ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

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四話 「打倒! ボールカプセル」

「チエちゃん、私悔しいよ」

 

 ヒワダという田舎に似つかわしくない、とても美麗な女性が来ていました。

 白のワンピースに、特徴的な髪形をした少女。

 アサギシティのジムリーダーを任されている彼女の名前は、ミカンと言いました。

 

「どうしたのー? ミカンお姉ちゃん?」

 

 私は小首をかしげてきょとんと問い掛けます。

 ミカンさんが私をぎゅっと抱きしめました。

 

「おう、ミカンやないか!」

 

「ガンテツさん!」

 

 この世界に来てから知ったことだが、ミカンさんはおじいちゃんと仲が良かったらしい。

 そうだよね、鋼タイプって重いポケモンが多いもんね。

 効果もエフェクトもヘビーボールがよく似合う。

 

「あ……その、お邪魔しております……」

 

「わっはっは。そう硬くならんでもええ。それで、今日はどないしたんや?」

 

「あと……その……」

 

 ミカンさんはとても内気な女性だ。

 その性格はおじいちゃんにも適用されるようで、このようにオドオドするのはいつもの事だった。

 それにしても今日は一層言い淀んでいる。

 何か言いづらい事でもあるのだろうか。

 

「ミカンお姉ちゃん、折角来たんだからヒワダを見て回ろうよ! ヤドンの井戸くらいしかないけど!」

 

「ふぇ! あ、……うん。そうだね」

 

 すみませんガンテツさん、また来ます、と。

 ミカンさんはそうおじいちゃんに告げて、私と一緒に町へ出た。

 

「ミカンお姉ちゃん、どうしたの? おじいちゃんに言いづらい事でもあったの?」

 

「本当にチエちゃんは……」

 

 どうやら私の推測は正しかったらしい。

 ミカンさんの死角になる位置で、小さくガッツポーズをとる。

 が、年相応の対応をするためにポカンとした顔をする。

 何のことか分かりませんよーって顔だ。

 

「チエちゃんは私がコンテストに出てるの知ってるよね?」

 

「うん! ネールちゃんと一緒に出てるよね!」

 

 ネールちゃんというのはハガネールの事だ。なお雄である。

 この辺は多分ゲームと同じだと思う。

 あっちでもシンオウ地方のコンテストに出ていることが確認できたはず……。

 それだけミカンさんにとってハガネールは大切なパートナーなのだ。

 

 ……大切なパートナーなのだが、HGSSでは普通に主人公相手に交換に出す。

 いいのかそれで。

 

「うん。この前もシンオウ地方のコンテストに出てきたんだけどね……。負けたんだよ」

 

 ミカンさんがそう零した。

 少し意外だった。

 

 ミカンさんはジムリーダーだ。

 勝負という字は、勝利と敗北からなっている。

 勝利を掴むこともあれば、敗北の苦汁をなめることもある。

 それを知っていて、負けを負けと受け止めることが出来る。

 それが彼女の強さだと思っていた。

 

「納得、いってないんですか?」

 

「……うん」

 

 これは結構重傷だぞ。

 鉄壁ガードの女の子な彼女がここまで傷つくとは。

 一体何があったんだ?

 

「コンディションも、ダンスも、演技も。きっと私の方が上だった」

 

「……採点競技の難しいところですね」

 

 スケートや体操なんかを想像してほしい。

 たしかに、結構厳密な審査基準があるらしいよ?

 けれども『なんでこっちの方が点数が高いんだろう?』なんて思ったこと、きっとあるはずだ。

 演技者と観客の間に審査員が挟まれる競技は、アピールがそのまま得点に繋がらない場合があるのだ。

 

「ううん。そうじゃないの……そうじゃ、ないんだよ」

 

 ふるふると、小さく首を振ったミカンさん。

 次いで体を震わせたミカンさん。

 地面に顔を向け、その頬を涙で濡らした。

 

「シンオウ地方でね、ボールカプセルっていう道具が発売されたらしいの……! モンスターボールにセットして、エフェクトを演出する道具なんだけど……」

 

 私はなんとなく察した。

 察してしまった。

 

「私、そんなの知らなくて! いつも通りに参加して! だけど全然注目を集められなくて……ッ!」

 

 ミカンさんが、悔しさを吐き出す。

 胸中を晒け出す。

 

