイに戻ります。
仲間を両腕に抱えながら走ること数分、ようやく森を抜けた。
姫さんがはぐれずに付いて来ていることは気配で判ってはいたが、一応の義務として後ろを振り返り、目視でも確認を行う。……よし、ちゃんと居るな。
ついでに全身を眺めて装備の損傷や外傷の有無なども確認しておく。ざっと見た感じでは特に異常はないようだ──顔以外。……なんで若干ニヤついているんですかね? 率直にいって薄気味悪い。まさかとは思うが、不思議な踊りのときから、ずっとニヤついたままなのか? えっ、なにそれこわい……。
姫さんが何を考えているのか、少し気になるところではあるが、ヤブをつついてヘビを出すのもなんだ。そっとしておこう。これ以上、状況を悪化させたくはない。姫さんの
姫さんの様子を窺いつつ現実逃避をしていると、ふと勇者殿を抱えている腕が重くなる。セシルちゃんが掛けてくれた筋力強化呪文の効果が切れたようだ。
丁度いい、ここらで一息つくとしよう。俺はまだ余力を残しているが、仲間たちもそうだとは限らない。休めるときは休むべきだ。あとで倒れられては俺が困る。俺は馬車じゃないんだ、仲間を背負うのは緊急を要するときだけでいい。なんでもないはずの移動まで
今居る場所は、森から十数メートル程度だが離れてはいるし、周りは平坦な砂場で隠れられるような場所もない。万が一、野犬の生き残りが飛び出してきたとしても問題なく対処できるだろう。
辺りに気を配りつつ、セシルちゃんは立たせる形で降ろし、意識のない勇者殿は横に寝かせる形で解放する。
気になる勇者殿の容態だが、髪や服こそボロボロだが息は安定している。顔に火傷の痕はみられない。さすが
そのセシルちゃんも俺が守っていたので傷ひとつ無い。もちろん俺自身も。一応は全員無事というわけだ。
──さて。
闘争からの逃走と安否確認および安全確保を終えたら、次は現状把握のお時間である。
箇条書きよろしく、俺たち勇者一行が現在抱えている問題を簡潔に羅列していこう。
1.姫さんの
2.手元に残ったのは、
3.勇者殿は気絶中。安らかに眠っているようだ。
4.現在地は何も無い
5.
6.幸か不幸か、現在時刻は夜明け頃で辺りはまだ薄暗い。これからの事を考える時間くらいは残されている。
……こんなもんか。
なんだ、このクソみたいな状況は。
俺も長いこと傭兵をやってきたが、こんなの初めてだよ。
「さて、これからどうしたもんか……」
「あら。進むのでは?」
とりあえず勇者殿を起こして──どうせ
……あの顔はマジだ、
その間、勇者殿には休んでもらうとしよう。2人もしくは3人がかりで姫さんを説き伏せてもいいんだが、仮に勇者殿が姫さんに同調でもしてくれやがったら収拾がつかなくなる。バカが増えても疲れるだけだし、現在進行形で疲れて果てているのは勇者殿だ。やっぱり寝かせたままにしておこう、そうしよう。
勇者殿の事は後回しにして、俺は目先の問題(児)から解決することにした。
「なあ、姫さん。前に話した
「砂しかない、つまらない
「そうだな、砂漠には砂しかない。そんでもって昼は暑いし、夜は寒い。近くに町も村もないのに、物資も無しにどうやって先に進めってんだよ……」
本当は砂漠にはサボテン(毒)やら、枯れ木(稀)やら、
水も暖も呪文で賄えそうだが、他人の精神力なんて不確定要素をあてにするわけにはいかない。テントも無いから休息は取れないし、いずれにせよ暑さにやられて全滅がオチだろう。下手な希望を抱かせるよりは、絶望させて引き返したほうがずっといい。ここまで言えばさすがに、どんなに
「あ……」
