ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

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   【零話】      【新ルート】
―――――――――一日目―――――――――
(朝)      ハクタイ空港
(昼) ハクタイの森 | ポケモンセンター
(夕)  森の洋館  | ポケモンセンター
(夜)  森の洋館  | ポケモンセンター
―――――――――二日目―――――――――
(朝)   ぬるぽ  |   地下通路
(昼)   ぬるぽ  |   地下通路
(夕)   ハクタイシティ(石像前)
(夜)   ???  |   ???←今ここ


三話 「失伝技術(ロストテクノロジー)

 陽が暮れるとともに、世界が切り離された。

 先ほどまでいた私はいなくなり、私だけがここに居た。

 ムーンフォースの弾けた跡はきれいさっぱり消えていて、いっそ夢幻(ゆめまぼろし)の類だったのではないかという疑念すら沸き上がる。

 

 それでも私は、聞き届けなければいけない。

 彼女の思いを。

 叶えなければいけない。

 彼女の願いを。

 

「ということで、もう一仕事しますか」

 

 草原にブルーシートを広げると、そこにアイテムを取り出していった。

 今回は地下通路のおかげで資源が豊富だ。

 切れる札が大幅に増えた。

 よし、やるぞ。

 

 しばらくアイテムと睨めっこして、私はある程度方針を固めた。

 今回はこいつを主軸にしよう。

 地下通路で掘り当てた要石(かなめいし)

 百八の魂を繋ぎ止めるという、霊と親和性のあるアイテムだ。

 

 それを足で挟んで固定して、ノミで加工していく。

 幸いにも今日は、月が明るく輝いている。

 夜目もそれなりに効く方だし、夜空の下でも十分作業できる。

 

 私は加工を続ける。

 球状に、カプセル状に。

 モンスターボールのように。

 丁寧に削りだしていく。

 

(ただのボールでは、今回の事件は解決できない)

 

 現代のボールは、内側と外側が明確に切り分けられている。

 私がコガネシティでゲンガーに作ったボールだってそうだ。

 ボールの内側から外界に干渉できるなら、私が手を加える必要もなかった。

 できないからこそ、私が工夫を凝らす必要があった。

 

 そのせいで、実は結構な不都合が生じている。

 仮に市販品のボールでムウマージを捕まえたとする。

 そしてその間、たとえどれだけ早くボールから繰り出したとしても、そこには必ず『ムウマージが女の子をつなぎとめて置けない時間』が出来てしまう。

 その子が魂だけの存在になる時間を、どうしても回避できない。

 

 そうなったとき、その女の子を救えるか。

 分からない、そんな事。

 だから私は、考えなければならない。

 より確実に女の子を救う手段を。

 向こうの私を鎖から放つ方法を。

 

(やるからには、全員救ってみせる)

 

 ムウマージは女の子を現世に繋ぎ止めておきたい。

 女の子は、人として生きることを望んでいる。

 やさぐれた私は、やり直したがっている。

 みんなの願いをまとめて叶える。

 それが私の決心だ。

 

 切り口はある。

 私の世界と、やさぐれた私の世界。

 相互不干渉が絶対の、時間と空間。

 それが巡り合わせたのだ。

 どうしてボールには不可能と言えようか。

 

 とどのつまり、境界を曖昧にしてしまえばいいのだ。

 どちらが内側で、どちらが外側か。

 その線引きを取り払う。

 

 分かりやすく言えば軒下だ。

 あれは室内から見れば外側だが、敷地の外から見れば内側にあたる。

 だと言うのなら、あれは内側とみるべきか外側とみるべきか。

 曖昧だ、曖昧なのである。

 

 同じことを、ボールで再現する。

 そのために用いるのが、この要石だ。

 

(着想は既にある。あとは生み出すだけ)

 

 ミカルゲというポケモンがいる。

 彼は要石に囚われているが、同時に現世にも存在している。

 内にも外にもいる存在。

 要石は内側だろうか、外側だろうか。

 そう、曖昧なのだ。

 

 要石の内に居ても外に存在できる。

 そうすれば、ムウマージがボールに居ても女の子は現世に居られる。

 ムウマージの干渉力はそのままなのだから当たり前だ。

 そしてそれこそが、私の狙い。

 

