こちら環境省超自然災害対策室総務班でございます!   作:パプリオン

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episode 1 転生

「大好き、黄泉お姉ちゃん……おかえりなさい」

 

「私もよ神楽…貴女を悲しませることをして、本当にごめんね。

 

……ただいま、神楽 」

 

漸くその言葉を神楽に伝えられた黄泉は、心が満たされていくのを感じていた。

 

二人の間に、それ以上の言葉は要らなかった。

あまりにも残酷な運命を遂に乗り越え、お互いを抱き締め合った二人はまるで……まるで、本当の姉妹のようだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

「よし…出来たあ!」

 

薄暗い部屋のなかで欠伸混じりにそうごちる。

 

物語を完結させる〆の一文を遂に打ち込めたことに、ある種の感動と興奮を覚えていた。

 

「あとはこれを上げて…と」

 

数千字の文章を纏めて大手小説投稿サイトに投下する。そこまでやって感じるのは、ひとしおの感慨深さ。

 

当初一ヶ月程度で書き上げるはずだったこのシリーズは、気づけば構想が膨らんでいき、完結まで2年もかかってしまった。

 

二次小説執筆時特有のスランプと放置期間を乗り越え、ついに完結した救済モノのss…

 

振り返ってみれば、我ながらよくモチベーションが続いたものだと思う。

この分量の話を書ききれたのは…やはりこの作品に対する過分な思い入れがあったからだ。

そしてそれ故に、俺が書き上げた話は当初の想定の10倍程の分量になってしまった。

 

 

 

だが、まあ何にしても完結は完結だ。

俺はもう少しだけこの余韻に浸っていたかったが、外の真っ暗な景色に少しだけ薄明かりが混じり始めているのを目の当たりにして、慌てて寝床に就こうとする。

 

__明日も会社なのに、盛り上がっちゃったんだよね。

 

話の最終回を書くに当たって脳内アドレナリンはドバドバ出まくり。まあ寝るくらいなら一文字でも多く文字を書きたい衝動に駆られ…

 

結果的には寝る時間を惜しんでパソコンで小説書いてた。

そういうと結構ヤベー奴に聞こえるな。

 

 

 

が、しかし今だけは。

明日も仕事だとかいう辛い現実は頭の片隅に置いておき…今だけは、自分の書いた二次創作で成立した、原作になかった(・・・・・・・)ハッピーエンドをただただ享受したい。そんな気分だった。

 

 

 

……それでも所詮、二次創作は二次創作。

 

どれだけ妄想をしても、それがフィクションに過ぎないということだって、どこかでは理解していたんだ。

俺だって、もうそういう区別を出来なければならい、大人なのだから。

 

だから次に目を開けたときにはもう、この夢見心地から覚めて現実に臨まなければならないのだ。

そう。いつも通りの、日常に……

 

 

 

 

 

 

__いつも通りの、日常。

 

たしかに俺はこの瞬間まで、自分の意識を保てていた。

 

いつもの時間に起きて、電車に乗って、会社に行って。

いつもように仕事をして、残業をこなして…

 

スマホを片手にどうでもいいことを考えながら、家に帰る。

 

 

 

……いつも通りの、日常だった。

 

 

 

 

 

その筈だった。

 

 

 

 

 

「…」

 

気付いたときには、俺の体は元居た所から10mくらい離れたところに飛ばされていて。

俺を跳ねたトラックは、自分の顔を動かせないために拝むことも叶わなかった。

 

視界に映るのは、夕暮れに沈んでいく空。

 

周りは野次馬が集まっているのだろうか。やけに騒然としている。

 

体を動かそうとしてみたが、動いているのかどうかも分からない。

痛みは…何も感じなかった。

 

不意に『死』という文字が脳裏に過り、必死にそれを払拭する。

 

……ひょっとしたら、これは何かの悪い夢かもしれない。

本当はとっくに家に帰っていて、俺の体はベッドの上に在るんじゃないだろうか。

 

頭がいつも以上にぼうっとするのを堪えながら、"起きろ" "目覚めろ"という信号を脳に送ってみる。

 

 

だけど…何度それを繰り返してみても、夢の世界から醒めることは、適わなかった。

 

「…」

 

 

…そう、だよな。夢なわけがない。

何かを呟くこうとしてみても、口からは赤色の液体が出てくるばかり。

 

痛みがないことだけが、唯一の救いだったのかもしれない。

 