あ、と声を漏らしたのはセシルちゃんだ。当然というべきか、その顔は青ざめている。いや待て。セシルちゃん、お前もか……。いやドタバタとしていたせいで頭から抜け落ちていただけだよな、そうだよな、そうだと思いたい。セシルちゃんはいつまでも俺の
対して、姫さんの顔は涼しげだ。絶望的な状況下にあると告げても、まったく動じていない。……その余裕はどこから来るの? いやマジで。
「フフ、それならば時間をかけずに町へ着けばいいだけのこと。さきほどと同じように、セシルの強化呪文を使えば簡単でしょう?」
Q.時間との戦いです。物資枯渇、補給困難の現状を打開してください。
A.高速で駆け抜けろ。
何を言い出すかと思ったら、まさかの斜め上に突き抜けた珍解答である。
ちょっと何を言っているのか解りたくない(数分ぶり2回目)。
俺は痛む頭を左手で抱えながら右手を上げ、身振り手振りだけで「少し考えさせてほしい」と伝える。
早くも心挫けそうだが、案を出されたからには検討せざるを得ない。なにしろ姫さんの言い分は、あながち間違いでもないのだから。
時間がないなら時間を必要としない手段を用いればいい。……たしかにそのとおりではあるが、肉体疲労については何も触れられていない。回復呪文は傷は癒せても、疲労までは回復できない[*3][*4]。この案の
いや、そこ
つまり、まあ、誰がとは言わないが……仲間を担げ、ってことだ。
体力・体格差・歩幅・役割などを考えると、女の子は担ぐ役から除外する。
根性はあっても持久力に難がありそうな勇者殿では不安だ。
よって消去法で、実績もある肉体派の俺が適任だろう。
俺、走る人。
お前ら、乗る人。
……役割分担もバッチリで何があっても安心だな! クソがッ!
そりゃあ姫さんも自信満々、
たしかに今は非常事態だ。パーティの全滅を避けるためならば、必要ならば、俺は人力(技)車になることを甘んじて受け入れよう。
不安なのは、
だが、姫さんはどうだ。不慣れな旅で脚を痛そうにしていたから、気を利かせて足裏を揉んでやったら毎晩揉むように言いつけてきたくらいだ。味を占めないわけがない。あのニヤけ面はこれを意味していたというわけだ。一度乗せてしまえば、次も次もと
そうなると姫さんを勇者殿へ押し付けたいところだが、各々の体格差を考えるとやはり俺が姫さんを、勇者殿はセシルちゃんを抱えて運ぶのが
姫さんの存在自体がもう重荷なのに、物理的にも重荷になるとか笑わせんな。人力車がすでにバカらしいのに、ただ移動するためだけにセシルちゃんに筋力強化呪文まで使わせるなんてもっとバカらしい。理解したくもないが、
……まあ、セシルちゃんへの負担はすぐに無くなるだろう。なぜなら前提となる条件が整っていないからだ。連日走破できる程度の
……これらの問題は、
勇者殿が諦めても、姫さんには諦める必要も理由も無いのだ。なにせ求める結果が違うのだから。勇者殿は時短、姫さんは安楽。つまり無理をしなければいいだけのことであり、どうあがいても人力車の常態化は避けては通れない、ということである。走れないなら歩けばいいじゃない。
俺個人としては当然、姫さんの乗車も拒否したいところだが、相手は腐っても
精神的な苦痛といえば、すでにやっちまっている
ともかく、これで予想できる不安要素の《セシルちゃんへの負担》と《パーティ全体のリスク》は一応は解消したことになるのだが、残念なことに、俺の心の内には今もなお、別の不安が渦巻いている。
俺が最も不安に感じる事は、それは──《絵面》だ。
冷静に考えてみてほしい。一国の姫を抱えてダンジョンへと乗り込む傭兵とかシュール過ぎんだろ。何を目指してんだよ。姫を
