ボールはともだち! ~One For Ball~ 作:HDアロー
「ガンテツさん! いるか!?」
倉庫の確認を終えた私が、作業部屋でだらけていると不意に人が入ってきた。
誰だ、我が眠りを妨げるものは。
「いらっしゃいませ……」
眠い目をこすりながら接客に赴く。
サービス業舐めてんのか? とか聞こえてきそうだけど、よく考えてみて欲しい。
今の私は七歳だ。
つまりこっちの方が需要がある、多分。
「チエちゃん! ガンテツさんはいるか?」
「おじいちゃんは今出かけていますよー?」
「マジかよ……、こんな時に何やってんだよガンテツさん!」
何って、素材集めだよ。
という説明もめんどくさいのであくびで流す。
何を怒っているのか知らないけどさ、のんびり行きましょうや。
「とにかく、ガンテツさんが戻ってきたら伝えてくれ!」
「伝言ですか? 分かりました」
「この街に泥棒ポケモンが現れたんだ! 急いで捕獲の用意を頼む!」
そういうと男は、せわしなく駆け抜けていった。
(……泥棒ポケモン?)
必死に該当するポケモンを思い浮かべるが、候補が多すぎる。
例えばニャースなんかは丸くて光るものを集める習性があるし、ヤミカラスも光るものを拾ってくる習性がある。
そして奪い合いになるらしい。
ゴミ捨て場の争い勃発だ。
まあ予想がつかないとは言ったが、想定できないというわけじゃない。
泥棒できるポケモンということは、それなりに俊敏性があるというわけだ。
そこから有効なボールを考えて行こう。
……あるね、確かな効果を持つボールが。
スピードボール。
しろぼんぐりから作られる、ガンテツ特製のボールだ。
その名前の通り、相手の素早さが高いほど真価を発揮するボールだ。
このように、おじいちゃんのボールは一風変わった特徴を有している。
だからおじいちゃんは自分のボールを上級者向けと称するのだ。
さて、私がサボり始める前に作っていたボールを覚えているだろうか?
そう、スピードボールである。
なんという完璧なタイミング。
しゃしゃっと開閉スイッチを取り付けて完成させると、ボール片手に家を出た。
「おおう、陽射しがつらい……」
よく考えてみれば、殆どボール作り漬けの毎日だった。
外に出て遊ぶということも、殆どなかった。
友達がいない?
違いますー、ヒワダタウンに子供が少ないだけですー。
断じて私がボッチというわけではない……はず!
「日焼けする前にさっさと捕まえてしまおう……」
⁂
そうして私は、目撃証言を聞いて回った。
東から西まで、走り回った。
泥棒されたという品について、尋ねて回った。
そして一つの結論に至った。
「……まさか、ね」
目撃証言を辿っていくと、東から西に向かって移動していったことが分かった。
問題です。
ヒワダタウンの西側にある建物と言えば?
「……うちじゃん」
ナンテコッタイ。
わざわざ外に出る必要なんてなかったのだ。
そしてむざむざ無人にしてしまったよ。
これだとうちも被害に遭っているかもしれない。
ちなみに証言によると、泥棒にあった品物はどれも食料品らしい。
折角もらったロメの実、食べられていたらどうしようか。
胸中をそんな心配が襲ったが、どうやら杞憂だったようだ。
そこに! ロメの実は! 確かにあったのだ!
「んー、ということはうちじゃないところに行ったのかな?」
すっと靴を脱いで作業部屋に戻り、横になる。
いやー、落ち着くわ。
って違う!
泥棒ポケモンを捕まえに行くんじゃないのか?
(って思ったけどまた家から出るのもめんどくさいな……)
よし、ここはもう他の人に任せてしまおう。
村人! キミに決めた!
(結局、泥棒ポケモンって何だったんだろうね?)
唯一もやもやするのはその正体がわからなかったこと。
個人的には泥棒ポケモンと言えばグランブルなのだが、これは多分漫画の影響だろう。
それにあっちはボール泥棒だったし、食料泥棒とは一致しない。
(食料泥棒……ね。よっぽど食いしん坊だったのかな?)
背筋に冷たいものが走った。
(勝手に俊敏なポケモンだと予測してたけど、もしかして動けるデブタイプなのでは!?)
