ボールはともだち! ~One For Ball~   作:HDアロー

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五話 「チエボールっ!」

 ガンテツボールは万能である。

 

 これは誰もが納得できるだろう。

 

 力量差のレベルボール。

 素早さのスピードボール。

 重量のヘビーボール。

 対水のルアーボール。

 懐き度のフレンドボール。

 異性のラブラブボール。

 

 どれもこれも非常に有用だ。

 これらを的確に使い分けるだけで、大概のポケモンはどうにかなるだろう。

 ……え? ムーンボール?

 いえ、知らない子ですね。

 

「だけどそれじゃあ先がない」

 

 フレンドボールを除くすべてのボールには共通点がある。

 それは効果が相手依存であるという物だ。

 

「ガンテツボールには、()()()がない」

 

 例えばダークボールは暗ければ効果がある。

 クイックボールは一ターン目なら効果がある。

 タイマーボールは時間経過で効果がある。

 どれもこれも、相手に依存しないボールだ。

 

 ガンテツボールを十全に使うのなら、上記の六種類をそろえておく必要がある。

 相手によって使い分けなければいけないのだから当然だ。

 それに対し、シルフ製のボールであれば、自分に合うボールを一種類だけ持っておけばいい。

 どんな相手でも高い効果が期待できるからだ。

 

 一応フレンドボールはどんなポケモンにも効果はあるが、捕獲率自体には変動はない。

 またよく似た効果を持つゴージャスボールという物がシルフから出されているため、これは死んだも同然だ。

 

 必然、ガンテツボールはめんどくさいという評価が付けられる。

 いや、もしかすると既に付けられているのかもしれない。

 

(とにかく、シルフ製のボールに負けないオリジナルのボールを作らないと)

 

 そうしなければ、この先の競争を生き抜けない。

 私はボール作りが好きだ。

 この職業を辞めたくない。

 だから私は、今日も真新しいボールの開発に励む。

 

「でもなぁ……」

 

 出来上がったボールを見て、ため息をついた。

 私は感覚的にそれに気づいていた。

 このボールではダメだ。

 

 私の部屋には、既に失敗作となったボールが無数に転がっていた。

 その原因は私も分かっている。

 

 効果を発揮する条件が特殊過ぎるのだ。

 

 例えば一つ前のボールは、性格が『意地っ張り』のポケモンに多分効く。

 だがしかし、普通は性格なんて捕まえてから確認するものだ。

 どんなポケモンにでも効果を出そうと思えば、二十五種類も用意する必要がある。

 まったくもって無意味だ。

 

 例えば二つ前のボールは、多分『大きい』ほど効果があるというボールのはずだ。

 だが大きいポケモンは、大体体重もある。

 わざわざこのボールを使わずとも、ヘビーボールを持ち歩けばいい。

 こちらもまったくもって無意味だった。

 

 他にも『特定のタイプに効くボール』や『特定の特性に効くボール』などが床には転がっている。

 だがしかし、そのすべてが失敗作と没にした作品の山だった。

 

「効果が重ね合わさったらなあ……」

 

 没になった作品には、『すべてのタイプに効果のあるボール』を目指したものがあった。

 しかしこれも結局、ダメだったのだ。

 お互いがお互いの性能を打ち消し合い、効果が薄まってしまったのだ。

 結局出来上がったのは、モンスターボール以上スーパーボール以下という絶妙に要らない作品。

 おまけに製作にかかる費用はハイパーボール以上と来た。採用できるわけがなかった。

 

「いや、できるにはできるんだけどさ」

 

 ならばと、『炎タイプ』で『穏やか』のポケモンに有効なボールはどうだと試したことはあった。

 確かに効果は相乗された。されたのだが、よく考えて欲しい。

 ただの『炎タイプ』から、『炎タイプ』かつ『穏やか』と条件が絞られたのだ。

 これを全てのポケモン用に用意するとなれば、実に四百五十通りを持ち歩かなければいけない。

 もともとの汎用性という観点からかけ離れてしまっているのだ。

 

「はー、シルフカンパニーはどうやってるんだろう」

 

 さすがはポケモン界のG〇gole(ゴゴール)だけある。

 私たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!

 はい。現実逃避はこのあたりにしておきましょうね。

 

「またアイデア練るところから始めるかー」

 

 部屋を出て、おじいちゃんを探す。

 案の定作業部屋にいた。

 

「おじいちゃん、ちょっと散歩してくる」

 

「おう! あんまり遅くならんようにな!」

 

 カビゴン事件以来、私は町に出ることが多くなった。

 ちなみにあのカビゴンは捕獲した若者に押し付けた。

 おじいちゃんを馬鹿にした罰だ。

 それで勘弁してやろう。

 

 一応補足しておけば、四百キロの食料は用意しなくても大丈夫らしい。

 どうやら私が用いた満腹お香がいい具合に効果を発揮しているらしく、ギリギリ賄えるラインだそうだ。

 ふふん。存分にたかるといいぞよカビゴンよ。

 

「んー、とはいってもなー」

 

 出歩いたくらいでポンとアイデアを思いつくくらいなら、そもそもこんなに悩んでいない。

 適当な木の根元に腰を掛けて空を仰いだ。

 

(そういえば、上を向くと前頭葉と頭蓋骨の間にスキマが出来て考えがまとまるんだっけ)

 

 詳しくは覚えていないが、そんな効果があったはずだ。

 前世の数学の時間に、よくそうやって閃けーって祈ってた覚えがあるよ。

 

 ぼけーっと、去り行く雲を見つめて過去を振り返る。

 思えば私は、ずっと走り続けていた。

 