勇者殿は絵面がもっとひどい。幼女を抱えた黒ずくめの逆毛男とか、嫌な
担当を逆にしても何も変わらない。俺の二つ名が《
片や王族誘拐犯、片や変態ロリペド野郎──相乗効果で俺らの
無自覚にも牢獄への道を姫とロリで舗装しようとするな。おねがいだから。
道を外れても国賊扱いとかやめてください、死んでしまいます。
対案を出そうにも、
何か、何かないか──。
「あっ、砂漠のほうから誰か走ってきます! ……えっ」
セシルちゃんの声に、俺はハッとして視線を砂漠側へと向けた。
「うおマジだ……いや、ちょっと待て。なんだあの格好……」
するとその先には覆面・裸マントのパンイチ男[*8]が──……いや、どうしてそうなった? 何がお前にそうさせた? パンツの両端に括り付けられたランタンのせいで、その姿が嫌でも目に入ってしまう。しかもその後ろに3人も続いている。
俺たちと同じく4人パーティなのだろうか。続く3人も、トゲ付きの防具で頭以外の守りを固めたモヒカン男[*9]、トゲが全てドクロに置き変わった仮面男、ミニのプリーツスカートを
色物男たちのあまりの
「うおおおおっ! やっぱ燃えてんじゃぁぁぁんっ!!」
ひとりは膝立ち、両手を上に向けて、叫び──
「どうしてこんな事に……」
ひとりは呆然と立ち尽くし──
「ば、バカな……火の回りが早すぎる! この広大な森すべてを呑み込もうとしているのか!? これでは我輩の至高の呪文を以ってしても消し止めるのは不可能! 我輩なんて無力なのだ……ッ!! せめて、もっと早くに気が付いてさえいれば!」
ひとりは嘆き──
「こいつは誰だって無理だよ……。お前のせいじゃない」
「すまぬ、すまぬ……!」
ひとりは仲間を慰めていた。
「……醜いですわね」
姫さんよ、見た目に関しては俺もそう思うけど、心はあんたと比べ物にならないほどキレイだと思うよ? 確実に。
「ま、まさか、お前たちの仕業かっ!?」
「──! そうか、これは人の手によるもの! その装いは間違いなく魔術士のもの! キサマの仕業かァッ!」
「なんだって、そうムゴい事が出来るんだ!」
「お前ら人間じゃねえ!」
「ならばキサマら魔王軍だなっ!?」
姫さんの容赦のない
「ち、違うっ! 俺たちは魔王軍じゃあない、勇者一行だ!
咄嗟に言い訳をしてしまった俺は決して悪くない。俺は巻き込まれただけだ。俺は悪くねぇ。悪いのは
「そ、そうか……。疑ってしまってすまなかった。前言を撤回しよう」
「オレも人間じゃないとか言っちまった。ゴメン」
「話を聞くべきだったじゃん。わりぃ……」
「決め付けてしまって、ごめんなさい」
「あ、ああ。解ってくれたならいいんだ」
色物男たちは本当にキレイな心をしていた。たった一言で誤解(でもない)が解けた。
お前ら、心がキレイすぎて騙されてそんな格好にされたのか。そうなんだな?
「ってコトは、見たまんまなんだよな? おい、スーペル。この人たちにテントとか譲ってやろうぜ。怪我人も居るみたいだしさ」
「ふむ……我輩に異論はない。我輩らはこれよりツヴァイの地へと踏み入るのだ。物資はまた調達し直せばよい。
「いいじゃん! おれっちもそー思う!」
「いいと思う」
こちらの状況を察して、物資の譲渡までしてくれるのか……。こいつら、どんだけお人好しなんだよ。うちの姫さんと交換したいくらいだ。
「察しのとおり、物資のほとんどが燃えてしまったんだ。正直、助かる」
「なに、困ったときはお互いさまだ」
本当に助かった。これで嫌な未来予想図を回避できるかもしれない。
