ボールはともだち! ~One For Ball~ 作:HDアロー
―――――――――一日目―――――――――
(朝) ハクタイ空港
(昼) ハクタイの森 | ポケモンセンター
(夕) 森の洋館 | ポケモンセンター
(夜) 森の洋館 | ポケモンセンター
―――――――――二日目―――――――――
(朝) ぬるぽ | 地下通路
(昼) ぬるぽ | 地下通路
(夕) ハクタイシティ(石像前)
(夜) ??? | ???←今ここ
陽が暮れるとともに、世界が切り離された。
先ほどまでいた私はいなくなり、私だけがここに居た。
ムーンフォースの弾けた跡はきれいさっぱり消えていて、いっそ
それでも私は、聞き届けなければいけない。
彼女の思いを。
叶えなければいけない。
彼女の願いを。
「ということで、もう一仕事しますか」
草原にブルーシートを広げると、そこにアイテムを取り出していった。
今回は地下通路のおかげで資源が豊富だ。
切れる札が大幅に増えた。
よし、やるぞ。
しばらくアイテムと睨めっこして、私はある程度方針を固めた。
今回はこいつを主軸にしよう。
地下通路で掘り当てた
百八の魂を繋ぎ止めるという、霊と親和性のあるアイテムだ。
それを足で挟んで固定して、ノミで加工していく。
幸いにも今日は、月が明るく輝いている。
夜目もそれなりに効く方だし、夜空の下でも十分作業できる。
私は加工を続ける。
球状に、カプセル状に。
モンスターボールのように。
丁寧に削りだしていく。
(ただのボールでは、今回の事件は解決できない)
現代のボールは、内側と外側が明確に切り分けられている。
私がコガネシティでゲンガーに作ったボールだってそうだ。
ボールの内側から外界に干渉できるなら、私が手を加える必要もなかった。
できないからこそ、私が工夫を凝らす必要があった。
そのせいで、実は結構な不都合が生じている。
仮に市販品のボールでムウマージを捕まえたとする。
そしてその間、たとえどれだけ早くボールから繰り出したとしても、そこには必ず『ムウマージが女の子をつなぎとめて置けない時間』が出来てしまう。
その子が魂だけの存在になる時間を、どうしても回避できない。
そうなったとき、その女の子を救えるか。
分からない、そんな事。
だから私は、考えなければならない。
より確実に女の子を救う手段を。
向こうの私を鎖から放つ方法を。
(やるからには、全員救ってみせる)
ムウマージは女の子を現世に繋ぎ止めておきたい。
女の子は、人として生きることを望んでいる。
やさぐれた私は、やり直したがっている。
みんなの願いをまとめて叶える。
それが私の決心だ。
切り口はある。
私の世界と、やさぐれた私の世界。
相互不干渉が絶対の、時間と空間。
それが巡り合わせたのだ。
どうしてボールには不可能と言えようか。
とどのつまり、境界を曖昧にしてしまえばいいのだ。
どちらが内側で、どちらが外側か。
その線引きを取り払う。
分かりやすく言えば軒下だ。
あれは室内から見れば外側だが、敷地の外から見れば内側にあたる。
だと言うのなら、あれは内側とみるべきか外側とみるべきか。
曖昧だ、曖昧なのである。
同じことを、ボールで再現する。
そのために用いるのが、この要石だ。
(着想は既にある。あとは生み出すだけ)
ミカルゲというポケモンがいる。
彼は要石に囚われているが、同時に現世にも存在している。
内にも外にもいる存在。
要石は内側だろうか、外側だろうか。
そう、曖昧なのだ。
要石の内に居ても外に存在できる。
そうすれば、ムウマージがボールに居ても女の子は現世に居られる。
ムウマージの干渉力はそのままなのだから当たり前だ。
そしてそれこそが、私の狙い。
(ボールの中ではなく、
それはつまり、キャプチャーネットを使わないということを意味する。
現代のボール理論をぶち壊せ。
先入観を打ち捨てろ。
さもなくば先はないと思え。
「さて、こんなものかな」
最後に、やすりをかけて仕上げる。
水で濡らし、艶を出す。
やるからには全力でだ。
乾かし、開閉スイッチを取り付ける。
おー、ぴったりだ。
もうね、手がボールの形を覚えてるんだよ。
「さて、行こうか。森の洋館に」
煌々と輝く月明りの下。
私達は森に向けて歩き出した。
⁂
森を歩いて、数分で館に辿り着いた。
私の話だと随分と歩いたような印象を持ったが、どうやらそんな事は無かったみたいだ。
まさかモンメンを探して道に迷ったなんてことはないだろうし、行きはスルーしたけど帰りには立ち寄ったとかそんな感じだろう。
……え、迷ってないよね?
