ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

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初投稿です。よろしくお願いします。


ヒスイ地方に降り立つ少女
一話 「ヒスイ地方」


 私がミオシティを訪れたのは、シンオウ地方をひと月ほどかけて巡り終えてからだった。

 そろそろ故郷のヒワダに顔を見せようと思い、港町へと寄ったのだ。

 

「船が、出ていない?」

 

 船乗り場についた私が見たのは、私と同じように途方に暮れる乗船客と思われる人たちだった。

 具体的に言うと、ミュウツーの逆襲で「船は出せません!」って言われてるシーン。

 あの光景が目の前に広がっていた。

 

「嵐でも来てるんですか?」

 

 受付は人でごった返していたので、近くにいた気の優しそうなトレーナーさんに声をかけてみる。

 

「いや、どうやら船乗りたちが一斉に寝込んだらしいんだ。なんでも『ダーク……が、こっちを見て……』とうなされているらしいぞ」

「へ、へぇ……」

 

 ……表情筋が、強張った。

 

「お嬢ちゃん⁉ 顔が真っ青だけど大丈夫かい⁉」

「だ、大丈夫です」

 

 頭を両手で抱える。

 あかん。これあれじゃん。

 

(まさかのダークライイベントが発生してた‼)

 

 しかも悪夢の対象が船乗り全員ってどういうこと⁉

 どうしてこうドンピシャのタイミングでそんな大事件が起きてるかな⁉

 

 はあ。

 

「お、お嬢ちゃん⁉ どこに行くつもりだい⁉」

 

 ボールからファイアローのアローを呼び出すと、私は上にまたがり飛行ゴーグルを装着した。

 いやさ、私も、なんで私が……と思うよ?

 でもさ。

 

「ちょっと、人助けに」

 

 困ってる人がいると、放っておけないよ。

 

「子供の君に何ができる! 戻ってきなさい!」

「まあ、そりゃあ私の体は子供だけど」

 

 前世の記憶がある転生者だし、それに――

 

「――それ以前に、私はボール職人なので」

 

 ヒワダタウンのチエ。

 ボール職人ガンテツの血を引く孫娘とは私のことだ。

 

 

 ミオシティからまっすぐ北上すると、孤島が見えて来た。だから私は、てっきりそれが三日月島だと思ったのだ。

 

(間違ったあああああ‼)

 

 やらかした。完全にやらかした。

 ダークライが目の前にいるんですけど⁉

 これ完全に新月島だよね⁉

 どうして私はいつもこうなんだ‼

 

 いや、ダークライがいただけなら問題は無かったんだ。

 

 ダークライは悪夢を見せるポケモンとして有名だが、同時にそれが本人にとって不本意であることも有名だ。

 だからミオシティで困っている人がいるって伝えられれば、それで解決すると思ったんだ。

 

 だから私は、とっさに声をかけたんだ。

 

「待って! 話せばわかるって! ねえ! 話し合おうよおおおお!」

 

 その結果、ダークライの放つダークホール相手に弾幕ごっこを行う状況に陥っていた。なんでぇ?

 

「……もう! そっちがその気なら」

 

 私はポシェットからボールを取り出した。

 悪タイプ相手に効果を発揮するオリジナルボール。

 チエボール・ダークエディションだ。

 

「捕獲します!」

 

 立ち止まり、振り返り、標的をしっかりと捉えてボールを投げた。

 指からボールが離れるその瞬間、私は確信した。

 これは捕獲クリティカルだ。

 確実にゲットできる。

 

「……え?」

 

 確信が破られたのは、まさにボールがダークライにぶつかる寸前だった。

 突如ダークライと私の間に謎の空間が表れて、そのスキマにチエボールが吸い込まれていったのだ。

 

 何この技⁉ 亜空切断⁉

 まさかの映画館ダークライ⁉

 なんでアラモスタウンから新月島に出張ってきてるの⁉

 

 チリチリとしたものが、脳の内側を刺激する。

 

 待って?

 これって本当に亜空切断?

 

(違う、もっと、別のどこかで見た覚えが)

 

 どこだっけ、私はどこでこれを見たんだっけ?

 

 確か、確か……!

 

「あ……」

 

 気づいた。ときには手遅れだった。

 私の足元で、目の前に広がる異空間と同質のものが咢を開いていた。

 

(ポケダンに出てくる時空ホール……っ!)

 

 え、ちょ、それはまずい。

 ちょっと、ダークライさん?

 やめ、痛くしないで……っ。

 

「あああああああああああああ」

 

 私は、私の悲鳴と共に虚空にかき消えた。

 

 

 ……誰かの声が聞こえる。

 潮の香りがする。

 

「生きていますか?」

「ううっ……ここは?」

 

 体の節々が痛む。

 だから仕方なく、どうにかまぶただけを開けてみる。

 そこに、ポケモンがいた。

 

「ヒノアラシに、ミジュマルに、モクロー……?」

 

 いやどういう組み合わせ?

 まだ夢でも見てるんだろうか。

 

「人が倒れていたから驚きましたが……よかった。生きていますね」

 

 その後ろに、人が立っている。

 ということはこの子たちのトレーナーかな?

