ボールはともだち! ~One For Ball~ 作:HDアロー
【零話】 【本編】
―――――――――一日目―――――――――
(朝) ハクタイ空港
(昼) ハクタイの森 | ポケモンセンター
(夕) 森の洋館 | ポケモンセンター
(夜) 森の洋館 | ポケモンセンター
―――――――――二日目―――――――――
(朝) ぬるぽ | 地下通路
(昼) ぬるぽ | 地下通路
(夕) ハクタイシティ(石像前)
(夜) 〃←今ここ| 森の洋館
陽が暮れるとともに、世界が切り離された。
先ほどまでいた私はいなくなり、私だけがここに居た。
ムーンフォースの弾けた跡は、きれいさっぱり消えていて。
白日夢だったのではないかという疑念すら沸き上がる。
(本当に、
東の空に、丸い丸い月が昇り出している。
先ほどまでの激しさも、私の思いも。
全部まがい物だったんじゃないか。
そんな思いが沸いて出る。
(でも、それでいっか。夢でも、夢でなかったとしても。きっと私なら、あの子を救ってくれる)
多世界解釈というモノがある。
漢字が連なっていて難しい気もするが、一言で言えばパラレルワールドのようなものだ。
些細な偶然が起こる度に、何かが起こった世界と、何も起こらなかった世界に分かれていく。
そんな話だ。
(私が観測できなくても、どこか別の世界であの子は、きっと幸せになってくれている)
私が全力で解決すると言ったのだ。
だから、もう大丈夫。それだけで十分だ。
ここではない別の世界で、あの子は自由になっている。
だから、後悔なんて……。
「あぁ、くそっ」
空を見上げた。
ヒガナがそうしていたという様に、私も。
涙が、零れ落ちないように。
けれども、私の意図とは裏腹に。
涙という雫は、際限なく滴り落ちる。
「ふふっ、全然効果ないじゃん」
拭い、振り払った。
けれど涙は、次から次へと溢れ出す。
拭えど拭えど底は無い。
悲しみに飲まれ、哀しみに苛まれ。
いつしかついに、蓋をした本音までが零れた。
「悔しいなぁ……」
分かっている。これは私の選択だ。
選んだ結果、偶然辛い未来を引き当てただけ。
向こうの私は、偶然幸運な道を引いただけ。
それを妬んだところで仕方がない。
仕方のない、事なんだ。
だけど、思わずにはいられない。
どうして私は、あの子を救えなかったのだろう。
何故あの子を救うのは私ではなかったのだろう。
運命を呪わずには、いられなかった。
「何が違ったんだろうね。私と、あなた」
向こうの私もチルルを持っていた。
キーストーンもチルタリスナイトも持っていた。
アローもいた。
つまり、ホウエンまでは同じような旅をしていたはずなのだ。
ということはだ。
シンオウ以降の、本の些細な行動の違い。
その差が、私たちの未来を切り分けた。
そう考える以外あるまい。
悔しくて、苦しくて。
吐き出すように天を呪った。
「確かにやり直したいと願ったよ。だけど、こんなの……、こんなのって、あんまりだよ……!」
あの日、あの子を天に昇らせて。
それから今まで、どこをどう歩いたのかも覚えていない。
けれど気づけばここに居て、私は縋るように神に祈った。
時間の神と空間の神を祀ったこの像だ。
何かしらの奇跡が起きれば。
そんなことを、私は確かに望んだ。
けれど、こんな結末なんて求めていない。
「どうしてッ! どうして私じゃないの! 私には、あの子を救う資格がないというの!」
確かに別の世界であの子は救われただろう。
他ならぬ、チエという少女の手で。
だけどそれは、私の手ではない。
「どうしてッ。どうして……」
そんな残酷な優しさ、要らなかった。
どうしてそんな中途半端に、神は願いを叶えたのだろう。
「……いっそこの世界の観測を、そのものを、無かったことにすれば」
そんな考えが、頭に浮かんだ。
そしてそれは、どうしようもなく名案に思えた。
「ははっ、そうだ。私が死ねば、少なくともチエという存在からこの世界は消える」
どこか別の世界で、私が生きているのならそれでいいだろう。
私が何人もいたら、私の価値が薄れてしまう。
逆に、私が一人いなくなったところで、世界は変わらず周り続ける。
「そうだ、それがいい。それが――」
ふらふらと、足が動き出す。
先にあるのは、テンガン山。
たしか渓谷があったはずだ。
そこから身投げして……。
『私が、そう簡単に諦めるなぁ!』
音を立てて振り返った。
遠心力を持った私の腕は空を切り。
声の主を探し、辺りを見回す。
「幻、聴……?」
それは確かに、私の声だった。
つい先ほど、自分に言われたばかりの言葉。
たったそれだけの言葉が、耳にこびりつき、心を掴み、決して離さなかった。
「は、ははっ」
今、自分は何を考えていた?
身投げ? バカなの? 死ぬの?
私はそんなに、往生際のいい人間じゃないだろう?
「そうだ……、そうだよ。私は図々しいんだ。この程度の事で、挫ける人間じゃない」
いつの間にか、涙は止まっていた。
そうだ、それでいい。
泣いてる暇なんてないだろう?
そんな暇があるなら、走り出せ。
「そうだよ、誰かに任せて、それで満足なんて、そんなの私じゃない! 他の誰でもない! 私は私のやり方で、あの子を救ってみせる!」
幸い、ポケモンには時間を操る者が存在している。
一体はセレビィ。
ウバメの森に現れるという、時渡りポケモン。
もう一体はディアルガ。
槍の柱に眠ると言われる、時間ポケモン。
この二体のうち、どちらかさえ捕まえられれば可能性はある。
「かの偉人は言いました。『私がこの世に生れてきたのは、私でなければできない仕事が何かひとつこの世にあるからなのだ』と」
あの日と同じように。
ヒワダを発った日と同じように。
私は口角を上げた。
上等だ、やってやろうじゃないか。
「そういえば……」
ヒワダを発つときに、おじいちゃんから渡されたものがあった。
その事を思い出し、預かりボックスを調べた。お守りのようなものだと思っていたけれど、今思えば別のもののようにも思える。そう、あれは……ポケスペ版ガンテツが肌身離さず持ち歩いているという――。
「『特殊玉作成秘伝の書』……」
渡された巻物のタイトルを読み上げて、そして私は
これだ。これがあれば、まだやりようはある。
「おー、書いてある書いてある」
巻物を開く。
そこにはガンテツボールの作り方が載っていた。
左から右へ、紙を送る。
ヘビーボール、ルアーボール、レベルボール、スピードボール……。
それぞれのボールの作り方から特徴まで、所狭しと刻み込まれている。
「そして、書の最後には……」
胸が高鳴る……いや、躍動する。
記載されたその項目を見て、私は笑った。
「あはは、何がガンテツボールを超える物が作れなかったさ。ちゃんとあるじゃん、最高傑作と呼ぶべき代物がさ!」
最後の最後に記されたその項目。
そこに示された究極のボール。
「GSボール。時をとらえるモンスターボール……ッ!」
――どうやら神は、私を見捨てていないらしい。
※闇堕ちはしないです。