ボールはともだち! ~One For Ball~ 作:HDアロー
チルタリス、ハミングポケモン。
図鑑No.334。
コガネエレブーズだ。
ちなみにこれに111を足すと445になるわけだが、111はシンオウ地方のガブリアスの図鑑番号、445は全国図鑑のガブリアスの番号だ。
ここテストに出ますからね。
しっかり覚えておくように。
「さて、予習復習を終えたら、次は実習だね。行くよ、アロー!」
小声でアローと打ち合わせする。
作戦はこうだ。
アローに正面から突っ込ませる。
私裏を取る。
予測不可能回避不可能なボールを投げつける。
つよい。
というわけで任せたからね、アロー。
武運を祈るよ。
物陰に隠れて、こそこそと裏取りしていく。
オーケー、やれ、アロー!
骨は拾ってやる!
「ぴょえぇぇぇ!」
チルタリスが、アローの存在に気付いた。
注意が逸れたこの隙に、死角をついて走り出す。
よし、完全に後ろを取った。
ここから無音で投げられたら避けようもあるまい。
いくじぇい!
サイドスローで放り投げる。
貧弱な幼女の肩だ。
オーバースローやスリークォーターよりよっぽど飛距離が伸びる。
ジャストなタイミングで、アローが鬼火を放つ。
お前本当によくできた相棒だな。
あとで砂肝あげるよ。
確実に当たる。
当たりさえすれば、捕まえられる。
そんな自信があった。
いや、その表現は間違いか。
そんな慢心があった。
不可視の一投のはずだった。
不可避の一球のはずだった。
だというのにチルタリスは振り返り。
耳をつんざく爆音ではじき落した。
(ハイパーボイス!? いや、それよりも、何故気付けた!?)
つい先ほどまで、意識はアローに向いていたはずだ。
だというのに、何故ボールに気付ける?
そんな野生の勘みたいなこと……。
(ああ! 野生でしたね!)
そんなん考慮しとらんよ。
そう嘆く間もなく、チルタリスと目が合った。
ご、ごきげんよう。
「~♪」
「うえぇぇぇ! 殴ってきた!?」
ボールを一つその場に置いて、物陰から飛び出した。
先ほどまで隠れていた場所を、チルタリスが物理で殴る。
柱が砕け、砂埃が上がる。
私が転がり込んだ先にも、柱の残骸が飛来してきた。
だけど足を止めるわけにはいかない。
砂煙に紛れて、私はアローと合流した。
(あっれー? 鬼火入ってたよね? なんでそんな火力出るの?)
火傷になったポケモンは、攻撃力が半減する。
半減でこの威力って……チルタリスにそんな火力あったっけ?
いやない。
だとするならば、これは。
「もしかして、からげんき?」
からげんきは、状態異常の時に威力が倍になる技だ。
加えてこの技には、火傷による攻撃力低下が適用されない。
うん、この推測で間違いあるまい。
「遠投しようとすればハイパーボイス。近寄ろうとすればからげんき。こりゃまいったね」
まぁ、それならそれでやりようはあるわけだが。
早い話が、速さが足りないというだけだ。
それならば、球速を上げる手段さえあればどうにでもなる。
具体的に言えば、アローを捕まえるときに使ったスリングショット。
あれと同じことだ。
だが今回は、もっと優れた射出要員が居る。
「アロー、分かるね?」
アローにボールを持たせた。
そうだ。
それ持って突っ込んで来い。
ほかに手段はないんだ。
アローがマジっすかという顔をした。
まじまじ。
ほら、お前の勇気を振り絞る時だ。
「アロー、ブレイブバード!」
大丈夫大丈夫。
やれるやれる!
お前はやるときはやる子だ!
だから。
「もっと熱くなれよぉぉ!」
アローの目に、炎が宿る。
意志という名の、燃え盛る灯だ。
え、まじで?
よく今のでやる気になったね。
炎タイプだから通ずるところがあった?
ちょっとこの子のこと理解できないや。
次の瞬間、アローが飛び出した。
矢の如く、空気を切り裂き走り出す。
チルタリスが、それを迎え撃つ。
もう一回からげんきか。
まともに受けたら、アローはひとたまりもないだろうね。
「まともに受けたら、ね?」
二匹が衝突した途端、持たせたボールが起動した。
先ほどまでの勢いが嘘のように、お互いがピタリと動きを止めて、極大の光が弾け飛ぶ。
アローはすぐさま退避する。
しかし、それを知らないチルタリスには回避できない。
その極光に目を焼かれるがいい!
チルタリスが、瞳を閉じた。
今だ!
私は本命のボールを投げた。
「ぴょえぇぇぇ!」
それにあわせて、アローが鳴き声を放つ。
本当に最高だな!
(さぁさぁチルタリスさん! 視覚と聴覚を塞がれて、流石にもうどうしようもないでしょう?)