 ……わからん。

 この組み合わせのポケモンを手持ちに入れてるトレーナーis誰。

 私は誰に対してこういう心象を抱いているのさ。

 さあ、その顔を見せてもらおうか。

 

「……いや、誰?」

 

 そこに、知らないおっさんがいた。

 白衣は着ているけれど、珍妙な頭巾をかぶっている。

 博士なのか火事場泥棒なのか。

 十中八九後者だろう。

 

「それはこちらのセリフです。何とも言えない不思議な格好をしています」

「それはこちらのセリフです」

 

 なんなのその衣装。

 何世紀も前の住人なの?

 ちょっと私には理解できないファッションセンス。

 時代を遡りすぎじゃない……?

 

 ん?

 時代を、遡る?

 

(ちょ、ちょっと待って?)

 

 ゆっくりと、何があったのかを思い出してきた。

 

(そうだ。私はダークライと対峙して、時空ホールに飲み込まれて……)

 

 ということは、まさか……。

 

「おっとソーリー。ボクはラベン。ポケモンの研究をしているのです。ところでキミのお名前は?」

「チエです。ボール職人をしています」

「オーウ! ボール職人! すごいです! でも、どうして砂浜に倒れていたんです?」

「それは――」

 

 どうしよう。

 事情を説明するべきかな?

 いやでも――

 

「あ」

 

 私が短い間思考を巡らせた時だった。

 ラベンと名乗った自称博士が連れていた3匹のポケモンが一目散に逃げ出した。

 

「オー! かわいいポケモンたち! どうして逃げ出したりするのです?」

 

 この人、本当に博士なのかなぁ?

 あんまりポケモンに詳しくなさそう。

 やっぱり火事場泥棒説が濃厚かも。

 

「そうだ! あなたボール職人と言っていましたね! いっしょに逃げたポケモンを捕まえるのを手伝ってください!」

「えー」

 

 うわ、やらかした。

 こんなことになるんだったらボール職人なんて名乗るんじゃなかった。

 

 

 この人本当にポケモン博士かな?

 さっきから一向にボールを当てられる気配がないんだけど?

 

「あの、どうしてそんなに離れたところから狙ってるんです?」

「だって怖いじゃないですか。もし近づいて襲われたらと思うと……」

 

 はあ。見てらんないなあ。

 私がお手本を見せてあげますか。

 

 いくよ、アロー……。

 

「……あれ?」

 

 ベルトにつけたボールを取ろうと、回した手が空を掴んだ。

 あ、あれ?

 確かアローのボールをここに……!

 

「な、ない⁉」

 

 アローだけじゃない!

 チルタリスのチルルも、というより、新月島まで持っていたはずのボールが一切合切なくなってる⁉

 

「オー。チエさんどうしたんです?」

「せっかく頑張って作ったチエボールシリーズが……」

「チエボールシリーズ? ポケモンボールの一種ですか?」

「欧米か」

 

 モンスターボールって言って。

 海外ではPoke Ballだけども。

 

「まあ、その、はい。どうやら漂流した際に手持ちのボールを全部なくしちゃったみたいで……。幸いにして工具は残っているんですけど」

 

 あと、わずかなクラフト素材。

 でもボールを作るには素材が足りない。

 

「オー! でしたらこれを使ってください! ボクにはボールを当てる才能がないので」

「は、はあ。ありがとうございます。……ん?」

 

 私は自称博士からボールを受け取った。

 目算50個くらい。

 やっぱり火事場泥棒してない?

 そんなにポンっとボール渡してくる人いる?

 

 じゃなくて……。

 

「これは?」

「モンスターボールですが? どこかおかしいですかな?」

「モンスターボール? これが……?」

 

 そのボールは、奇妙なつくりをしていた。

 ぼんぐり……?

 モンスターボールなのに?

 いや、それより。

 

(なにこのつくり)

 

 ぼんぐりが使われてるのは間違いないけれど、おそらく石材も併用されている。

 しかも開閉スイッチのところに変な拘束具が取り付けられてるし、上の方には小さな穴が開いている。

 

 私はボール職人ガンテツの孫娘として、3歳のころからボールづくりに取り組んできた。当然、ボールの歴史も勉強している。

 その歴史に、こんなボールは記されていない。

 

 ドユコト。

 

「チエさん⁉ 何をするんです!」

 

 私はポシェットから工具を取り出すと、受け取ったモンスターボールのひとつを解体した。

 ふたを開けて見て、確信する。

 

「……やっぱり、無い」

 

 かつて私は、特殊なボールを作り出した。

 アニポケに着想を得た、ボールの中にではなくボール自体に封印する、チエボール・リヴァイヴテクノロジー。

 そのボールには、ポケモンを捕獲するキャプチャーネットが仕込まれていない。

 

 そして、この世界のモンスターボールにも。

 

「チエさん?」

 

 それはつまり、私が歩んできた史実とは別の歴史をこの世界が歩んできた証明である。

 つまりここは、過去の世界ではなく、並行時空。

 

「……なんでもありません」

 

 もう二度と、おじいちゃんのもとに帰れないかも。

 そんな不安が、脳裏をよぎる。

 

 でも、今はそれより。

 

「捕獲、開始します」

 

 私はポシェットの中身を探り、ボールの改造に着手するのだった。

 

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