こちら環境省超自然災害対策室総務班でございます! 作:パプリオン
※入室時のマナー
ドンドンドンドンドン!!(就活生が借金取りの如く扉をノックする音)
面接官「どうぞ」
就活生「オイイイイッス!どうも~就活生で~~す。まあ今日は、面接当日なんですけども……」
ブッブー(迫真のSE)
これでは、いけませんね。
いわゆる異世界転生を成し遂げたと思ったら、半年近くをリハビリに費やしてようやく五体満足を取り戻した自分。
転生者としてはあるまじき出遅れだったが…ヒーローの出番というのはいつだって遅れてやって来るものだ。
みんな、長らく待たせたな…
転生者"関谷涼"の一大スペクタクルが、いよいよ始まるぜ…!!
「室長…あの、その……」
前 言 撤 回
現在。
神宮寺菖蒲と二階堂桐の前で半泣きになっているのは、紛れもなく自分自身。
うん、どうしてこうなった。
それを語るには、時を少しばかり遡らなければならない。
※※※※※※※※※※
退院からおよそ2週間。静養を兼ねて家で絶賛ニート生活を送っていたところ、突然神宮寺室長から電話がかかってきた。
慌ててそれに出てみれば、なんでも『対策室への復帰に先だって、明日少しだけ話せないか』とのことで。
それを聞いてまぁ俺は歓喜したよね。だってついに"あの"対策室で働くことができるのだ。絶対に叶うはずのない夢が叶っちゃったんだよ?こんなに嬉しいことはない…!
テンション爆上がりでイヤッッホォォォオオォオウ!と雄叫んでたらまた両親が部屋に乱入してきたことはまた別の話。
室長がわざわざ前もって話したいと言ったことは少しだけ気にかかったが、きっと事前の体調確認や日程調整などが必要なのだろう。
とにかくこの時は念願叶ってうっきうきで。
室長の真意などまるで考えるというようなこともせず、あれよあれよという間に約束の日を迎えることになったのである。
「おはようございます。こちらにカードをかざしてください」
「は、はいっ」
転生前の『関谷涼』が使用していたというIDカードを呈示し、正面玄関の物々しいゲートをくぐる。
環境省。
自然保護や公害防止といった国のあらゆる環境保全を主任務とする日本の行政機関であり、その名前だけならばまず聞いたことがない人はいないだろう。
会社に入るだけなのに随分な警備だなと一瞬思ったが、よくよく考えたら環境省ってそういうところだからね。仕方ないね。
「環境省へようこそ!失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ!?えと、その、私、関谷涼と、申します。超自然対策室の、じんっ、神宮寺室長と、11時に、お会いする、約束でして」
そして結局はこうなる。緊張ってレベルじゃねーぞ!
「超自然対策室の神宮寺でございますね、かしこまりました。それでは、あちらにお掛けになって少々お待ちください」
受付の女性はどもりまくる自分を気にも止めず、笑顔のまま電話を繋げる。そして約束内容の確認後、エレベーターから応接室までの道案内をしてくれた。
俺が今いるのは「第3応接室」と書かれた扉の前。
ひょっとしたら今日の機会に対策室のなかへ入れるかもしれないという期待があっただけに、面会場所が普通の応接室というのはちょっとだけ残念な気持ちもあったが…
されどこの扉一枚を挟んだ先には、あの神宮寺室長がいるのだ。それを考えるとようやく俺も転生者らしいことができているよな、うん。
さぁ、今度こそ緊張することのないように大きく息を吸って__
「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ、エホッ」
……気を取り直して、俺は扉を三度ノックした。
「はい、どうぞ」
「失礼します!」
このやり取り、そして所作は前世の就活を思い出させてくれる。
俺は面接というものが死ぬほど苦手だった。
待合室に流れる独特の空気感。
人となりを徹底的に吟味されるような面接官の視線。
「緊張してる?」そう問われた回数は両手に収まらず。
3分間の自己PRが事故PRと化したこは今も記憶に新しい。
…もう一度言おう。俺は面接というものが死ぬほど苦手だった。
だがしかし恐るることなかれ。俺がこの場所に赴いたのは、決して就職活動をするためなどではない。
入院中に母から伝えられ全く実感は無いのだが、元々この世界を生きていた自分__『関谷涼』は、生前から対策室で働いていたのだ。
在籍があるってことは、俺の扱いは長期休職からの"復帰"になるはずで、まさか改めて面接を受けさせられるなんてことはないだろうさHAHAHA…
「本当にお久しぶりね、涼くん。ひとまずそこに掛けてくれるかしら」
「はい、わかりまs……えっ」
そうして座るよう促された椅子は、ドアを開けてすぐ近くの場所にぽつんと備わっていた。そして反対側には、二度目の邂逅となる室長と桐さんが控えていて。
その距離おおよそ5メートル。
ナンヤコレイッタイ…お互いの心の距離かな?
