ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

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5年ぶりくらいに風邪ひきました、死んじゃう。
二章書き終えてた私を褒めてあげたい。
(三章手付かず)


四話 「前世の恨み」

 コガネのセンターで一晩を明かし、迎えた翌朝。

 空一面には青が塗られ、雲一つない快晴が広がっていた。

 

「う……ぅん」

 

 今日はいい一日になりそうだなと思いながら伸びをする。

 天を仰げばポッポが空を飛び、公園を見ればオタチが野を駆けている。

 そんなありふれた一コマが、無性に美しく思えた。

 

「あー、見つけたで! あんたやろ!」

 

「……いえ、人違いです」

 

「まだなんも言うてへんやん!?」

 

 ほら見ろそれ見ろ。

 何気ない日常なんていう物のは、ささやかな平穏なんていう物は。

 その気の無い無遠慮で、こうも簡単に崩れ去るんだ。

 

 私は一瞥したピンク髪の女性から目を離した。

 この人苦手なんだよなぁ。

 

「あんたやろ? 昨日ポケスロンで大活躍した子!」

 

「ポケスロン……? いえ、知らない子ですね……」

 

「嘘つけ!?」

 

 あー、あー、聞こえなーい!

 ムズカシイニホンゴ、ワカラナーイ!

 

 というかそもそもあなた初対面でしょ。

 なにそんななれなれしく話しかけてきてんのさ。

 まったく、これだからコガネの人間は。

 

「うちはアカネっちゅうんや。よろしくな」

 

「知っています。コガネシティのジムリーダー。キャッチコピーはダイナマイトプリティギャル。管理するバッジはレギュラーバッジ、エースポケモンはミルタンク。負けると大泣きする」

 

「待てぃ! 詳しすぎるやろ! あと何で最後の知っとんねん」

 

A secret makes a woman woman.(女は秘密を着飾って美しくなる)

 

「誰がブスや!」

 

 ふぇぇ、だれもそんなこと、いってないんだよぅ。

 ただ秘密ですって言いたかっただけなのに。

 まったく、言葉というのは難しいね。

 

「まあええわ、手間省けたし。それより一つ頼み事聞いてくれへんか」

 

 アカネがそんな風に話すのを見て私は、コガネの人ってジェスチャーもうるさいんだなって思った。

 口は回るし、目は口以上にものを語るし、ジェスチャーは騒がしい。

 歩く騒音公害だ。

 

「あ、すいません。話聞いてませんでした」

 

「なんで!?」

 

「考え事していたので」

 

 今の今まで会話しとったやんとか言いながらも、アカネはもう一度話し始めた。

 ふむふむ、頼み事とな?

 ならば私の答えは一つだ。

 

「お断りします」

 

「えー! ええやん! なんで嫌なん?」

 

「そんな……、アカネさんを傷つけるようなこと言えません!」

 

「その言葉で既に傷ついとるわ!」

 

 理由を言うまでここを動かんからな。

 そういった様子でアカネは立ちはだかる。

 

「理由を言うまでここを動かんからな」

 

「あ、口にした」

 

「思考読むなや!」

 

 はぁ、話が遅々として進まない。

 いつからここは鉄道スレになってしまったのか。

 

 さて、理由か。

 あるにはあるんだけどな、素直に言うのもどうかという内容だ。

 どう伝えたものかな……。

 

「前世の恨み……?」

 

「私前世で何仕出かしたんや!?」

 

 ほら、微妙に食い違う。

 お前は覚えていないかもしれない。

 でも私たちは決して忘れない。

 お前に倒された、何百万ものマグマラシ達のことを!

 

 いや、なんかアカネはワンリキー(きんにく♀)がいれば余裕とかいう人いるけどさ、絶対嘘でしょ、それ。

 普通ジムに挑む前に倒せるトレーナー全員倒して行くでしょ。

 そうしてレベルを上げて、意気揚々と挑み、そこに待ち受けるのはミルタンク。

 

 馬鹿げた火力の転がる。

 その時点では高水準の耐久力。

 それを強化するミルク飲み。

 特に男子なんかだと『メスなんてカッコ悪い』という理由で雄縛りしている場合が多く、皆一様にメロメロの犠牲になったと聞く。

 これらのコンボを前に、数多のマグマラシ使いが敗れ去った。

 

 そして詰みの二文字を予知したトレーナーたちは、一つの情報を共有する。

 『コガネシティにはワンリキーを交換してくれる人がいる』

 その情報に踊らされた人たちは、その人物を血眼になって探した。

 そしてようやく見つければ、その人はスリープと交換してくれるという。

 

 近くの道路へ赴き、足を動かし捜査する。

 十四レベルのスリープをどうにか捕まえ、きんにく♀と交換する。

 交換して得たきんにく♀と共に、今度こそとアカネに立ち向かう。

 そこに待っているのは、ミルタンクのふみつけ。

 

(……あれは絶望だったな)

 

 レベルを上げようにも近くのトレーナーは全員撃破済み。

 ふみつけで即死するきんにく。

 実力で敵わないことを悟ったPlayerたちは、煙幕を駆使した運ゲーによるPrayerとなった。

 その過程でも何匹のマグマラシが死んだことやら。

 

(とにかく、アカネだけは許しておけない!)

