こちら環境省超自然災害対策室総務班でございます!   作:パプリオン

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「諫山黄泉」で名前占いすると「人生が急展開する波乱の人」とか、「宗教にすがるしかない人生」だとか、散々な言われようで笑っちゃうんすよね…



episode 10 土蜘蛛(後)

「おい桜庭。最近ジムで見かけないが、ちゃんと通ってんのか?」

 

「ん?ああ、そういやここ数週間は行けてねえな」

 

「おいおい、そいつは良くねえな。継続は力なり、筋肉は裏切らない…って言葉を知らないのか?」

 

「いや、後半の部分は全くの初耳なんだが…

つーかよ、岩端のおっさん。任務の前にバーベル150kg持ち上げるとかは、流石にやりすぎだと思うぜ」

 

「はっはっは…だから言ってるだろう。『筋肉は裏切らない』ってな」

 

「だからそれはどこの標語なんだよ!?」

 

「あ、あの…」

 

「お、どうした関谷。さてはお前も筋トレで輝きたいんだな?そんじゃ、早速明日から一緒にジム通いだ」

 

「い、いえ。そうではなく!……現場に到着しました」

 

環境省を出発し、北西へ車を走らせること2時間。悪霊が出現した峠に辿り着くころにはすっかり日も暮れていた。

悪い意味で目立ちすぎる装甲車を山中の平地に停めた俺は、リアゲートを開けて黒いアタッシュケースを取り出し…取り出……

 

うん、これ無理。

 

「ぐぎぎぎっ…な、なんちゅう重さだよこれ…!」

 

「ナブー…代わる」

 

「ナブーも代わる」

 

「あっ…はい、お願いします、すいやせんでしゃばって。へへっ…」

 

三下ムーブでおずおずと引き下がる自分。ナブー兄弟は俺が全力を使ってもびくともしなかったケースを片手で持ち上げ、中に入っていた自らの武器__退魔式リボルバーを手に取り、せっせと弾の装填を済ませていた。

俺も筋トレ始めるべきですかねクォレハ…

 

 

 

「お待たせ紀之。相手は?」

 

「ああ、いま管狐で追ってる」

 

黄泉が一足先に現地入りしていた飯綱に声をかける。彼は自らが使役している管狐を偵察用に放っており、そのお陰で悪霊の正確な位置を特定することができていた。

 

「カテゴリーB、土蜘蛛だ。今日のは特大サイズだよ」

 

土蜘蛛はその名のとおり、巨大な蜘蛛の形を模した悪霊である。

特徴として挙げられるのは全長10mはあろうかという細く長い6本の足だ。あれでぶっとい胴体支えてるってマジ?上半身に比べて下半身が貧弱すぎるだろ…

 

そんな馬鹿げた感想を持ちつつ、俺は自分に与えられた仕事を進めていた。

総務班が超自然災害の現場で取り扱う仕事としては、出現した悪霊の分析、処理班の配置確認、周辺の安全確保など様々である。

直接戦闘については処理班が存在するため、必要に応じて各員の支援を行うこと…となっているのだが、実際に俺のような非戦闘員が参戦することは滅多にないと思われる。

 

「私が行くわ。皆、後ろをお願いね」

 

その理由がこれだ。

彼女__諫山黄泉がめちゃくちゃ頼りになるからだ。

 

黄泉は作戦開始と同時に自身の刀に宿る霊獣"乱紅蓮"を召喚し、土蜘蛛に向かって駆けていく。

 

「黄泉の援護に回るぞ。各員、所定の持ち場に散開しろ」

 

「あ、ナブーさん、少しいいですか?今回の配置についてなんですけど…」

 

自分にできることは限られているが…とにかく今は、やれることをやるだけだ。

 

 

 

諫山黄泉は間違いなく強い。

それは俺がこの世界に来て改めて感じさせられたことでもある。

若干17歳にして数多くの実績を引き下げる彼女は、神童と称され退魔師の界隈でも一目を置かれる存在だ。

実際のところ、土蜘蛛に向かっていく彼女の背中は途轍もなく頼もしかった。

 

仮に何かの間違いで黄泉が苦戦したとしても、対策室には土宮神楽を筆頭に、錚々たる面子が控えている。

飯綱、桜庭、岩端さん、ナブーさん…室長と桐さんは言わずもがな。

 

そう。

対策室は全員揃ってさえいれば、間違いなく強いのだ。

 

「……はぁ」

 

だけど、それはそれで世知辛さを感じさせられる。

『転生者の俺TUEEEEEEE!!!』ではなく、『仲間の皆TUEEEEEEE!!!』なんて話、あまり聞いたことがない。

 

