こちら環境省超自然災害対策室総務班でございます!   作:パプリオン

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喰霊の小説を書く上で最も難しいのは、黄泉の口調を忠実に再現することだと思う。



episode 7 初日

室長たちと地獄の面接を繰り広げたあの日から、はや数日。

 

週明けのこの日は俺にとって記念すべき、対策室への『復帰』当日である。

復帰…とは言うもの、この世界でずっと生きてきた"自分"の記憶は未だ流れ込んでいない。そのため、実在する対策室をこの目にすることも、そこで働くという事実も…あらゆることが俺にとって初体験になるわけだが。

 

__環境省、超自然災害対策室。

この扉を一枚挟んだ先には、俺が10年間待ち望んだ光景が存在している。

 

「すー、はー、すぅぅぅぅゲホッゲホッウ゛ォエ!!」

 

口はカラッカラ、心臓もバックバク。

深呼吸したら猛烈な勢いでむせ返る程度には、俺の精神状態はまともでなかった。

 

堪えきれずに先ほどコンビニで購入したペットボトルに口をつける。ゴキュリ、ゴキュリという擬音が出そうな勢いで、500mlのうちおよそ半分を一気に飲み干した。

多少の水分を口に含んだ所で平常心を取り戻せる訳もないのだが、それでもショート寸前の思考回路をある程度回復させることができた。

 

あれだけの想いを室長にぶつけて、俺は今この場所に立っているのだ。今さら後に引き返すことなんて…できないよな。

 

よし、第一声を頭のなかで復唱して。

 

俺は意を決し、対策室の扉を開けた。

 

「おはようございますっ!!」

 

緊張、感動、興奮、不安。

数多の感情が入り交じる中で出来うる、全力の挨拶だ。

 

……

 

しばしの沈黙。

それからややあって、この場に居た男性陣から反応が上がる。

 

「お久しぶりですね。お体の方はすっかり良くなったみたいで」

 

「は、はい!まあ何とか、奇跡的に回復することが出来まして…」

 

飯綱紀之。

管狐という霊獣を使役する飯綱家の末裔。俺が死ぬほど好きな諫山黄泉とは婚約者の仲で…個人的には複雑な思いを持たざるを得ない人物ある。イケメン。高身長。モテそう。

てか、なんで敬語?

 

「そいつは良かったっすね。ちなみに記憶喪失って話も聞きましたけど…そっちの方は?」

 

「あ、実はそちらの回復はからっきしで…だけど皆さんの名前とかはちゃんと分かっているので…あはは」

 

二枚目半という言葉が似合う短髪の彼は、桜庭一騎。俺が死ぬほど好きな諫山黄泉に惨殺された男だ。

いやだから、なんで敬語?

 

…ここで、二人の年齢を確認してみよう。

 

飯綱紀之…18歳

桜場一騎…18歳

 

超年下じゃねぇかお前ん家ぃ!!

わっっか!アニメ放映当時と年齢差逆転してんじゃねぇかわっっか!!!

かつて見上げるほど大人に見えていた二人が、10年の歳月を経て年下になっちゃいました…ってウッソだろお前www

 

「ナブー久しぶりまして」

 

「ナブーも久しぶりんトゥルルン」

 

「えと…お久しぶりです、ナブーさんと…ナブーさん!」

 

圧倒的なキャラの強さと独特の言語センスを併せ持つナブーさん兄弟は、どこまでも瓜二つでまるで見分けがつかなかった。見た目と声だけでなく動作もほぼシンクロしているし、もし原作知識が無かったら100%混乱させられる登場人物だといえよう。

 

…そして、混乱させられるという意味では、この対策室にはヤベー人物がもう一名存在している。

その男性はスーツ越しでもわかるガタイの良さで、先程から俺に熱い視線を送っているこの人。

 

「久しぶりじゃねーか関谷。お前が居ない半年間、淋しかったぞ…凄くな」

 

岩端晃司。元自衛隊かつ傭兵。その腕っ節の良さと霊視能力を買われ、叩き上げで対策室の一員となったベテランの退魔師である。

そこまでは良い。大変すばらしい肩書だと言えよう。

問題は…この人がノンケだって構わずに食っちまう”そっち系の人である"ということなんだよね。

 

「岩端さん、ご無沙汰してます…いろいろと心配をおかけしまして」

 

当たり障りのない返答でやり過ごそうとしたが、そうは問屋が卸さない。岩端さんはおもむろに立ち上がり、俺の体を撫で回してくる。

 

「えっそれは…」

 

「どうやら、体の方はちゃんと完治してるみたいだな」

 

ああ、けがが治ったのかを直接触って確かめてくれたのね。

それにしてはじっくりねっとりと手を這わせているように見えるのは、私だけでしょうか…?