俺はてっきり、机一つ分の距離感で和やかにお話しするものとばかり思っていたのだが…
__節子、これお話やない。面接や。
そんな清太の声が聞こえてきた気がしたが…まだだ、まだ終わってない。
きっとこれは面接なんかじゃない!そうに決まってる!!
「容態の方は、あれからどうかしら?」
「は、はい!お陰さまで体の方は万全です。医者からは後遺症なども残らないだろうと言われています」
「それを聞いて安心したわ。貴方が入院して直ぐに面会した時は、話すどころじゃなさそうだったから」
「あはは…そ、そうですね」
そういえば二人と初めて遭遇したときは錯乱してナースコール連打してましたね自分……もうあの時のことは忘れさせてくれぇ!
い、いやでもほら、室長も和やかな感じで会話してくれてるじゃん!どうやら最悪の想像は杞憂に終わりそうd__
「さて、それじゃあ本題に入りましょうか」
「あっ……はい」
ダメみたいですね…
神宮寺室長の声がワントーン低くなるのを、俺は聞き逃さなかった。
「退魔業界は万年人手不足ということもあって、いまは猫の手も借りたいような状況よ。それにあたって、貴方の復帰が間近に迫っているのだけれど…そのなかで私たちにはひとつ、大きな気掛かりがあるの」
「き、気掛かり…ですか?」
言葉を問い直すと、室長は二階堂桐に向かってひとつ頷く。
「関谷涼、現在の貴方は記憶喪失という大きなハンデを抱えています。このまま復帰をしたところで、以前の業務をこなすには支障をきたす部分が多々あることでしょう」
彼女は一歩前に躍り出て、グサグサと俺の急所を突いてきた。原作でもそうだったけどこの人容赦無さスギィ!
「もう、桐ちゃん。直球過ぎよ」
「…はい、失礼しました」
「…だけど、結論だけを掻い摘めばそういうことになるのかしら。つまり、私たちは貴方を対策室に復帰させるかどうか…その判断をしかねているの」
室長は室長で一瞬フォローを入れてくれたかと思いきや、猛烈な勢いで谷底へ突き落としてきた。
さ、さすがは噂に違わぬ二人だぜ。
防衛省のお偉方と対峙して、一歩もひけをとらなかっただけはある。でもその矛先を俺に向けるのはやめてね。ただでさえクソザコな俺のメンタルがズタボロになっちゃう!!
「それにね、涼くん。貴方の所属は桐ちゃんと同じ対策室"総務班"になるのだけど、私たちはあくまで対悪霊最前線の組織。
だから、処理班に同行して現地に赴いてもらう機会も多々出てくるはずよ。そうよね、桐ちゃん?」
「はい、頻度としては週に一度から二度…といった所でしょうか」
なおも続く二人の言葉に、黄泉や神楽が悪霊と戦うシーンが思い浮かぶ。あの場に霊能力ゼロと云われる自分が紛れ込んで、果たして本当に上手くやっていけるのかということだ。
「我々が行う仕事は世のため人のためといえば聞こえは良いですが、その実あらゆるものを犠牲にする必要があります。
もし生半可な覚悟でこちらの業界に飛び込めば…そこに待ち受けるものは"死"あるのみです」
し…死ぬの!?そこまでヤバイ仕事なの!?
