こちら環境省超自然災害対策室総務班でございます!   作:パプリオン

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初登校です。


episode 2 邂逅

__俺がこの作品に出会ったきっかけは、本当にただの偶然だった。

 

アニオタ全盛期だった当時、俺は深夜アニメを片っ端から視聴するというよく分からん蛮行を繰り広げていた。

喰霊-零-という作品も、あくまでその膨大なアニメのうちの1つ…始めはあくまでその認識だったのだ。

 

第1話のラストで、あのシーンを見るまでは。

 

『諦めてって、言ったでしょ?』

 

どこをどう切り取っても主人公格だったキャラクター達は、エピローグのラスト3分足らずで惨殺された。本当に全滅してしまったのだ。

そのあまりの急展開もさることながら…俺はそれをなしえた()()()()に、心臓を貫かれるような衝撃を覚えたのである。

 

その時の感覚を、俺は今でもよく覚えている。

 

__彼女(諫山黄泉)という人物をマジで好きになってしまった、あの瞬間を。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

瞼越しに差し込む光を感じる。

意識が戻り、一番始めに取り戻したのは視覚だったらしい。

次に聴覚が働き始め、電子的なピッ、ピッという機械音を耳元で確認する。

 

「ここは…」

 

つい先程まで自分に起きていた出来事は、鮮明に記憶に残っていた。

つまるところ俺が望んだ第2の人生は、この場所からスタートするということなのだろう。

 

期待に胸を膨らませながら、目をうっすらと開け__

 

「……知らない天井だ」

 

"転生したら言ってみたかった言葉"第6位のセリフを開幕一番にぶっこむことが出来た。

 

 

よし、先ずは状況を整理しようか。

今の自分には、はっきりとした意識がある。事故に遭った時の朦朧さが嘘のように、それはもうシャキッとしている。

 

そこから導かれる最良の解釈は、あの神様的なキャラとの邂逅が本物で、異世界転生が無事成功したという展開だ。

それならば問題ないどころの騒ぎではない。

神さまに後で菓子織持ってお礼に訪ねるレベルのスゴいことだ(KONAMI感)

常日頃そんな妄想ばっかしてたヤベー人間代表である俺から言わせてもらうなら、この出来事はまさに奇跡と呼ぶに相応しいものである。

 

……しかし。

 

俺はそれ以外に、もうひとつの目も覆いたくなるような展開も考慮に入れなけれらならなかった。

 

それはこの世界が、喰霊の世界ではないというパターンだ。

仮にそうだとしたら死後のあの邂逅は全部夢オチということになり、もちろん訴訟(起訴)では済まされん話なのだが…

俺としては、こちらの可能性を決して否定しきれないというのが正直なところだった。

 

なんせあんなテンプレみたいな転生の仕方、本当にあり得るものなのか?

トラック事故死で神様みたいな人と出会って行きたい世界に転生するというのは、俺が死ぬ前にさんざん読み漁っていた二次小説の展開そのままなのだ。

そもそも転生を成し得るということ自体、冷静になって考えてみればありえないフィクションなわけであって…

 

……ええい、ままよ。こんなところで考え込んでいても仕方ねえ。俺は自分の姿を見るぞ!!

 

転生をした『自分の姿』にはお決まりとして二つのパターンがある。

 

まず一つ目にありえるのが、自らが原作キャラの一員に生まれ変わっているという展開だ。

簡単にいうと、転生先がその物語の主人公だったり、意外な脇役だったりするような『憑依』タイプ。

これなら鏡を見るだけで、自分が転生したかどうかすぐに分かるはずだ。

ちなみに喰霊の世界の主人公は女の子である。ワンチャン性転換もありうるな。

 

二つ目の可能性は、元々その世界に居なかった人物になるというパターン。

人はこれを『オリキャラ路線』という。

この場合の多くは神様にもらったチート能力をいかんなく発揮して原作キャラを驚愕させるまでがテンプレだ。

 

仮に 『憑依』タイプ であるなら、鏡を見てすぐさま転生したことを証明できる。 『オリキャラ路線』 タイプであったとしても、十中八九生前の姿よりも美男美女に生まれ変わるのが常識だから、安心して第二の人生を楽しめるというもの。

 

原作キャラかイケメンになっていれば俺の勝ち。そうでなければ……この話は無かったことにして終わり!閉廷!!解散解散!となるわけだ。

「……よし(適当)」

 

俺は長時間の思考に区切りを打つと共に、一抹の不安と期待を胸にして体を少しずつ起こしてみようとした……

 

「が…!!」

 

あかん。

 

い、痛い痛い痛い!!死ぬほど痛い!!!!

 

なんだよこれ!痛すぎて体をまともに動かせない!?

激痛なんてレベルじゃねーぞ!どうなってんのこれ?

普通でいったらここはすんなりと起き上がれる所でしょうが!転生して早々に体が痛すぎるって意味ワカンナイ!

