こちら環境省超自然災害対策室総務班でございます!   作:パプリオン

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episode 9 土蜘蛛(前)

環境省自然環境局超自然災害対策室。

 

3回繰り返すと早口言葉みたいになるこの職場で、俺は今日もノートパソコンと面を突き合わせていた。

初日こそ盛大にやらかしてしまった自分だが、その後は桐さんからあれやこれやと仕事を教えて貰い、時には処理班のメンバーからもフォローを受け…順調に仕事をこなしている。

 

また、復帰してから既に1週間が経っているのだが、驚くべきことにこの間一度も超自然災害が発生していない。これは悪霊の出現が増加しつつある昨今においては相当な珍事らしく、対策室の面々から『復帰した関谷が厄除け代わりになっているのでは?』と真剣に言われるほどだった。

 

とはいえ戦わなくて済むなら平和が一番!ラブアンドピース!である。

いっそこのまま悪霊が現れなければ、優しい世界のまま終われるんだけどな…

 

「室長!観測班より、特異点を感知したとの連絡が!」

 

……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。

 

 

【Respect】 GAREI-ZERO-  episode04 「務 大義-つとめのたいぎ-」

 

 

「特異点」とは、超自然災害発生時に観測される霊的な磁場のことであり、その地点には往々にして元凶たる悪霊が出現している。これを除霊するのが退魔師としてのお努めであり、ひいては対策室の最重要任務にあたる。

 

桐さんからの報告を受け、対策室の空気がこれまでにない張りつめたものへと一変していく。

後発の情報から、出現した悪霊はカテゴリーB、"土蜘蛛"であるという話を受けて…俺はこの世界が遂に原作の時系列に追いついたのだということを思い知った。

 

「巡回中の紀ちゃんは一足先に現場へ向かっているわ。各自準備が出来次第、出動よ」

 

「「了解!」」

 

室長が対策室の各員に冷静かつ的確な指示を与えていく。

 

「涼くん、黄泉ちゃんと神楽ちゃんにメール連絡。お願いできる?」

 

「は、はいっ。分かりました!」

 

その中で自分に与えられた仕事は、黄泉と神楽に宛ててのメール連絡だ。

これはまだ学生の身分である二人が授業中でも学校を抜け出せるように、召集コードの役割を果たしている。

 

 

……

 

 

『ヤッホー、黄泉チャン!

まだ授業中カナ?悪霊が現れたらしいので、メールしちゃった(^o^)/

今から、車で迎えに行くね!早く黄泉チャンの、カワイイ顔が見たいなあ(^з<)

それにしても、こんな時に悪霊だなんて、ほんとにメイワク(^^;;だよね!

勘弁してほしいよ~(汗)  

そういえばこの前、フレンチの美味しいお店、見つけたんだ!今度、一緒に食べに行こうよ(^▽^)

あ、もちろん僕の奢りだから、お金のことは気にしなくていいからね(笑)

また空いてる日教えてね!おじさんは休日だったらいつでも行けるからね(^_^ゞ

それじゃあ、連絡待ってまーす!』

 

……はっ!

お、俺は一体何をやって…ってなんだこの文章!?

謎の電波に支配されていた俺は、気付けばこの怪文書を書き上げていた。

もしこれを本当に送っていたらと思うと…ゾッとする。下手したら一生口聞いて貰えなくなるわ。

 

『お母様の容態が思わしくありません。至急、病院までお願いいたします』

 

改めて文章を打ち直し、メッセージを送信する。

彼女達の家庭事情を鑑みると少々気が引けるような文面だが、その辺りは二人も割り切っているだろう。

 

「室長、メール連絡完了しました。他に自分ができることは?」

 

「そうね…折角の機会だし、処理班の皆に同行してもらいましょうか」

 

「はい、分かりま…えっ」

 

ま、まさかいきなり悪霊との戦闘ですか?

いやそれにはちょっと心の準備ががが…

 

「落ち着いて涼くん。戦う以外にも、現場でこなすべき仕事は山ほどあるのよ。まずはそこから勘を取り戻していきましょう」

 

つまり直接戦闘には加わらず、事務方として現地に赴きなさいということか。

 

「それではこちらを預けます。くれぐれも、頼みますね」

 

室長の意図を理解し胸を撫で下ろしていると、隣にいた桐さんから特徴的な形をした車の鍵を渡された。

…ちょっと待って。まさか俺に、()()を運転しろと?

