ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

14 / 31
そういえばコガネ弁は適当です。私自身関西の人じゃないので。
刀狩りの張と同じく正しい関西弁より分かりやすいエセ関西弁採用ですのでご理解お願いします。


終話 「まるで詰将棋だな」

「捕獲、開始します!」

 

 突如現れた暴走バンギラス。

 私に与えられた勝利条件は一つ。

 (とお)すもの()き砂壁に風穴を開け、ボールに格納すること。

 

 私はゲンガーの時に使った光の粘土の余りを取り出すと、そこに二種類の果汁を加えていった。

 

「捕獲言うとる場合か! はよせな逃げられんくなるで!」

 

「そんな事すれば、多くの人が被害を受けます。ここで対処すべきなんです」

 

「ああ! もう! なんで職人いうのはこうも頑固なんや!」

 

 ごめん。

 でも別に付き合わなくてもいいんだよ?

 最悪、バンギラスのボールさえあればどうにかなるから。

 そうマサキに打ち明けると、また怒られた。

 

「アホ! ここであんさん見捨てて逃げたら寝覚め悪うてしゃあないわ! こうなったら一蓮托生や!」

 

「……そっか」

 

 家族以外で、ここまで私の事を思ってくれる人はいないかもしれない。

 そう考えるとやっぱり、この縁は大事にしたいなと思う。

 

 だから私は小さく呟いた。

 

「大丈夫。きっと上手くいくから」

 

 その言葉は、誰に向けたものだっただろうか。

 いや、本当は分かっている。

 自分の心を偽るための、虚勢であることなんて。

 怖くて怖くて仕方がないんだ。

 

 誰かのために傷つきたいなんて高尚なものじゃない。

 自分が自分の為に、飛行機を飛ばしてもらうために動いているだけ。

 自分本位の身勝手な行動。

 

(それでも)

 

 その自分勝手に起こした行動さえ。

 結果として誰かの役に立つというのならば。

 

(それもまぁ、悪くないんじゃないかな)

 

 さて、仕上げに入ろうか。

 

 ポケットからボールを取り出すと、そこに粘土をコーティングしていく。

 出来るだけ薄く、出来る限り球状に。

 空気抵抗を少なくするために。

 少しでも飛距離の損失を減らすために。

 

「ちょい待ちぃやチエはん! それさっき言うてた失敗作ちゃいます?」

 

「良く分かりましたね。驚異の捕獲率ゼロを誇るチエボール・ヌルです」

 

「何淡々と受け答えとんねん! 捕獲するんでっしゃろ!? 失敗作使ってどうするっちゅうねん!」

 

「まぁまぁ、見ててくださいよ。この一球で王手ですから」

 

 なんかアレだね。

 自分より焦っている人を見ると逆に落ち着くやつ。

 いやー、マサキがいてくれて助かったよ。

 

 さて、と。

 詰めの一手を用意しますか。

 

「すみません、バンギラスのボールをお借りしてもよろしいですか?」

 

「本来私が対処すべきなんだが……、君は解決できるのか?」

 

「……任せてください」

 

 歩み寄ったトレーナーから、バンギラスのボールを受け取った。

 ぶっちゃけこの人が締めてくれてもいいんだけどね、チャンスが一瞬しかないんだよ。

 

 もしも唖然としている間に棒に振ったなんてことになれば。

 そうなってしまったならば、目も当てられない。

 不要なリスクは負う必要がない。

 

 それにしても……。

 

(風が、強くなってきたね)

 

 この期に及んで砂嵐は勢いを増してきている。

 これで仕留めなければ、後はない。

 

 瞳を閉じ、呼気を一つ。

 刮目し、この一幕に意識を集中させる。

 

「後悔しない……」

 

 砂嵐が、私の髪を打ち上げる。

 衣服の中に砂が入り込んで気持ち悪いや。

 この戦いが終わったらシャワー浴びないと。

 

 私は笑った。

 回想は負けフラグだ。

 ここからは前だけ見よう。

 

 ……さて、と。

 

「行く!」

 

 預かりシステムからスナッチマシンを取り出す。

 ポケスロンでの一件の後、シャドーの一員から譲り受けたものだ。

 ……譲り受けたものだ!

 

「無茶や! さっき見てたやろ! 砂嵐も強くなってきた! 無理や!」

 

「無理かどうかは……、私が決める!」

 

 光の粘土をコーティングしたチエボール・ヌルを、バンギラス目掛けて放り投げた。

 決して砂に負けることなく一直線にバンギラスに向かっていく。

 

 そしてそのボールが、バンギラスを捉えた。

 キャプチャーネットが飛び出し、強い光がバンギラスを飲み込む。

 支配を逃れた砂嵐が吹き止み、急に重力を思い出したかのように地に吸い寄せられる。

 

 ……ほんの一瞬だけ。

 

「アカン! やっぱり無理やったんや!」

 

 次の瞬間には、バンギラスはボールから抜け出していた。

 当然だ。

 絶対に捕獲が成功しないことこそが、チエボール・ヌルの真骨頂なのだから。

 

 今一度砂が巻き上がろうとする。

 再びあの強さの砂嵐になってしまえば手遅れ。

 そう思ったのであろうマサキが私の腕を取り、走り出そうとする。

 それを振り払い、私はこう言い放った。

 

「何勘違いしてるんですか?」

 

