ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

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二話 「犯人は素早いぞ!」

「ガンテツさん! いるか!?」

 

 倉庫の確認を終えた私が、作業部屋でだらけていると不意に人が入ってきた。

 誰だ、我が眠りを妨げるものは。

 

「いらっしゃいませ……」

 

 眠い目をこすりながら接客に赴く。

 サービス業舐めてんのか? とか聞こえてきそうだけど、よく考えてみて欲しい。

 今の私は七歳だ。

 つまりこっちの方が需要がある、多分。

 

「チエちゃん! ガンテツさんはいるか?」

 

「おじいちゃんは今出かけていますよー?」

 

「マジかよ……、こんな時に何やってんだよガンテツさん!」

 

 何って、素材集めだよ。

 という説明もめんどくさいのであくびで流す。

 何を怒っているのか知らないけどさ、のんびり行きましょうや。

 

「とにかく、ガンテツさんが戻ってきたら伝えてくれ!」

 

「伝言ですか? 分かりました」

 

「この街に泥棒ポケモンが現れたんだ! 急いで捕獲の用意を頼む!」

 

 そういうと男は、せわしなく駆け抜けていった。

 

(……泥棒ポケモン?)

 

 必死に該当するポケモンを思い浮かべるが、候補が多すぎる。

 例えばニャースなんかは丸くて光るものを集める習性があるし、ヤミカラスも光るものを拾ってくる習性がある。

 そして奪い合いになるらしい。

 ゴミ捨て場の争い勃発だ。

 

 まあ予想がつかないとは言ったが、想定できないというわけじゃない。

 泥棒できるポケモンということは、それなりに俊敏性があるというわけだ。

 そこから有効なボールを考えて行こう。

 ……あるね、確かな効果を持つボールが。

 

 スピードボール。

 しろぼんぐりから作られる、ガンテツ特製のボールだ。

 その名前の通り、相手の素早さが高いほど真価を発揮するボールだ。

 

 このように、おじいちゃんのボールは一風変わった特徴を有している。

 だからおじいちゃんは自分のボールを上級者向けと称するのだ。

 

 さて、私がサボり始める前に作っていたボールを覚えているだろうか?

 そう、スピードボールである。

 なんという完璧なタイミング。

 しゃしゃっと開閉スイッチを取り付けて完成させると、ボール片手に家を出た。

 

「おおう、陽射しがつらい……」

 

 よく考えてみれば、殆どボール作り漬けの毎日だった。

 外に出て遊ぶということも、殆どなかった。

 友達がいない?

 違いますー、ヒワダタウンに子供が少ないだけですー。

 断じて私がボッチというわけではない……はず!

 

「日焼けする前にさっさと捕まえてしまおう……」

 

 そうして私は、目撃証言を聞いて回った。

 東から西まで、走り回った。

 泥棒されたという品について、尋ねて回った。

 そして一つの結論に至った。

 

「……まさか、ね」

 

 目撃証言を辿っていくと、東から西に向かって移動していったことが分かった。

 

 問題です。

 ヒワダタウンの西側にある建物と言えば?

 

「……うちじゃん」

 

 ナンテコッタイ。

 わざわざ外に出る必要なんてなかったのだ。

 そしてむざむざ無人にしてしまったよ。

 これだとうちも被害に遭っているかもしれない。

 

 ちなみに証言によると、泥棒にあった品物はどれも食料品らしい。

 折角もらったロメの実、食べられていたらどうしようか。

 胸中をそんな心配が襲ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 そこに! ロメの実は! 確かにあったのだ!

 

「んー、ということはうちじゃないところに行ったのかな?」

 

 すっと靴を脱いで作業部屋に戻り、横になる。

 いやー、落ち着くわ。

 って違う!

 泥棒ポケモンを捕まえに行くんじゃないのか?

 

(って思ったけどまた家から出るのもめんどくさいな……)

 

 よし、ここはもう他の人に任せてしまおう。

 村人! キミに決めた!

 

(結局、泥棒ポケモンって何だったんだろうね?)

 

 唯一もやもやするのはその正体がわからなかったこと。

 個人的には泥棒ポケモンと言えばグランブルなのだが、これは多分漫画の影響だろう。

 それにあっちはボール泥棒だったし、食料泥棒とは一致しない。

 

(食料泥棒……ね。よっぽど食いしん坊だったのかな?)

 

 背筋に冷たいものが走った。

 

(勝手に俊敏なポケモンだと予測してたけど、もしかして動けるデブタイプなのでは!?)