「どうしたの涼さん、溜め息なんかついちゃって」

 

「あっ…か、神楽。いやなんというか、みんなが強すぎてヘコんでた…的な」

 

「あはは、なにそれ。確かに黄泉とかは超強いけどさ…別に凹むほどじゃ」

 

「う、うん。というか、神楽もその超強すぎるみんなの内に入ってるんだけど」

 

「へ、私も?」

 

自覚が無かったのか、さも意外とばかりに声を上げる神楽。

 

「でも私、全然活躍出来てないよ?今日だって後方支援だし」

 

そういえば神楽はこの時、自分ももっと前線で戦いたいと主張してるんだよな。黄泉からは結局『主役を張るにはまだ早い』と退けられるんだけど。

 

「…ねえ涼さん、私ってそんなに頼りないのかな」

 

「え?いや、そんなことはないと思うけど」

 

その切実な悩みは真面目な神楽らしいものだったが、俺からしてみれば肩を竦めるような話である。もしこの世界に強さ議論スレがあったら間違いなく5本の指には入るんだから、もっと自信持っていいんだよ。

 

「それにほら、黄泉って結構過保護なところあるから。神楽の実力を認めてないわけじゃなくて、単純に家族として心配してるだけ…みたいなさ」

 

「家族、か…そう言われると弱いけど。

でもこのままじゃ、いつまでも黄泉に頼りっきりになっちゃうよ」

 

最後に零れた一言は、おそらく神楽の本音なのだろう。

誰かの役に立ちたい。大切な人に報いたい。そんな彼女の想いは、誰しもが一度は抱くことのある特別な感情である。

神楽はそれを中学生の時点で明確に持っているのだから、本当に立派なものだ。それゆえになおさら、自分が役立っていないなどとは思ってほしくないのだけど…

 

「砕け、乱紅蓮っ!」

 

黄泉の声が山中に響き、俺と神楽は釣られるように戦場へ視線を戻した。

乱紅蓮は土蜘蛛の吐く糸を躱しつつ、その鋭利な爪を相手の背中に突き立てる。土蜘蛛は大きな図体の割に防御力はあまり秀でていないらしく、攻撃を受けた部分に大きな裂傷を残し、よろめきながら進行方向を変えていく。

どうやら道路沿いから外れて、険しい山中へ逃げ込もうとしているらしい。

 

「逃げるつもりか、あいつ」

 

「けど、諫山からは逃げられないだろ」

 

岩端さんと桜庭の会話から、この戦いがもう少しで終わることを感じさせられた。

俺は一つ安堵のため息をつきながら、それでも気は抜かずに土蜘蛛への意識を持ち続ける。

 

奴が逃げた見えるのは、山の峠を繋ぐ巨大な架け橋。そして…橋の中央部には、小さな人影がぽつりと浮かんでいた。

間違いない。あの女性だ。

 

「…っ!まずいよ、あそこに人が!」

 

民間人の存在に気付いた神楽が、橋を目指して一目散に走り出す。

 

時を同じくして、それまで土蜘蛛を圧倒していた黄泉が、止めの一撃を加えようと宙を舞った。

 

「はあああああっ!」

 

彼女は人間離れした跳躍力で土蜘蛛のさらに上まで飛び上がり、早さと高さを存分に活かした斬撃を繰り出した。

結果、土蜘蛛の胴体は真っ二つとなり四散。しかし一部の肉片が消滅しきれずに、周辺へと散っていく。

 

「キャアアアッ!」

 

そして…運の悪いことにその破片の一つが、先程の女性目掛けて降り落ちた。もしあれが直撃すれば、怪我どころの話では済まない。

 

神楽は橋に辿り着くと、飛んできた破片を迎撃すべく、居合いの体勢をとり……

 

「え…ええっ!?」

 

…そこで()()の存在に気付き、漸く足を止めた。

 

 

 

__そして、次の瞬間。

 

二つの銃口から同時に放たれた弾丸が、土蜘蛛の残骸を貫いた。

摩尼(まに)弾に施された真言(マントラ)の力によって、宿主を失った体はその場でバラバラに崩壊していく。

 

「任務完了…」

 

「敵反応、消滅…」

 

硝煙の上がるリボルバーを静かに降ろした二人は、アクセントの強い声でそう呟いた。

 

「ナブーさん…と、ナブーさん…!?」

 

神楽が驚きの声を上げるのも無理はない。本来この場所に彼らが居ること自体がそもそもおかしいのだ。

 

本来の話では、この女性を間一髪で危機から救うのは神楽の役割だった。

しかしそれがギリギリのタイミングだったことを覚えていた俺は、万が一にでも手遅れとならないように、ナブーさん二人の配置をこの橋の近辺に変更しておいたのである。

 

いわゆる、すり替えておいたのさ!状態だ。

結果としてはこんなことする必要もなく神楽はちゃんと間に合っていたのだが、ナブーさん達の活躍で土蜘蛛の残骸は余裕をもって処理することができた。

 

あの女性が感じた恐怖も原作よりは和らいでいる筈だし、この作戦は見事に成功したといえるだろう。うん!