 

「そうですね…でも記憶の方はまだ戻っていないので…また迷惑をかけるかもしれませんが」

 

「安心しろ、そんなこと誰も思わねえさ…けどその様子じゃ、俺と過ごしたあの夜の日のことも、すっかり忘れちまったみたいだな」

 

……おファッ!?!?!?

そ、それは本当か!?(動揺)

 

…いやしかし、絶対に無いとも言い切れないぞ。岩端さんはそっちの人だし、恐らく俺は()()()()()()女っ気なぞ欠片もなかったはず。

そこから導き出される、2人の関係とは__

 

男同士、二人きり。何も起きないはずがなく……

 

「あ、あの!まさか今のお話は、ほ、本当なのですか?」

 

「どうしたんだ関谷、そんな涙目になって…事実に決まってるだろ__」

 

「いやそんなわけねえから!!」

 

暴走する岩端さんを止めるかのように、桜庭一騎のツッコミが飛んできた。

 

「ったく、タチの悪い冗談だっての。涼さんもいきなりで戸惑うのは分かるけど、こいつの言うことはあんまり鵜呑みにしなくていいからな」

 

どうやら俺が抱いた懸念は杞憂に終わってくれたらしい。

それにしてもとんでもない冗談を真顔でぶっこんでくるあたり、岩端さん恐るべしといったところだろうか。

 

「桜庭、お前……ひょっとして妬いてんのか?」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

その後流れ弾(意味深)が飛んできて青ざめる彼を尻目に、俺は奥手側に控えていた桐さんの元へと赴く。

 

「お、おはようございます。本日から復帰になりますが、よろしくお願いします」

 

「お待ちしていました。それではこちらに…室長へご挨拶を」

 

「な、なんかちょっと緊張しますね。なんて、へへっ」

 

「……」

 

「あっ…スイマセッ」

 

コミュ障なりに会話のキャッチボールを試みたが、案の定失敗した。こういう時の気まずさは他に類を見ないものがある。

 

「…いえ。確かに初めのうちはそうかもしれませんが、そのうち否が応でも慣れるかと思います。あまり心配しなくてもよいかと」

 

桐さんはあからさまに凹む俺を憐れんでくれたのか、時間差で反応をしてくれた。人間の鑑。

 

「……ああ、それから__」

 

「は、はひっ。なんでしょうか?」

 

「その、恐らく伝わりづらいことは重々承知していますが…貴方の復帰、私自身も心より歓迎しています。これからもよろしくお願いいたします」

 

さらに想定外の言葉を受けて、俺は思わず間の抜けた顔をしてしまう。

 

ああ、そうだった。

初見だとつい彼女に対してクールで冷たいという印象を持ってしまいがちだが、こういう不器用さと優しさを併せ持ってるんだよなあこの人は。

いやほんと、クーデレ感満載で素晴らしいと思います、はい。

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

「えとっ、失礼します。神宮寺室長」

 

所変わって室長室。対策室の一番奥側にあるこの部屋は、アニメでは散々見慣れた場所だったが…現実になると、やっぱりそうそう気安い場所じゃないな。

 

「おはよう涼くん。この日が来るまで長かったわね」

 

「そうですね…改めてになりますが、色々とご迷惑をお掛けしました」

 

「迷惑だなんて滅相もないわ。みんな、貴方が戻ってくるのを心待ちにしていたのよ」

 

「そう言って貰えると幸いです。それから__」

 

以前の緊迫感が嘘のように緩やかな空気のなかで…俺は感謝の思いを伝えるべく、再度頭を下げた。

 

「自分の復帰に際しては色々と取り計らって頂いたと伺いました。本当に、ありがとうございます」

 

「あらあら、お礼を言うのはこちらの方よ…よく戻ってきてくれたわね」

 

慈愛に満ちた室長の目は、いつからか真剣なものに変わっていて。

 

「記憶が戻るまでは、悩みや苦労が耐えないでしょうけど、そんな時はいつでも私に相談してね。

一歩一歩着実に。だけど決して焦らずに、よ。

 

…期待しているわ」

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

設定資料集で目にした通りの空間がそこにあって。

その場にはアニメで見た主要人物が一堂に在していて。

極めつけは、その人たちが俺にかけてくれた言葉の数々。

 

対策室に来てまだ10分と経っていないのだが、一先ずここまでの感想を述べさせていただきたい。

 

………ウウッヒョオアアァアアアすげえええええええ!!!!!