信じるよ? やさぐれた私よ。
館の前に立ち、一呼吸。
レンガの壁にはツタが生え、屋根は色あせ、時間の流れを匂わせる。
今にでも黒い霧が沸き上がり、魔女が飛び出してきそうだと私は思った。
(あー、嫌だなぁ。なんでこんなホラー現場に立ち寄ったんだよ、私は。恨むぞー)
とは言っても、もはや後の祭りだ。
知ってしまった以上、それを放っておくことなんてできやしない。
私には、それを解決するだけの能力が与えられたのだから。
向き合うことが、私の天命だ。
コン、コン、コン。
館の扉を三度叩く。
幼女が寝ていたらそれまでだけど、幽霊なら睡眠がいらないかもしれない。
もし反応が無ければ、また明日来ればいいだけだ。
そう思っての行動は、思いのほか効果があった。
「はい。どちら様ですか?」
扉の向こうから、女の子の声がする。
私と同い年くらいだろうか。
無邪気で、無垢な、幼い声だ。
私は今一度気を引き締めた。
失敗は許されない。
この思いは、届けなければいけないのだ。
「夜分遅くに申し訳ございません。私、ジョウトから来たチエと申します。お恥ずかしいのですが、実は道に迷ってしまいまして……。よろしければ一晩、泊めていただけないでしょうか?」
「旅人さん……?」
「そうですね、旅人です」
「分かりました! どうぞ!」
扉の向こうから聞こえる声が、弾みだした。
声質から、嬉しさが滲み出している。
それが私の緊張を、一層強くした。
「ありがとうございます。ですが、その、持ち合わせがなくて……、どうお礼すればいいか……」
「ならこういうのはどう? 旅人さんが見てきた外の世界、それをお話してくれない?」
「……そんなことでよろしいのですか?」
「うん! 私、ずっとこの家から出たことが無くて……だから、どんなものより価値がある事なんだ!」
そういう事ならと。
私は微笑んでそれを引き受けた。
よし、第一関門は突破だ。
あとはひたすら、私の行動をなぞるだけ。
屋敷の豪華な一室で、私は私に聞いた通りの行動を模倣した。
信頼を得るために、ムウマージのもとに案内してもらうために。
これまでの旅の事を、面白おかしく語り出す。
ヒワダにはヤドンの井戸と呼ばれる場所がある事。
コガネにはポケスロンドームや空港がある事。
流星の滝にある、クレーターの事。
夜のルネシティの、星に包まれたような情景の事。
空の柱という、とても高い建物の事。
そうして月も高くなり、天窓から垂直に光が差し込む頃。
そろそろ寝ようという話になった。
カーペットの敷かれた、長い廊下を並んで歩く。
手と手を取り合い、歩幅を合わせ。
女の子の足取りが、どんどん重くなる。
私は何を言うでもなく、そのペースに合わせた。
そして聞いていた通り、部屋の前で彼女の足が止まった。
幼女が、真実を打ち明ける。
「ごめんチエちゃん。やっぱり、嘘つけないや」
本当に、優しい子だったんだろう。
自分が嫌だと思う事を、人にはしない。
そんな単純で、けれど誰にでも出来るわけではないことを、目の前の幼女はできるのだ。
彼女の震える肩に、私は手を置いた。
一瞬びくっとした後、震えが引いていく。
私は、やさしく語り掛けた。
「大丈夫。何も言わなくていいよ」
女の子の頭を撫でた。
「全部分かってるから。その上で私は、ここに来たんだから」
あなたの思いも、私の願いも。
すべて聞き届ける。
そのために、私はここに居る。
バッドエンドで終わった世界があるというのなら、私にハッピーエンドを迎える選択が取れるというのなら。
全力で足搔いて、もがいて、掴み取ってやる。
「チルル! 白い霧!」
私が取ったという、ムウマージ対策。
それを伝授された私が活用する。
白い霧の奥に、暗い影が現れる。
聞いた通りだった。
さすがは私、頭が回る。
だけど、歴史を辿るのはここまでだ。
ここまでは向こうの私の選択。
そしてここからが、私の選択だ。
(……出来るか?)
そんな不安を、頭を振って否定した。
最後の最後に、やさぐれた私は私を信じた。
なら私が、私を信じられなくてどうする。
構える、呼気を整える。
大丈夫、やれる。
不安や悩みは全て、置き去りにしろ。
「捕らえろ! チエボール・リヴァイブテクノロジー!」
石でできたそのボールが、ムウマージを捉える。
大気が渦を巻き、ムウマージを引き寄せる。
館のカーペットか巻き上がり、窓が音を立てて軋む。
シャンデリアから明かりが落ちる。
ゲンシカイキしたそのボール。
それは失われた技術の再現。
今は無き太古の文明の復元。
かつてアニポケで、『げきとつ! ちょうこだいポケモン』という内容が放送されたことがある。
太古の昔、ポケモンは銅鐸やスプーンなんかでゲットができていたのだ。
キャプチャーネットも無しに、捕獲が可能だった時期があったのだ。
しかし、それはおかしい。
もう一度、ボールの仕組みを思い返そう。
ボールは主に、三つのパーツから構成されている。
一つ、外殻。いわゆるボール本体部分。
二つ、開閉スイッチ。これによりポケモンの出し入れが可能となる。
三つ、キャプチャーネット。ポケモンを捕獲するためのギミック。
そして、これらはどれか一つでも欠けた時点でボールとして効果を失う。
だがしかし、昔のボールにはキャプチャーネットが無かった。
だというのならば、どこかに仕掛けがあるはずなのだ。
「例えば外殻そのものが、キャプチャーネットの役割を兼任しているとすれば?」
その発想が、全ての切っ掛けだ。
ロストテクノロジーを蘇らせたボール。
故にリヴァイブテクノロジー。
要石からできたボールが、ムウマージを捕まえようとする。
ムウマージは、それを必死に拒む。
だけど、近代のボールすら知らないあなたが、ゲンシカイキしたボールの能力に抗えるとでも?