い、いやでもあながち否定はできんぞ。
アニメ第1話を参考にするなら、目下エリートの
「桐ちゃんの話はちょっと極論だけど、決して間違っているとは言えないわね。
私自身の経験則に基づくなら、戦いの中で涅槃に旅立つ人を見送ったのは一人や二人じゃない。油断は命取りという言葉があるけれど、たとえ全く油断をしていないような状況でも、対峙した相手によっては命を落とすことだってありえるのよ」
室長たちの言葉は、俺にとっては実に異質なもの続きで…少なくとも今の時点では『はいそうですか』と受け入れられるようなものではなかった。
この二人は年齢だけみれば自分とそこまで離れているわけではない。しかし生まれついての環境や修羅場を掻い潜ってきた経験などは、まるで赤子と大人のような差があるということをまじまじと感じさせられた。
「……ちなみに、だけど。今ならまだ来た道を引き返すこともできるわ」
「え…?」
「つまり、この業界からいっさい足を洗って堅気に戻るということよ。それは決して恥ずべきことではない。あえて身を引くという選択だって、一つの勇気を持った決断には違いないの」
言葉を失うほど叩きのめされた直後に、室長から示された道筋。それは、カンダタに垂らされた蜘蛛の糸のように、地獄から天国へ導かれる御仏の導きに見えて…
俺は心の底で、その光り輝く糸に縋りつきたいという衝動に駆られていた。
「それらのことを全て鑑みた上で…改めて問わせて頂戴。
貴方はこちらの世界へ、もう一度戻ってくる覚悟がある?」
そうだ。今までずっと平和な暮らしを享受していた人間が魑魅魍魎の蔓延る異世界に放り出されて、突然ヒーローのような活躍が出来るわけがない。
力無きものが剣を握るには、相応の覚悟が必要でなければならない。果たして俺には、そこまでの強い思いというものが存在しているのだろうか。
「室長…あの、その……」
__自分には、無理なのかもしれません。
その言葉が、喉元寸前まで出かかった時のことだった。
『おいで…神楽』
『いくよ…黄泉』
頭によぎったのは、喰霊-零-第12話の…文字通り最後の場面。
『あなたが、私の最後の宝物』
変えられぬはずのあの結末を、それでも変えたいと思った。それがすべての始まりだったはずだ。
あれから幾多もの年月が流れてしまったが…ひとつの奇跡が起こり、俺は今この場所にいる。
それは一体、なにを意味しているのか。
ここであっさりと引き下がってしまって、本当にいいのか。
自分自身にそれを問いかける。
どうしようもなく理不尽な運命。決して変えられることのない宿命。見えない十字架を背負わされ続けた諫山黄泉という人物の一生は、不幸などという陳腐な言葉ではとても言い表しきれない。
そして…
『私の本当の望み、本当の願い…それは、神楽。あの子を守りたい』
『お願い、あの子を守って。不幸を消して。災いを消して……たとえそれが、私自身であったとしても…!!』
転生して半年近く経った今でも、黄泉の最後の独白を一字一句として忘れたことはない。
大切なものを悉く失い、どこまでも報われることのなかった彼女は…それでも自らの命と引きかえに、最愛の妹__神楽を守ろうとしたのだ。
……ふざけんな!!!!(声以外も迫真)
そんな悲しいことがあるかよお前なぁ!
最後の最後まで自分を犠牲にし続けて、その果てに最愛の妹に殺される道を自ら選ぶ…って、それあまりにも酷すぎんだルルォ!?もうちょっと救いがあったってinじゃねーの!?大切なものが何一つ欠けることなく、幸せに生きる未来があったって誰も否定できねえよなあ!?!?
…そう思うわけである。
そして俺も俺だ。室長たちから圧を受けたくらいで、なに揺らぎかけてんだって話だよ!!
お前の喰霊や黄泉に対する想いはそんなものなのか?この世界の歴史を変えるこの上ないチャンスを掴みかけているにも関わらず、それをみすみす捨ててしまうというのか!?
否ッ、それでいいはずがない!!
二人が憎しみあって、傷つけあって…そして最後にはどちらかの胸に血が流れる宿命なんて、俺は絶対に認めない。
認めるわけには…いかない。
俺は一度呼吸を整え、室長に向き合う。
そして、ゆっくりと自分の思いを吐露し始めた。
「あの…実は少し前に、対策室への復帰について両親とも話をしていたんです。そこで、お前は退魔師としての能力が著しく低いって…そう言われて」
退魔師としてはエリート階級にあたる両親の元へ転生しながら、その実力はゼロ。
また、既に成長しきった人物に憑依するような形で転生したことから、恐らくは少年漫画のように落ちこぼれから爆発的な成長を見せるということもできない。
「それに加えて、
室長は俺の言葉を遮るようなことはせず、ただこちらをじっと見据えていた。
「__だけど、そんな俺でも、なにか出来ることがある筈なんです」
今一度、自分自身に問いかける。俺はいったい何のために、そして誰のために転生した?