 

終わりの時が近付いている。

 

自分でもなんとなく、それが分かった。

 

多分俺は、死ぬんだ。

 

 

はぁ…まだやりたいこと、色々あったのになあ。

 

 

家族やら友達やらのことが頭に思い浮かび、そして消えていく。

ああ、走馬燈なんてものは本当にあるのだな。そんなことを思って、どこか感慨のようなものに浸りながら……

 

 

 

微睡んでいく意識のなかで、俺はゆっくりと瞳を閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぃ」

 

「…」

 

「…い、……さ…い」

 

「…?」

 

一体どうしたことだろう。寝起きと全く同じような感覚で、意識が急速に覚醒していく。

 

残念ながら俺は死んでしまいました。なので声をかけてもらっても無駄ですよ。

 

「…きて、起きて下さい!」

 

「…」

 

いや、そんな耳元で叫ばんとってください。だか死体に口なしなので、五月蝿いと反論することも出来やしない。

 

「起きないと話が進まないでしょう?……このハゲー!!」

 

…ハゲ?ハゲだと?

ふざけんな!俺ふっさふさだわ!

顔も性格も何一ついいとこないけど髪の毛だけはあるわ!

 

「チッ、まだ起きませんか。それならば…この童貞!童貞ッ!!童貞ッ!!!」

 

グッハア!それは致命的な一撃…

美少女に言われたらクッソ興奮するけど(ドM男並感)。

だがしかし野郎に言われても全く嬉しくないのが世の常である。

 

「お前はああ!どれだけ私の心を傷つけるううう!!」

 

思わず目を見開き、起き上がった。俺を童貞だと馬鹿にしやがった野郎に、一言もの申すために…!!

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

………

 

 

 

 

あれ?

 

「……なんで起き上がれるの?」

 

感想をそのまま口に出してみると、目の前にいた__恐らくはさっきまで俺に罵声を浴びせてきていた__少年が、にこやかにいい放ってきた。

 

「貴方は一度死にました。もう一度人生やり直しませんか?」

 

な、なんだその台詞は!どっかで聞いたような…あそうだ、あの大分昔に映画の予告で聞いたやつじゃん!

 

あの素人声優っぽい関西弁の奴が言ってたやつだ。CMで何回も聞いた覚えがあるぞ。

 

 

 

 

 

……やり直すって、なに?

 

「あの、ここは…」

 

よくよく冷静になって辺りを見渡すと、俺とこの少年以外、全てが真っ暗闇に包まれていた。

まるで、夢の中に出てくるような…そう、現実ではあり得ない世界観だと断言できる。

 

「まさか、ここって本当に…死後の世界なのか?」

 

最初は夢でも見ているのかと思った。

だが、意識の覚醒に伴って徐々に鮮明となった、最期のの瞬間の光景。

あれを『夢だった』で片づけるのには…どう考えても無理があったのである。

 

「この場所は、あの世とこの世の境です」

 

「あの世とこの世の…」

 

ってそりゃ犬夜叉ネタだろと突っ込もうと思ったが、おそらく俺は本当にその場所にいるんだろうな。

シャレになってねぇよ。

 

そうか…やっぱ俺、助からなかったんだな。

でもって、死後の世界って本当にあるのね。

 

 

だけどその話が真実なら、俺はこれから天国に行くか地獄に行くかの振り分けでもさせられるのか?

 

…あの、もしそうなら天国に行きたいのですが。

短い人生を軽く振り返ってみて、そこまで悪いことはしてないと思うんだけど…

 

ただ俺は他の人と比べて格段にコミュ障だったし、パリピ勢じゃなかったし…死後の振り分けが陽キャポイント加算式によるものだったら、ちょっとヤバイかもしれない。

 

陽キャポイントってなんだよ(哲学)

 

 

「おめでとうございます!」

 

「は?(威圧)」

 

 

妄想が自己完結したところで、目の前の少年は爽やかな笑顔で祝福してくれやがりました。

 

おめでとうっつったか?こいつ今そう言ったな隊長?