さあ、勇者殿を起こして話を詰めよう。
「お待ちなさい。そんな勝手は認められません」
しかし、ここで姫さんが待ったをかける。……あのー、さすがに状況が見えていらっしゃらないにも程があるんじゃあないでしょうか。降って湧いたような物資獲得の機会だぞ、なぜ棒に振る。侮辱されたとでも思ったのか? 下賎な者の施しを受けるワタクシではありません~ってか? そんな事を言っている場合じゃあないだろ。何事も備えが物を言うんだぞ。仮に走破するにしても保険は必要だろ。想定外の何かがあったらどうする。
今までは地位に配慮する意味でも、可能な限り自発的な成長を促す形で接してきたが、やはり
よし、言ってやるぞ。地位がなんだ、権力がなんだ、そんなもの──すげぇ怖い。
こんな時にこそ、かつての仲間が居てくれたらと思うが、俺独りでも
「あのなぁ、姫さ──」
「騙されてはいけませんわ。耳当たりのよい言葉で、わたくしたちを誘い込み、罠に掛ける心算なのでしょう。くだらない茶番もここまでですわ! さあ、正体を現しなさいっ!」
え、急に何を言い出すの、
……ああ、もしかして仕返しか? 森の近くに居ただけで魔王軍認定されたように、見た目だけで盗賊扱いしていると。……なんだよ、そういうことかよ。焦らせんなよ。そんな警戒されて当然の格好をする
「……クックックッ、森に免じて見逃すつもりだったんだがなあ……バレちゃあ仕方ねえっ!」
「えっ」
モヒカン男は、なぜか芝居がかった仕草で暴言の内容を事実だと認める。いやそこは否定しておけよ。
「オレの名はディィィック!」
「おれっちはタマーキン!」
「ぼ……おれはシコルスキー!」
「そして我輩は用心棒・魔術士スーペルなり!」
「4人揃ってぇ! アッ! 《オナー・ホール盗賊団》! 意味は《栄光の玄関》じゃんじゃじゃーん!」
そしてそれぞれが思い思いのポーズを取りながら、丁寧にも
「やはり、盗賊でしたわね!」
「ハッ──盗賊だって!? 僕の目が黒い内は好きにさせるものか!」
「おはよう、勇者殿」
盗賊という単語に反応したのか、勇者殿が飛び起きる。色物男たちが本当に盗賊なら、ありがたい反応なんだが、たぶん、ノリで言っただけだと思うぞ。だからそんなにイキリ立たないでやってくれ。ネタだから。
「さあて、セイギの盗賊団オナーホールのデビュー戦だ! いくぜえ、野郎共っ! オレたちはここから始まるんだ!」
ん? え? は? マジで言ってたの? 本名だったの? うわぁ……。
「おっ、ほっ、……あ、あれっ? 剣がうまく抜けないっ!!」
「股間の
「あ、そっか。オレ、全身凶器だった。剣いらね」
いや、これどっちだよ。ネタなの? マジなの? 戦いって感じが全然しないんだが。
というか邪魔だからって剣を投げ捨てるな。抜けなくてもそれはそれで鈍器として使えるだろ。股間用防具で戦おうとするな。もっと工夫をしろよ。すげぇツッコミたいけど、本当に敵だった場合を考えると
「何で来ようと、僕は容赦しないぞ! 正義の刃、覚悟しろっ! ……あれっ? 剣が無い!?」
「すまん、森の中だ」
俺は、そう言いながら燃える森を指さす。すまんな、勇者殿。拾っておく余裕どころか探す余裕もなかったんだ……。だがまあ、勇者殿には呪文があるし大丈夫だろう。きっと。
「そんなっ! ……でも、それでも僕は戦ってみせる!」
「へっ、テメェなんざ10秒で押し倒してやんよ!」
勇者殿も
「では髪の黄色い女は、我輩が貰い受けようぞ。同じ魔術士同士、その実力が気になるのでな」
「フッ、B級のわたくしに敵うとでも? 身の程をわきまえなさい!」
「フハハッ!