(ボールの中ではなく、()()()()()に捕獲する)

 

 それはつまり、キャプチャーネットを使わないということを意味する。

 現代のボール理論をぶち壊せ。

 先入観を打ち捨てろ。

 さもなくば先はないと思え。

 

「さて、こんなものかな」

 

 最後に、やすりをかけて仕上げる。

 水で濡らし、艶を出す。

 やるからには全力でだ。

 

 乾かし、開閉スイッチを取り付ける。

 おー、ぴったりだ。

 もうね、手がボールの形を覚えてるんだよ。

 

「さて、行こうか。森の洋館に」

 

 煌々と輝く月明りの下。

 私達は森に向けて歩き出した。

 

 森を歩いて、数分で館に辿り着いた。

 私の話だと随分と歩いたような印象を持ったが、どうやらそんな事は無かったみたいだ。

 まさかモンメンを探して道に迷ったなんてことはないだろうし、行きはスルーしたけど帰りには立ち寄ったとかそんな感じだろう。

 ……え、迷ってないよね?

 信じるよ? やさぐれた私よ。

 

 館の前に立ち、一呼吸。

 レンガの壁にはツタが生え、屋根は色あせ、時間の流れを匂わせる。

 今にでも黒い霧が沸き上がり、魔女が飛び出してきそうだと私は思った。

 

(あー、嫌だなぁ。なんでこんなホラー現場に立ち寄ったんだよ、私は。恨むぞー)

 

 とは言っても、もはや後の祭りだ。

 知ってしまった以上、それを放っておくことなんてできやしない。

 私には、それを解決するだけの能力が与えられたのだから。

 向き合うことが、私の天命だ。

 

 コン、コン、コン。

 館の扉を三度叩く。

 幼女が寝ていたらそれまでだけど、幽霊なら睡眠がいらないかもしれない。

 もし反応が無ければ、また明日来ればいいだけだ。

 そう思っての行動は、思いのほか効果があった。

 

「はい。どちら様ですか?」

 

 扉の向こうから、女の子の声がする。

 私と同い年くらいだろうか。

 無邪気で、無垢な、幼い声だ。

 

 私は今一度気を引き締めた。

 失敗は許されない。

 この思いは、届けなければいけないのだ。

 

「夜分遅くに申し訳ございません。私、ジョウトから来たチエと申します。お恥ずかしいのですが、実は道に迷ってしまいまして……。よろしければ一晩、泊めていただけないでしょうか?」

 

「旅人さん……?」

 

「そうですね、旅人です」

 

「分かりました! どうぞ!」

 

 扉の向こうから聞こえる声が、弾みだした。

 声質から、嬉しさが滲み出している。

 それが私の緊張を、一層強くした。

 

「ありがとうございます。ですが、その、持ち合わせがなくて……、どうお礼すればいいか……」

 

「ならこういうのはどう? 旅人さんが見てきた外の世界、それをお話してくれない?」

 

「……そんなことでよろしいのですか?」

 

「うん! 私、ずっとこの家から出たことが無くて……だから、どんなものより価値がある事なんだ!」

 

 そういう事ならと。

 私は微笑んでそれを引き受けた。

 よし、第一関門は突破だ。

 

 あとはひたすら、私の行動をなぞるだけ。

 屋敷の豪華な一室で、私は私に聞いた通りの行動を模倣した。

 信頼を得るために、ムウマージのもとに案内してもらうために。 

 

 これまでの旅の事を、面白おかしく語り出す。

 

 ヒワダにはヤドンの井戸と呼ばれる場所がある事。

 コガネにはポケスロンドームや空港がある事。

 流星の滝にある、クレーターの事。

 夜のルネシティの、星に包まれたような情景の事。

 空の柱という、とても高い建物の事。

 

 そうして月も高くなり、天窓から垂直に光が差し込む頃。

 そろそろ寝ようという話になった。

 

 カーペットの敷かれた、長い廊下を並んで歩く。

 手と手を取り合い、歩幅を合わせ。

 

 女の子の足取りが、どんどん重くなる。

 私は何を言うでもなく、そのペースに合わせた。

 

 そして聞いていた通り、部屋の前で彼女の足が止まった。

 幼女が、真実を打ち明ける。

 