こちとらあんな死に方したっていうのに許さんぞ!死後の喜びを知りやがって…

 

こちらが堪え切れぬ表情を見せていると、少年はそんな心情を見透かすかのように、さらに口を開いた。

 

「貴方の行くところは…天国でも地獄でもありません」

 

「えっ」

 

やだ、何それ怖い。

 

「最初に申し上げた通り…貴方にはやり直していただきます」

 

「は?…は?」

 

いよいよ頭が弾けそうになる。確かにこの子はさっきそんなことを言っていたが…

やり直すってのは一体全体どういう了見だ。

 

一度死んだ人生をやり直すってのはフィクションの世界観である。世にも奇妙な物語となろう。

 

ちなみに槍でやり直そうとしたのは碇シンジ君である。

アレの続編見てから死にたかったな。

 

だけど、どうやら彼の話じゃ俺は生き返れるらしい。ほんとぉ?(疑念)

 

「じゃあ、俺は死んでしまったけど…元の世界に生き返らせてくれるってことなのか?」

 

「…」

 

ドヤ顔で首を横に振る少年に、思わずズッコケた。

違うのか…(困惑)

 

「あのなあ、それじゃあどういう…」

 

「よくご存じのはずです。だって貴方は、そういう世界を数多く『見てきた』のだから…そうでしょう?」

 

「いや全然」

 

即答した。

こちとら只のクソザコ一般サラリーマンだぞ。そんな某平成10作目の仮面ライダーのように、パラレルワールドを行き来できる特殊能力なぞ持っていないわ。

 

ましてどこぞのクロスオーバー小説のごとく、物語の間を往き来して絶望の世界を救うだとか、そんなことだって当然できない。

…何度も言うが、それはフィクションの世界だ。

 

 

まあ、確かに俺は生前そういう妄想をよくする人間だった。

 

俺的には鬱エンドの作品に介入して歴史を改変する小説とかが特に大好物である。

 

 

 

……あれ、もしかして『見てきた』ってその事を言ってるの?

 

転生モノのssばっかり『貴方は見てきた』ねって、そう言いたいの?

ああなるほどね。それなら納得ですわ。

黒歴史にしたいくらい恥ずかしいことをわざわざ指摘してくれてありがとう。

 

「そう、いわゆる転生…というものです。

これから貴方にしていただくのは」

 

「転…生……?」

 

急に真剣な表情を取り繕う少年に、俺はたじろぐことしかできなかった。

この子、本気でいってんのか?

だとしたら…

 

途端に自分の中のテンションが上がっていくのを感じた。

 

「ひょっとしてアレか、最近俺がよく見てたssハーメルンみたいな展開か?

生まれ変わってアニメやら漫画やらの世界で無双するやつか!?そうなのか!?」

 

「お、落ち着いてください!

…ええそうですとも。最初に言ったでしょう、貴方は選ばれたのだと」

 

「選ばれた…俺が…?」

 

 

それが本当なら、確かに彼の言うとおり物凄いことだ。社会人ながらいまだに中二全開の妄想をしがちな自分にとって、願ったり叶ったりの話である。

 

しかし、そんな歓喜の非日常をちらつかされて、俺の頭は若干の冷静さを取り戻していた。

 

「あの…一つ質問しても?」

 

「はい、なんですか?」

 

「…どうして、俺なんでしょう?」

 

どうにもその部分が釈然としなかった。

死んだことも、ここが死後の境であることも受け入れられた自分だったが…

 

1日の内に、世界中でおそらく何千何万を超える人達が何らかの形で死んでいく。それは自然の摂理である。

しかしその中から今の自分みたいに転生者に選ばれる人なんて、間違っても多いとは言えないだろう。

特に何の才能もなく普通のサラリーマンをやっていた自分が…選ばれた?と言われたが、そこに係る違和感というのが、どうしても拭いきれなかっのだ。

 

「簡単なことですよ…その理由は、ね。生まれ変わった先の世界を見れば、きっと理解することができるはずです」

 

「ん…?ということは、俺のが転生する先の世界ってのは、もう決まっているのか?」

 

「いいえ。選ぶのはあくまでも貴方自身…しかしあなたの未来に繋がる道は、恐らくは一本道なのです」

 

「…う…ん?」

 

なんだろう、どうも釈然としないというか…噛み合ってないというか……

 

 

まあ、一先ずはよしとしよう。今はそうせざるを得ない。

 

 

「ともかく俺は、これから好きな世界に行けるってことだよな?」

 

あのssハーメルンみたいに!ssハーメルンみたいに!(ステマ)

 

「え、ええ。行く、というよりは"生まれ変わる"という言葉の方が、正しいのかもしれませんが」

 

成る程。言葉通り"転生"だからな。

まあどちらにしても、今自分が体験しようとしていることは妄想か二次創作レベルの凄いことである。

 