「下賎な者が、わたくしよりも上の等級だというのっ!?」
姫さんも
この段階になって、俺はようやく気付いた。
色物男たちは、何か事情があって《盗賊団》を名乗っている可能性が非常に高い。
《等級》とは、《魔術師連盟》が定めた魔術士の強さや質の
呪文は凄まじい破壊力を有しているが、唱えるには発動媒体である《魔具》が必要だ。魔具は腕輪状だったり、
姫さんのような危険人物の手に渡ることを危惧してか入手経路は限られていて、各国の王城でしか手に入らない。それも王族や上位の貴族、特別な騎士、連盟から世界各国へと派遣された魔術師など、特別な人間だけがその所持を許されている。
死体から剥ぎ取ったり、闇ルートから入手した線も考えられるが、前者はまずありえない。その気になれば1人で国を滅ぼせるような代物だ。俺の知る限りでは、どこの国も審査も管理も徹底している。仮に紛失があれば、死に物狂いの勢いで回収しているはずだ。なので後者もありえない。
あれこれ考えるのもいいが、そろそろ止めないとヤバイか。
「待て待て待てっ! 全員、止まれ! スーペル、お前、もしかしてドライ国の宮廷魔術士か何かだったりするか?」
「な、なぜそれを……ッ!?」
俺の推測に、
「やっぱ、そっかー……。何か事情があって盗賊団を名乗っているんだろ? 何があったか教えてくれ」
「……うむ、では語らせてもらおう」
「スーペル!」
「よいではないか。もしかしたら、この者は我輩たちの理解者となってくれるかもしれぬのだ」
「それは話の内容次第ではあるがな」
「うむ。……我輩らは
「その割には、魔具は取り上げられなかったんだな?」
「王は激怒し、我輩の顔も見たくないと仰った。ゆえに我輩は命じられるままに出奔した。魔具を返納しろとは言われてはおらぬ」
追放ねぇ……話の筋は一応は通ってはいるが、判断するにはまだ早い。追放された原因が、ドライ王が激怒したという
《
「王族の機嫌を損ねるなど、下賎な者らしいですわね」
「姫さん、大事な話をしているから煽るのはやめような」
「モガッ!?」
国家規模の話に茶々を入れられたくはない。俺は嫌々ながらも先手を打ち、後ろから抱き締めるように姫さんを拘束した。もちろん片手は口にあてている。これで逃げも唱えもできないだろう。あとが怖いが、これも必要悪だ。
姫さんは
いくら出奔したとしても
……人力車の件から、国家規模の罪に怯えてばかりだな、俺。
「そういえば、さきほどからそこな女を《姫》と呼んでいるが、そのような不埒な真似を働いてよいのか?」
「ああ、俺が(
「!?」
「えっ!?」
さすがに不敬すぎて暴れだすかもと、心のどこかで思ってはいたんだが……姫さんは俺の拘束を素直に受け入れている。大人しくしてくれとは祈ったが、これはこれでなんか気持ち悪いな……。
ついでにもうひとつ付け加えると、密着しているからか、
「が、ガイさんっ!? な、なんでっ……!?」
「勇者殿もあとにしてくれ。いまはスーペルの話を聞くのが先決だ」
「ガイ……? もしや、おぬし、あの《ナイス・ガイ》か!」
「あー……まあ、そう呼ばれたりもするな」
あのクソダサい二つ名、ドライ国にまで広まっていやがるのか……。
「
姫さんが不思議そうな顔で俺を見上げるが、
「《良い男》の名は伊達ではないということか……! うむ、ぜひとも語らせてもらおう!」
直訳やめろ。
「……じゃあ、なんで追放されることになったのかを教えてほしい」
「うむ。順を追って説明しよう。2年ほど前よりドライ国にもモンスターが現れるようになったのは知っているな? 人の形をした砂のモンスターだ。それ自体は大した脅威でもないのだが、終わりの見えぬ襲撃に、王は……次第に憔悴されていった」
「
2年前というと、ちょうど魔王が宣戦布告してきた頃か。あのときは俺も依頼でドライ国に居たな。すぐにツヴァイ国へ引き上げたが。
「そこで我輩は王の為にと、王の像を造り上げた。しかし、王は激怒された……」
「せっかく、がんばったのになぁ……」
「ぼくたちも手伝ったのにね」
「じゃんじゃん!」
落胆する
つまり、4人の失態だということか。
「我輩の独自呪文を捧げたというのに、なにがいけなかったというのだ……!」
「呪文を用いた像とは、大きく出たな」
「正確には呪文そのものを用いたわけではない。呪文を行使した姿へ寄せただけだ」
「つまり、王を模した像に宮廷魔術士が呪文を行使する姿を掛け合わせたわけだな。自分を王と同一視したことが問題になったのか」
「いや違う」
いまの解釈には少し自信があったんだが、ハズしたか。
「王と水と我輩の忠誠を表した至高の一品だったのだがな……」
《国王》は語るまでもなく国そのものだ。
《水》は砂漠国の生命線、命と繁栄の象徴だな。
忠誠を捧げられてブチキレるのは意味不明だ。捧げ方でも悪かったのか?
「うーん、わからん。どんな像なんだ?」
「うむ。旅の商人より《小便小僧》なる像の話を聞いた我輩はこれだと確信を──」
「怒られるに決まってんだろ!」
「
国王の放尿
しかもなんだ、お前の独自呪文はオシッコか!? 子供かっ!