 

 つい最近マグマラシを倒した気もするが気のせいだ。

 気のせいったら気のせいだ。

 

「はぁ、話くらい聞いてあげますよ」

 

「お、そうかそうか! いやぁ、おおきになぁ!」

 

「うざ、あ、つい本音が」

 

「あんたもうちょい本音と建て前使い分けや?」

 

 私もアカネも、やれやれと言った様子だ。

 待て待て、なんでお前もそんなしょうがないなぁみたいな顔してんだよ。

 それこっちのセリフ。

 

「まぁええわ。それで頼み事なんやけどな、町で悪さをしとるポケモンがおるんや」

 

「悪さ? それは例えば挑戦者たちを転がるで蹴散らしていくようなポケモンだったりします?」

 

「誰が悪いミルタンクや!」

 

 誰もミルタンクなんて言ってないじゃないですか。

 それなのにその結論に至るってことはそういう自覚があるんじゃないですかね。

 

「まったく、あんたに合わせとったら話が進まへん!」

 

「いやそれ私のセリフです」

 

 そうして二人でため息をついた。

 はぁ、やれやれだぜ。

 

「話戻すで。で、悪いポケモンなんやけど、どうやらゲンガーっぽいんや」

 

「ゲンガーですか。それで、その子は何を仕出かしたんですか?」

 

「そうやなぁ……。例えばある男の子はゲンガーに追いかけられて転んだ。ある女の子はゲンガーを見てから三日三晩熱にうなされたらしい」

 

「へぇ……」

 

 話を聞きながら、私はどうにも胡散臭いなと思い始めていた。

 ゲンガーは影に入り込むことができる。

 故にゲンガーが本気で悪さをするつもりならば、人前に姿を出すわけがない。

 だから私は問いかける。

 

「それ、本当にゲンガーが悪いんですか?」

 

「どうやろな。ポケモンはまだまだ分からんことが多いし、もしかすると無関係かもしれん。せやけど――」

 

 アカネがこう続ける。

 

「町のみんなが不安になっとるのは、まぎれもない真実なんや。せやったら、それを解決するのがウチの仕事や」

 

 あんたもそう思わんか?

 そうアカネが私に問い掛けてきた。

 

(……ジムリーダーとしての、在り方……か)

 

 思えば私は、この人物をゲームの中のキャラクターとしてしか知らない。

 わがままで、自由気ままで、傍若無人で……。

 おんなじ要素しかなかったわ。

 とにかく、私は目の前の人の事を、架空の存在としてしか知らない。

 だが目の前の存在は、今確かに生きている。

 

(今回くらい、話を聞いてあげてもいいかもね)

 

 言ってしまえば、私は彼女に対して偏見を抱いていた。

 だが今の言動を見る限り、私が描いていた人物像とは微妙に食い違う。

 ならば一切合切のフィルターを排し、この両の目で真実を見極める。

 それくらいしてもいいかもしれない。

 

「分かりました。しかし私が協力できるのはゲンガー捕獲までです」

 

「ほんまか! おおきに!」

 

「で、いくら払えますか?」

 

 二人の間に、沈黙が訪れた。

 

「え? お金かかるん?」

 

「当たり前でしょう。私は別にボランティアじゃないんです。取るところはきっちり取りますよ」

 

「ポケスロンのやつは?」

 

「あれは私がやりたいからやったんです。一方今回は、望まない仕事を押し付けられているんです。そりゃ金取りますよ」

 

 そういうとアカネはぐぬぬと唸っていた。

 ケチ臭いなぁ。

 ジムリーダーなら結構な収入あるでしょうに。

 数十万単位でポンと出せないの?

 

「これでどうや!」

 

「……この話はなかったということに」

 

 アカネが提示した金額は三千円。

 やっす。

 バカにしているのか。

 

「ちょ、ちょい待ち! ウチも上から叱られてんねん! このままじゃヤバいんやって!」

 

「はぁ、だったらここは値切ろうとする場面じゃないでしょう。押すときは押さないと、後でしわ寄せが来ますよ?」

 

「う、ぐぎぎ。せやったらこれでどうや!」

 

 そういってアカネは五万円を提示した。

 前に出した三千円はきっちりと財布に戻しているあたり底が見える。

 

「もう一声」

 

「……これが限界や! これ以上は出せへん!」

 

 そういってアカネはさらに三万円上乗せした。

 本当にこのあたりが限界なのだろう。

 

(ちょうど旅費稼ぎたかったし、いい機会かな)

 

 今後の予定を概算し、損得勘定をする。

 余裕でプラスだな。

 

「分かりました。私の名前に掛けてゲンガーを捕獲することを誓います」

 

「そこはおじいちゃんの名前に掛けへんのか」

 

「ガンテツの名はそんなに軽いものじゃないんですよ」

 

 そう言って私は両手でほっぺたを叩いた。

 よし、気合入った。


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