 モーゼが海を割るように、私とバンギラスの間の砂が裂けていく。

 砂の切れ間から太陽が顔をのぞかせ、私を照らす。

 砂塵という闇を切り払い、光指す道となる。

 極光の下、成し遂げたアローの下。

 私は言葉を紡ぎ出す。

 

「まだ私のターンは、終了してないですよ?」

 

 両手でボールを構え、前に突き出す。

 狙いを定めて、次の一手を打つ。

 

「最初の一手はただの王手。そしてこれで――」

 

 トレーナーから譲り受けたボールからリターンレーザーが迸る。

 

「――チェックメイトだ!」

 

 赤い閃光が、引き裂かれた砂の間を駆け巡る。

 そしてその光は確かにバンギラスを捉え、収納した。

 巻き上がり始めた砂が再び重力に飲まれる。

 一連の流れを見届けた後、私は一言。

 

「捕獲……、完了です!」

 

 そう宣言した。

 

「待ってくれ! 一体どういうことやねん」

 

「どう、とは?」

 

「一体何がどうなってバンギラスがボールに収まったかや!」

 

 あの後私たちは空港の隅で待機していた。

 今はアローたちがバンギラスの起こした砂を撤去しているところだ。

 

「そうですねぇ……どこから話しましょうか」

 

「最初からや!」

 

「私が生まれたのは、七年前の事でした」

 

「そこまで戻れとは言うとらん!」

 

 コガネの人は突っ込んでくれるから嬉しいな。

 アカネもなんだかんだ面白かったし。

 ボケ甲斐があるっていう物だ。

 とはいえ脱線させすぎるのはよくないと学んだからね。

 適度に話を戻そう。

 

「きっかけは、シンオウ地方の商品でした」

 

「シンオウ地方?」

 

「はい、ご存じですか? シンオウ地方にはボールカプセルという物があるんですよ」

 

 私は軽く、それの説明をした。

 ボールにかぶせるものであること。

 そこにシールを張り付けて、好きなボールエフェクトを生み出せること。

 

「まず最初の一球は、これを元に考えました」

 

「あぁ、それでチエはんは光の粘土をつこうたんか、なるほどな。……せやけどそれは砂嵐の影響を受けへん理由にはならん。せやろ?」

 

「ええ、確かに光の粘土だけでは何の意味もありません。ですが私は、光の粘土にこれらの木の実を加えました」

 

 そう言って取り出したのは、二種類の果実。

 すなわち、バコウの実と、ヨロギの実だ。

 

「こちらのバコウの実には飛行技の威力を半減する効果が、ヨロギの実には岩技を半減する効果があります」

 

「ちょい待ち。チエはん、あんたまさか、木の実の効果で砂嵐を無効化した言うんとちゃうやろな?」

 

「木の実の効果だけでは無理ですよ。光の粘土には、光の壁やリフレクター、オーロラベールの効力を強化する効果があります。これにより、強固な対砂暴風壁をボールに纏わせたんです」

 

 粘土だけでも、木の実だけでも作りえなかった。

 これらが揃っていたからこそできた芸当だ。

 

「ま、まあなんとなく理屈は分かったわ。せやけど二球目から考えるに、別にバンギラスを逃がしたわけでもなかったんやろ? せやったら最初の一投にはブロックルーチンがかかってたはずや。なんで一瞬でもボールに収まったんや?」

 

「ああ、それはこの装置のおかげですね」

 

 そう言って私はマサキにスナッチマシンを見せた。

 効果を説明したら、案の定驚いていた。

 

「人のポケモンを奪える装置やて!?」

 

「声が大きいです。まぁ、これは私が闇に葬るのでしばらくは問題ないでしょう」

 

 しばらくすれば二号機が開発されるのだろうが、その時はその時だ。

 現状打てる手は特にない。

 

「と、このマシーンでスナッチボールに改竄し、バンギラスを一瞬でも閉じ込める。その間砂嵐はバンギラスの制御下を抜け出しますからね。そこをアローに吹き飛ばしで活路を切り開いてもらいました」

 

「そうやそれもや。君のファイアローは指示を出される前に吹き飛ばしを使ったようやけど、あれはどういうことなんや?」

 

「あぁ、簡単ですよ。予め指示を出しておいただけです」

 

 その発言に、マサキの目が見開かれた。

 

「ちょ、ちょい待ち? もしそれが本当やとしたら、チエはんは一体どのタイミングで読み切った言うんや?」

 

「読み、切る……? そうですね、難しいですが、しいて言うのなら――」

 

 実際には、私の肩が足りずにスナッチボールが届かない可能性があった。

 バンギラスがボールを避ける可能性もあった。

 だからこそあの時点では王手で、勝利が確定したのは一投目のボールが当たった瞬間だ。

 だが、こと読みに限っていうのであれば。

 

「捕獲開始しますと、宣言する前ですかね」

 

 その後無事飛行機は出港し始めた。

 私もそろそろ行かなければならない。

 

「じゃあね、マサキ。また連絡するよ」

 

「いつでも待っとるさかい、気軽にかけてな」

 

「うん、またね」

 

「ああ、また今度や」

 

 そんな会話をして、私はゲートをくぐった。

 ホウエン行きのチケットを見せ、飛行機に搭乗する。

 そうしてしばらくすると、飛行機が出発した。

 

「次はどんな出会いが待っているんだろう」

 

 雲を眼下に見据え、私はアローのボールに問いかける。

 

「明日はもっと楽しくなるよね、ファイアロー?」

 

 ……へけっ!




つこうた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告