「1年半も手掛けた力作だぞ!? 王の偉大さを改めて知らせる為に、水場にも置いた!」
「もっとダメだろ!」
「そんなに怒鳴らなくていいじゃん……」
「な、なにがいけなかったというのだ……?」
「全部だ、全部! 水回りに置くなよ! 生活用水に小便が混ざった気がして、なんか嫌な気分になるだろ! お前の術がなんだか知らねぇけど、よりによってそれを国王の像でやるなよ! 普通に考えて不敬だろうが!」
「
「そ、そうか……全部か……」
全部悪いと聞かされて、色物男たちはガクッとうなだれる。
「……ちなみにその独自呪文は、どういう呪文なんだ? そんなにすごいのか?」
「うむ。しかと刮目せよ! 《
掛け声と共に、スーペルの股間からドバァァァァッと黄金水が一直線に放たれる。その勢いは十数メートル先の樹木を切断するほどだ。一歩間違えていたら、あのとんでもない威力のオシッコが勇者一行へと向けられていたのか……ゾッとする話だ。
スーペルはそのまま水の力だけで何本か切り倒すと、術を止めてこちらへと向き直った。その顔は誇らしげだ。自分の呪文に自信を持っているのだとよく解る。
「これぞ、我が至高の呪文なり」
「たしかにこれはすごいな。思い違いをするのも無理はない」
「
「価値観の違いって、やっぱ恐ろしいもんだな……」
「なるほど。価値観の違いか……」
「追放というか出奔した理由はわかったが、どうして盗賊団なんだ?」
A級宮廷魔術士が、どうして盗賊団なんかに身を落とす? これが解らない。
見た目はともかくあの超威力なら、どこの国も欲しがるだろう逸材なのにな。
「その……なんだ、年甲斐もなく《義賊》というものに憧れてな」
「正体不明の義賊ってカッコイイじゃん?」
「これを機に目指そうかなぁと……な、なんちゃって?」
「首の後ろをトンってすれば、記憶を失うんでしょ?」
「アホか! 普通に魔術士として売り込めよ! どこの国も喜んで迎えるぞ! あと首トンは理論上は可能らしいが、打ちどころが悪いと死ぬからやめておけ!」
「
本当に、しょうもないな! ゲリラだと疑うだけ損をした。
「そ、そうなのか。ではそうするとしよう。迷惑を掛けたな」
「いや、まだ問題は残っている。どうすんだ、それ。他国に仕官するのは勝手だが、さすがに魔具を持ち出したままはまずいぞ」
「しかしこれを手放せば我輩らは身を守る
ツヴァイ国を目指すなら
「……どうしようもないな」
「ならば、我輩らはどうすればよいのだ?」
「そうだな……魔具を持っていることは隠して、なにか別の仕事を探してみるのはどうだ? 義賊といっても盗賊を名乗っていれば、いずれ討伐されてもおかしくはない。何も知らないヤツからすれば、単なる言葉遊びか言い訳にしか聞こえないからな」
「ふむふむ。心遣い、痛み入る。今一度、目標を探してみるとしよう。我輩らはツヴァイを目指すが、お主らはドライを目指すか?」
「あー、そのことなんだが……」
「勇者殿。あの森の戦いで物資のほとんどを失ったわけだが、幸いにも彼らが物資の提供をしてくれるらしい。俺としては一度ツヴァイ側へ戻ったほうがいいと思うが、勇者殿の方針を聞きたい」
「…………」
「勇者殿?」
「……が、ガイさんも姫の事が……」
「勇者殿。俺は現状と今後のことについて相談したいんだが」
姫さんがどうしたって? 俺に姫さんを裁けるわけがないだろ。
なぜだか勇者殿は放心している。そっちのホウシンは俺は求めていない。
「先へ進むのか、戻るのか、どっちなんだ?」
「……先へ、進もう」
「えっ」
マジかよ……。
【第3話まとめ】
1.《魔術士連盟》という組織があって、そこから世界各国へと魔術師が派遣されている。
2.魔術士に関する知識は一部の人間だけが知っている。魔術士になれるのも一部の人間のみ。
3.呪文を唱えるには《魔具》と呼ばれる金の装飾品が必要。
4.回復呪文は疲労に対して効果がない。
5.《