「……最低だよね。折角ガンテツさんが作ってくれたボールに、私、ケチをつけるところだったの」

 

「ミカンさん……」

 

「ごめんね! この悔しさを糧に、もう一度挑戦してくるよ!」

 

 そう言って、ミカンさんは走り出そうとしてしまった。

 その手を、私は掴み取った。

 ミカンさんは驚いた様子だったが、驚くことはない。

 こういう時に大切なのは線の動きではなく、点の動きなのだ。

 『あひるの空』でもそう言ってた。

 

 そして私はこう応える。

 

「分かりました。その注文、おじいちゃんに代わって私が引き受けます」

 

 だから私はそう答えた。

 

 思考の止まりかけたミカンさんを、勢いそのまま畳み込む。

 ポケットからボールを取り出すと、私はそれを見せた。

 

 ……そもそもボールのエフェクトは、どこで決定しているのか。

 それは外殻の内側、つまりボールの内部に仕掛けがある。

 

「分かりますか? この模様」

 

「……正六角形?」

 

 私が作ったヘビーボールを分解し、ミカンさんに見せる。

 ボールを覗き込んだ彼女は不思議そうに聞いてきた。

 そう、正六角形なのだ。

 金槌一本でこれを表現するのにどれだけ苦労したことか……。

 って違う、今そんな話はどうでもいいのさ。

 

「はい、正六角形です。どこかで見覚え有りませんか?」

 

「……もしかして、ヘビーボールのエフェクト?」

 

 正解だ。

 ボールの内側に刻まれた模様がそのままボールのエフェクトになる。

 ヘビーボールなんかだと、六角形を無数にちりばめることでメタルな感じを表しているのだ。

 正六角形と鋼が結びつかない人は『武装錬金』を見るといいよ。

 

「ここに細工を仕掛けます。ミカンお姉ちゃんは、私を信じてくれますか?」

 

 私はボール作りに精通しているとはいえ、まだまだ子供だ。

 おじいちゃんに頼むことと比較すれば、不安や懸念はあるだろう。

 それでも私に任せてくれるか、そう問いかける。

 

「当然だよ! チエちゃん、お願い!」

 

「……分かりました。全力でネールちゃんを目立たせて見せます!」

 

 ミカンさんは間髪入れずにそう答えた。

 

 だから私も、応えたい。

 

 これで応えられなきゃ嘘だ。

 

 やってやる……!

 

 私ミカンは、この地に再び舞い降りた。

 かつて敗北し、リベンジを誓ったこの場所に。

 今度は負けない。

 チエちゃんがこれだけ手伝ってくれたんだ。

 負けられない、負けるわけにはいかない。

 

『エントリーナンバー四番! ミカンさんです!』

 

 シャキーン! というポーズを取った。

 ダメだ、恥ずかしい。

 すぐに顔が赤くなってしまった。

 

「あらミカンさん。また負けに来たのかしら? ボールカプセルも持たずに!」

 

 隣のおばさんが、悪役のように私を嘲る。

 流し目で確認して、すぐに視線を外した。

 暗に、あなたなんて眼中にないという意思表明である。

 

「んまぁ!」

 

 笑いたければ今のうちに笑えばいい。

 最後に笑うのは、私達だ。

 

 シンオウ地方のコンテストは、三段階の審査がある。

 第一部がビジュアル審査、第二部がダンス審査、そして第三部が演技審査だ。

 前回はその全てで、ボールエフェクトにオーディエンスの目が奪われ、そしてやられた。

 ……今回は、私たちが掻っ攫う番だ。

 

『これよりビジュアル審査に移ります! それではみなさん、エントリーポケモンを繰り出してください!』

 

 進行役に促されて、一斉にボールからポケモンを繰り出した。

 私を除いた三者が三様の、オリジナルのボールエフェクトを見せつけた。

 私のボールエフェクトはヘビーボールのそれと同じ。

 

 ただし、()()()()()という条件が付くが。

 

 チエちゃんの言葉が反響する。

 

『そのヘビーボールは二度咲きます。ボールカプセルなんてお遊びだと、証明してきてください!』

 

 一度弾けたエフェクトが、再び収束する。

 

(見ている? チエちゃん)

 

 寄り添い、綯われ、龍となる。

 白銀の龍は空へ飛び立ち、去って行った。

 

『ウオオオォォ!!』

 

 あとに残ったのは、観客たちの圧倒的な熱量だけ。

 鼓膜を破らんばかりの声量が、会場を内側から飲み下す。

 

(確かに、二度花開いたよ)

 

 私はコレを見ているであろう彼女に、心からの感謝を送ったんだ。

 私、頑張るからね!