 

これじゃあまるで、さっきまでの話が全て脳内で起きていた妄想で、俺は単に事故に遭って奇跡的に一命を取り留めただけみたいじゃねーか!

 

 

 

 

……

 

 

いや。

 

 

いやいやいや。

 

 

う、嘘だよな?自分で言ってめちゃくちゃしっくりきちゃったけど、そんなわけないよな?

 

俺は転生したんだ…誰が何と言おうと転生したんだ!

そ、そうだ。まだ自分の姿だって見ていない。

さっきから自分の声も顔の感覚も事故る前と全く同じような気がしてならないんだけど、それは気のせいだって私、信じてる!

 

それで、とりあえず起き上がろうとした直後の激痛に身悶えていると、俺のベッドの横で物凄い勢いで二人が立ち上がった。

 

「!?」

 

というか他に人いたのね…

その反応にちょっとビビったが、驚きのリアクションはその二人のほうが明らかに大きくて。

俺は肝心の相手の顔を確認しようと、精一杯顔を横に動した。

 

「……」

 

そして、今度こそ唖然としてしまった。

 

「目が覚めたのね…!?」

 

「本当か、"涼"!!」

 

「ああ、良かった…良かった……!!」

 

自分の目と鼻の先には…泣きじゃくりながら歓喜の声を上げるうちの両親がいた。

 

 

 

 

……

 

 

ちょっと待ってもう一回確認させて。

 

『自分の目と鼻の先には…泣きじゃくりながら歓喜の声を上げるうちの両親がいた。』

 

うん、やっぱり間違ってなかったね。

 

あれーおかしいね、親の姿が変わっていないね?あと呼ばれた名前も聞き馴染みのあるものだった気がするよ。

父と母、この二人の親から生まれてくる子供のことを、俺はよく知っている。

それは俺だよね。

 

 

 

ざんねん!! おれの ぼうけんは これで おわってしまった。

 

「ちきしょ…がぁっ!?!?」

 

「無理しないで、しゃべっちゃダメよ!」

 

「安静にしてなさい!…今医者の人を呼んでくるから!お前、涼を頼む!」

 

「ええ任せて!」

 

思わず叫びかけて、先程の二の舞とばかりに身体中に激痛が走り、悶絶。

そんな俺を心配しつつものすごい勢いで部屋を飛び出していった父親の姿を尻目に、我が母親は言葉通りわんわんと泣き出す。

 

実家のような安心感。

親の顔より見た光景。

というか、本物の親。

 

死後まもなくして目覚めた筈の光景は……

俺が元に生きていた世界、そのものだった。

 

 

 

いやー、たまにあるよね。幸せな夢から覚めてそれが現実だったと一瞬錯覚しちゃうこと。

 

わかってはいたよ。わかってはいた。

あんなテンプレ同然の転生が成り立つわけがねぇってことぐらい。

死んで神様が出てきて別の世界に行くっていう二次創作で数千回は使われているような展開がリアルではありえねぇってことぐらい。

 

それでもさ、期待しちゃうのが常ってものじゃん?

どうせ老い先短い人生なら、そういうイレギュラーな体験をしてみたいって思うのが性ってやつじゃん?

 

この世知辛い世の中に、もしもがあるのなら。

俺が常日頃ずっと考えていたような妄想が、転生という名の夢物語が本当に叶えられるというのなら……それを信じないわけにはいかなかったのさ。

 

しかし幸か不幸か、どうやら俺は転生しておらず、交通事故からも生き延びていたらしい。

 

「……」

 

仕事とかクビにならねえよな。

 

その考えが落胆の次に浮かんでくるあたり、俺には転生者としての資格は無いのかもしれなかった。

一筋の涙が頬を伝っても、腕を動かせず顔を覆うことも出来ない。そしてそれが悲しみによるものなのか…はたまた安堵によるものなのかは、今はよく分からなかった。

 

ただ一つだけ明確になっていたのは、少しでも動こうとすると体が死ねるということだけだった。

 

__これ以上考えても、栓なきことだ。

 

俺は考えることを止めた。そして静かに目を閉じ、意識を手放すことにする。

 

 

 

そうだ、絶対安静しよう。

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

翌日。

診察に訪れた医師からは、当面の間絶対安静を宣告された。何やら体中の骨という骨(約20本)が折れているらしく、昨日のようにちょっとでもどこかの部位を動かそうとすればもれなく体が悲鳴を上げるそうだ。

 

人間には215本も骨があんのよ、20本ぐらいなによ!というコメントが流れるかもしれないが、20本折れてたらまともに会話も出来ん。そもそも骨折以外に全身打撲やら頚椎損傷やらも負っているために、俺の体はボロボロだ!!