 

「あ、ああ…」

 

「「…」」

 

ナブー兄弟は腰を抜かしていた彼女に振り返ると、表情を変えないままゆっくりと近付いていく。

 

「ヒッ…!」

 

「「大丈夫か?」」

 

「い、イヤアアアッ!!!」

 

女性はこの日二度目の悲鳴を上げたかと思うと…そのまま後ろに倒れこんだ。俺や対策室の皆は慣れていてすっかり忘れていたが、ナブーさんの顔にはそれほどのインパクトがあったのだ。

 

「ナブー…落ち込む」

 

「…ナブーも、凹む」

 

うん…

 

うーん……

 

まあ誰も怪我してないから、ヨシ!(現場猫)

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

「っ…ここは…私、どうして…」

 

「目が覚めましたか?」

 

「…ひっ…!」

 

意識を取り戻した女性は、分かりやすく狼狽していた。短時間にあれだけショッキングな出来事が重なったのだから、当然といえば当然だろう。

 

「落ち着いてください。先ほどの化け物…もとい悪霊は、既に我々が除霊済みですから」

 

超自然災害に巻き込まれた一般人への対応。これは一見簡単そうに見えるが、パニックになっている人を落ち着かせたり、他言無用の誓約書を書いて貰う必要があるため、決して気は抜けない。

 

「悪霊、それに除霊って…貴方たちは、一体…?」

 

「信じられないかもしれませんが、我々はこういうものでして__あっ」

 

スーツの内ポケットから取り出そうとした身分証明は手から滑り、綺麗なアーチを描いて高架橋の下へ落ちていく。

 

「…」

 

「…」

 

橋の上に訪れた沈黙。

目を泳がせまくる俺と、目のやり場に困っている女性。

背後からはこの様子を見ていた処理班の視線が突き刺さる。

 

「……落ち着いてください。いいですね?」

 

「いやアンタが落ち着けよ!」

 

桜庭渾身の突っ込みが夜の峠に響き渡った。

 

「し、失礼しました。こちらをご覧ください」

 

俺はズボンをまさぐって自分の名刺を取り出すと、困惑したままの女性に手渡す。彼女は俺達の素性を知り、目を丸くして驚いた。

 

「環境…省?」

 

「はい。我々の存在は公にはされていませんが、政府機関の一員として除霊活動を行っている組織でして…」

 

「簡単にいうと、悪霊退治の専門家よ」

 

俺の回りくどい説明を黄泉が要約してくれたが、それでも簡単に理解することはできないだろう。

 

「それじゃあ、さっきの蜘蛛みたいな化け物は…」

 

「カテゴリーB、土蜘蛛。古来から日本に伝わる怨霊です。我々が日常的に生活している街などに現れることはまずありませんが…こういった場所であれば、話は別です」

 

「でも私、霊感なんて今まで全く無かったのに…急にそんなものが見えるようになるなんて」

 

「恐らくその原因は、あの土蜘蛛が同体の中でもかなり強い力を持っていたからでしょう。

…それから、当事者が死に近しい思いを抱いていたことも、原因の一つだったと言えるかと」

 

「…っ!」

 

俺が思いきって踏み込むと、女性の表情がみるみるうちに強張っていく。

 

「大変失礼かと思いますが…鞄の中身、見せていただいてもよろしいでしょうか」

 

観念したように差し出された鞄を検めると、想定通りのもの(強調)が出てきた。大量の睡眠薬が入っている錠剤瓶だ。

 

実はこの女性、悪霊とはまったく関係のないところで自ら命を絶とうとしていたのである。

俺には原作知識があるので当然この人の事情を知っていたが、そうでなくともこんな真夜中に一人で橋の上に佇んでいるのは普通のことじゃない。

 

で、さらに言うとこの人の出番はこれっきりでもない。

原作でも黄泉が機転を効かせて彼女の自殺を一度は妨げるものの、結局この人は後に電車へと飛び込んでしまい…最期は悪霊化した人間の屍__カテゴリーDとなり、未だ人"だったもの"を斬れない神楽に最初のトラウマを与えてしまうという、とても厄介な人なのである。

喰霊-零-ではネームドキャラでもない一般女性だったのに、この人の印象だけ妙に強く残っているのは、そういった話の繋がりがあるからだろう。

 