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

高機動多用途装輪車両__通称"ハンヴィー"というらしいが…俺は地下駐車場でそのビッグ・モンスターと対面していた。

喰霊-零-では対策室のメンバーが乗っていたことでお馴染みの装甲車だが、現実ではこんな車、動かすどころか目にするのも初めてだ。

 

やはりテレビ越しで見るのと実物を前にするのとでは何もかもが違ってくる。

案の定鍵穴の位置が分からずに右往左往していると、戦闘用の装備を整えた処理班メンバーが追い付いてきた。

 

「おい関谷!車に乗りもしねえで、なに遊んでんだ!」

 

「す、すいません岩端さん!鍵をさす場所が分からなくて…」

 

「あ?…ああ、そういうことか。ホレ」

 

岩端さんは後ろから抱き締めるような形で俺の腕を取り、鍵穴の場所をねっとりと教えてくれた。

ありがとナス!だけどどこ触ってんでぃ!(江戸っ子)

 

その後、岩端さんが助手席に乗ると運転に支障(意味深)が出る恐れありとの高尚な判断が下され、隣には桜庭一騎が乗車してくれた。

結果として最後部列にはナブーさん二人の間に挟まれる岩端さん…というゴツすぎる構図ができあがってしまったが、俺は気にしない。

 

「そんじゃ、まずは諫山たちの回収だな。

ナビの行き先は俺が設定しとくから、運転はよろしく頼むぜ」

 

「あ、ああ。ままま任せてくれ」

 

…あの、言い忘れてたんですが普通車のAT限定免許でもこいつ運転できますかね?

 

「…まあ、大丈夫だろ。いつも乗ってる車がちょっと大きくなったと思えば」

 

せ、せやな。しかし普通の乗用車にはこんなたくさん機器類が取り付けられてることはないんだよなぁ…

 

「えと、エンジンスタートは…これかな」

 

「おっと、そのボタンは押さない方が賢明だぜ。町中で機関銃をぶっ放しなたくなけりゃな」

 

「ヒェッ……!」

 

結局、俺はこの勝手知らぬ車を発進させるまでに10分以上費やしてしまい…皆からの若干呆れ気味な視線を受けながら、環境省を出発することになるのだった。

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

ここが黄泉ちゃんの通う高校ですか…ゴクリ。

原作では『諫山黄泉の通う学校』が一度も映されなかったため、俺がこの場所を目にするのは本当に初めてだ。こういった形で当時知れなかった裏の部分を知れるというのは、まさしく転生者の特権である。

なんか興奮してきたな…

 

桜庭の話によれば、なんとこの高校は都内でもトップクラスの学力を誇る私立校であり、黄泉が受験で合格したことは当時ちょっとした話題になったらしい。

強くて可愛くてその上勉強まで出来るとか、これもう非の打ちどころがねえな?

 

改めて彼女の凄さを確認していると、当の本人が小走りでやって来た。

はいもう可愛い。それだけで絵になるんだから凄いや。

 

「みんなお疲れさま。相手は?」

 

「カテゴリーB、土蜘蛛だ。情報によれば通常の倍以上のデカさらしい」

 

「そう…厄介な相手ね」

 

バックミラー越しに、岩端さんと話す黄泉の姿を垣間見る。

彼女とは未だまともに話せておらず、視界に入るだけで心臓のバクバクが止まらなくなる。

恋の病と呼べば聞こえはいいが、その想いは完全に一方通行のため、実質ストーカーみたいなものだ。

オタクを拗らすとこうだぞ!こんな風になっちゃうんだぞ!!(若者への警鐘)

 

「えっと…シートベルトもちゃんとしたから、出してくれていいわよ」

 

「へ…?あっ、は、はい!」

 

完全に気が抜けていた俺は慌ててハンドルを握り、自分に活を入れ直した。

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

ここが神楽ちゃんの通う中学校ですか…ゴクリ。

校舎の造り、グラウンドの広さ、微かに見える教室の様子…黄泉の高校と違い、その光景はかつてアニメで見ていたものと寸分の狂いも無かった。

俺が運転に時間をかけすぎたせいもあったのだろう。神楽は刀袋を右肩に背負い、校門前でこちらの到着を待ちわびていたようだ。

 

「あれ、今日は涼さんが運転手なんだ?」

 

「う、うん。直接戦闘はまだ許可されてないんだけど、一応皆のサポート役ってことで」

 

(サポート出来るとは言ってない)が…それはそれ、これはこれ。取り敢えずなんでもやってみようの精神だ。

 

「いつも授業中に呼び出してすまんな」

 

「毎回先生に言うの、気が引けるよ…」

 

「神楽、寝てたでしょ?」

 

「え?」

 

「涎の跡、ついてるよ」

 

「嘘…っ!?」

 

指摘を受け、慌てて口元を拭おうとする神楽。黄泉は笑い声を上げながら、その無防備な姿をカメラに収める。

 