おとなしく捕まってください。
私にはもう、油断も驕りもない。
今度こそチェックメイトだ。
――そもそもの話、第六感というのは五感とは別物だ。
そして野生の勘は、第六感に含まれる。
つまりどういうことか。
目も耳も機能していないというのに。
振り返ったチルタリスは大声をあげた。
ハイパーボイスが、打ち出されたボールを叩き落す。
迫りくる危険を察知し、勘で叩き落としたのだ。
そしてそれは、しかしそれは。
私の予想通りでしかなかった。
「言ったでしょ、チェックメイトってね」
いや、口には出してなかったか。
どちらにせよ、私の勝利に揺らぎはない。
王手とは違う、討ち取ったという報告だ。
追う手とは違い、逃げ道はない。
チルタリスを、今度こそキャプチャーネットが飲み込む。
「一球目が当たったとき、キャプチャーネットが飛び出さなかったことに疑問を抱くべきだったね」
ネタ晴らしすると、私が今回使ったボールは合計四つだ。
一つ一つ、内訳を明かそう。
まず一つ目、捕獲用のボール。
これは最初に投げて、弾かれた奴だ。
できればコイツで仕留めたかった。
二つ目、物陰に置いてきたボール。
これはチエボール・リビルドCの受信側だ。
次に述べる三球目からエネルギーを受け取ることが役割。
三つ目、アローに持たせた送信側。
アローとチルタリスの衝突によって弾けた運動エネルギー。
これを二つ目のボールに付け替えた。
もうわかっただろうか。
強い光が弾けたのは、捕獲用ではなくリビルドCを使ったから。
その際に運動エネルギーを二つ目のボールに付け替えた。
すると二つ目は、物理法則に従って弾け飛ぶ。
チルタリスが叩き落としたのは、こっちのボール。私が仕掛けた囮だ。
本命というのは、この四球目のこと。
「そのキャプチャーネットはヒガナのチルタリスの羽根で編んであるからね。そう簡単に抗えると思わないでね」
チルタリスはもともと、雲の中に住まう生き物だ。
その羽は白い雲に、体は青い空に擬態する。
つまり、最も安心できる空間が雲の中なのだ。
そしてボールの内部には、疑似的な雲海を作り出している。
チルタリスは今頃、身を隠していると思っているだろうね。
ボールの中だなんて夢にも思うまい。
一度、二度とボールが揺れ。
カチャリという音が鳴った。
「や、やった? 本当に捕まえたの?」
震える手を抑え、ボールを拾い上げる。
開閉スイッチの明滅は、止んでいた。
それはつまり、捕獲の完了を意味している。
「やったー! ついに、ついに念願のもふもふが!」
早速ボールから出そう!
今すぐ出そう!
ひゃっはー! もふらせろー!
「出てきて! チルル!」
ニックネームも決めてるもんね!
夢にまで見たご対面だ。
「私の思いを受け止めて!」
そう叫びながら、チルルにダイブした――
「ぴちょんぷすっ!?」
のち、クロスカウンターを受けました。
ああ、そういえば。
捕獲したからってすぐに言うこと聞くわけじゃなかったね。
アローがすぐ懐いたから、てっきり忘れてたよ。
「も、戻って、チルル」
また今度、仲良くなるところからリスタートだね。
ここに空の柱の物語は、幕を下ろした。
⁂
カントーやジョウトと比べ、比較的南に位置するその土地は、人とポケモンと、そして自然の巡る地方だ。
ここにきて、私はかけがえのない縁を結んだ。
一人はヒガナ。
流星の民の末裔で、私の友達。
この広い世界で、奇跡的に巡り合い。
偶然友達になった。
お別れはしたが、もう会えないわけじゃない。
旅を続けている限り、きっとまた巡り合える。
なんとなく、そんな気がする。
だって私たちは、同じ空の下にいるんだから。
それと、チルタリス。
空の柱にいた、私の新しい仲間だ。
今は八つ当たりの威力が馬鹿げたことになっているけど、いつか恩返しでこの威力を出したいです。
あとは、フライゴンの人とか、カイナ市場でボールを買いに来てくれたお客さんたちとか。
そういえば、名実ともに幻の店舗にしちゃったね。
いまだに足を運んでいる人がいるならごめんなさいだ。
もうそこでボール売りの少女をするつもりは無いから早く諦めてください。
「本当に、いろんなことがあったね」
何気なしに、空を仰いだ。
到着二日目とは違い、空は青々と煌めいていて。
もはやそこに、心苦しさのような窮屈さは無かった。
「出会いがあった。苦悩があった。喜びがあった」
太陽を掴めるような気がして。
手を伸ばし、握り締めた。
今はまだ、その光は遥か遠い。
だけど、いつかこの手で掴み取るんだ。
「もう立ち止まらない。歩み続けるんだ」
掲げた握りこぶしを、ゆっくりと戻した。
悩みも不安も、全部拭い去って。
一歩ずつでも、進み続けよう。
彼女がそうだったように。
「次はシンオウ地方だよ。どんな出会いが待ってるかな?」
太陽の位置から逆算し、方角に当たりを付ける。
空は、どこまでも続いていた。
次章は骨組みだけしかできてないんでちょっと期間空くかもしれません、というか空くと思います。一章分書き終えてから投稿するタイプなんで。
必ず書くんでブクマ残しておいてもらえると嬉しいです。またね。