 

 私はテレビでスーパーコンテストの中継を、食い入るように見ていた。

 想定通りの挙動をしてくれることはミカンさんと確認済みだが、やはり本番というのは緊張する。

 ミカンさんの足を引っ張らずに済むだろうか。

 

 手に汗を握る。

 固唾を飲む。

 液晶が私を、ほのかに照らしていた。

 

(来た……ッ!)

 

 コンテストがビジュアル審査に移行する。

 ここだ。

 ここで観客の心をつかみ取る!

 

 ミカンさんの手から、ネールちゃんが繰り出される。

 ここまでは普段と同じだ。

 メタリックな六角形が四方八方に弾け散る。

 ここからだ!

 

 他の参加者たちのボールエフェクトが切れ始めたタイミングで、私の仕掛けが動き出す。

 第二段階のエフェクトが、その姿が顕現する。

 

 一度は弾けた六角形が、集い、寄り添い、結び合う。

 やがて流線を描き、龍となる。

 ただの鉄が白銀となり、白銀となった龍が、天へと昇る。

 

 会場に、静寂が満ちた。

 誰もが見惚れ、心を奪われた。

 

 きっかけは何だったか。

 誰かが声を発したのがそれだったか。

 

 小さな波紋が重なり合い、弾け合い。

 会場を熱気が包み込んだ。

 

『うおおおおおお!』

 

『何だ今の!?』

 

『スゲー!』

 

 テレビ越しにも伝わるこの迫力。

 私はどうやら、ミカンさんの力になれたらしい。

 自身の小さな手のひらを、私はぎゅっと握りしめた。

 

 ……種明かしをすれば、アレは三つの仕掛けによってできている。

 一度は離れ離れになった六角形を、再度集める仕掛け。

 龍を成す仕掛け。

 鉄から白銀に変化させる仕掛けだ。

 

 一つ目の仕掛け、これはボール内部に薄い鉄板を仕込むことで細工の余地を作った。

 ボールの内側に張るタイプのボールカプセル、そう考えてもらえば分かりやすいだろう。

 

 もっとも、中身はシールなんていう量産品ではない。

 職人が全力を捧げた至高の一品だ。

 ボールカプセルでは再現不可能な仕掛けを、仕込んである。

 本来外側に弾けるように出来ている仕組みを『裏返し』て貼り付ける。

 外殻が開いてからわずかに時間差を置いて作動し始めるため、傍目にはさも一度弾けたエフェクトが再び集まるように見えるのだ。

 

 二つ目、龍を成す仕掛け。これはエフェクトに指向性を持たせる技術を流用した。

 この技術は既に、リピートボールなどで採用されている。

 お父さんが年末に自慢していたからよく覚えているよ。

 罫書き針で特殊な線を引くと、エフェクトの弾ける方向をある程度指定できるのだ。

 これを上昇気流を模して描き込むことで、今回の登り龍を可能としたのだ。

 

 三つ目、色の変わる仕掛け。これは花火を参考にした。

 花火大会の打ち上げ花火で、色が変わる物を見たことがあると思う。

 アレは内部の顔料と外部の顔料に、それぞれ別のものを使うことで作り上げられている。

 そこから着想を得て、鉄板の一部に強い金属光沢を放つものを組み込んだ。

 それにより本来ヘビーボールが持つ鉄っぽいエフェクトから、白銀のエフェクトへの書き換えを可能としたのだ。

 

「何にしても、上手くいってよかった」

 

 あとはミカンさんが実力を出し切ってくれればそれで終わりだ。

 そして私は彼女の実力を知っている。

 だから安心して見られる。

 

 予想通りその後、彼女は他三人を歯牙にもかけずに勝利を収めた。

 圧勝だった。

 

「……うん」

 

 それを成し遂げたんだという実感の元、右の手のひらを見た。

 女の子らしくない、金槌で硬くなったボロボロの肌がそこにはあった。

 それを私はもう一度、ぎゅっと握りしめたんだ。

 




その後コンテストスレで謎のボールに関する議論がなされたとか。
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