「ごめんチエちゃん。やっぱり、嘘つけないや」

 

 本当に、優しい子だったんだろう。

 自分が嫌だと思う事を、人にはしない。

 そんな単純で、けれど誰にでも出来るわけではないことを、目の前の幼女はできるのだ。

 

 彼女の震える肩に、私は手を置いた。

 一瞬びくっとした後、震えが引いていく。

 私は、やさしく語り掛けた。

 

「大丈夫。何も言わなくていいよ」

 

 女の子の頭を撫でた。

 

「全部分かってるから。その上で私は、ここに来たんだから」

 

 あなたの思いも、私の願いも。

 すべて聞き届ける。

 そのために、私はここに居る。

 

 バッドエンドで終わった世界があるというのなら、私にハッピーエンドを迎える選択が取れるというのなら。

 全力で足搔いて、もがいて、掴み取ってやる。

 

「チルル! 白い霧!」

 

 私が取ったという、ムウマージ対策。

 それを伝授された私が活用する。

 

 白い霧の奥に、暗い影が現れる。

 聞いた通りだった。

 さすがは私、頭が回る。

 

 だけど、歴史を辿るのはここまでだ。

 ここまでは向こうの私の選択。

 そしてここからが、私の選択だ。

 

(……出来るか?)

 

 そんな不安を、頭を振って否定した。

 最後の最後に、やさぐれた私は私を信じた。

 なら私が、私を信じられなくてどうする。

 

 構える、呼気を整える。

 大丈夫、やれる。

 不安や悩みは全て、置き去りにしろ。

 

「捕らえろ! チエボール・リヴァイブテクノロジー!」

 

 石でできたそのボールが、ムウマージを捉える。

 大気が渦を巻き、ムウマージを引き寄せる。

 館のカーペットか巻き上がり、窓が音を立てて軋む。

 シャンデリアから明かりが落ちる。

 

 ゲンシカイキしたそのボール。

 それは失われた技術の再現。

 今は無き太古の文明の復元。

 

 かつてアニポケで、『げきとつ! ちょうこだいポケモン』という内容が放送されたことがある。

 太古の昔、ポケモンは銅鐸やスプーンなんかでゲットができていたのだ。

 キャプチャーネットも無しに、捕獲が可能だった時期があったのだ。

 

 しかし、それはおかしい。

 もう一度、ボールの仕組みを思い返そう。

 

 ボールは主に、三つのパーツから構成されている。

 一つ、外殻。いわゆるボール本体部分。

 二つ、開閉スイッチ。これによりポケモンの出し入れが可能となる。

 三つ、キャプチャーネット。ポケモンを捕獲するためのギミック。

 そして、これらはどれか一つでも欠けた時点でボールとして効果を失う。

 

 だがしかし、昔のボールにはキャプチャーネットが無かった。

 だというのならば、どこかに仕掛けがあるはずなのだ。

 

「例えば外殻そのものが、キャプチャーネットの役割を兼任しているとすれば?」

 

 その発想が、全ての切っ掛けだ。

 ロストテクノロジーを蘇らせたボール。

 故にリヴァイブテクノロジー。

 

 要石からできたボールが、ムウマージを捕まえようとする。

 ムウマージは、それを必死に拒む。

 だけど、近代のボールすら知らないあなたが、ゲンシカイキしたボールの能力に抗えるとでも?

 ……いや、違うのか。

 

(出来る出来ないじゃなく、やらなければ女の子が消える。だからこそ、必死に抗っているんだね)

 

 現代のボールは、前述の通り世界と完全に二分する。

 そうなれば、幼女を繋ぎ止められない。

 またひとりぼっちになる。

 

 ……そんな不安、抱く必要ないんだよ?