「私の"神楽変顔コレクション"がまた一つ~♪」

 

「もうっ。今すぐ消して、そんなコレクション!」

 

二人によって織り成される、原作と同様の会話。それをこうして耳にできるというのは、まるで歴史的瞬間に立ち会っているような感覚である。

 

「お、おい。急に震えだして、一体どうしたんだよ!?」

 

「さ、桜庭くん…いや、何でもない。

だがしかし、敢えて言うならば…やはり喰霊はいいぞ」

 

「はぁ…が、喰霊…?」

 

「あっ、いや…何でも」

 

うっかり口を滑らせてしまったが、俺にとってはそれ程までの大事(コト)なのだ。

そして自分の記憶が正しければ、事件が起きる。

…この直後に。

 

「最近、超自然災害増えてるよね」

 

「うん。ちょっと悪霊の出現が多いかな。涼の復帰ジンクスも、一週間は持たなかったわね」

 

来たっ…来たっ、来たなぁ!!

 

俺は天啓を得たとばかりに全神経を背後の会話に集中させる。

運転だ?貴様この野郎。そんなもんは後回しだ後回し!!

 

「暫くは静かだったんだけどな。この増えようは、3年ぶりぐらいか」

 

「3年…か」

 

神楽は呟くように言葉を出し、分かりやすく表情を曇らせた。

彼女の母親__土宮舞は、今から3年前に行われた大規模な除霊作戦の折に命を落としている。神楽にとってもそれは拭いきれない過去であり、心の傷は今も癒えることなく残っているのだろう。

そして、落ち込む神楽の姿を見かねて元気付けようとするのが、『世の男性が自分のお姉ちゃんになって欲しいと思う女の子ランキング第1位』の彼女__諫山黄泉なのである。

 

「…最後の一本もーらいっ」

 

「へ?…ああっ!」

 

黄泉は神楽が持っていた菓子箱に素早く手を入れると、抜き取ったポッキーを口に咥えてしまった。

 

「ふっふっふ、油断大敵とはまさにこのことよ~」

 

「酷いよ!黄泉はラストポッキーにどれだけの価値があるか分かってるの?」

 

「だって神楽がぼうっとしてたんだもん。早い者勝ちよ、早い者勝ち。悔しかったらこのポッキーを奪ってみせなさい」

 

そう言って勝ち誇った笑みを見せる黄泉だが、負けず嫌いの神楽もまた譲ることを知らない。

 

「……あむっ!」

 

「んあっ!?」

 

勢いのままに、黄泉の反対側からポッキーに飛びつく神楽。

結果として最後の一本はその両端を二人から食べられることに…!

 

「あむあむあむ……あっ」

 

そのまま器用に一本のポッキーを食べ進めていく二人だったが、やがて神楽の方が動きを止めた。このままではポッキーゲームよろしく唇同士が触れ合ってしまうことに気付いたのだろう。

 

「あむあむ…ふふっ」

 

一瞬の間をおいて黄泉が笑みを浮かべる。

 

 

そして…その時、歴史が動いた。

 

 

「……んっ!」

 

「へ…んんっ!?」

 

目を細めながら、ポッキーの残り部分を全て食べきってしまう黄泉。

必然的に重なる、二人の唇……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キマシタワー!!!!

 

 

 

かつて夢にまで見た光景が、俺の眼下に広がっていた。

 

拝啓 お父さん、お母さん。

私はもうなにも思い残すことはありません。

今この時をもって尊死します。

 

「黄泉、ちょっと待っ__んんー!」

 

逃れようとする神楽の口を再度塞ぐ黄泉。

それだけでは飽き足らず、なんと強引に神楽を押し倒し、足を絡ませ、体をまさぐり……ってうわああああっ!?見えない!見えないいいっ!!

 

ハプニング発生!繰り返す、ハプニング発生!!

 

俺はここまでの様子をバックミラー越しにガン見していた。しかし黄泉が神楽に覆い被さったことで、二人の姿がミラーの視界から外れてしまったのである。

つまりここから先を見るには、直接後ろを振り返らねばならないということ。

 

「ほらほら、神楽の弱点はぜーんぶお見通しなんだからね~?」

 

「あっ…もう止めてよぉ!」

 

「イヤよイヤも好きのうち~」

 

本音を言えば見たい。めっちゃ見たい。首を180°捻じ曲げてでも見たい。

しかし俺とてこのシーンを何十何百回とアニメで見返してきた身だ。それが現実に起きているからといって、己が理性を保てぬほど子供ではないさ。

 

「ちょっ…そこはくすぐったいからぁ…」

 

「え、本当に?くすぐったいのどのへん?ここ?…それとも、このあたりかな?」

 

「くっ、あはははっ…もう黄泉、確信犯でしょ?そこばっかり触らないでよー!」

 

すいませんそこってどこですかあ!?一体どこ触ってるんですかあ!?