 

 一度不安を覚えると、その疑念はなかなか拭えない。

 払っても払っても、その嫌な予感が襲い掛かってくる。

 

(……。ヘビーボールも作っとこうか)

 

 倉庫の鍵を取り出し、倉庫へと向かった。

 いくらぼんぐりの在庫が少ないと言えど、各二十個ずつくらいはあった。

 サクッと作ってしまおう。

 

 そう思い、倉庫に手を掛ける。

 鍵を外し、扉を引いて開ける。

 昔ながらの建物特有の、木の軋む音が嫌に耳に残った。

 そしてそこには、絶望があった。

 

「……ぇ」

 

 消え入りそうな声が零れた。

 そこにあったのはぼんぐり……の、残骸だった。

 あちこちに食い荒らされた跡があり、様々な色が床に壁に飛び散っていた。

 そしてその、スプラトゥーンな床に鎮座するポケモン。

 そのポケモンは――

 

「お前かー!」

 

 ――ゴンベであった。

 

 ゴンベ、大食いポケモン。

 その素早さ種族値、脅威の五。

 ツボツボやナマコブシと並んで堂々の最下位である。

 もう一度言おう、最下位である!

 

「誰だよ! 『泥棒ポケモンっていうことは俊敏なポケモンだ』キリッ、とか言ってたのは!」

 

 はい、私でした。すみません。

 

 ゴンベは食べ終わって満足したのかぐうすか寝ている。

 私がこれだけ騒いでもいっこうに起きる気配がない。

 

「チエちゃん! 大丈夫か?!」

 

「チエちゃんどうしたの!?」

 

 が、村人たちは違ったようで、私の悲鳴に駆けつけてくれた。

 サンキューフォックス。もうだめかと思ったよ~。

 

「な! これが泥棒ポケモンの正体か!」

 

 私同様、村のみんなも驚いた。

 そりゃこんな丸っこいのが動き回っていたとは考えないわな。

 

「チエちゃん、ポケモンを捕まえるボールはあるかい?」

 

「え、いや、その……あるにはあるんですけど……」

 

 言えない。

 唯一使えるボールがスピードボールなんて言えない!

 ゴンベ相手にスピードボールとか笑われちゃう。

 

「すぐに持ってきてくれ!」

 

「えぇ……」

 

 嘘でしょ!?

 こんな公衆の面前で? 公開処刑されるの? 私?

 

「早く! あのポケモンが逃げてしまう前に!」

 

 いやあれ絶対逃げないって! これだけ騒いで起きないとか半端ないって!

 あいつ半端ないって。この体形で俊敏に動くんやもん。

 そんなん出来ひんやん、普通! そんなのできる?

 言っといてや、できるんやったら。

 

 そんな私の抵抗空しく、スピードボールは奪われてしまった。

 ああっ!

 チエちゃんのスピードボールだからね!

 

「スピードボールか……致し方あるまい。この一投に、全力を注ぐ」

 

 男はうおおおおと叫びながらボールを放った。

 何だコイツ、ボール持ったら人格変わるタイプの人間か?

 

 そのスピードボールは弧を描くことなく真一文字に空を飛び、ゴンベを飲み込んだ。

 村人たちが息を飲んだ。

 が、ゴンベはボールからすぐに飛び出してしまった。

 

「くっ、ダメか」

 

 村人の間に、諦めのムードが漂った。

 ほらー、だから言ったじゃん。

 スピードボールでゴンベに挑むとか無謀なんだよ。

 

 まあ、ぐっすりと眠っていることだし放っておこうよ。

 多分しばらく起きないと思うよ。

 

 そう思い、倉庫を後にしようとした時だった。

 ……野次馬たちの声を聞いた。

 

「ガンテツさんがいてくれたらなあ」

 

「バカ、ガンテツさんとはいえぼんぐりがなければ何もできねえよ」

 

「それもそうか。ガンテツさんと言えども、ぼんぐりがなければただの人か」

 

「アハハハハ」

 

 ぶちり、と。

 何かが切れる音を聞いた。

 それは私の中で暴れまわり、ついには閉じ込められなくなった。

 

「……さい」

 

 小さく呟いた。

 

「え? 何ィ?」

 

 おじいちゃんを嗤った若者が、口元に嘲笑を浮かべて私に問う。

 

「訂正してくださいと言ったんです。ぼんぐりがなければただの人だと言ったことを」

 

「何? 怒っちゃった? でも本当の事だよね? チエちゃ――」

 

「私は訂正しろと言ったんです」

 

「……ッ!!」

 

 木々が、風が、舞い散る木の葉が。

 私の気迫に感応する。

 ざわめき、吹き抜け、弾け散る。

 私の意思に、若者がたじろぐ。

 

「そ、それなら証明してみろよ! お前の爺さんの偉大さってやつを」

 

 できるわけないだろうけどな、と。

 若者はそう付け加えた。

 

 あまり、ウチを甘く見るなよ?

 

「……分かりました。おじいちゃんが、職人ガンテツが。如何に偉大だったかを証明してみせます」

 

 だからその時は。

 

「きっちりと謝ってもらいますよ」

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