すごいすごいすごすぎるッッッ!!これが落ち着いていられるか!?いられるわけねえよなぁ!!

キエエエエイッ!この感情を漏れなく表にぶちまけたいッ!!対策室中を大声で叫びながら走り回りたいッ!!

もし俺に理性という名の良心が存在していなければ、間違いなくその狂気を実行に移していたことだろう。いやほんとに、それぐらいに凄いことなんだよこれは。この想いが全国1000万を超える喰霊ファンの皆さんに届きますように!!

 

 

 

「関谷涼、聞いていますか?」

 

「はっ!?…はい、すみません」

 

心中躍動するもう一人のボクを雁字搦めに押さえつけ、桐さんに向き直る。

職場内の説明を受けてから自分の席を教えてもらい__本来原作では存在しえなかった場所に新たなスペースが用意されているという原作との改変点にある種の感慨深さを噛みしめながら__備え付けのパソコンを起動した。

 

「勤怠と業務予定表はこのフォルダに入っています。勤怠に関しては翌日朝の10時までに入力してください」

 

「はいっ」

 

「…ここが予算のフォルダです。貴方にはまず伝票処理から始めていただくつもりですので、時間があるときに過去の資料を確認しておくように」

 

「はいっ」

 

「それで、伝票の作成についてですが…先取ってショートカットを作成しておきました。デスクトップからこちらをクリックして…そうです」

 

「はいっ」

 

「詳細な業務の手順については予めメールで送っていますが、少しわかりづらいので口頭でも説明させて頂きますね」

 

「はいっ」

 

いや「はいっ」しか言えんのか猿ゥ!こんなアホらしい…辞めたらこの仕事?

でも違うんや。これはな、誰でもそうなるんやって。

 

俺だって決してやる気が無いとかそういう訳じゃないんだよ。

むしろモチベーションだけで言ったらこの場にいる誰よりもあると自負している。

 

しかし冒頭にも言ったが、「二十余年喰霊の世界で過ごしてきた自分自身」の記憶が一切流れてこないこの状況。俺だって前世じゃ多少なりとも社会人経験があったものの、勤め先が違えば同じ業務でもそれを進める手順というのは千差万別で。

記憶が戻らない以上、俺は当分の間桐さんから手とり足とり仕事を教えてもらう必要がありそうだった。

 

「飲み込みが早くて助かります。この調子でどんどんいきましょう」

 

「はいっ!」

 

…これはこれで悪くねーな、うん。

 

 

 

午前中一杯を使って業務上のガイダンスを聞き終え、その次に待ち受けていたのは関係部署への復帰挨拶回りだった。

 

省内にある対策室管下の部署は、処理班と総務班の他にも数多存在している。

…らしい。俺もそこまでマニアックな知識は持ち合わせていなかった。

 

悪霊被害を事後鑑識する調査班や、特異点の分布図を作成する観測班など…"超自然災害対策室"の冠が伊達ではないことを改めて思い知らされたよ。

 

でそのせいもあり、省内の部署を全て回り終える頃には日もすっかり暮れていて。

 

「あっ、涼さんだ!ようやく復帰したんだね、お帰りなさい!」

 

「えっ!?あっ、こっ、こっ、こんにちはぁ……」

 

オフィスに戻るとちょうど神楽が対策室にやってきていた。彼女はまだ14歳で当然学校に通っているため、緊急時以外はいつもこれぐらいの時間に来ているのだろう。

勤務体系はバイト扱いだったと記憶しているが、もし時給800円とかだったら今すぐ労基に駆け込むんだぞ。

 

…話がズレた。ともかく神楽が来たということは、必然的に同じく学校へ行っているはずの彼女ももうすぐここへやって来るということを意味していて__

 

「おーう!」

 

「わあえあおあああ!!??」

 

突然後ろから肩をぽんと叩かれ、その人物の正体を即座に認識した俺は…それとほぼ同時のタイミングで飛び上がった。あまりにも早すぎるフラグ回収である。

 