「今日のところは色々と疲れもあって、よく眠れることでしょう。睡眠薬は必要ないと思いますので、こちらで処分させて頂いてもよろしいですか」

 

「ごめんなさい…私…!」

 

女性は終始顔を俯け、表情を曇らせていた。

先ほどの悪霊に対する恐怖が尾を引いているのか、それとも死にきれなかったことへの後悔だろうか。

 

少なくともこのまま放っておけば、間違いなく彼女は死を選ぶことになる。そしてその未来を明確に知っているのは、この世界には俺一人しかいないのだ。

 

「こんなことを言うのは勝手なのかもしれませんけど…死ぬの、勿体無いと思います」

 

「え…?」

 

それならば…せめて自分に伝えられることを、言葉にしよう。

 

「…俺ね、一度だけ経験したことがあるんです。

身近な人が、自ら命を絶ってしまった…最悪の経験が」

 

俺は前世の出来事を明け透けに話し始めた。少しでも彼女の心に響いてくれるものがあることを信じて。

 

「その訃報を聞いた瞬間は、頭が真っ白になって…暫くは何も出来ませんでした。

で、後悔もたくさんしました。もしその前日に会えていたら、話を聞いてあげられていたら、あんなことは起きなかったんじゃないか…って」

 

こんなことをしても、ひょっとしたら結末は変わらないのかもしれない。仮に未来を変えることができても、それが全て良い方向に転がるとも限らない。

だけどそうやって初めから諦めてしまえば、この世界にやがて訪れる悲惨な運命に抗えなくなる…そんな思いが、どこかにあった。

 

「貴女が死んで、悲しむ人は本当にいませんか?友達でも、親でも誰でもいい。もし誰かの姿が浮かぶんだったら…やっぱり、死ぬのは勿体無いって思います」

 

 

 

 

……

 

 

搬送用の救急車が来たのは、それから暫くしてのことだった。見たところ女性に外傷は無かったが、まさかこのまま家に送り届ける訳にもいくまい。

病院で必ず診察を受けること、費用などはこちらで負担することなどを伝え、救急隊員に彼女を引き渡した。

 

「…ありがとうございました。これから先のこと…もう少しだけ、考えてみます」

 

救急車に乗り込む前に、彼女が呟いた一言。

俺はその言葉がどうか本心からのものでありますようにと、そう願うことしかできなかった。

 

 

 

「任務、おつかれさま」

 

帰路につく前にエナジードリンクを摂取していると、想定外のところで黄泉から声を掛けられた。

 

「あっ、その。よ、黄泉の方こそお疲れ様…」

 

「神楽が感心してたわよ。あの女の人のこと、どうして分かったんだろうって」

 

「ああ…でもあれは偶然だよ。経験則って言えたら格好良かったんだけど」

 

まさかアニメを見て知っていたとも言えず、曖昧に言葉を返す。ある意味でズルをしているようなものだから誇ることもできない。

 

「大丈夫かしらね、彼女」

 

「うん…それについては対応策を考えてるよ。一応だけど」

 

「へえ、そうなの?どんなふうに?」

 

今回のように悪霊と遭遇した一般人が精神的にやられてしまうことは、他の例として少なからずあるらしい。そういった場合には、外傷のみならず精神的な部分、つまりメンタルケアについても国が保障してくれるらしいのだ。

あの女性の死を何とか防ぐためにも、これを使わない手は無い。そう考えた俺は室長にありのままを伝え、ケアについては直ぐに承諾が下りた次第だ。

 

「なるほど…考えたわね」

 

黄泉は感心した様子だったが、具体的に自分が何かをしたというわけではない。端的に言えば只の人任せである。

転生特典で最強のコミュ力を手に入れた!とかだったら良かったんだけど、残念ながら俺のトークスキルは平均を下回っている。それ故にこれぐらいの対応策しか講じられなかったというのが本音であり、自分のできる範囲での精一杯…だと思う。

 

「それにしても、まさか貴方が見ず知らずの他人にあそこまで踏み込むなんて…ちょっと、意外だったかも」

 

「へ?そ、そうかな…」

 

「あ、ひょっとしてあの人に一目惚れしたとか?」

 

「なんで!?まさかそんな…いや、そんなわけないじゃん!」

 

「いーのいーの、そんなムキにならなくたって。涼がその気ならちゃんと応援してあげるから」

 

「いやだから違うって。それは違うんだって!」

 

(俺の一目惚れ相手)お前じゃい!!

と叫びたくなる気持ちを抑え…俺はどうにももどかしい思いを抱きながら、しばらくの間黄泉に弄られ続けるのだった。

 

 

 

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