 

主治医の話によれば指一本動かすのに一週間、手を動かすのにもう一週間、腕を動かすのに一ヶ月はかかるというような具合なんだそうです。はい。

 

記憶に焼きついてしまったあの事故はやはり現実のものだったようで…それが原因となって『俺自身』が入院しているという現状。

 

これは転生なんてできてないですね…間違いない。

 

「く そ が」

 

そんな小学生並みの感想しか出てこないのは、転生をわりとマジに期待していたためだ。

しかし所詮この世は弱肉強食。妄想は死ぬまで妄想だったらしい。

 

俺は諸行無常の悲しみを味わいながら…しかしながら一日が経過し、心のなかでは安堵の感情が現れていることも確かだった。

何にせよ俺は生き延びることが出来たのだ。転生できなかったことを悔やむことはあっても、今生きていることを残念がるというのはあまりにも冒涜的な考えだ。

気持ちの整理はまだつきそうにないが、ともかく今は自分の運の良さに感謝しなければならないと…俺はそう考えを改めることにした。

 

 

目覚めてから唯一接する機会があった両親と医者は、敢えてなのかは知らないが、事故についての詳しい話はすることも聞いてくることもなかった。

前述の通り絶対安静。喋ることに関しては今日に至りてお許しが出たものの、外傷のほかに強い精神的ショックを受けている可能性があるため、事故に関する話などは一切禁止。

 

そんなこんなで…俺は入院二日目にしてわりと辛い日々を過ごしていた。

 

「あ、そう言えば今日、職場の人がお見舞いに来てくれるそうよ」

 

「いらっしゃったらちゃんとお礼を言うんだぞ」

 

「えっ……はい」

 

そんななかで、両親から唐突に聞かされたその話。

普通もうちょっと治りがかった所に来るもんじゃないのか…

 

一体どんな顔をして会えばいいのだろう。

やっぱり一言目には「すいませんでしたご迷惑をおかけして」ぐらい言えるのが社会人らしいのだろうか。

まあ、ここまで重症だとさすがにそれどころじゃねえのは明白なんだけど。

「すみません、関谷涼さん。職場のかたがいらっしゃっているようですが、お通ししてもよろしいですか?」

 

考える間もなかったな…

看護師さんにそう問われて、俺は最低限の佇まいを直す。

どちらにせよ退くことは適わない。

ええい、ままよ!

 

「あっはい。お願いします」

 

コミュ障特有の「あっ」で一呼吸置いてから、俺は面会の決意を固めたのだった。

 

だが、しかし…

 

その決意なんていうものは、いともたやすく崩れ去ることになるのだ。この直後に。

 

「は?」

 

人というのは、正面から信じられないものに遭遇してしまうと、思いがけずこんな間抜けた声が出てしまうのだろう。

 

「こんにちは、涼くん。具合はどうかしら?

…生きていてくれて、本当によかったわ」

 

病室に入ってきたのは、車いすに腰を掛け、穏やかな笑みを浮かべる女性__

 

「失礼します…関谷くん。」

 

そしてその車椅子を押す、ショートカットヘアが特徴的な…こちらも同じく女性__

 

……

……?

……???

 

 

あ、あれ?

 

 

 

誰この人たち?

入ってきた二人の女性は、俺の知っている『職場の人』では無かった。こんな美人がうちの会社に居れば、知らないわけが無い。

 

い、いや。正確に言えば俺は、この二人を知っていた。

そう、「知ってはいた」んだけど…

 

 

 

その二人は、『アニメキャラクターだった』といえばお分かりに…ならないだろうな、うん。

 

「それでは早速ですが…事故に遭遇してからの経過について、お教えくださいますか」

 

「桐ちゃん、少し性急すぎよ。涼くんはこの前目が覚めたばかりなんだから」

 

「…はい。失礼しました、室長」

 

二人がお互いを呼び合うその名前も、やはり原作通りで。初めは己の幻覚を疑い、次にこれは夢なのかと思い至った。

 

「あ、ああ…わああああっ!!!」

 

反射的にナースコールを辛うじて動く右手中指で連打しまくる。すると高音のいかにもヤバいことをお知らせします的なメロディが鳴り響いた。

 

「な、なにをしているんです関谷くん!」

 

「桐ちゃん、彼を止めて!!」

 

この時、俺は完全にパニックに陥っていたのである。

凛々しい方の女性が、自分の行動_奇行に見えたのだろう_それを止めに入った。

 

「突然どうしたんです!落ち着いてください!!」

 

 

自分を見舞いに来てくれたという"職場の二人"。

 

 

その二人は、俺が知っている限りではフィクションの世界の住人。

 

 

『喰霊-零-』のキャラクターだったのである。

 

 

あの神様だか妖精さんだかとの邂逅は、夢のはずだった。それなのに、この二人は……

 

状況に頭がついていかないと、人は思考能力の大半を失ってしまうという。

今の自分がまさにその状態に陥っていることは、誰の目にも明らかだった。

 

神宮寺菖蒲と、二階堂桐。

 

……俺はこの二人のことを、確かに知っていたのである。

 

 

 

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