「ん、涼にしてはナイスリアクションじゃない。いつからそんな面白い反応するようになったの?」

 

俺がこの世界で愛してやまない少女__諫山黄泉は、意外そうな声を上げ、まじまじとこちらを見つめてきた。

 

「あっあっ…」

 

彼女の特筆すべき魅力の一つに、この目力の強さが挙げられる。

確固たる信念と覚悟を併せ持つその瞳は、眩しすぎるほどの輝きを宿していて。

俺なんかが目線を合わそうものなら、前回しかり今回しかり『ダメ…見ないで、見ないでぇー!(羽黒並感)』となってしまうのである。

 

「そう言えば今日だったんだ。とりあえずは復帰おめでとう…で、良いのよね」

 

「おふっ、い、いやその、う…うん!ソウダネ。んんっ、そ……そうだね!」

 

「怪我の方はちゃんと治してきたの?ほら、前会った時に聞きそびれちゃったじゃない」

 

「ははははいっ!その、おっ、おか、お陰様で……」

 

「なら良いけど…っていうかあの時いきなり逃げ出したでしょ?もっと前にお見舞いに行ったときは気絶するし、神楽と一緒に心配してたんだから」

 

「いやっ、それはえっとその、それらのことには、なんていうかいろ、色々な事情があって…いえ、ありまして…」

 

転生を夢みる皆さん、これが現実だ。

仮に神様からチート能力を貰って、顔面偏差値70超えの最強キャラに転生していたとしても…憧れの人物を前にすれば、誰だってクソザコ転生者に成り下がってしまうのだ。

 

 

 

そして黄泉の言うとおり、初めての遭遇時には即気絶。前回偶然にも出会った際は、一言も発することが出来ず涙を流しての撤退。

そして今、この瞬間も…俺は緊張と動揺のあまり、ロクに言葉が発せない状況に陥ってしまっている。

 

 

__しかしながら。

 

 

惨敗の歴史を繰り返し、同じ過ちを繰り返す可能性を自覚していても尚、それでも黄泉と会話を交えたいと…内なる心がそう叫ぶのだ。

それができなくとも、せめて彼女と"挨拶"くらいは…"これからよろしく"という思いは、面と向かって伝えたいのである。

 

一歩を踏み出すんだ、俺。

今日だってここまで、黄泉以外のそうそうたる面子を前にして、臆せずに喋ることができたじゃないか。

 

「あの、えと、その、改めてに、なる、なりますけど。どうか、よ、よろしく、お願いします……黄泉」

 

う、うわあああすげえ!!!

ついに生の黄泉に喋りかけちゃったよ俺!!!

もうわが人生に悔いなしだよ死んでもいいや!!!

 

「「「……」」」

 

え、ちょっと待ってなんか一瞬にして空気が凍ったんだけど。

寸前まで無邪気な笑顔を覗かせていた黄泉はみるみるうちに表情を一変させ、他のみんなも此方を見ているわけではないが明らかに動揺の空気が走っている…?

一体皆どうしちゃったのよ。なんか俺がとんでもないこと口走ったみたいな空気になってない?

 

「あ、あれ…なんか俺、へ、変なこと言っちゃった…かな」

 

戸惑う俺にいち早く反応してくれたのは、黄泉に後れて対策室にやってきていた神楽だった。彼女もまた、他の皆に倣うかのような表情で。

 

「だって涼さん…聞き間違いじゃなかったら、黄泉のこと名前で呼ばなかった?」

 

な、名前?そりゃ名前は呼ぶでしょ"黄泉"ってさ。元の世界じゃ妄想で何度連呼したことか分からんぐらいの話であってだな……

 

あん?名前で呼んじゃった?

 

「あっ……」

 

う、うわああああああやべえええっっっ!!!

これはやらかした!!!

死んで詫びるレベルのやつだ!!!