……いや、違うのか。
(出来る出来ないじゃなく、やらなければ女の子が消える。だからこそ、必死に抗っているんだね)
現代のボールは、前述の通り世界と完全に二分する。
そうなれば、幼女を繋ぎ止められない。
またひとりぼっちになる。
……そんな不安、抱く必要ないんだよ?
「分かるよ、ムウマージ。あなたも、一人でさみしかったんだよね。いろんな人と会いたかったんだよね。でも、ニンゲンのあなたに対する態度は二つに一つだった。
人間なんて、理解の外にいる生物だよね。
そんな中、唯一分かり合えたその子があなたにとってどれだけ大事な存在か。
そんな事、考えなくても分かる。
「だから死んだ魂に働きかけてまで、繋ぎ止めておいたんでしょ? でも、姿を現したままでは外を出歩けない。ボールに入れば彼女を成仏させてしまう。だから抗ったんだよね」
でも、と。
私は切り出す。
「安心して、大丈夫だから。あなたの願いも、彼女の想いも、私は踏みにじったりしない」
ムウマージが、横目でこちらを見た。
目を逸らさず、見つめ返す。
何かが琴線に触れたのか。
ムウマージはやがて、おとなしくボールに収まった。
吸引が収まり、館に静けさが舞い戻る。
手汗を握り締め、私は振り返った。
そこには、ちゃんと幼女がいた。
消えることなく、失せることなく。
その場に、とどまり続けていた、
(あぁ、何とかなった)
リヴァイブテクノロジーを回収し、女の子に手渡した。
受け取った彼女に、私はこう続ける。
「見たでしょ? ムウマージは、ずっとあなたを思っていたんだよ。ずっとあなたと、友達になりたかったんだよ」
「でも、ずっと私を閉じ込めて」
「寂しかったんだよ。ヒトがムウマージに抱く感情は複雑だからね。きっと今まで、いろんな目に遭ったんだと思う。そんな中、あなただけがムウマージと一緒にいられたんじゃないかな? でも、あなたがここからいなくなれば、ムウマージはまた独りぼっち。あなたが人前に出ることは、ムウマージが人に見つかる危険性をはらんでいる。そうするしか、無かったんだよ」
だからと言って、彼女がムウマージを許すかは別物だ。
ムウマージのおかげで、彼女は死んでも死にきれず、さまよい続けることになったのだ。
孤独に、寂しく。
もし、ムウマージを許せず、死を望むのならそれも彼女の権利だ。
「でも、さ。分かるでしょ? 独りぼっちのさみしさが。誰とも触れ合えない苦しさが」
「……うん」
私の言葉に、女の子が頷く。
小さく零れた言葉にはしかし、重みがあった。
上辺だけではない、質量を持った言霊。
それを敢えて、軽い言葉でぶち壊した。
「じゃあさ、二人で旅に出るといいよ」
「……え?」
女の子が、その目をパチクリとさせた。
私は微笑み、言葉を続ける。
「そうでしょ? あなたは外の世界を見たいけど、ムウマージがいない所には行けなかった。ムウマージはあなたと一緒に居たいけど、人前に姿を現せなかった。なら、もう全て問題は解決してるよね?」
ムウマージはボールの中にいるのだ。
もう人目に付くこともない、不注意が無ければ。
もはや彼女たちを縛るものは無い。
「二人で一緒に、また始めてきたらいいよ。紡いでくればいいよ、二人だけの物語を。何度でも、何度でも」
諦めない限り、そこに道は続いて行くのだから。
取り返しのつかないことでない限り、何度だってやり直せるのだから。
そうして幼女は、大粒の涙を零した。
喉から声を絞り出す。
「あり、が……。ありがとう、ございます!」
そんな彼女の背中に手を回し、私はポンポンとさすった。
顔をあげれば天窓から、丸い丸いお月様が光を注いでいた。
ほのかに、優しく、朗らかに。
包み込むように、そっと。
――ねえ、やさぐれた私?
――私は、あなたの失敗を拭い去れたと思うよ。
――だから、ね。
――あなたも、もう一度私を始めてくれていいんだよ。
『ありがとう』
……そんな声が、聞こえた気がした。
ムウマージ→女の子と一緒に居たい、人前に出るためにはボールに入らないといけない。
女の子→人と交流したい。実体を保つためにはムウマージが必要。
モンスターボール(従来)→ボールの内と外を切り分ける。ボールに入れればムウマージの能力が切れて幼女が消滅する。
リヴァイブテクノロジー→ボール自体がキャプチャーネットになっている。内外の概念が無いねん。ボールに居ながら幼女の実体を作り出すことができる。
話がややこしい。反省。