 三歳でボール作りを始め、七歳まで。

 ずっとずっと、金槌を振るい続けてきた。

 だから今の私がある。

 だから今、壁にぶつかっている。

 

 立ち止まることは簡単だ。

 足を止めれば停滞する。

 停滞すれば壁にぶつかることもない。

 壁にぶつからなければ苦しむこともない。

 

 ……なんてね。

 

 この程度で立ち止まるわけがない。

 私はボール作りが好きだ。

 好きだから続けられる。

 だから精一杯足搔いてみよう。

 やり直した人生だ。

 やりたいことやって、それでだめならその時悔いればいい。

 

「さてと。戻ろうか、それとも進もうか」

 

 普段ならここまで来たら折り返していた。

 だけど今日は、なんとなく、もう少しだけ先まで行ってみようと思ったんだ。

 

 それっぽい曲を口ずさみながら、私は意気揚々と歩きだした。

 歩いているうちに、繋がりの洞窟の前まで来てしまった。

 さすがにここを抜けようとは思わない。

 帰ろう。

 そう思って振り返る途中、視界に奇妙なものが映った。

 

「ん? 何このぼんぐり。水色じゃん」

 

 ぼんぐりには七種類の色がある。

 すなわち赤、青、黄、緑、桃、白、黒である。

 その中に、水色は含まれていないし、私も今まで見たことなかった。

 

「もしかしてめちゃくちゃ貴重なぼんぐり!?」

 

 私は今までの悩みを全て置き去りにしてぼんぐりに駆け寄った。

 七歳児には絶妙に届かない場所にあった。

 

「ぐぬぬ、仕方ない。スリングショットでも作るか」

 

 この世界にきて私の器用さは驚くほど上がった。

 簡易パチンコくらい、数分で作れる。

 

 適当に枝を折り、つたで巻き付けY字に整える。

 それを接着剤で固定してゴムを取り付ければほら完成だ。

 洞窟付近に転がっている石を拾いセットする。

 ぼんぐりの上部を目指し、ゴムの部分を引っ張る。

 

「行っけー!」

 

 私の掛け声とともに射出された小石がぼんぐりを捉える。

 

 その一瞬、その一瞬前のことである。

 朱色の物体が横切り、水色ぼんぐりを掻っ攫って行った。

 結果として小石は空を切り、木を通り過ぎて虚しく散っていった。

 

 ……私はその原因となったポケモンを睨んだ。

 

「お、お前ええええ!」

 

 私からぼんぐりを横取りしていった相手は、ついばんでいった相手は。

 珍しいぼんぐりを食らい満足そうにしているその鳥は。

 炎のような模様を纏う鳥ポケモン。

 ファイアローだった。

 

「お前だけは許さない! 喰らえ! チエボール・FC!」

 

 つまり先ほどの、『炎タイプ』で『穏やか』のポケモンに有効なボールだ。

 人生万事塞翁が馬とはよく言ったものだ。

 私が失敗作と称したこいつにも出番はあったみたいだよ。

 

 だけど私の一投は、空しく空を切った。

 私の肩では捉えられないと言わんばかりに、ファイアローは飛び回る。

 

「……ふふふ。私を煽ったこと、後悔するがいい」

 

 落ちたボールを拾い、そう呟いた。

 先ほど作った簡易パチンコにセットして、解き放つ!

 

「喰らえぇぇぇ!」

 

 私の放った一撃は、スリングショットを介した一投は、確かにファイアローを捉えた。

 急いで回避しようとするが間に合わず、その伸びた黒いしっぽにぶち当たる。

 

 ぐらり、ぐらりとボールが揺れる。

 タイミングよくAボタンとBボタンを押すと捕獲率あがるんだよ、知ってた?

 まあ嘘なんだけど。

 そんなノイズを思考に流している間にもボールは揺れ続け、やがて捕獲の成功を告げた。

 

「ファイアロー、ゲットだぜ!」

 

 なんてね。

 

 日も暮れて、星の瞬く頃。

 家の外では虫達がコロコロと鳴き、その音色が妙に心に沁み入った。

 

 私は、考えていた。

 考えて考えて、アイデアを片っ端からノートに記していった。

 

「どうして汎用性を持たせることばかりに意識を割いてたんだろ」

 

 逆だったのだ。

 私が目指すべき場所は、汎用型ではなく、特定の一点特化型。

 フルカスタマイズサービスだったのだ。

 

 スポーツをやっている人は、有名選手モデルのラケットという物を見たことがあるかもしれない。

 それらはその選手が『自分に合うように』『オーダーメイド』したものなのだ。

 いつの世代でも、そういった商品は必ず需要がある。

 

 シルフは汎用性を突き詰めた。

 なぜわざわざ相手の土俵に合わせようとしていたのか。

 

 筆が止まらない。

 次々にアイデアが浮かび上がる。

 それらを一つ一つ、残さずメモしていく。

 

「……オーダーメイドボール。うーん、名前が長いな」

 

 ガンテツの作ったボールは、ガンテツボールと呼ばれるようになった。

 ならば私も、それを踏襲しようじゃないか。

 決めた。このボールの名前は――

 

「チエボールっ! シリーズ・O!」




サブタイトルは没タイトルの名残。

一応補足
フレンドボール:初期懐き度を200にする
ゴージャスボール:懐き度が上がる際に+1する

チエボール・FC→Fire/Calm(炎/穏やか)

使うかどうかわからない裏設定的な何か
水色ぼんぐり:ウイングボール(スカイバトルに参加できるポケモンが捕まえやすくなる)を作れる
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