 

少し考えてみれば、分かることだった。

転生者である俺が憑依する前の自分__『関谷涼』が、現実に存在する彼女を「黄泉」と下の名前で呼べていたはずがないのだ。

そんなコミュ力あるやつが黄泉の隠し撮り写真を部屋中に張りまくったりは絶対しない。

 

つまり…俺は黄泉のことを、「諫山」。

いや「諫山さん」と、そう呼ぶべきだったのだ。

 

「ごっ、ごごごめん!いさっ、諫山さん。諫山さんだよね俺ったら何を血迷って名前呼びとかしちゃったんだろうねアハハ……」

 

慌てて前言を取り繕おうとするが、時すでに遅し。

こういう肝心な時に限ってやらかしてしまうのは生前から変わらないところだが、さすがにこの状況下では草も生えないどころか除草剤で全滅レベルだ。

 

キモオタ変態ストーカーに名前を呼ばれる黄泉の気持ちを考えてみろよ。これはもう確実に嫌われましたね…素直に絶望しました。退魔師辞めます。

 

「…いや、別にいいわよ。黄泉って呼んでも」

 

ほら聞いたか?名前で呼んで良いってさ。それじゃあ俺はここから飛び降りる準備を……ってヴェエエエエッ!?!?

 

「私は涼の事を元々名前で呼んでたし…ほら、分家同士なのよここの繋がりは。だから今に始まった付き合いじゃないってわけ」

 

どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。

…つまり彼女は、本人を前にして名前呼びすることを認めてくれたらしいのだ。

 

「い、いや、で、で、でもそれはそんな…余りにもお、恐れ多いことだし…」

 

さっきは完全に無自覚だったからやらかしてしまったが、よくよく意識すると滅茶苦茶勇気が必要になる行為である。

どれくらい必要かといえば大坂の陣の真田軍くらい勇気が必要な行為である。

 

「恐れ多いって…私をなんだと思ってるのよ?」

 

えっそりゃ神様よりも尊い存在でしょ(真顔)

 

「…と・に・か・く、今までが他人行儀すぎだったのよ。ね、神楽」

 

黄泉から話を振られた神楽は、阿吽の呼吸で優しげな笑顔を覗かせて。

 

「うんうん。これからは私のことも、"土宮さん"じゃなくて、神楽って呼んでくれていいからね!」

 

 

ああ…

 

 

あああ……

 

 

天使や…!天使がおる…!

 

 

しかも二人おる…!!

 

 

あったけぇ…あったけぇなぁ退魔シスターズ。

 

 

 

 

 

それから先の時間は、実にあっという間に感じられた。

 

「今日も一日お疲れ様。引き続き明日もよろしくね」

 

「はーい」「ういーす」

 

俺にとってはあまりにも非現実的な日常。しかしその日常がこの先ずっと続いていくことを考え始めると、今日もまた眠れなさそうだ。

俺はしみじみとそんな思いを馳せながらながら、帰り支度を始めていると__

 

「どこへ行こうというのですか」

 

桐さんに止められた。え、なにその口ぶりはムスカ大佐かい?

 

「どこへって…お、おうち?ですけれど…」

 

「ひょっとして、この後のことを忘れてしまっているのですか?」

 

彼女の声色は呆れたと言わんばかりのもで…それに加えて、周囲のやれやれといったような視線が刺さる。

しかし恐らくだが、俺は本当に何も聞いていない。少なくともこちらの世界に来てから誰かの話を聞き漏らすなんて()()()()()()を、俺がする筈がないのだ。

 

「これから貴方の復帰歓迎会ですよ」

 

それだけで事足りるかのように、桐さんはにべもなく言い放った。

 

「え?ふ、復帰…」

 

「歓迎会です」

 

いや、別に言葉を聞き取れなかった訳ではないのだけど…

 

「あのそれ…初耳なんですけど」

 

「まさか。室長より、事前に連絡を受けているはずですが」

 

俺と桐さんの視線が同じ一点に合わさる。その視線の先にいた当人は、あっけらかんとした表情を一切崩すことなく。

 

「あら、そういえばまだ言ってなかったかしら。ごめんなさい」

 

いやごめんなさいで済んだらコミュ障は存在しないんだよ!初日早々この顔ぶれと飲み会って、ようやく落ち着きかけていた心臓が再び爆音を鳴り響かせ始めているよ!?

 

「…それを伝え忘れていたということは、恐らくこれも初耳になるのでしょうが。貴方には、歓迎会のどこかのタイミングで挨拶をしていただきます。

 

今からでは時間はあまりありませんが…準備のほど、よろしくお願いします」

 

そして隣にいた桐さんは、どこか同情的な視線のまま…しかしキッチリと置き土産の爆弾を残していていってくれた。

ちょっちょっと待ってください!待って!助けて!!待ってください!!お願いします!!! ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!(迫真の叫び)

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

取り敢えず、丸一日をここ対策室で過ごしてみての感想を…改めて述べさせてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の準備、させてーな。

 

 

 

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