「たとえ記憶が戻らなくても、退魔師としての素質に優れていなくても…
黄泉に、生きていてほしい。そして、幸せになって欲しい。
アニメでも漫画でも叶えられなかった俺の切なる願いは…ともすればこの世界でなら実現できるのかもしれない。
そして、もしハッピーエンドの可能性が転生者である俺自身にかかっているのだとすれば……
__俺がこの世界で為すべきことは、決まっている。
「だから俺は…俺は、どうしても対策室で働きたいです!!このとおり…お願いします、室長!!」
その言葉に、嘘やはったりは無かった。これが俺の真意なのだ。
頭を深く下げると共に、まっすぐ自分の想いを伝える。
「…そう。それが貴方の気持ちなのね」
そして…数秒の沈黙が流れ、それまでずっと神妙な面持ちを覗かせていた室長は、ふっと息を吐くように笑顔をのぞかせた。
「おめでとう。合格よ」
「………へ?」
自分でも分かるぐらいアホな声が出た。この人いま、なんてった?
「桐ちゃん、説明をお願いできるかしら」
「承知しました。関谷涼、実は今回の面談は、あなたの真意を伺うためのテストだったのです。」
真意を伺うテスト…?え、なにそれは(困惑)
急展開に全くついていけない俺を尻目に、二階堂桐は粛々と説明を進めていく。
「一介の退魔師たるもの、他人の言に惑わされてばかりでは己の責務を果たすことはできません。
そのため、貴方に対してはあえて揺さぶりをかけるような問いかけを繰り返し、本当に対策室で勤務をする覚悟があるかどうか…それを試させてもらったという次第なのです」
そこまで聞いて、俺はようやくすべてを理解した。
つまりこれ、圧迫面接だったのね。
「ハハァ…」
へなへなと肩の力が抜けていくのを感じる。もうほんっとにビビりまくってたんだぞぉ!
「つ、つまり室長のアレとかもあえて威圧的にやっていたと…そういうことだったんですね」
「ええ、そのとおりよ。いつもと違って、ちょっとだけ厳しめにいかせてもらったわ」
ちょっと?あれでちょっとなの!?いやいやいや誰がどう見ても迫真すぎたから!
「……はい、そうでしたね」
ほら隣にいる桐さんもいま変な間があったじゃん!絶対俺と同じこと思ってるって!!
「なにはともあれ、騙すようなことをしたのには違いないわ。色々と心無い言葉も浴びせてしまって…本当にごめんなさい」
「私からも謝罪します。申し訳ありませんでした」
「い、いえそげなことは…ぜ、全然気にしてないですから…」
いや嘘つけ俺ぇ!気にしまくるわこんな怒涛の展開よお!この数十分の間に言われまくったこと2週間は引きずる自信あるぜこちとらよお!!
だけどそんな心の叫びも、時には抑えることも大事やで。それが大人への一歩やで、ええ。俺はそれを心の師匠からしっかり学んだからな。
「それじゃあ、改めてになるけれど…来週付より、超自然災害対策室総務班への正式な復職を命じます。これからの活躍に期待しているわね」
「は…はいっ!よろしくお願いいたします!!」
世間には、こんな格言がある。
『終わりよければすべてよし』
たとえどんな醜態を晒そうとも、結果さえ伴ってくれれば過程はどうだっていいのだ。
半泣き状態にされても諦めなかったおかげで、俺は対策室という新たな居場所を手に入れる事が出来た。実質的には働いてもいないのにクビにされかけたことを鑑みれば…それだけで十分すぎた。
ちなみにだけど、その後に執り行われた復帰に際しての書面確認などは、僅か5分足らずで終わった。車で言えばセルシオぐらい早かった。はえーよぉ、はえーんだよぉ!!
…とにかくこうして、転生以来一番の山場を乗り切った俺は。
今にも膝から崩れ落ちそうな体を必死に鼓舞しながら、這う這うの体で環境省を後にするのだった。