…そういうとあまり凄くなさそうになってしまうが、とにかく凄いことなのだ。

 

自分がアニメや漫画の世界に入り込める……それを考えるだけで、ついさっき死んだというショックが和らいでいくような気がした。

まあ、いまこうやって意識もあるし、死んだって実感が全くないのもあるんだけどな。

 

 

 

ともかくこちとら、行ってみたい世界は山ほどある。

瞬間的に思い浮かんだのは、ブリーチだとかナルトだとかの、王道を往くジャンプ世界だ。

 

アカデミー生の時点で火影クラスの力を持ったり、破面になってハリベルとかと仲良くなる展開ね。ええ、大好きですとも。

 

もしくは少々捻ったパターンで…コナン君の世界にトリップするなんてのも悪くないな。

その手のssだと大体米花町の住人になって必然的にコナンくんと絡んでいくよね。どれも名作揃いだ。

 

あとは…俺の大好きだった作品、犬夜叉の世界とかならなにも言うことはない。

俺が自らの手で悲劇のヒロインである桔梗を救った(妄想をした)のは、一度や二度ではない。

奈落の魔の手から颯爽と桔梗を救い出す謎のヒーロー!!みたいなぐへへ……

 

「やっぱりそんな妄想ばっかしてたんですね貴方は。益々転生者としての役割を果たすにはぴったりだと思いますよ、ええ」

 

フフフ…そうだろう。こちとら休日とかはもっぱらそんな妄想ばっかしてんだぜ?

一人っ子の妄想力舐めんじゃねぇ!!

 

…あれ、目から溢れてくるこの涙は一体何だろう?

 

 

 

「涙、ですよそれは」

 

…言わんでよろしい。

ともかく気を取り直して。とっとと行く世界を決めよう!

 

「……ふう」

 

うん、やっぱりそうとなれば、俺が望む世界は一つしかないよな。

 

「よし決めた!行く先も、覚悟も決めましたぜ、妖精さん」

 

「や、誰が妖精さんですか。一応神様的なポジションですからね僕」

 

あ、そうなんだ。

でも神様的ってなんだ。神様と明言はしないのか。

そこはフワッとさせたままなのね。

 

「…ともかく、決まったみたいですね。それじゃあ__」

 

「あ、そうだ。ちょっと待って」

 

(唐突)に、少年の言葉を遮る。

 

大事なことをすっかり忘れていた。

転生者ならではの"アレ"について、先に確認しておかねばなるまい。

 

「…なんですか?」

 

「俺には、どんな能力がつくんです?」

 

ゲス顔を隠そうともせずに聞いてみた。だってこの手の話なら超大事なことじゃん?

例えばナルトの世界に行って、忍術が何一つ使えなかったら全く意味が無いわけでして。

 

俺がよく見る転生モノの醍醐味というのは、原作知識とチート能力を遺憾なく発揮して、あらゆる鬱フラグをクラッシュしていく痛快さにある。

健全な男子なら誰もが一度は想像する妄想だ。教室室に侵入してきたテロリストを自分が撃退しちゃうアレだ。

 

「……」

 

ぽよ?

なんか、思いっきり目を反らされたんですけど。

 

「あの、聞いてます?俺の能力…」

 

「それじゃあ行きますよ!!カウントダウン開始!!

 

3!!

 

2!!」

 

「や、ちょっと!なんでいきなりカウントダウン!?俺の質問に答えてよ!」

 

大体特殊能力の一つもなきゃ、転生したところで__

 

「1!!」

 

てかまだ行きたい世界を明言してないんだが!!本当にこの子は分かってるの!?

 

「ゼロ!!!!」

 

それ以上言い返せる間もなく、俺の周りが光に包まれていき、意識が再び薄れていく。

 

「……!…!」

 

くそ、こんな強引な仕方があるかのかよ…!

 

 

 

 

__思い返せばこの時、この少年は…

 

 

 

「……は」

 

 

__きっと、分かっていたのだろう。

 

 

 

「俺、は…」

 

 

__俺がずっっっと考えてきたことを。

 

 

 

「俺は……」

 

 

__10年間片時も忘れられなかった、あの世界のことを。

 

 

 

 

 

 

「喰霊の世界に、行きたいんだあああ!!」

 

 

 

__だからよ。せめて話くらい、聞いてくれよ……

 

 

 

 

 

 

 

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