 

「分かるよ、ムウマージ。あなたも、一人でさみしかったんだよね。いろんな人と会いたかったんだよね。でも、ニンゲンのあなたに対する態度は二つに一つだった。(のろ)いを恐れるか、(まじな)いを求めるか」

 

 人間なんて、理解の外にいる生物だよね。

 そんな中、唯一分かり合えたその子があなたにとってどれだけ大事な存在か。

 そんな事、考えなくても分かる。

 

「だから死んだ魂に働きかけてまで、繋ぎ止めておいたんでしょ? でも、姿を現したままでは外を出歩けない。ボールに入れば彼女を成仏させてしまう。だから抗ったんだよね」

 

 でも、と。

 私は切り出す。

 

「安心して、大丈夫だから。あなたの願いも、彼女の想いも、私は踏みにじったりしない」

 

 ムウマージが、横目でこちらを見た。

 目を逸らさず、見つめ返す。

 何かが琴線に触れたのか。

 ムウマージはやがて、おとなしくボールに収まった。

 吸引が収まり、館に静けさが舞い戻る。

 

 手汗を握り締め、私は振り返った。

 そこには、ちゃんと幼女がいた。

 消えることなく、失せることなく。

 その場に、とどまり続けていた、

 

(あぁ、何とかなった)

 

 リヴァイブテクノロジーを回収し、女の子に手渡した。

 受け取った彼女に、私はこう続ける。

 

「見たでしょ? ムウマージは、ずっとあなたを思っていたんだよ。ずっとあなたと、友達になりたかったんだよ」

 

「でも、ずっと私を閉じ込めて」

 

「寂しかったんだよ。ヒトがムウマージに抱く感情は複雑だからね。きっと今まで、いろんな目に遭ったんだと思う。そんな中、あなただけがムウマージと一緒にいられたんじゃないかな? でも、あなたがここからいなくなれば、ムウマージはまた独りぼっち。あなたが人前に出ることは、ムウマージが人に見つかる危険性をはらんでいる。そうするしか、無かったんだよ」

 

 だからと言って、彼女がムウマージを許すかは別物だ。

 ムウマージのおかげで、彼女は死んでも死にきれず、さまよい続けることになったのだ。

 孤独に、寂しく。

 もし、ムウマージを許せず、死を望むのならそれも彼女の権利だ。

 

「でも、さ。分かるでしょ? 独りぼっちのさみしさが。誰とも触れ合えない苦しさが」

 

「……うん」

 

 私の言葉に、女の子が頷く。

 小さく零れた言葉にはしかし、重みがあった。

 上辺だけではない、質量を持った言霊。

 

 それを敢えて、軽い言葉でぶち壊した。

 

「じゃあさ、二人で旅に出るといいよ」

 

「……え?」

 

 女の子が、その目をパチクリとさせた。

 私は微笑み、言葉を続ける。

 

「そうでしょ? あなたは外の世界を見たいけど、ムウマージがいない所には行けなかった。ムウマージはあなたと一緒に居たいけど、人前に姿を現せなかった。なら、もう全て問題は解決してるよね?」

 

 ムウマージはボールの中にいるのだ。

 もう人目に付くこともない、不注意が無ければ。

 もはや彼女たちを縛るものは無い。

 

「二人で一緒に、また始めてきたらいいよ。紡いでくればいいよ、二人だけの物語を。何度でも、何度でも」

 

 諦めない限り、そこに道は続いて行くのだから。

 取り返しのつかないことでない限り、何度だってやり直せるのだから。

 

 そうして幼女は、大粒の涙を零した。

 喉から声を絞り出す。

 

「あり、が……。ありがとう、ございます!」

 

 そんな彼女の背中に手を回し、私はポンポンとさすった。

 顔をあげれば天窓から、丸い丸いお月様が光を注いでいた。

 ほのかに、優しく、朗らかに。

 包み込むように、そっと。

 

 ――ねえ、やさぐれた私?

 ――私は、あなたの失敗を拭い去れたと思うよ。

 ――だから、ね。

 ――あなたも、もう一度私を始めてくれていいんだよ。

 

『ありがとう』

 

 ……そんな声が、聞こえた気がした。




ムウマージ→女の子と一緒に居たい、人前に出るためにはボールに入らないといけない。

女の子→人と交流したい。実体を保つためにはムウマージが必要。

モンスターボール(従来)→ボールの内と外を切り分ける。ボールに入れればムウマージの能力が切れて幼女が消滅する。

リヴァイブテクノロジー→ボール自体がキャプチャーネットになっている。内外の概念が無いねん。ボールに居ながら幼女の実体を作り出すことができる。

話がややこしい。反省。
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