 

…い、いや違うんだ。そういうセクハラはたとえ女の子同士でもいけないと思って。だから即落ち2コマで振り返っちゃったのも仕方のないことで…

 

「…!……!!」

 

人は本当に衝撃的な光景を目にすると、言葉の一つも出なくなるという。

 

『黄泉と神楽を安易に百合扱いするのはにわか。二人の本当の関係はお互いを尊重しあっているが故の姉妹愛だから』などと厄介オタクばりに高尚ぶっていた俺も、『やっぱり百合か?百合なのか?にわかだったのは俺の方なのか?百合ーむコロッケばんじゃーい!!』と脳死肯定botにあっさり鞍替えするほどのインパクト。

 

神様、転生した直後に文句ばっかり言ってすいませんでした。これを見れただけでも生き長らえた価値がありました。

俺は心の中で二拍一礼をしてから、脳内の記憶媒体にこの映像をしっかりと書き込んだ。

 

「おおっ、おほぉ~!……ふげっ!!」

 

と、ここでシートから身を乗り出していた桜庭一騎がとんでもない勢いで視界を横切る。

黄泉が繰り出したノーモーションの後ろ蹴りが、彼の顔面を見事に打ち抜いたのだ。

 

「こっち見んな…変態」

 

いやちょっと待て。そのりくつはおかしい。

あれだけセンシティブな場面に一切興味を抱かない男なんて、岩端さんぐらいしかいないだろ!いい加減にしろ!!

 

「…あ、黄泉。もう一人敵がいるみたい」

 

「ん、どうやらそうみたいね。

さて、むっつりスケベの涼くん?何か言い残すことはあるかしら?」

 

「あ、いや、これは、その、違!……ないです。」

 

…と、いうことで。実に!不本意な!ことなのですが!

なにとぞ…なにっっっとぞ私のことも、桜庭と同じようにその美しい御足(おみあし)で蹴り上げてくださいませ!!

覗いちゃったことは死ぬほど反省するんでどうかご褒美をくださ__じゃなかったお仕置きしてください!なんでもしますから!

 

「涼さんの処遇はどうする?」

 

「うーん…罪はかなり重いけど、流石に運転手を蹴り上げるわけにもいかないわよね」

 

ダニィ!?

クソッ、なんてこった!

岩端さん、他意は無いけど今すぐ運転を変わって下さい!そうじゃないと黄泉が蹴ってくれません!いや他意はまったく無いんですけど!!

 

「それじゃあこういうのはどう?お努めが終わったら、彼にジュースを奢ってもらうの」

 

「ナイスアイデア、黄泉!それなら私たちも嬉しいし、一石二鳥だね!」

 

「え!?そ、それでいいの…?」

 

なんだなんだ、その可愛い罰則はぁ!

覗きの罰にしてはあまりに手緩すぎるダルルォ!?

同罪を犯してようやく起き上った桜庭もこれには納得がいかなかったようで、二人に対して声を上げる。

 

「それじゃ俺だけこの仕打ちかよ!不公平だろ!?」

 

そうだそうだ!もっと言ってやれ桜庭ァ!

俺も同じ目に逢わせろー(蹴られたいです)!!

 

『対策室総務班、関谷涼…応答せよ。繰り返す、関谷涼…』

 

「イイッ!?」

 

突然聞こえてきた桐さんの声に、俺は大人げなくびびった。

慌てて声の元を辿ってみれば、それは車に備え付けられていた無線からのものだと気付く。

 

「こっ、こちら関谷涼。只今目的地に向かって運転中。異常なしであります!」

 

『異常なし?ほう…それでは信号のない場所でずっと停車していることも、異常ではないと?』

 

「ええ!?なぜそれを知って__」

 

『対策室メンバーの動向は、たとえ遠距離であっても常時指示を出せるようにするため、全てこちらで把握しています。

…ということは、3日前に教えたばかりのはずでしたが』

 

「あっ…あはは、そういえばそうでしたよね。あははは…」

 

『…』

 

「すみませんでした」

 

 

 

このあと滅茶苦茶クラクション鳴らされた。

 




余談になりますが、喰霊-零-では『公序良俗に反しない範囲で』という前提つきで、ポッキーの商品名と箱デザインの使用許可を得たという裏話があります。
なお、無事濃厚な百合シーンに使用された模様。

監督ヤメロォ!(建前)ナイスゥ!(本音)


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