一度不安を覚えると、その疑念はなかなか拭えない。
払っても払っても、その嫌な予感が襲い掛かってくる。
(……。ヘビーボールも作っとこうか)
倉庫の鍵を取り出し、倉庫へと向かった。
いくらぼんぐりの在庫が少ないと言えど、各二十個ずつくらいはあった。
サクッと作ってしまおう。
そう思い、倉庫に手を掛ける。
鍵を外し、扉を引いて開ける。
昔ながらの建物特有の、木の軋む音が嫌に耳に残った。
そしてそこには、絶望があった。
「……ぇ」
消え入りそうな声が零れた。
そこにあったのはぼんぐり……の、残骸だった。
あちこちに食い荒らされた跡があり、様々な色が床に壁に飛び散っていた。
そしてその、スプラトゥーンな床に鎮座するポケモン。
そのポケモンは――
「お前かー!」
――ゴンベであった。
ゴンベ、大食いポケモン。
その素早さ種族値、脅威の五。
ツボツボやナマコブシと並んで堂々の最下位である。
もう一度言おう、最下位である!
「誰だよ! 『泥棒ポケモンっていうことは俊敏なポケモンだ』キリッ、とか言ってたのは!」
はい、私でした。すみません。
ゴンベは食べ終わって満足したのかぐうすか寝ている。
私がこれだけ騒いでもいっこうに起きる気配がない。
「チエちゃん! 大丈夫か?!」
「チエちゃんどうしたの!?」
が、村人たちは違ったようで、私の悲鳴に駆けつけてくれた。
サンキューフォックス。もうだめかと思ったよ~。
「な! これが泥棒ポケモンの正体か!」
私同様、村のみんなも驚いた。
そりゃこんな丸っこいのが動き回っていたとは考えないわな。
「チエちゃん、ポケモンを捕まえるボールはあるかい?」
「え、いや、その……あるにはあるんですけど……」
言えない。
唯一使えるボールがスピードボールなんて言えない!
ゴンベ相手にスピードボールとか笑われちゃう。
「すぐに持ってきてくれ!」
「えぇ……」
嘘でしょ!?
こんな公衆の面前で? 公開処刑されるの? 私?
「早く! あのポケモンが逃げてしまう前に!」
いやあれ絶対逃げないって! これだけ騒いで起きないとか半端ないって!
あいつ半端ないって。この体形で俊敏に動くんやもん。
そんなん出来ひんやん、普通! そんなのできる?
言っといてや、できるんやったら。
そんな私の抵抗空しく、スピードボールは奪われてしまった。
ああっ!
チエちゃんのスピードボールだからね!
「スピードボールか……致し方あるまい。この一投に、全力を注ぐ」
男はうおおおおと叫びながらボールを放った。
何だコイツ、ボール持ったら人格変わるタイプの人間か?
そのスピードボールは弧を描くことなく真一文字に空を飛び、ゴンベを飲み込んだ。
村人たちが息を飲んだ。
が、ゴンベはボールからすぐに飛び出してしまった。
「くっ、ダメか」
村人の間に、諦めのムードが漂った。
ほらー、だから言ったじゃん。
スピードボールでゴンベに挑むとか無謀なんだよ。
まあ、ぐっすりと眠っていることだし放っておこうよ。
多分しばらく起きないと思うよ。
そう思い、倉庫を後にしようとした時だった。
……野次馬たちの声を聞いた。
「ガンテツさんがいてくれたらなあ」
「バカ、ガンテツさんとはいえぼんぐりがなければ何もできねえよ」
「それもそうか。ガンテツさんと言えども、ぼんぐりがなければただの人か」
「アハハハハ」
ぶちり、と。
何かが切れる音を聞いた。
それは私の中で暴れまわり、ついには閉じ込められなくなった。
「……さい」
小さく呟いた。
「え? 何ィ?」
おじいちゃんを嗤った若者が、口元に嘲笑を浮かべて私に問う。
「訂正してくださいと言ったんです。ぼんぐりがなければただの人だと言ったことを」
「何? 怒っちゃった? でも本当の事だよね? チエちゃ――」
「私は訂正しろと言ったんです」
「……ッ!!」
木々が、風が、舞い散る木の葉が。
私の気迫に感応する。
ざわめき、吹き抜け、弾け散る。
私の意思に、若者がたじろぐ。
「そ、それなら証明してみろよ! お前の爺さんの偉大さってやつを」
できるわけないだろうけどな、と。
若者はそう付け加えた。
あまり、ウチを甘く見るなよ?
「……分かりました。おじいちゃんが、職人ガンテツが。如何に偉大だったかを証明してみせます」
だからその時は。
「きっちりと謝ってもらいますよ」